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Dフェイブル ≪Don't dead dreams dive Fable≫  作者: 白黒源氏
【魔術師編】
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【魔術師編】9➂

 街の中で馬車に揺られてジェラルドと共に大図書館へと向かっている間に、フローラ姫の事を聞くことにした。


「【月の女神】の神子フローラ姫と会った? それは吃驚しただろうね」


「ビックリって言うか、間違いなく宇宙的恐怖体験だよ。なんだよ、この国。魔物より恐ろしい神がトップにいるじゃあないか」


「まあ、そういわないでくれ。確かに破天荒な方かもしれないけれど。この国にとっては【ノースケット】は絶対の守り神なんだよ。それに気に入った男を呼んで、自分と相手の子どもを生んで、男性に預けるという習慣があってね。その家は『必ず困難を脱する奇跡』が舞い降りると言われているんだ」


 うさんくさい。どころか、もうだめだ。嫌な予感しかしない。

 具体的には自作自演のトラブルを演じた上に、関係者全てを殺すか洗脳して解決するって感じだ。それで民衆の心を鷲掴みにしてしまう。マッチポンプを悪魔改造したみたいな奴だ。


「そういえば、屋敷にいたメリッサちゃんって、ノースケットを名乗ってたよな?」

「そうだよ。メリッサは十年前に我が家でお預かりになった神子だ。とても名誉な事さ。ご生誕の儀の日に『間違いなく大成するだろう』ともお告げを受けている」

「う、うん……」


 俺、ジェイド伯の事が心配になってきた。




 大図書館、到着してみると、大理石の神殿みたいな入口だった。

 ジェラルドとはそこで別れた。後で迎えに来るらしいので、その時にどうするか話すつもりだ。


 大きな門はずっと開いていて、門の前には兵が立っている。


「フローラ様より聞いております。どうぞ、よいお時間を」


 ニッコリした顔がとても素敵だった。ただし、顔の筋肉が全く動いていないのが不気味だったけど。


 中に入ると、想像していた通りの図書館よりもさらに広い。二階建てで上にも本棚が並んでいる。


 ……いや、普通の大図書館だな。フローラみたいな奴と遭遇してしまったから、ついつい危険な場所かもしれないと考え込んでしまっていた。


「そういえばナクア。神祖ノースケットって本当に知らなかったのか? 忘れてたみたいだったけど」

「名前は覚えていたのですが、あんまり詳しくは……。こう、すっぽり抜け落ちたみたいに。他の神祖の事も覚えていたり、思い出せなかったり。役に立てなくてすみません」

「いや、それ間違いなく俺の所為だから、気にしないでください。お願いします」


 穴あきチーズの記憶の穴の部分らしい。

 図書館に着いたら神祖についても一度調べておくか。


 なんだか二十人もいて面倒くさいとか言っていられない状況になってきた。今回の遭遇は本当に危機感を覚えた。



「とりあえず第一目標の地図を探そう。それで余裕があったら他の書籍も調べてみよう」

「わかりました」



 ナクアと手分けをして探す事にした。しかし、求めていた地図は中々見つからない。

 一冊ずつ手に取って地図が書いてないか調べていたが、俺は飽き症だった。


 そもそも字が読めないのだから無暗に探しても見つからないじゃないか。これが冒険の書なのか料理の本なのかもわからない。


 なんで検索機能とかないんだと愚痴をもらしたくなったが、探す前に司書さんに聞けばいいじゃないかと気が付いた。


 笑顔を描いた様な司書の方に頼ったところ、世界地図の書いてある本は機密情報扱いで公開されていなかった。


 確かに地図は戦略上的に重要な情報になる。大きな戦争があった後の世界だ。話の筋としてはわかる。だが、こんな遠い所まで来て見られませんでした、など話にならない。どうにかできないかと聞くと「フローラ姫様から承っております」と。あっさり書庫から持ってきた。


 ……まあ、助かるんだけれど、何か裏がありそうで怖い。



「これですね」



 持ってきた地図をナクアに見せると、机に広げて見せた。


 俺が見ても文字は読めないが、大陸の形は大体わかった。そして当時、どんな風に思って地形を考えていたのかを思い出した。

 大陸の形はアフロ・ユーラシア大陸を真似たのだった。ちょっといじくり回しているので変なところに島があったり、日本列島や東南アジアの島々、朝鮮半島もない。おおよそはそんな感じだ。


 思い出してみれば確かにこんな感じだったと感想が言える。


「で、我々がいるのが、世界の中心部、その南の海岸沿い。えーと……魔境、魔族の住む土地は……ありました。西の最果て、南の孤立した大陸ですね」

「……遠いな」

「ですね……」


 地球を半周するほどの距離だな。いや、この世界の距離感って適当だった気がするから、実際はもっと近いかもしれない。


 少し計算。


【ノースケット】と【アルト】の距離を地図上、1とする。この地図が正確だと信用して直線距離4~5。うん。直線距離で行けば丸十日の距離じゃあないか。行けそうな気がしてきた。


