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Dフェイブル ≪Don't dead dreams dive Fable≫  作者: 白黒源氏
【魔術師編】
66/72

【魔術師編】16①



 事態は一刻を争う状況にあった。


 第二の城壁の北門は内側から破られ、血飛沫が辺りを汚し、周囲は切り伏せたような痕が残っていた。その場で起きた惨劇を克明に刻みつけていた。


 先日まで身なりの小奇麗な人々が居たはずの貴族街は、いまでは当然のように不死者が徘徊していた。



「門を開けた後は用済みってことか」



 樫の杖に【賢奴の赤旗】を巻きつける。魔血種の不死者がいないのが唯一の救いだ。不死者共は【賢奴の赤旗】で少し触れただけで簡単に沈静化していく。


 まだあの厄介な能力『超重力空間』は行っていないようだ。あれの攻略は簡単ではないだろう。再発動に掛かる時間とかあるのだろうか。可能性としてはある。


 理由としては、むやみやたらに使ってい無いからだ。状況判断だが、奴は【アルト】に来てから二度しかあの技を使っていない。


 だけど、もしかしたら、それは単純に奴が合理的な思考の持ち主なだけかもしれない。一度に与える損害を最大限にする。だからしばらく移動してから再度発動する。


 なら今、奴がこの街の中央に辿り着いたのなら、もうそろそろ『超重力空間』とやらを使われるのかもしれない。急がないといけないと心が焦るが、頭の中でずっと引っかかっている事があった。



 あの鎧の化物。なにか思い出しそうだった。




「……冷静になってみろ……。なんか思い出しそうだ。なんだ……」



 走りながらだと集中できない。ジャック爺さんの言葉を思い出せ。迷ったらまず立ち止まるんだろうが。


 一度立ち止まって頭を指で叩いて思い出せとシグナルを発する。


「そういや、初めて目撃した時はあんまり頭が回ってなかったけど、二回目に見た時のあの構え……右手に槍、左手に剣。一頭一鎗流? 軍属みたいな雰囲気で、しかも戦略性を持ち合わせていて……アスハーラ平原にいた不死者って……」



 パズルのロジックみたいに答えが次々と当てはまっていく。


『ジェイド』と口に出し、復讐をしに来たと言う。一鎗一刀の使い手。


 可能性どころか確定の域まで辿り着いた。


「……もうジュリアスで決定だろ。これも偶然の産物か?」


 なぜこんな単純な事をいままで推理できなかったんだ。



 だが一方的に知っている相手が敵とは……都合が良いのか悪いのか、もはやどっちか区別がつかない。ココまでくると運命の女神の手の平で踊らされているような気分になってくる。




