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Dフェイブル ≪Don't dead dreams dive Fable≫  作者: 白黒源氏
【魔術師編】
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【魔術師編】8②


 次に案内された部屋で待っていたのは広々とした食室だった。長いテーブルの奥に巨大な腹をした髭のおじさんと、ジェラルド、それから知らない人物が二名ほど座っていた。


「よくきてくれた。さあ、掛けてくれ」

「では、失礼します」

「……お、おう」


 ジェラルドが気を利かせてイスを引いてくれた。一応俺もレディ扱いを受けた。


 俺だけ借りてきた猫みたいになってしまってる。本物の貴族の雰囲気に圧倒されかけている。落ち着こう。平静を保つ努力をしようと思った。


 だが。


 髭のおじさんの態度を見ていたら、だんだん馬鹿らしくなった。


 なにがって、このふんぞり返った豚狸の妖怪みたいな態度だ。いや、お偉いさんなら普通なんだろうけどさ。絵や石像とは全く違って、お腹に溜まったお肉がたいへん豊満だ。別にいやらしい意味じゃなくって。



 良い生活してんな、と皮肉に思ったら緊張してるのが馬鹿らしくなった。それにこの豪華絢爛な料理の品々。王宮料理と言われても納得する。



 鳥の丸焼きがプスプスと音を立てて油を流している。鼻を好くような香りは黄金色のロールパンか、スープは澄んだ琥珀色、よく金持ちの朝ご飯に出されるボイルされた卵が専用のカップに一人一個。



 見ていたら豪食なんて言葉が脳裏に浮んだ。



 たまご一つとってもこの異常さがよくわかる。現代ではたまごなんて一個50円だろって思うかもしれないが、そんなの大量生産が可能になった現代になってからだ。


 戦後の日本を舞台にしたドラマでも良くやってた。『母がなけなしのお金で卵焼き弁当を作ってくれて大学に受験しにいく』……みたいな短編物。昔見たよ、そして泣いたよ。


 本来、たまごなんて素材、そりゃあべらぼうに高い。こちらの世界での平均的な値段やら価格はわからないが、昨日の村の食事を思い出せば容易に想像がつく。いや、アレは兵舎の食事だったから良い方かもしれないが、農民くらいになると、もっと貧しいはずだ。



 たまごはこの世界でも、間違いなく高級食材だ。こんなことを頭の中で考えていたら、緊張など完全に迷子になって明後日の方角へ消えていた。



「ふむ、こやつ等がジェラルドの言うた旅人か。女だてらに中々の活躍を見せたそうだな」


「後ろの彼女――ガイアがそうです。父上……彼女たちは」


「わかっておる。だが下手したてにでれば舐められるだろうが。これくらいでいいのだよ」



 うーん。緊張は消えてくれたが、向こうはちょっと様子がおかしい。


 なんだかギクシャクしている。確かに権力者って看板が傷だらけだと交渉に難を来す。

 偉ぶらないといけない立場だというのは、一応は理解している。ムカつかない範囲でだけど。



 人の事を偉そうにいう資格はないんだぞ。自分にそう言い聞かせよう。



 それはそうと、俺達はどういう扱いでココに呼ばれてるんだろうか。ただの旅人なのか、助けてくれた恩人としてなのか、それともシークレット待遇の聖獣と守護者のセットなのか。


 ナクアは平然と自己紹介しはじめた。



「お招きに預かり、誠にありがとうございます。ナフカティアと申します。以後お見知りおきを――いえ、覚えてなくて良いですね。ええ。忘れてください」


「おい、いきなりどうした」


「聞く気のない人間に挨拶して損しただけです」


「もういい、お前はお食事だけしててくれ」



 沸点が低すぎる。今回ナクアは表に出ない方が良いかもしれない。


 でもこのジェイドって人、確かに態度が悪い。いや、悪すぎるくらいか。名乗りは聞くものだが、聞き流しながらフォークに肉突き刺して食っていた。「ねちゃくちゃ」とした汚い音も出てるし、そりゃあ目隠ししてるナクアでも怒る。


 同じ空間に居るだけでストレスを撒き散らす人物。うん、居たよ。そういう人。そういう人に限って切れ易いのだから勘弁してよ。そういう奴は腹の出た体育教師に多い。



「偉く態度がデカイではないか。耳なしの聖獣もどきが」


「父上、やめてください。彼女等はこの街に住まう者達の盾を守った、立派な人徳の持ち主です。あまり無礼をされては……」


「ふん。心配するな。この街に入れば誰もが心を魅了される。この街こそが至宝の存在よ。貴様らも、この街に住みたくて私の【アルト】に来たのだろう?」



 ……どういう話の流れなんだ。ちょっとわかんないし、勘違いとかこじらせてそうだ。



「えっと、自己紹介の続きをさせてください。ガイアです。よろしくお願いします。ナフカはご覧の通りですので、俺が話し会いの窓口という事でお願いします。それでそちらの方がジェイド伯爵、ジェラルドは存じてます」


