【魔術師編】7①
俺達は予定通り、朝には村を出て走り続けた。速さはだいたい原付くらいだったが、俺の乗ってた馬が退屈そうにしていたので「好きに走っていいぞ」と冗談で言ったら爆走した。その結果、途中で息切れしてしまい、今は川辺で休憩を挟んでいる最中だ。
「いきなり飛ばすなんて思ってなかったよ」
「すまん、つい魔がさした……」
当然怒られた。しかもジェラルドに。昨日の夜に話したお蔭でかなり仲良くなった気はしたが、さっそく絆に傷をつけてしまった。
「ガイアが飛ばしたお蔭で、他の馬も連れて走ってしまった」
「? つられたって、なんだ。もしかして馬って先頭が飛ばすと後ろも一緒に走るのか」
そうか。馬ってそういう生物だったのか。渡り鳥みたいな連中だったか。
「知らなかったのか。もしかして、隊列を組んで走ったことないのか?」
「隊列どころか、馬に乗るなんて昨日が初めてだよ」
鉄の馬には乗ってたけどな。
「……やっぱりキミ、普通じゃあないな。常人ならあの速度で恐怖するよ」
「もっと速いのに乗ってたんだ」
名前を『CB250:ホーネット』と言う。ホンダ神が生み出した90年代を代表すると言っても過言ではない素晴らしいネイキッドバイクだ(個人の偏見)。
あいつに比べれば時速80なんてまだまだ序の口だ。
まあ生物の馬とは全然違うけど。高さがあるし、上下に揺れるし、飛んだり跳ねたり、勝手に走るし、ガソリンの代わりが水だ……エコだな。
馬は馬で悪くない。初めはちょっと不安だったが愛着が湧くようになってきた。
「なんでそんなに仲良くなってるんですか?」
「うーん。ちょっと通じ合った。俺達きっと相性がいい」
馬の首に手をさすると、うっとりするように静かになる。そして情熱的な目をしてこちらを見ている。
やめてくれ。お前の劣情は人間には受け取れないんだよ。それやって人が死んだって話をどこかで聞いたこともあるし。
うん、まあ乗り物は早けりゃいいんだよ。性格なんて二の次だ。
「いえ、私が訊きたいのは馬ではなく、あのジェラさんです」
「ジェラさんってなんだよ。さすがにその愛称はないだろ」
なんかチュラさんみたいだから却下。
「親しい人にはラルって呼ばれてるよ」
「じゃあ俺も乗っかってラルって呼んでいいか?」
「もちろん」
「……ええー?」
ナクアが声を上げて納得しない顔で異議を唱えている。
「なんでそんなに仲良くなってるんですか。昨日はそんな事になってなかったのに」
「……お前マジで寝呆けてたのか。えっと、夜中に長話しただけだ」
そういえば、昨日剣を振って鍛錬していたジェラルドの剣。今も腰に装備しているが、なんだか他の連中の持っている剣と比べると短い。
ジェラルドの身長で帯刀する剣としても短いし、なんかアンバランスだ。
それに主兵装は槍だろう。この際、邪魔ではなかろうか。
「一つ気になったんだけど、ラルって剣を使うのか? 腰の剣、他の連中のよりも短いし」
礼服用の剣とか貴族ならあるんだろうけど、わざわざこんな所に持ってくるだろうか。いろいろ考えたが、やっぱり無さそうだよな。
「短くていいんだ。僕の流派は一槍一刀流なんだ」
その名を耳にした瞬間、俺の黒歴史の扉が悲鳴の様な音を出して開き始めた。
「なんですかそれ?」
やめろ、ナクア。聞くな。その設定に触れるんじゃあない。
「槍と剣を同時に使う良いとこ取りの剣術さ。右手に槍を、左手に剣を持ち、間合いを測り、絶たる守りを矛とする。之即ち――」
「『――攻防自在の剣戟演武』」
(うああああああああああああああ‼‼‼)
目を塞いで思いっきり叫びたくなった。恥しい。恥し過ぎる。
思わず覚えてた台詞が脳裏で克明に思い出してしまった。羞恥心で殺されるかと思った。
「どうしたんだいガイア、一体どうしたんだ」
「だい……ガイア、しっかりしてください」
「き、気にしないでくれ、持病の発作だ」
中二病と言う名の決して治らない恐ろしい病だ。
気を取り直して話に戻ろう。
【一槍一刀流】
まあ、現実では有り得ない槍と剣の総合術だ。一応分類上は剣法でいいのか。説明は簡単。本当に剣と槍を同時に使うだけだ。
何が強いのか今の俺でもさっぱりわからない。槍は片手で扱うには槍本来の強味がほぼ殺されてしまう。長物は他の武器にないそのリーチが最大の武器だ。それを可能にするのは両手持ちなのは誰が考えてもわかる。槍の良さを十全に発揮させるには片手では不可能だと言っていい。
