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Dフェイブル ≪Don't dead dreams dive Fable≫  作者: 白黒源氏
【魔術師編】
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【魔術師編】15①



 馬が瓦礫と化した【アルト】北区を疾走していく。


 この馬はあまり走るが得意でないのか、よれたり、不安定な走りをしていた。あんまりいい馬じゃあないな。瓦礫の上を走ってる所為もあるんだろうが、そうそう都合よく名馬をもらえたりしないか。


「大智、ここから一直線でこの沈んだ土地から抜け出します」

「いや、その前に、北に向かってくれ」

「え? どうしてですか?」

「やり残しというか、確認したい事がある」


【始祖の眷属】が向かっている方向とは逆側に移動していった。


 北に向かうと、連続して同じ様なクレーターが出来上がっていた。団子みたいに繋がっている。


「……いないな」


 不死者が、いない。


「何か気になる事が?」

「フラガや前線の奴等がここで死んだはずだ。あの銀の鎧が不死者に命令できるなら、何か企んでるはずだ」

「そういえば、銀の鎧の付近には、不死者がいませんでしたね」

「引き連れてないというと……どこに行ったか」

「また陽動ですか?」

「……いや、どうなんだ?」


 遠くから第二の城壁が見れる。そう言えば、あっちは対魔性レジストの城壁だ。あんまり良い素材じゃないが、壁はどうやら、あの重力空間の中でも崩れていない。


「……壁? いや、そんなまさかな……」


「何を考えましたか?」


「いや、俺が化け物の思考なら、不死者を地面に潜らせて、地下から這いで内側に侵入させるかな、と。いや、不死者に地面を潜らせるのは無理だろ」


「いえ、それ、たぶん当たりかと……」


「なんでよ?」


「ゾンビって、地面から湧き出るモノじゃあないですか?」



 言ってる傍から遠くの方で変化が見れた。貴族街の第二城壁の向こう側で煙が立ち上がっている。


「……これが俗にいう、言うと実際に起きるって奴なのか」

「急ぎましょう」


 今度こそ馬を北西の方角へ向かわせた。


「そういえばお前、ゾンビなんていつ知ったんだ?」

「し、しりませんよ? ええ。別に。サボってた訳じゃあないですからね?」

「……なんで焦って自分でボロだすの?」

「う……。ごめんなさい。正直にいいます。ハイ、図書館に居る間に、ちょっと、娯楽小説を数冊……」

「読んでたの?」

「はい……」

「いつ?」

「地図を探してる間と、大智が地図を書いてる間に……」

「勉強熱心だね、いいんじゃあないか?」

「そうですよね! たかが十冊程度、別に構わないですよね!?」

「そんなに読んだらもう本もいらないよね。売っていい?」


 突然鬼だ、悪魔だと叫びだした。ただの冗談なのに。




 そうだな。うん。悪魔か。いいな、それ。


 心を鬼に、思考は悪魔で。それで行ってみよう。


 人を殺せないなんて、そんな甘えた事を言ってる場合じゃない。ここは今、死が飛び交う戦場だ。

 自分の意思を貫くのなら、それくらいやらなくてどうする。


 西側の方角に進み、やっとクレーターから出て、地上に戻ってこれた。コチラから南に向かえば、おそらくロイン達に遭遇できるかもしれない。


 遭遇出来るかどうかは運次第だ。偶然という奴を今はそれを期待するしかあるまい。

 馬で入り組んだ街を駆け抜けると、まったく予想にもしていない助けを呼ぶ声がしてきた。


「ナクア、聞こえたか?」

「一度止まりましょう」



 場所は北区の西へ移動したばかりだが、コチラの家の中では住民が不安がって窓から目を覗かせているのも見て取れる。


 ここにはまだ人が居るのか。


 のんびりしていた訳じゃあないだろう。だが避難活動が全域に行き届いていない。しょうがないだろう。何せ城壁を突破されるなんて考えもしない奴が最高指揮官に居たのだから。




 声がしたのは宿屋か。立派な建物だが、扉がわざわざ破壊されている。

 卑猥……というか、嗚咽の様な嬌声が聞こえてくる。嫌な予感がするが、覚悟した。


「お邪魔しま――」


 入ったら予想通り、大変ご立派なモノをぶら下げた男性が何人もいらっしゃるじゃあございませんか。……いや、変な意味じゃなくて――いや、変な意味か?