 それから――ジェラルドの隣りに座っている少年と女の子、こちらがわからない。そう視線を向けると、男の方が先に立ち上がって胸に手を当てて挨拶をしはじめた。


「失礼しました。僕はジュースリット・G・アルトマリンです。どうか、ジュースと呼び捨てで」


 続いて女の子が立ち、スカートの裾を引いて頭を下げた。


「メリッサ・ノースケットです。よろしくお願いします。一応、末妹です」



 この国の名前がファミリーネームなのか。というと、お姫様とかそういうのをイメージさせられるんだが、最後に末妹と言ったぞ。

 どういう関係でここに居るんだ。まあ後で誰かに聞いてみるか。


 先に挨拶を済ませておかなくては話が進めない。



「よろしく、ジュースリット。メリッサ。ジュースはちょっと別の意味に聞こえてくるからリットって呼んでも良いか?」

「構いません。しかし、そんなことを言われたのは初めてですが」



 まあ、そうだろうさ。でも名前を呼ぶたびにペットボトルを連想したくないんだよ。


「バカモノめ、異世界人なのだ。他の連中とは二つも三つも常識が壊れた連中だ。それくらい察しろ」


 ジェイド伯の物言いにはちょっと同意。さっき見た絞首刑みたいな【魔壺の谷】を見た後だとそう感じる。こっちとは血生臭さが違うんだよ。常識なんて三つどころか十は違うだろうさ。


 それにしてもジェラルドの奴、どこまで正直に話したんだろうか。俺が異世界人って事は伝わっているようだが。


 ナクアが魔族って事にはなってなさそうだ。情報の取捨選択を聞き取りたいところだ。


 と、また突拍子もなくナクアが服を引っ張った。


「怒らないんですか?」

「俺? 別段なにも。ナフカは?」

「かなり」

「じゃあ口でも閉じてなさい」

「閉じる前に一つだけお願いがあります」

「……なんだ?」

「見えないのでご飯を口に入れてください」

「すまん、気付かなかった!」



 うっかりしていた。


 急いでステーキの一枚をフォークで刺し、一枚そのままナクアの口に突っ込んだ。すると麺でも啜るように肉が口に吸い込まれ、頬袋を膨らましてモキュモキュと食っていた。さすが魔族だ、食い方が化物だよ。


 そんなやり取りを見て、ジェラルドとメリッサが笑っていた。ジュースリットは空気に乗れてない顔をしている。ジェイドは黙々とお肉とパンを口に運んでいるし、興味はなさそうだ。


「少し話す度に漫談してたら終わらないからさ。とりあえず、どこまで話が伝わってるんだ?」


「そんなことはどうでもいい――」


 ジェイド伯が突然口を挟んだと思ったらと、食器を机に手放していた。


「おい、いつから【結界の儀】を執り行うのだ?」




【結界の儀】

 初めて耳にするが、頭の中では設定を覚えているぞ。


 フィや他の聖獣が使う結界の事だ。それを使うことで、街は魔族や魔獣に襲われなくなるというものだ。ゲームによくある「街に魔物が襲撃しないのなんで?」の疑問に解決すべく作った設定の一つだ。


