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Dフェイブル ≪Don't dead dreams dive Fable≫  作者: 白黒源氏
【魔術師編】
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【魔術師編】9②


 船旅三日目の朝方。

 操縦している人間は除き、誰もがまだ寝静まっている頃、甲板の上で進行方向を見つめていた。


 朝陽が海から現れ、燦々と世界を照らし始める。海を真っ直ぐに伸びる光の道が出来上がる。奥の空が徐々に朝焼けを馴染ませ、燈色が白んで空色へと変わっていく。




 そろそろ都が見えてくる頃、一人でそんな風景を眺めていた。何もできない海の上でただひたすらに暇だった。釣りでもやれたら面白いだろうが、よくよく考えたら釣り竿もエサもない。船が止まることも無いので可能性は皆無だった。


 どうやらお遊び気分で船に乗っていたのは俺の様だった。



 しょうがないので魔素のコントロールの為に、杖先に木の芽を創る訓練を始める。


 生まれた芽はちぎって海に捨てていく。まるで花占いでもしている気分だ。その内お花でも咲かせられるかもしれないな。なんて阿呆になってやっていた。


「……ダメだ、これじゃあまるで老後のおじいちゃんだ」


 そういう訳で杖を剣道の構えで持って、素振りしてみる。


 ジェラルドも昼間に何度も鍛錬している。決められた型があるのか、最初は見てても振り回しているだけに見えたが、繰り返し見ていると同じ動きをしていた。


「上段袈裟切り、突き刺しだけじゃあ、俺も変化ないよな……。そもそも俺は棒切れなのに、ジェラルドみたいに早く振れないし」


 振り回すだけでも音が違う。目に見える速さですら天と地の差がある。


 才能の違いを感じる。そもそも俺には【賢奴の赤旗】がある。剣士みたいな戦い方をする必要はない。

 でも格好良く、颯爽と現れてあんな動きができたら格好いいんだろうなって欲目もある。



 そんな発想を抱く時点で自分の小物臭さが滲み出るようだ。


 でも強くならないといけないって考えは間違いじゃ無い筈だ。この世界は戦争をした世界、要するにForth of God(力こそ神)だった。


 大勢殺せば英雄と称えられる戦国時代さながらだ。いや、アキレウスの方がそれっぽいからギリシャ神話でいこう。一応、この世界設定のイメージは西洋だ。



「力か。今後の課題の中で俺に最も適して無さそうだ……」



 あれこれ考えている内に、太陽が海から離れて、空に映るようになっていた。


「見えたかい?」


 ジェラルドが現れた。服装は鎧ではなく軍服みたいにきっちりした物だ。腰以外にもベルトで各所を絞めているのはこの世界の御洒落だと思う。貴族にもそういうのがあるんだろうな。


 ハルバードは船に持ってきていたが、今は部屋に置いているみたいだ。俺みたいに杖を常に持っているのはおかしかろう。



「わからん。そもそも【ノースケット】ってどんな街なんだ?」


「海に面した都だよ。と言っても【アルト】よりもずっと綺麗な外見をしているね。向こうは都を立てた時から結界を張ってるから、城壁がないんだ。まるで街全体が白い御城みたいだよ」

「白い御城、ねえ」


 姫路城を思い出した。多分全然違うんだろうけど。


「ほら、あれだよ」


 どうやら見えてきたらしい。丸二日をかけて辿り着いた都。その姿は確かに、ジェラルドの言葉通りの姿だった。


 中央に高くそびえる西洋城は高層ビルにも負けないほどの高さだった。どころか広大な土地を十分に利用している。


 チェスのルークの形をした塔がいくつも見える。互いを塔を連絡橋で連結しており、それが海上にまで伸びている。


 西洋のお城というのはシンメトリーが基本だと聞いた事があるが、あのお城は恐らく気にしていない。だが、不協和音に感じないリズム感のある高低差があり、見ていて違和感がなかった。


 ぐちゃぐちゃに乱列しているのではなく、計算されて設計された自然な並び方をした都市。


 これは驚きを通り越して、感動的だ。



「……また二人でいますね」



 ナクアが起きて来たと思ったら、ジェラルドと俺の間に割り込んできた。


「大智の隣りは私の定位置という事で」

「変なキャラ立てなくて良いから」

「ジェラさんにガイアは渡しません」


 ジェラさんってなんだよ。まだ言うのか。


「じゃあナフカちゃん、僕の分の朝食をあげるから、僕も仲間に加えてくれないかな?」

「よろこんで! ジェラさんは話のわかる人です」


 仲良いな。ナクアは空気を読むタイプだし、ジェラルドも生真面目な天然だ。仲が悪くなるなんて事はないか。


「で、真面目な話、到着ですか?」

「もう結界の領域に入るよ」

「え?」


 そういえば結界って、魔族とか魔物を追い払う物だ。

 いまさらなんだが、ナクアと俺、大丈夫なのだろうか。


(いや、大丈夫じゃあないだろ大問題だ!)