(……そんな訳ないだろうが)


 少し頭を冷やそう。直線状の距離でいけたら誰も苦労しない。補給は必要だし、海だけでなく陸地を行く。乗り物に乗って快適に移動できた船じゃあないんだから、もっと厳しいだろう。


 いや、そもそも船なんて俺は所持していない。調達できれば楽になるけれど。



 海路で最短ルートなら、順調に進めば二ヶ月とみた。

 ただし、陸路なら倍の四ヶ月以上。


「ナクア、ちょっと良いか?」


 とりあえず頭の中で計算したことを伝える。


「どう思う?」

「そうですね……船を使う場合は、支援者が必要にもなるでしょうね」

「だよな。さすがにジェラルドに船くれっていう訳にもいかないし、そもそも操縦が出来ない」

「やはり陸路で行くしかなさそうですね」

「そうだな。とりあえず地図を写すか」


 インクと羽、紙を取り出し、机を陣取って、あまり誤差がない様に丁寧に描き写していった。有名な街道も地図には描いていたので、それも一応描いておく。


 書いてから思ったのだが、地図を書き写してもいいのだろうか。でも誰も止めに来ないし、もういいか。


 しばらく集中して作業をしていると、ナクアがいつの間にか消えており、本を持って帰ってきた。



「先に調べ物もやっておこうと思いまして。それに記憶の補填をしたいです」

「わかった。後で説明できるか?」

「読みながらでよければ今からでも」

「俺も地図書きながら聞くよ」


 そういう訳で今から神祖の説明である。


「二十神祖の解説教本です。最初から読んでもいいですが、何か気になる神祖でも居ますか?」


「じゃあ『ハーレイ』。それと『ノースケット』。この二人が先に聞きたい」


「判りました」


【ハーレイ】

 九番目の祖神にて、『隠者』の称号を持つ。挿絵では髭のお爺さんがカンテラと杖を持っている。

 司るのは『真実』『知恵』など、およそ賢人らしい存在であり、また賢者とも呼ばれる存在であるらしい。


「……もはや俺にはジャック爺さんとしか思えないぞ」

「しかも逃亡癖があるって皮肉を書かれていますね」



【ノースケット】

 十八番目の神祖にて、『月』の称号を持つ。挿絵では月に写った女性の顔、その下に女性が池の前で座って佇んでいる。二匹の狼が遠吠えをしているのはなにか意味があるのか?

 司るのは『欺瞞』『策略』など。女神らしからぬモノばかりを司っていらっしゃる。


「……あの娘にしてこの親ありだな」

「ですが本では、試練を与える厳しい女神然としているらしいですね」

「解釈によっては、ニャル様も人間に試練を与える神様……になれるのか?」



 というか、コイツ等なんで俺の世界のオカルト的な象徴を体現しているんだ。


『隠者』はジャック・O・ランタン。


『月』は無貌の邪神ナイアルテップ。



 この調子だと、他の神祖連中も、別の何かになって現れてきそうな気がしてくる。二度ある事は三度あるというし。何か意味でもあるのか。



「おや? 大智、ジェラさんが帰ってきましたよ」

「だからジェラさんはやめてくれ……まあいいか。お前はそれで」


 ジェラルドが入ってくると、その様子が少しおかしかった。

 なんと言うか、焦っている。なにか急用でもあるのだろうか。



「すまない、二人とも。一応、知らせておかないといけないと思ってね」

「ああ。それよりどうしたんだ。急いでるみたいだけど、何かあったか?」

「僕は直ぐに【アルト】へ戻る。君たちはどうする?」

「今すぐ? それは助かる。実は俺達の目的地が西だとわかったんだ。よかったらまた船に乗せてアルトまで送ってくれないか?」

「よかった。では力を貸してくれないか?」


 よかった?

 力を貸す?


 またおかしな話だ。一応、事情を聞いてみよう。


「何かあったのか?」

「【アルト】に不死者の群れが向かってるんだ」



 突拍子もない話に頭が追いつかなかった。

 ジェラルドの異常な焦りに、俺達は時間を掛けてやっと理解し始めた。



「頼む、助けてくれ! ガイア、キミの力が必要なんだ!」





 この時まで、俺達は自分達の旅が順調なもので進んでいると思っていた。



 だが、そんなモノはマヤカシの幻想でしかない。

 目に見える足元だけが全てではない。むしろ、目に見えない物こそ、注意を払うべきであったのだ。


 隠者の神祖と出会っていたとか、月の女神が邪神なのではないか? など、くだらない瑣末な問題だ。


 そんなこと、俺の失敗になんら関係も無い。



 運命の輪は廻る。



 他でもない、輪に手を掛けて廻したのは俺自身だ。


 軋んだ音を立てて、秩序は崩れ落ちる。



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