 運命の女神。それを考えると、一人の人物を呪いたくなった。


「……まだ見てるかよ、【次元の魔女】」


 どういうつもりか知らないが、俺はこの通り足掻いてもがいて必死だよ。


「邪魔だけはしてくれるなよ」





 走りながら不死者を討伐していった。銀の鎧の化物――『ジュリアス』の通った道を走っていく。道の端では天聖術士や天聖技を使う騎士たちが戦っていた。


 きっとフラガも彼等の手によりあの世へ行っただろう。勝手にそう願っておいた。




「ガイア殿!!」


 伝令兵のような人物がやってきた。


「殿って……そんな畏まって言われる存在じゃあなあいんだけど」


 それよりもガイアと呼ばれることに慣れてしまった事に悲しみを感じる。いや、今はそんな事どうでもいいか。



「ジュリ……銀の鎧の化物は?」


「中央広場の方角に真っ直ぐに向かっております!」


「予想通りかよ……。とりあえず了解した。ここはいつ崩壊してもおかしくない。出来るだけ人を助けて逃げろ」


「わかりました!」


 また走り出して、走りながら考えをめぐらせた。



 戦場は恐らく、中央広場になるだろう。そこにはジェラルドもいるし、ジェイド伯も多分いる。


 もしかしたらもう戦闘は始まっているのかもしれない。王手寸前だった。いや、第二城壁を突破されてる時点で剣を首元に向けられている。


 じゃあどうして咽喉元の剣をサクッと刺さないのか。


 決めてしまうのなら、既に『超重力領域』とやらで押しつぶしていれば良いはずだ。


 でも銀の鎧の化物がジュリアスだとすれば、思い浮かぶ可能性が一つある。



 復讐。怨讐。仇を討つ。



 たぶん、ジュリアスはジェイドから何かしら裏切られたのだろう。それをずっと恨んでいる。怨念を抱き続けている。本人が口にしていた。これは怨讐であると。



「ジュリアスも裏切りには肝要じゃあないからな……。痛めつけてから成敗するんだろう」



 己の罪を数えろとまでは言わせていないけど、そんなことを言い出しそうな奴だ。ジュリアスの目的は、ジェイド伯を如何に苦しめ、思い知らせるかだろう。



 ジュリアスが復讐に燃えているとなれば、魂が死体に残っていても不思議ではないと思ってしまった。


 幽霊だって、強い思いがあるから現世に留まるのだ。死体が残るこの世界で、強い思念を持った魂が死体に留まるという事も、ありえるんじゃあないだろうか。



「無茶苦茶な理論だな。いや、でもジュリアスならありえるな……アイツ、確か一度決めたらやり遂げるって頑固頭だったし」



 我ながら厄介な設定を作ってしまったものだ。


「……騎士道精神の塊だった奴が、虚しいな」


 今になって妙な感傷を抱く。





 中央広場が目前だとわかった。そこには、兜のない銀の鎧の姿と、ハルバードを持ったジェラルドがしのぎを削っていた。



 たった一人でジュリアスと紙一重の討ち合いしている。



 ジェイド伯がどこにいるのかと思えば、自分の屋敷の格子門の中から息を呑んで観戦していた。観客気分かよ。



 ジェラルドが敵の一閃の槍を防ぐと、その一閃が次元を切り裂き、直線状の壁に斬撃の傷跡が現れた。


『真空刃』



 あんなのを遠距離から一方的に晒されたら敵わない。


 すぐにジュリアスとジェラルドの間に割り込んだ。


「悪い、遅くなった!」

「ガイア! よかった、無事だったんだね」

「色々あったんだ。で、どうよ。倒せないだろ?」

「ああ。どうやって攻撃をしても、全て流される。どうやっても切り崩せない」



 俺は【始祖の因子】の所為で無敵みたいだろって言いたかったのだが、ジェラルドはどうやら、剣の技術が高すぎることを言いたかったらしい。


 世界最強クラスの設定を渡してしまった槍と剣を同時に使う槍剣士。赤子地蔵なんて本当にかわいいものだったかもしれないな。


 これも、自分で蒔いた種という奴だ。



 覚悟を決めて、選手交替を宣言する。




「俺と一騎打ちをしろ! ジュリアス!!」




 この場にいた全員が沈黙した。それは、ジェラルドもジェイド伯も、目の前のジュリアスと思っていた存在も、同じく静まって驚いていた。



『我をジュリアス・アルトと知って尚、一騎打ちを挑むか』


「そうだ。アンタの騎士道精神、この場にいる全員が見ている。アンタが卑怯な真似をしない奴だと信じて、俺はそれを望む」


 しばらく、ジュリアスは黙したまま、その槍と剣を動かさなかった。



「どういう事なんだ、ガイア。彼がジュリアスって――」


「そのままの通りだよ。奴が英雄隆也のお供をした傑物。ジュリアス本人だ。不死者なんだが、色々あって、俺の所為で生き返ったんだよ」


「意味が解らない……」

「今度詳しく説明するよ」


 本当に話す機会があるとも思ってはいないが、そうでも言わないと、離れてくれなさそうだった。


 緊張で手が震えていたが、それでもジェラルドの胸を押した。ここは任せてくれというつもりで。



「……。わかった。キミを信じるよ、ガイア」



 ジェラルドがこの死線の中から外れた。


「待たせたな。こっちは終わったよ」


『その覚悟や善し。だが、些か無用心が過ぎるのではないか? 急所ががら空きだぞ』


「……試してみろよ」



 突然、見えないと思える程の高速の槍の撃と剣の突が襲い掛かってきた。どっちも回避するつもりはない。だが片方、槍のほうを避けて、剣の方を自分から当たるつもりで【賢奴の赤旗】の杖をジュリアスに突き当てた。


