表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Dフェイブル ≪Don't dead dreams dive Fable≫  作者: 白黒源氏
【魔術師編】
47/72

【魔術師編】6⑤


 お互い湿った雑草の上で腰を落とした。


「あんまり長話にしたくないんで、掻い摘んで言うとだ。俺がこっちの世界に来て初めて助けてくれたのが、アイツなんだ」

「つまり、ナフカちゃんは恩人ってことなのか?」

「いや、違うか。どっちだろうな。厳密には同一人物なのか、別人なんだか、ちょっと俺もどう説明していいのか」

「何か複雑な事情でも?」

「……昼に言った記憶を喰う化物の話、覚えてるか?」


 ジェラルドはうなずき、次の言葉を待った。

 俺は、続きを言うのをためらった。どうしてかはわからないけど、口が堅く閉ざされた。


 何を戸惑っているのか自分でもわからないが、深呼吸をして息を吐くのと同時に言葉を載せた。


「俺は、恩人を見捨てて逃げ出したんだ」




 そこからは、まあ告白というか、懺悔だ。

 自分の可愛さあまりに逃げ出して、でも寂しいのが嫌で、他に誰も居ないことに気がついて、戻って、必死になって何とかしようとしたら、何とかなってしまっていた。

 奇跡みたいな話で、ナクアは無事だったけれど、記憶がなくなっていて、今は記憶の断片にある故郷を目指して旅をしている。


 それだけの話なのに、俺が辛い訳じゃないのに、話すのが辛かった。



「……幻滅しただろ?」

「いや、ナフカちゃんの言ってたことを思い出した。というか、怒ってた意味がわかったよ」

「アイツが怒ってた? なんで?」


 そもそもアイツが怒ってるところ見たこと無いぞ。なにやらかしたんだ。


「『ガイアはとても普通の人間なので勝手に持ち上げないでください』てさ。今の話を聞いて理解できたよ」


 またか。心配されてた上に気遣われてた。そういうの、なんでわからなかったんだ。

 そもそもアイツ、俺に対して過保護すぎませんかねえ。惨めとか通り越して恥かしいからやめて。


 でも、せっかく気を使ってくれてるのに、その優しさを無碍にもしたくない。一番いいのは初めから俺がしっかりしていればいい話だ。……それが出来れば苦労はない。



「キミは自分の負いきれる以上の責任を果たそうとしているんだよ」

「……それって、お前には無理って遠まわしの嫌味か」

「いや、そんなつもりはなかったんだけど、そう聞こえるね。うん、ごめんなさい」

「確かに出来るかどうかわからないし、不安ばかりだけれど。自分でやった不祥事は自分で片をつけるべきだ」



 それに、もう逃げたくない。ちょっと逃げ出しそうになってたけれど。でも最後まで突き通したい。

 一度、何かに到達しようとした。何が待っているのかわからないけれど、必死になって手を伸ばしたら、願いは叶った。全部ではなかったけれど、半分くらいは叶った。


 だから今度は初めから、ずっと立ち向かうべきなんだ。そうすればきっと、今度は半分以上の願いが叶うはずだ。

 まあ理屈だけなのだけれど。


「でも、そうか。そういう事情があれば、魔族の女の子でも助けちゃうのか。いや、君達はそれ以上の絆があるんだろうね」


 仲良しデュエットにでも見えるのか。と、冗談交じりの言葉が飛びだしそうになったが一度口を結んだ。

 少し気になった事があった。


「なんだ。魔族と仲がいいなんて、別にいいじゃないか」

「異世界の住人はどうかわからないけど、この世界じゃ人間と魔人は敵だ。常に会い争っている」

「俺は人間で、ナフカは魔族だ。でも仲良くなれたぞ。これっておかしい事か?」

「常識の話さ。この世界では魔人は絶対悪で、魔人を殺せば英雄になれる」

「……お前、本当はそう思ってないんじゃないのか?」


 思っていたことを口にした。

 だってジェラルドは全然そんな風に思ってない。天然のクセに、勘が鋭いクセに、魔人の話だとボロが出るみたいに不自然さが際立っている。


「どうしてそんな風に思ってるのに、俺達が仲がいいだの言っていられるんだ。普通は危惧する」

「あー。なるほど。つまりこれは、次は僕の番ってことかな」

「隠し立てするといいことないぞ」



 ジェラルドが始めて難しそうな顔をした。何を語り出すのかと思えば、最初に出てきた言葉は念押しだった。



「この話は他言無用にして欲しい」

「初めからそのつもりだ。それに魔人と仲良い奴に何を心配してるんだ」

「それもそうか。――実は子供の頃、何も知らずに魔族を助けようとしてね。それを父に見られたんだ。


本来、魔族を助けるなんてご法度だし、裏切り行為だ。でも、助けようとした魔人が悪者を演じてくれてね……。そのお陰で僕は事無き得たけれど、その魔人は捕まって、【魔壺の谷】に落とされた」