「だ、大智。まずいのでは?」

「いや、もうこの位置だ、間に合わない。心して悶え苦しむ覚悟をしていこう」

「……私、ここで死ぬんですね」

「安心しろ、俺が引きずってでも連れて行く」


 ナクアと二人、感動の別れのシーンを演じながら結界と思わしき膜に肩が触れた。

 もしこれで蒸発するみたいに消えてなくなったらどうなるんだろうと思っていたが。


「――ッ?」

「おや?」


 何も無かった。

 しいて言うなら、ちょっと静電気みたいなのがあった気がしたがそれだけだ。


「離れろ、鬱陶しい」

「ヒドイ!? ガイアは私の事を見捨てるんですね!?」

「女々しい事を言うな! ……そんな訳ないだろ」

「え、いきなり真面目にならないでくださいよ。恥かしい」

「うるさい」

「君たち仲良いね」


 とにかく、なんだかわからないが、俺もナクアも問題なく結界の中に入った。



 船を下りても、いきなり身体が飛ぶとか、蒸発するとか、嫌な臭いがするとか、出て行きたくなる要素などなかった。


 どうなってるんだ。


「ジェラルド、ここの結界って聖獣の結界じゃあないのか?」

「聖獣の結界よりも強力な、神祖の結界だよ」

「強力……なのか? というか、神祖って?」

「この国は月の女神、神祖の一柱【ノースケット】が治める皇国だ。まあ政務に関しては女神本人は関わらない。【ノースケット】の神子達が国政を左右しているんだ」

「女神……て、実物の?」

「そうだよ」

「どーなってんだ?」



 さらに理解が追いつかなくなった。


 わかりやすく頭の中で変換してみる。

 この国の王様は神祖【月の女神:ノースケット】。でも国政は王様の子供たちで執り行っている。


 この都の結界は聖獣の結界より強い。


 ジェラルドの言葉を全て鵜呑みにすればつまりそういう事だ。



 だが、結界が強いと言うのは嘘だろう。だって俺もナクアも、分類は魔人だ。

 聖獣の結界よりも強力って事は、効果がないなんて事はありえないだろう。


 いや、もしかして【始祖の因子】だから大丈夫とかそんな事があるのだろうか。

 でもそうなるとナクアはどうなる。


 ……わからん。



 それに、女神の子供が政治を仕切ってる、これもわからない。

 それをする理由がどこにあるんだ。



「着てくださったのですねジェラルドッ!!」


 今度はなんだと思っていたら、キラキラした本物のお姫様みたいな奴が遠くから走ってきた。長い銀髪に銀のティアラ、花弁のように広がったスカートを両手で掴んで「とてとて」と効果音が適正な走り方でやって来た。


 なんだか可愛らしい人だな。と思っていると、ジェラルドは騎士然とした動きで膝を付いた。俺も遅れて膝を付いた。


「お久しぶりで。フローラ姫」

「ジェラルドは仰々しいですわね。立って下さい。お友達を紹介してくださる?」


 いきなり現れたお姫様にも驚きだが、なんの礼儀もしらない俺が相手にされて良いのかと思っていると、ナクアが右の裾を掴んだ。


「……気をつけてください。この人、相当やばいです」

「真面目? 冗談?」

「今度から真面目は右を握ります」

「わかった」


 何を感じたのかわからないが、警戒をしておこう。

 立ち上がるとジェラルドが俺達を紹介してくれた。


「こちら、ガイア。それから隣りはナフカティア。二人とも、旅をしている最中だと聞いています。ノースケットに用事があるそうで、一緒にと」

「そうでしたか。……へえ。随分と変わったお友達ですね。黒と白、ふふ」


 黒と白? いったい何の事を言ったんだ。指を差して俺が黒、ナクアを白。

 ナクアが白いのはわかるが、俺が黒いってどういう――……あ?