『何!?』「なッ!?」


 俺達は互いに同時に驚愕した。


 恐ろしく早い剣が強固な体を――胸を貫いた。


 同時に【賢奴の赤旗】は確かに奴の銀の鎧に触れたはずだった。なのに、いつもの衝撃波が起こらない。敵が死ぬ様子がまるでなかった。


 何故だ。



 思考が結果を出す前に、ジュリアスの次の槍が襲い掛かってきた。胸を貫かれた状態なので、回避も取れない。簡単に槍の棒にぶつかり、吹き飛ばされた。



 最悪だ。初手の不意打ちで全てを終わらせるつもりだったのに、まさか【賢奴の赤旗】が効かないだなんて、予想してなかった。



『……なるほど。その異様な自信。その不死性にあったか。面妖な技を使う』


「俺も予想外だった。アンタは今ので仕留めたと思ったんだがな」


『何をいう。ただの棒切れ、痛く痒くもなかったわ。だが、ただの一撃。ただの棒切れ。久方ぶりの不覚であった』


 槍を右脇で固め、剣を持った左を前にして構えた。まるで彫刻のように静まって動かないその姿。


 悪い冗談だと思いたい。相手を本気にさせてしまった。


 その構えは何度もジェラルドが素振りをしていたものだ。左の剣が恐ろしく早く、見えない速度で敵を斬るのだ。俺には絶対に見切れない。



 しかし何故だ。何が原因だ。今まで【賢奴の赤旗】を何度も使ってきて、こんな不調は起きなかった。


 何が違うのか。使い方が違う?


 いつも、どうしていた。いつも相手が爆発する時、異常な演出みたいに粉々になる時、自分の手に巻いていたのではないのか。



(なんでジュリアスと戦う前にそれに気がつかない。最悪だ)



 拳の距離では近距離(インファイト)をしないと届かない。杖は辛うじて中距離(ミッドレンジ)だったがそれでは効果がない。どころか、相手の獲物は剣と槍。遠距離(アウトレンジ)も使うし、全部の能力が俺より遥かに上回っている。


 一鎗一刀流は何も、槍と剣だけの技ではない。体の関節、肘や膝さえも使って全距離(オールレンジ)で戦える。関節技だってある。だから一対一では最強なんだ。



『真空刃』


 何を言ったか、瞬間に剣を振ったのに気がつかなかった。『ズパッ』と音を立てて、袈裟切りに肩から腹にかけて流血した。


 最初にジェラルドとジュリアスが戦っていたのを目撃したのに、その存在を忘れていた。



 格闘ゲームみたいに斬撃を飛ばしてきやがる。



 さらにジュリアスは剣を振る動作をすると、重ねて連射してきた。


 ジュリアスは【始祖の眷属】になって、遠距離どころかさらに弾幕まで扱えるようになっていた。もともと化物みたいに強い奴が本物の化物になっている。



『クハハハハ! どうした、先ほどの威勢はどこへ消えた!?』


 冗談じゃあない。言葉を返す余裕がない。避けるなんて無理だ。見えないし、早すぎる。ガードするつもりでないと無理だ。


「植物の本流(リヴァープラント)!!」


 杖を伝って地面の下から大量の植物を一度に生み出した。緑色の茎から茶色い枝まで、際限なく生み出し、川の様に一直線上に成長する草木がジュリアスを呑み込もうと襲い掛かる。