「魔人が助けた? 何かの間違いじゃあなくて?」

「随分と前のことだけど、嘘じゃあない。十年も前の話だけど」

「十年前っていくつだよ」

「確か、五つだったかな」

「……え、いま十五なの?」


 てっきり同い年くらいを想像してた。俺の三つ下とは思わなかった。全然そんな風に見えない。威厳も威風もあるし、部下からも信頼されている。

 そんなことを考えていたら、人間の出来の違いを思い知らされた。どう張り合っても勝ち目はなさそうだ。考えるのはよそう。


「あー。まあなんだ。そりゃあ小さい子供相手に手をつけるのが嫌だったんだろう」

「どうして?」

「どうしてっていわれても、魔人だって人だ。子供は殺したくない。当たり前だろ?」

「……それは、確かに当たり前かもしれない。けれど、じゃあ人間と魔人の差ってそもそもなんなんだ?」

「ジェラルド?」


 なにか、急に熱っぽくなってきたと思うと、急に奴は口から吐き出すように言葉を並べ始めた。


「子供を殺したくないというのは、人間の良識だ。魔族にもそれがある。あったんだよ。


彼は確かに、僕に走れと伝えてくれた。それで自分がどうなるのかも良く理解していた。彼は子供を――僕を救ってくれたんだ。


でも人間には子供を助けた魔人を許すことはなかった。魔族を見れば悪と決め、抹殺するのが最優とされ、実行できれば人々から英雄と称えられる。


 僕には、それが良いとは思えない。あれではただの暴力だ。でもそれが常識なんだよ。敵を倒す為なら、それが例え魔族の子供であっても、人間はその手を止めることはない。


 どちらが正しい? 力無き者を踏み潰す者か。己の命の危機さえ顧みず子を救う者か。勝ったほうが正義とか、負けたほうが悪か。そんな話じゃあないんだ。


 理解が出来ないんだ。


僕を助けてくれた人が不幸になって、その人を貶めた父が英雄と称えられるのが……納得できないんだ!


 僕は間違ってるか? 教えてくれ、キミなら知ってるんじゃあないのか? 魔族のナフカちゃんと仲の良いキミなら!


 この世界の常識に囚われていないキミなら‼」



 思ったよりも深刻な悩みだった。子供の頃のトラウマの所為で、よくわからなくなってるんだろう。アタッチメント障害と似てる気がする。


 俺も昔そうだと言われた事があるから詳しく聞かされた事がある。あんまり覚えてないけど……。


 ジェラルドの状態を察すると、自分は人間なのに魔族に助けられて、人間は魔族を助けずに間違った行いをした。でも自分は人間で、魔族の敵という常識がある。

 真面目な性格が災いしたのか、どこかで善と悪の繋がりが狂ったまま、過去の記憶を処理できないでいる――と、こういう解釈だろうでいいだろう。


 じゃあ恐ろしく簡単だ。正しいと思える魔人の味方をすれば良い――と、俺が言えば、ジェラルドは簡単に納得して俺達に手を貸してくれるだろうな。



 それって、なんだか卑怯な気がする。精神支配(マインドコントロール)をする詐欺師みたいで、ゲスっぽい。そういうのは嫌いだ。

 だいたい今の話はジェラルドから聞いただけで、その事件の全容を俺は知らない。事情の知らない人間が何を説得しても間違いだと思う。


 それに親が子の心配をするのは当然有り得る話だ。ジェラルドの主観が強すぎて、親の気持ちが全くわからない。



 他人の俺が口を挟むべきじゃない事は明白だ。だが今のジェラルドは異世界の人間で、魔族と寄り良くしている俺の答えを求めている。


 どう言葉を返せばいい。どう言っても間違いだと思える。こういう時、あのジャック爺さんなら緑色の小さな賢人みたく、優しい言葉で導くんだろう。

 ああ、その通りだ。そうするか。



「……他人の言葉を借りるけど、自分で答えを得るしかないんじゃないか?」

「え? そ、そんな。魔人の味方をしている君だから、いや、異世界からきたキミの答えならきっと正当なものだと――」

「それじゃあ俺のいう事を鵜呑みにするだけだ。それはジェラルドの正解じゃない。他人の考えだ」



 そもそも俺は人間も魔族も、現実の世界で言うところの人種の差みたいなものだと思ってる。それをジェラルドに押し付けるのは簡単だが、それが正しいとは限らない。


 だって、ジェラルドの世界では人間と魔族は絶対の敵だ。相容れないなら、争い続ける事が正解かもしれない。魔族がナクアみたいに人畜無害とは限らない。もっと凶暴で人間以上に恐ろしい奴がいるかもしれない。俺が魔人は良い奴等だと言ってそれが全員とも限らないし、もしそうだったら俺は嘘をついたことになる。