 聖獣が魔物たちを常時追い払う術を持っているから、この世界に生きる人は皆、聖獣を敬愛し、感謝している。



 これをしろとジェイド伯は言うのか。どうやら壮大な勘違いをしている。



「いや、やりませんよ」

「……なに? どういうことだ?」


「俺達、旅をしている最中なんで。そういえばジェラルドにもまだ言ってなかったな。俺達は【ノースケット】に行こうとしてたんだ」


「なッなななッ!? ちゃちょ、ちょっと待て! な、なぜ! ノースケットに!?」


 ジェイド伯が今までの落ち着きを忘れて動転してらっしゃる。さっきの尊大さはどこへ消えたんだ。俺の緊張と同じ所だろうか。


「ちょっと待っちなさいって! 【ノースケット】は神都だぞ! あそこには既に聖獣の結界は要らぬはず!」


「いや、俺たちの目的に結界は関係ないので。だから【アルト】には【ノースケット】に行く為の寄り道で来ただけです」


「な、なんだてええええ!? イヤ、またぬか! おぬし、いや、君たちはこの街には興味ないのかあ!?」


「ゆっくりするつもりは無いですね」


「い、いかんいかんいかん! ならぬぞ!! そんな話、認められぬ!!」



 イスから飛び上がると、そのまま足早に部屋から出て行った。

 意味がわからない事を言い出した挙句に、なぜか怒ってた。


 一体、ジェイド伯の頭の中ではどんな想像が広がっていたんだ。


 と、忘れていたがナクアの口が開いたので、大きな鋏のついた伊勢海老みたいなのを殻ごと口に入れた。凄い、全部噛み砕いてる。えげつない顎だな。



「ラル。ちょっといい?」

「何かな?」

「どういう状況なのこれ?」

「実は――……」



 という事でジェラルドが全て白状した。

 どうやらジェラルドが話したのは旅人の事。訳あって素性を隠していたこと。そして俺が異世界人かもしれないという情報だけだった。


 それがどこで聞いた情報なのか、ジェイド伯の耳に、俺達が聖獣と守護者かもしれないという話が既に入っていた。


 その原因は幾つかあるが大きな要因は二つ。



 一つはあのおしゃべりド新人女。


 もう一つは、ジェイド伯は長年聖獣の結界を街に配置したかったらしい。この街に聖獣が居ない事が長らく聖獣を期待しつづける要因となり、そして俺達が着てしまった。



 だから情報が矢の如くジェイド伯にまで飛んできた。……という事らしい。ジェラルドもそんなに早く耳にするとは思ってなかった様だ。


「お前の部下が凄く喜んでた理由もやっとわかったよ」

「まあ、そういうことなんだ。許してもらえるかな?」

「それ、期待させちまったこっちの台詞だと思うんだけど……」



 うーん。なんだか厄介ごとの波に呑まれそうな気がしてきた。これは早く行動した方が良い気がする。チンタラしてたら逃げられない雰囲気にされてそうだ。


 既にジュースリットとメリッサがそんな感じでガッカリしてる。これを見てると何もしてないのに罪悪感が芽生えてしまう。いや、その勘違いを十二分に利用してきたのは自分達なのだが。



「ナフカ、明日の朝には出るぞ」

「え? 嘘ですよね!? まだ観光とかしてませんよ!」

「物見遊山じゃあないんだからそういう事言うなよ……」

「ジョ、冗談ですよ~」

「声が震えてるぞ」


 自分の欲望には忠実な奴だ。【ミッドガルド】の時は凜として立つ鳥跡を濁さず、なんて感じだったのに。



「ノースケットに行くんなら、船で行くつもりだったのかい?」


「いや、どうかな。俺達路銀がないからさ。そういえば、ココに来るまでに色々稼いで、売って、金を作ってから山道を使うか迂回して森を抜けるか考えてたんだったな」


「さ、さすがです。考え方が常人とは違いますね」


「いや、地理に詳しくないから実際は空論だ。確かな情報もなかったし、とりあえず情報収集と装備の獲得も兼ねて、アルト目指してたんだよ」


 しかしアルトに来て手ぶら状態だとは考えてなかった。こうなったら本気でナクアの魔道書を売らねばならないかもしれない。辞書とか高いだろ。


「だったら、僕と一緒に【ノースケット】へ行くかい?」


 ジェラルドの鶴の一声だった。「一体どういう事なんだい詳しく話を聞かせてくれ」と食いつきたくなった。


「是非お願いする」

「そ、即決だね」

「すまん、つい口が滑った。いや、でもジェラルドと一緒ならこっちも安心だ」


 なにせこちらの事情に一番詳しい人物だし、味方をしてくれる。頼れる存在だ。性格もある程度わかってるし、間違いはない。


 ……――と、信用しまくってる自分がいるのに気がついてやっとブレーキを踏み始めた。そうやって人を信じすぎて痛い目を見たのを忘れたか。


 全力で信じてはいけない。半分くらい信じよう。……甘いな、俺。



「まあ、あれだ。即断は冗談として、理由を教えてくれ。ジェラルドって【ノースケット】に行く予定でもあるのか」


「任務の報告だよ。ノースケットに居られるモーガン卿から受けた話だからね。今回、直接報告に行ってもいいだろう。船を手配するんだったら人が二人増えてもあまり差はないからね」


「ジェラルド、お前を愛してるって言っても良いか?」


「はッ!?」「ゴフッ――」「ブッ!?」 


 三者三様、様々な反応だ。ちょっと悪乗りしすぎた。ジェラルドだけ澄ました顔してたけど。

 それにしてもメリッサの鼻からスープが垂れてるのは面白い――いや、いただけないな。



「冗談だよ……。ラル、期待しても良いならご一緒したいんだが、いいのか?」

「もちろんさ。ガイアと一緒だと、僕も嬉しい」

「いつ出立する?」

「いつでもいいよ」

「今夜でも?」

「もちろん」

「じゃあ今からいこう」

「わかった」


 俺達のやり取りを誰もが止めなかった。

 内心「おい、誰か止めろよ。いまの冗談なんだけど」と言いたかったが、ジェラルドの奴が意気揚々と部屋から出て行ってしまった。


「……凄いですね。今朝、馬でドノフ村から走ってきたと聞いていたのに。まるで疲れを感じていらっしゃらない」


 あぁ、なんだか周りの連中も本気にしてる。いつもの調子で冗談言ってたらブレーキが消えていた事件。


 食事は早くも急直下で終わりを迎え、ナクアから苦言を聞かされた。


「ガイアは体力オバケなのです。人の身を気にしてください」

「ごめん。今度から軽口はなるべく控えるよ」




 こうして俺の冗談の所為で、初の都入りは冗談みたいな速さで旅立つことになった。


 港街【アルト】よ、さらば。何しに拠ったのかわからなくなりそうだよ。


大智は知りませんが、ジェイド伯は大智達が町から抜け出せぬように包囲網を敷こうとしていました。どうでもいい話ですね。

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