 魔血種だとばれるとかそんな事、気にしていられない。どうやら今の魔素濃度では斬られた瞬間に肉体が再生する。

 バラバラにはならないのは救いだが、このまま死に続けていたら魔素濃度が天井知らずに蓄積されてしまう。いつになっても元の姿に戻れないじゃあないか。



 だが、ジュリアスは俺の植物などモノともしていなかった。どころか、さらに切り裂く速度を上げ、植物ごと俺を斬るつもりで狙いを定めてきた。



『無駄だ。その程度、とうに切り伏せてきたわ!!』


「しってるよ!!」



 十三魔人将のナクアが良い例だ。アイツはこんな植物出すだけより、よっぽど凄い技を持ってる。


 他の連中も、際限なく強かった。レベル100は間違いなく超えていた。

 今の俺なんて、レベル20が良い所だ。


 どうにかしないと、本気で殺され続ける。


 考えが甘かった。見通しが足りなかった。じゃあ別の手段だ。今からでも発想を変えなければ手段がない!



「くっそッ! 移れえええええ!!」


 技名なんか考えてない。今思いついた。


 強く念じて、体の表面を覆っている硬い皮膚を杖に全部移す。硬化した存在を一本の枝に集中し、さらに強固な一本の枝杖を作り上げる。


 そんな事が出来るのかどうかわからなかった。だが、やろうと命じれば、杖は瞬く間に黒く輝きを放ち、黒金のような色へと変貌を遂げ、赤い魔素の流れが光の線が走っていた。


 それで弾幕を防ぐように、両手で握り、杖で風の刃を受け流した。


『ほお?』


「やっと、まともに戦える」



 だが弾幕の対策が出来ただけだ。今のままでは懐に入っても返り討ちが関の山だ。



 どうする――。



『面白い。ならばこれならばどうだ』



 左手の剣を逆手にとった。真空刃は止んだが、あの構え、あの予備動作。地面に剣を突き刺すように振りかぶっていた。



「制限なしかよ!!」



 また暗黒空間を作り出される。剣を地面に突き刺した瞬間に、それが始まるのだと直感で理解した。


『超重力――』「させるか!!」


 先に生み出していた植物の川に魔技で命令する。大量の草木で振り下ろす剣や左腕に巻きつけ、押し上げる。こんな街中で『超重力空間』なんて使われたら、本当に全部が水の泡だ。


『抗うか。ならばやってみよ』


 無意味だというように、力ずくで地面に突き刺そうとしている。

 無茶苦茶だ。杖で格好つけて魔技なんか使ってたらどうにもならない。


 片膝を付いて両の手で植物に命令した。



(落ち着け、考えろ。考えて活路を見出せ! 俺は何ができる? 生命力が俺の使える技だろ? いや操っている、植物を作るだけじゃあ足りない――いや、水だって生命と決め付けるんだ!)


 頭の中で高速回転する思考をまとめることも無く、次の手を実行する。


 右手で植物を操り、左手で水を生み出す。これでダメなら大崩落の未来は避けられない。



『それで終わりか? ならば――』



 自分の手を邪魔する植物が弱ったのを感じたのか、ジュリアスが剣を手から離し、左拳を高々と振り上げた。そしてストレンジハンマーでも振り下ろすように、一直線に剣の柄に叩き込み、地面に突き刺そうとした。直後、剣は地面に吸い込まれるように落ちて消えていった。



『……何をした?』


「沼だ。お前の剣を突き刺す場所一点集中に水を生み出して、植物でドロドロにかき乱して、底無し沼にしてやったのよ!」


 してやった。一矢報いた。本当はそれほど深くない。精々一メートルくらいだ。広くもないし、時間も掛かった。だが、剣を失うには十分な深さだ。



「厄介な技を二つは封じた」



 真空刃と超重力空間。残るはあの槍だけだ。


『二つ? 勘違いも甚だしい』


 脇に固めていた槍を一閃、振り回した。先端と末端に取り付いた二刀の三叉刃が、剣一本よりもさらに数を増して真空刃が撃ってきた。



 全然状況が良くならないぞ。


(諦めるな、獲物は一本取った。残るは槍だ。どうにかして近づかないと。このままじゃあジリ貧だ。今度はどうする)