 皆一様に、角を持っており、猛る体を使って女性をオモチャの様に扱って良い事をしていらっしゃる。野蛮人という言葉を作ったのは彼等の為に用意されたのだと心底思った。


「ナクア、ちょっと外で待ってて」

「何故ですか?」

「中でお楽しみが始まってる」

「お楽しみ?」


 待っててと言ったのに、ナクアが顔をのぞかせた。


「……え? うわぁ……うわあ……」


 言葉にできない状況とは、まさにこの事だろう。ナクアが反吐でも吐き出しそうな顔をしている。



「尋常じゃないですね。どうするんですか?」


「……まあ、試したいこともあるし、ここまで着たら最後まで済ませてくる」


「じゃあ外で待ってますね」



 今回は一緒に来ないのか。やはりナクアはこういうのは嫌いか。


 なんか別の世界の言葉みたいなお下劣な言葉が飛び交ってる。いや、俺に投げかけているのか。全部無視しているから聞き流していた。



「おい、お前。随分と威勢がいいじゃあねえか。俺等と仲良くしたいのか?」

「あー、今俺達忙しいから手短に。お前らのリーダーって誰よ」


 何人もいる中で、一人、酒樽の上に座った大男が自分だと言い張った。


 確かに強そうだが、どこかで見た顔だな。いや、顔ではなく声か。



「もしかして、お前盗賊だったりしたか?」


「は、憶えてるじゃあねえかよ! テメエをこの手で引ん剝いて犯してやりてえとずっと思ってたんだぜ。自分から来てくれるたぁ、都合が良い」



 もう他の女性としてるじゃあないですか。しかもどう見ても同意無しで。


 男って見た目が良ければ誰でもいいのかな。いや、俺も男だ。他人のフリして言うのもどうかと思うけど。しかし、性欲が無いとこの状況がどうにも変な感想がでてくる。


 すぐ近くで殺し合いが始まってるのに、よくこんな事できるな、と感心しそうだった。



「どうでもいいや。悪いんだけど俺の実験に付き合ってくれ」

「はあ? 実験だあ?」



 周りからはビルゲインの旦那って呼ばれてる。どうやらコイツが山猿の大将で間違いなさそうだな。

 こういう時、頭を押さえつけるとどうなるか、そういう実験と……。

 俺の初の殺人相手だ。いわゆる殺人処女喪失。



 黙って立っていた俺に不用意に近づいてくるビルゲインに対して、杖を床に叩かせ技を発動させる。


「まあ、恨むなよ。俺、人を殺すのは初めてなんだ」

「はあ?」

「木の(ツリーコフィン)


 名付けた魔技を口に出す。杖の下先に魔素を送る。木でできた床から芽を生み出し――それを一瞬で成長させ、地面から斜めに生えた大樹が大男を呑み込んだ。


「ぐ――……あ……て、てめえ! 人間じゃあねえのか⁉」

「……さあ? そこんところ、最近自分でもわからないな」


 誰かさん曰く、これは俺が凄いのじゃあ無くて、魔素――【始祖の因子】が凄いだけらしいからな。俺の実力じゃあない。


(それにしても所詮は木だな。見た目は凄いが、縛り付ける程度か。ここから締め付けるって出来るか)


 命令するつもりで木に魔素を送り付けた。すると生木が成長すると共に、痛い音がした。

 骨が折れたか。何処の骨だ。首なら死んでるかもしれない。


「アアアアアアアアアアアアアアア!!」


 よかった。元気そうに叫んでいる。まだ死んでなかった。


「……すまん。夢中になって殺したかと思ったよ。悪いな。もうちょっとがんばれ」

「お、おま……ふ、ふざけ――ひい!?」


 杖を向けただけでビビっていた。周囲を眺めてみると、見られた奴から悲鳴が上がっていた。


「……他もいっとく?」


 杖を床に叩いてみると、恐ろしさあまりの声が飛びだし、全員この場から去ってしまった。


 さっきまで犯されていた女性も俺を見て逃げ出していた。まあ、心から無事を祈っておこう。わざわざ追いかけると逆に怖がられそうだし。ちょっぴり悲しみを感じる。


「さて、お前だお前。正直に言えよ。そしたら見逃してやるから」


 まあ、何を答えても殺すつもりはするんだが。こんな所でこんな事をしている奴は、多分殺しても良いだろう。


「な、なにを話せって言うんだ!?」


 聞いておいて何も考えてなかった。何を聞こうか迷ったが、思い出した事があった。


「……盗賊やってたんだろ。それなら、ニールって覚えてるだろ?」

「なんでソイツの事を?」

「お前、殺した?」

「こ、殺してない!」

「あっそ。じゃあ死んでくれ」


 魔技で締め付けをさらに強くする。大樹がさらに巨大に成長していく。今では壁もフロントも窓も木で覆い尽くされている。


「ま、まって! うそだ! うそだあああ‼?」


「何が嘘なんだ?」


「こ、殺した! 俺が殺した! だから、許してくれええ‼」


「え、あ。そう。ごめん、実はそんなに興味ないんだ」


「いやだあああああッああ。ああああ。あああ」



 大の男が泣き出した。マズイ。殺しにくい。良心が痛む。

 しばらく魔技を使うのをやめて、どうするか悩んでいると、ナクアが様子を見に顔を出した。



「大智、時間を掛け過ぎです。まだ終わりませんか?」

「ゴメン、俺やっぱり人を殺すのに抵抗がある」

「……さっぱり言ってますけど、問題が解決してないですね」

「悪い、いい機会だと思ったんだけどな……」

「もう大智はそれでいいと思います。この男はどうしますか?」

「ほっとけ」



 意味の無い、無駄な一幕だったと思いながら罵声が後ろから聞こえてくる。どうせ魔血種なんだから勝手に出てくるだろう。


「……あ、そうだ。ナクア、一つ頼まれてくれないか?」

「何か思いつきましたか?」

「悪知恵を少々」

「……聞きましょう」


 二人で悪魔の密談さながらに悪趣味な計画を練った。


 都合のいい展開と言うのは自分から創り出すモノだと、この時になってようやく理解し始めた。



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