中には片手で使える短槍があるが、それではリーチの良さが消えてしまう。
自分のアイデアだが、ダメ出しのオンパレードだな。そんな全くもって現実味の無い剣法が一槍一刀流である。
当時は「カッコいい! ナイスアイデアだ!」と思っていたのだが、まさかこんな所でその設定に巡り合うとは思わなかった。
「えっと……なんだ。俺も偶然知ってるよ、その流派……」
「ああ。そうだったんだね。我が家秘伝の流派でね。人魔戦争であの英雄リューヤの御供だったジュリアスが編み出した剣術なんだ」
「……ご丁寧に解説ありがとう」
そういうことです。小説を書いていた頃の登場人物の一人、ジュリアス。
彼は、隆也がこの世界に来てまだ間もない頃に出会った低級騎士の青年だ。小説だったころの役割は、盛り上げ兼解説役。
よくいる主人公の活躍を盛り上げる「な、なんだって!?」が口癖みたいな連中の一人。それから地理の説明や、何処から手に入れたのか不明な敵の情報。
まあジュリアスも大概に便利なキャラクターだった。アイツが居なかったら話が全然進まなかったほどだ。
で、このまま何も能力がないのも惜しいので『一槍一刀』を思い付き、割と強い設定に仕立て上げた。強さは隆也ほどじゃあなかったけれど。
なんの縁でこんな所で遭遇したんだか。
「その一槍一刀ですか。実際に見てみたいものです。……そういえば、昨日の戦いでは使ってませんでしたが、何故ですか?」
「実はこの剣、抜けないんだ」
「は?」
俺も耳を疑った。なんで抜けない剣なんか装備してるんだ。呪われているから外せませんって言い訳はありえない。
「柄に鍔も銀、鞘は……黒塗の木ですね。造詣は良いですが、それだけすぎて地味ですね。抜刀もできないのに、それを持つ理由は?」
「御利益、かな。子どもの時、目が覚めたら握ってたんだ。もしかしたら神様からの贈り物かも知れないと気が付いたら、それ以来ね」
目が覚めて持っていたと聞いて、俺はサンタクロースを思い出した。
……それ、親からのプレゼントだったりして。
子供の頃に渡した、抜けない様に細工した剣。危なくないし、子供はきっと喜ぶだろう。うん、有り得る。
「さて、馬の休息もそろそろ良い頃間だ。ガイア、次はいきなり飛ばさないでね」
「わかったよ。バリオスにそう言っておく」
「バリオス?」
「俺の乗ってる馬。別になんて呼んでも構わないだろ?」
カワサキバイクのバリオスから拝借させてもらった。だってあのバイク、ロゴが馬だし、ついつい連想してしまったのだ。
「早速自分の馬にするつもりかい? まあ、ガイアになら構わないけどね」
「ちゃんと街に到着したら返すよ」
バリオスに乗ろうとする前にナクアに服を掴まれた。
「なんだ?」
「彼に大智を取られた気分です。いままでずっと話してきたのは私だけだったので」
「……こんな所で甘えん坊キャラを追加しなくていいから」
「では私もバリオスに乗ります。構いませんね」
構います。邪魔です。俺のバリオスを勝手に取らないでくれ。
しかしこの尻軽のお馬さん、ナクアを乗せると意気揚々と鼻をならした。お前は女だったら誰でもいいのか。俺との絆はまやかしだったのか。
「ほら、バリオスも喜んでます。一緒に乗りましょう」
「……この寂しがり屋さんめ」
「そうです。大智と一緒です」
そうして俺とナクアは一緒の馬に乗る事になった。可哀想に、一頭だけ裸馬になってしまった。しかもちょっと淋しそう。
残酷だ……。
その後ジェラルドが気を利かせて馬蔵を外すと、ジェラルドの馬の後ろを追うようになった。どうやったらそこまで馬って調教できるのだろうか。不思議だ。
あとはちょくちょく休憩を挟んだり、走り続けたりの繰り返しだった。
太陽が西の空に沈む頃、俺達の目指していたモノの片鱗が見えた。
光がちらほらと見える。街道もしっかりとあるし、人の往来の姿もある。
初めて見る異世界の街だった。
遠くからでもその巨大さは圧巻だった。
大きいし、広いし、輝いている。まるで建物の群像体だ。あれでは港だと忘れてしまいそうになる。
砦が二重に街を囲み、砦の外側まで建物がある。増築増設を繰り返しているのかと想像を掻き立てられる。
あそこには活気がある。異世界に着てこの感想もどうかと思うが、現代の夜景に匹敵する程あの街は輝いている。
「あれが、都港【アルト】なのか……」
港と都を併せ持ち、輝きを放つ街【アルト】。俺達の予想よりはるかに早く、到着することになった。