 俺だってこの世界の魔族全員を知ってる訳じゃあない。だって適当に書いて投げ出した話だから。


 自分で答えを得ろ。なんて、人に説教できる身分じゃないのはわかってるけど。

 そもそも俺自身、わかってないことが多すぎる。大人ぶって背伸びしてるだけだ。



「ま、人の言葉を借りてる時点で、俺も猿真似だけどさ。ジェラルドは、自分で答えを得られるさ。俺よりもずっと立派なんだから」


 それにしても、大分話が長くなってしまったな。もういい加減お開きにすべきなのではなかろうか。もう夜も半分終わってる気がする。


 しかし今の返答ではジェラルドも納得がいかないだろう。


 そう思っていたが、ジェラルドは憑き物が落ちたみたいな顔をしていた。


「本当は、そうじゃないかとは思ってたんだ。キミが言ってくれたから、ちょっと自信が持てたよ」


 そう言って、奴はいつもの天然顔になった。ただ、俺には今の言葉がジェラルドのやせ我慢に聞こえた。考え過ぎかもしれないが。


「それにしても、キミはまるで、賢人の神祖『ハーレイ』みたいだ」

「誰だ、そのバイクみたいな名前の奴。しかも神かよ」

「別名を隠者とも呼ばれる思慮深い神祖さ。右手に聖なる杖を、左手に暗き夜を照らすカンテラを持って、迷い人に正しい道を指し示す。カンテラは持ってないけど、今のキミはハーレイ様みたいだ」

「…………へえー」


 なんだか、聞いただけで凄い既視感を覚える。いや、俺の出会った爺さんはジャックという名前だ。あれはただの旅する老人だ。たぶん……。

 もしくはハーレイという神の熱い信仰者なだけかもしれないし。きっとそうだ。コスプレというか真似とか、人気のある神様なら可能性あると思う。いや、それを考えたらかなり罰当たりだな。それに俺の出会ったジャックは馬を引いてたし、神さまっぽくない。


 あと俺の事を魔に連なる者と言って同輩とも言っていたし――ちょっと待て、よくよく思い出したらあの爺さん、自分が魔人なんて一言も言っていない。



 考えることが多すぎる。いい加減、脳みそが疲れてきた。




「もういいだろ。十分話したし、もう遅い。部屋に戻ろう」


 ジェラルドも了承し、兵舎には並んで帰った。なんだかんだで仲良くなってしまったな。


「今夜はジェラルドの事知れてよかったよ」

「こちらこそ、ガイアのお陰で気分が晴れた。それにキミは普通かもしれないけど、普通じゃないってわかって気に入ったよ」

「……矛盾してないか?」

「さあ? ハーレイ曰く、人は常に矛盾を抱えているって言葉を残してる」


 確かに、あの爺さんならよくわからない含蓄を言いそうだ。

 兵舎に到着して扉を開くとナクアが待っていた。ホラー苦手なくせにコイツの方がホラーみたいだ。


「……お前」

「どこ言ってたんですか?」

「あー、ちょっと内緒の相談」

「そうですか。とりあえず心配しました。何かいう事は?」

「寝てると思ってた。ちょっとくらいなら大丈夫かな、と」

「今度から大智を逃がさないようにくっ付いて寝ることにします」

「……お前、相当寝ぼけてるな」


 本名が出てるぞ。しかもジェラルドに聞かれてるし……いや、異世界の人間だってもう知ってるから、聞かれても平気か。

 そもそも大智って名前が女名とは思ってないだろうし。


「ナフカちゃん、大丈夫?」

「フカー……」


 立ったままうつらうつらしている。これはマジかもしれない。変なことになる前に連れて行こう。


「あ、そうだ。最後にこれだけ聞きたいんだ」

「重要な話か?」

「いや、どうだろう。『ニール』って何のことかわかるかい? 昼間の盗賊が魔獣に対して口にしてたそうだ」

「……いや、知らないな。悪いな」




 部屋に戻ってナクアをベットに寝かせて、俺は床に座り込んだ。



(自分で答えを得るべき、か。ある意味、突き放しておいてよかった)



 早速、俺はジェラルドを裏切り始めた。そんなつもりはなかったけれど、結局は同じだ。


『ニール』とは、瓦礫の街で隔離された家で聞いた名前だ。


 それに、昼間の盗賊たち。最初は仮面をしてわからなかったが、俺が叩き割った相手。



 角が生えていた。――つまり魔血種だ。

 魔血種の住まう瓦礫の町【ミッドガルド】と距離は近い。どう考えても関係ないとは思えない。


 それに街にいた馬や馬車。

 魔血種たちの技術力がいかほどかは知らないが、たぶん、作ったり飼育したりするのは無理だ。もともと廃墟の街で、馬をどこから手に入れたんだと疑問もある。




「……どういうことだよ、ロビン」




 芽生えた不安が、疑惑となり、不信をも引き起こす。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