 近づこうにも、奴は真空刃を撃つだけで有効打だ。その上、自分で生み出した植物が邪魔で、走って近づこうにも遠回りをする必要がある。


 発想を常人に合わせようとするな。こういう時、起動戦士のエースパイロットはこう考えた。『弾幕の濃い場所を迂回して接敵するより、弾幕の濃い場所を抜けた方が早い』のだと。



(無茶苦茶だよ、アム○さん。そんなの無理だ)


 泣き言など言っていられない。植物があるのは文字通り、自分で蒔いた種だ。自分の手で何が出来るか考えることをやめるな。


 自分の手に巻かれた【賢奴の赤旗】を見て、可能性を考えた。一か八だ。


 ……いや、賭けを押し通して、ここまでずっと勝っている。



(偶然を『奇跡』にするというなら、これくらいやってみろ!)



【賢奴の赤旗】を巻き付けた拳で、自分で作った植物の川を殴った。それを切欠に植物が、殴った先からブクブクと膨れ上がり爆発を起こした。


 導火線に引火するように植物を伝って爆炎を生みながら、ジュリアスに襲い掛かった。



 何度も見てきた、【賢奴の赤旗】で殴った時と同じだ。生命に対して絶対の死を与える。それが自分の手で殴ると、何故か破裂するように過剰演出をする。



 何か意味があるのか知らないが、今はとにかく役に立った。


 轟音と煙と、空気の焼ける匂いが広場を包んだ。


 一気に距離を詰めよう。偶然の機転の結果、視界のない空間が出来上がった。そこを一気に駆け抜け、有無を言わさず【賢奴】の拳を叩き込む。


 そう決めて進もうとした瞬間、薄いガラスの様な細い線が煙を斬って飛んできた。

 気がつくのが遅れて、腹を斬られた。その所為で一歩足が竦む。


「ええい、視界がないのは俺も同じだったッ」



 むやみやたらに真空刃が飛んでくる。いや、俺を確実に狙っていた。


 少し右に避ける。すると次弾の真空刃が俺を狙って寸分たがわず飛んでくる。


「なんでだ、心眼でもあるのか――いや、そもそも奴には目がない……?」



 何で気がつかなかった。そうだよ。兜がないんだから、目もないじゃあないか。


 どうやって空間を把握してるんだ。どうやって感知してるんだ。



 音か、匂いか、光以外の全てか。


(わからん。わからんが、この状況は俺が不利だ!!)


 どうする。どうすればいい。考えろ。まだ終わってない。まだ、何か手があるはずだ。




 周囲をみる。俺をみる。持ち物を確認する。何が出来る。


 その時、脳裏に悪魔的な発想が舞い降りてきた。雷が脳天を直撃したような衝撃があった。


(良いのか? いや、良い筈ない。これでは一騎打ちではない。どころかこれは、最低最悪の悪魔の所業だ)


 だが、覚悟はしていたはずだ。俺は悪魔にならねばならぬ。ならねば成せぬ領域が目前にあるのだと知っていた。



 ここで手にした勝てる可能性を自ら捨てる方が、遥かに愚かだ。




「ジェラルドォ!!」




 叫んだ。叫んでジェラルドのいる方向へ一直線に走った。


 ジェラルドは大層驚いた顔で俺を迎えた。


「ど、どうしたんだ? いったい、キミは何を……」

「お前に頼みがある!! お前にしか頼めない事だ!!」



 やると決めたからには最後までやり遂げる。そうじゃないと採算が合わない。



「俺の言った通りにしてくれ。それだけでいい」


 どうやって説得するのか考えてもいない。それでもこういう時、ジェラルドならば答えてくれると信じていた。


「わかった。どうすればいい?」

「……出会ったのが、ここに居たのが、お前でよかった」



 心の底から、この出会いに感謝した。

 俺は今から、それをぶち壊すのだと思うと、寒気がする。



「……ジェラルド。俺を見るなよ」



 ジェラルドの大嫌いな最悪の裏切りを決行する。




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