 一瞬で緊張感が増した。


「あ、アンタ……見えてる?」

「私の名前はフローラです。フローラ・ノースケット。神祖ノースケットと人間の間に生まれた半神半人です。どうぞ、よろしくお願いします」


 いきなり人外宣言された。

 ナクアが俺の後ろに下がった。戦闘態勢に入ると言う意味だろう。


「そういえばジェラルド。モーガン卿が丁度そちらの兵舎の視察に来ていらっしゃっていますよ。挨拶でもしてはいかがでしょうか?」

「はい、ありがとうございます。すまない。少しの間、二人とも待っていてくれ」

「え? お、おい!」


 ジェラルドは何の気もなしに俺達を置いていってしまった。なにも違和感などないかの様に。

 一瞬、催眠術にでも掛かったんじゃないかと疑った。



 結局、俺、ナクアがフローラ姫に対峙している状態になっている。


 フローラ姫は指で自分の髪を弄った。その仕草一つ、視線が下に誘導され、胸のあたりの肌が気になる。


 確かに絶世の美女と認めても良い玉体をしていた。こういう人は生まれながらにして美人だと決まっているんだろうか。



 自身の美貌を最大に利用した笑顔で、彼女は近寄ってきた。

 香りが甘い。甘美という言葉がふさわしいだろう。だが俺には少し鼻奥に引っかかる感じがする。



 今度は何をしようとしているのか、顔に手を伸ばしてきたので一歩下がる。と、それだけで眉を歪ませ、驚いた様子を見せた。



「へえ。やるじゃない。そっか、人間じゃないのに結界を抜けてきたから何かと思えば、【始祖】持ちなのね」


 何かしていたのか。何をしたのかは知らないが、ダメだったらしい。


「……アンタも、大概に人じゃあなさそうだな」

「何度も同じ事を聞きたいの? 私、【神祖】の娘、神子なんですよ? そこの【末裔】でなくって」


 このお姫様、どうやって知ったのかわからないが、俺の事もナクアの事も既にある程度知っているようだ。

 じゃあ魔人だってこともばれているのだろう。


 そうだったとして、疑問が生まれる。

 普通の連中は『魔人見れば見敵必殺』の精神を持っているはずだ。なのに、彼女はそれをしない。


 それ以上に優雅なほどに余裕がある。有り余らせているほどに、焦りが全くない。


 理由はわからないが、どうやら殺し合いが始まる雰囲気じゃあない。



「ナクアテッド、あなたどうやって出てきたの? もう二度と顔を見ずに済むと思っていたのに」


「さて、私は貴方の顔なんて覚えていませんね」


「なにその気色悪い喋り方? 新しい男の前では良い子ちゃんの設定なの? まさかその服も仕立ててもらったの? お人形にでも転職した?」


 ナクアは黙っていた。まさか相手も記憶がなくなっているとは思っていないのだろう。


 しかし、これ以上ないほどに関係が険悪そうだ。そんな奴がこの国の権力者って事は、相当こちらが不利だ。



「つまんない奴。で、何しに来たの? 私の領域に来るって事がどれほど恐ろしい事か、判らせてあげましょうか?」

「俺が説明する」


 杖を地面に叩いて存在感をアピールしておく。このままじゃあナクアが標的になりそうだ。


「アンタが? ……しかもその杖、あの陰気ジジイのかしら?」



 ジャック爺さんの事を知っているようだが、この際どうでもよかった。いつかの魔血種の不死者よりも怖い相手だ。


「悪いな。俺達の目的は大図書館にある世界地図を見ることだ。それ以上の事は特に何もしない」


「世界地図ぅ? なに、くれってことじゃあなくて? というか、それならそこの蜘蛛女が全部知ってる――」


 そこまで言うと、フローラ姫は手を叩いて笑いたいほどに嗤って顔を歪ませた。


「ああ、なるほどなるほど、そういう事になっちゃってるのね? 面白そうじゃない。なーんだ。ナクアちゃんって本性はそんな感じだったの?」


「理解力が凄いな。明日にはこの都から消えるから、図書館を利用させてもらっても良いかな?」


「……うーん。どーしよっかなあ」



 ナクアの記憶消去が見抜かれた上に、主導権を握っていることでとても喜んでいる。だんだん怖くなってきた。



「ま、いいよ。その状態ならきっと、あの陰気ジジイの助言でこんなとこまで来たのでしょう? しょうがないから特別サービスで許可してあげる」


「――え? いいのか?」

「まあね。それに、困ったときはお互い様でしょう?」


 悪寒を引き起こす笑顔だった。


 背中をナイフで刺されたのかと勘違いしそうだ。


 なんて醜悪な美の体現だ。可憐、美人、綺麗、わかりやすい美しさを使って篭絡せんとするその愛嬌が、原始的な本能の恐怖を思い出させた。こんな恐怖の感じ方、生まれて初めてだ。



 足が、固まって動けない。そんな事、フローラ姫は気にもせず、可愛らしい足取りで俺達の目の前から姿を消した。




 見送り、姿が完全に見えなくなると、安心して、腰を下ろしてしまった。


 一瞬だが、無貌の神ナイアルテップを想起した。クトゥルフ神話に置ける人の皮を被る邪神。


(いや、まさか、そんなことってあるか? 何かの間違いだよ)


 もしも本当にナイアルテップが関わっているなら……いくらなんでもこの都、やばすぎるだろ。


 そう言えばニャル神って孕み神でもあったか……。



「今のが、この国で一番のホラー体験だった」

「じゃあ次はないと思いたいですね」


 単なるミスリード的な奴だと信じたいところだ。もしも本当に本物なら、関わった時点で既に人生終了を宣言させられる相手だからな。


 ラヴクラフトを読んでない俺でも知ってる、有名な邪神の一角。ナイアルテップはそういう存在だ。



「ガイア、ナフカちゃん。二人してどうしたんだい?」


 ジェラルドが帰ってきた。本当に何事もなかったような顔で帰ってきた。


「ジェラルド、用事は済んだのか?」


「用事? 何を言ってるんだい? これからキミ達を図書館に送ってから、モーガン卿へ会いに行くところだよ」


「? モーガン卿って、さっき兵舎に視察に来てるって言われて行ったんじゃあ?」


「何を言ってるんだい? 騎士団の統括者が港近くの兵舎に視察なんかする筈ないじゃないか」



 ジェラルドは本当になんの違和感もなく、それが真実だという風にしていた。



「……俺、もうこの話はしたくない」

「同感です」



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