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Dフェイブル ≪Don't dead dreams dive Fable≫  作者: 白黒源氏
【魔術師編】
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【魔術師編】6③


 ジェラルドの一声で、俺とナクアの緊張は解けた。ジェラルドはなんという事も無く、むしろ何の変化も感じていなかった。

 まさかコイツ、天然であんな最悪の空気を作り出していたとでも言うのか。なんて奴だ。



「あー。ナフカ、魔法陣消しとけ」

「はい、そうですね」


 ジェラルドは何の話だろう、などととぼけた顔をしている。なんというか、無駄な緊張の所為でいつも以上に疲れた。


「ジェラルド、ちょっといいか?」

「なんだい?」

「お前、怖いわ。普通のベクトルとは全然違うけど」

「それってどういう意味だい?」

「天然って恐ろしいって意味」

「すまない、意味を聞いてもわからなかったよ」


 もういいよ。まあ今回は取り越し苦労という事でよさそうだった。

 しかし、これから話す事を誰かがやってきそうな広間で続けるのはマズイ。特に、ナクアの魔族発言は大爆弾だ。本当に誰も居なくて良かった。



「誰にも話を聞かれない部屋に案内してくれ。じゃないと、こっちも安心できない」

「ここならお茶が淹れられるからと思ったんだけど、やっぱりいけなかったかな」

「ダメです、意外とこの人ポンコツです」


 ナクアの容赦ないツッコミに俺も全力で同意する。こいつのおかげでデッドパーティが開かれる寸前だったのに、本人は何にも気付いてない。


 無駄に勘がいいのも問題だ。色々と察しが良すぎて、全部お見通しだと思わされていた。



「まあ、長い話になるだろうから。人の居ないところで頼むよ」

「じゃあ公務室に行こうか。あっちはイスがある」

「公務室を選ぶ理由がイスの有無とは……」


 調子が狂う。あの緊張感からもう解放されるならば何でもいい気がしてくるが。


 疲れた足取りで別の部屋に移動すると、丸い木のイスを三つばかり用意して部屋の真ん中に置いた。ジェラルドは元からある部屋中央の机にでも座ればいいだろうに。


「どこから話すか」


 一応、明かすべき情報とそうでない物を決めておくか。

 明かすべき情報の方が多い気がするので伏せる方を先に考えた。



 俺が異世界から来たって情報はこの際重要じゃあないから内容から省くか。作者云々も同じく。それに次元の魔女の話もすると厄介だ。


 ミッドガルドを通ってきた事も一応黙っておこう。ロイン達のいる事は知られない方がいいだろう。それにジェラルドの事情とは関係がなさそうだし。


 ついでに俺の姿が魔道具による幻術って事も伏せておいた方がこちらのアドバンテージになる。まだ気が付かれていないから、おそらく俺の事をまだ人間だと思っているはずだし。



 死の神器【賢奴の赤旗】については、これは直接相手の知識力で采配をしよう。知名度もよくわかってないし。そもそもこの手の道具は存在がばれると厄介な事件が起きるのが目に見えて想像できる。俺もこれを奪われたりすると不死者への対抗手段が無くなってしまう。ジェラルドがそれをするとは思えないが、人の口に戸は建てられないというし。


 やはりなるべくだが、この件も伏せておこう。



「俺達が【封魔の森】にいたのは間違いない」

「そうか。では、村人を殺したのはキミか?」


 そんな言い方をされると、肯定しそうになる。が、俺の気を察していたのかナクアが先に答えた。


「ガイアは不死者を眠らせただけです。私が見たときには村中が不死者だらけでした」

「先に何か来ていたのか?」

「それは、確か……なんでしたっけ?」


 ナクアは直接見てないし、覚えてないからしょうがない。代わりに会話を引き継いだ。


「記憶を喰う象……みたいなバケモノがいたんだ。俺も直接は見てないけど、十中八九そいつがやった。封魔の森にいったんなら、遺跡があっただろう? 中に入らなかったか? 最奥に神殿みたいなところがあって、そこにそのバケモノの遺体が残ってるハズだ」

「遺跡……というと、覚えはある。けど、入口が塞がっていて中は調べられなかった」


 塞がっていた? 扉でもあっただろうか。いや、開けっ放しだった気がする。

 まあよくわからないけど気にしてもしょうがない。


「そうか。まあ確認できなかったんならしょうがない」


 信用してもらえるかどうかはわからないが、まあ水掛け論になった場合は諦めよう。


「そういえば任務の内容にあった未確認の『魔物』と言ってましたね。どういった意味で捉えればいいのでしょうか?」


 ナクアが気になる事を言った。確かに『魔物』じゃあ、魔族なのか魔獣なのかよくわからないな。


「僕もその辺はよくわかってない。監視塔の誰かが見たって情報があってね」

「監視塔?」


 話の流れだけだとパッとイメージがつかめないな。ちょっとだけ灯台みたいなのを想像したんだが、そんなのじゃあ遠くの物を見ることなんてできないだろう。


「星見台みたいなものです。星を見て世界の異変を察知するのが監視塔の役割です」

「お星様見てたら世界がわかるのか。○斗の拳かよ」


 なんだか頭の中で、ハゲで白い髭の関羽(三国志)みたいな筋肉爺が「未知の魔物を発見しました」というチグハグな映像をイメージしてしまった。


「あまり真剣に聞いていませんね」

「流れ星一つ見たら、また一人の強者が死んだかって察知する事が出来るんだろ?」

「理解がえらく限定的です……」


「もういいです」と呆れられてしまった。真面目な話だったのか。気がつかなかった。


「話は戻るけど、『魔物』ってカテゴリーがナフカの事かどうかはわからなかったんだな」

「それを調べるのが任務だったからね。でも話を聞くと、どうもキミのいう象の化物がそれかもしれないと思えたよ」



 それにしても情報が定まらないな。監視塔の奴が何を見たのかは本人しか特定できないし。もしかしたら見たのは俺のほうかもしれない。現代の世界が如何に便利な世の中か思い知らされているようだ。テレビで見せて欲しい。


「ところでその象の化物、死体になったと言っていたが、倒したのかい?」

「そうだな。一応、死んだとは思うよ。粉々になってたし」


 こうなると次の話の展開が容易に想像できる。ジェラルドはきっとこう考えている。どうやって倒したんだ、と。その方法と力がどんなものか。

 そうなると、死の神器の話題になるだろうな。どうなるかわからないが、先手を打つか。



「ジェラルドは天聖術以外で、不死者や魔獣を倒せる方法を知らないって言ってたが、本当に知らないのか?」

「――というと?」

「もう気が付いているんじゃないのか?」


 ハッタリの逆バージョンだ。お前なら知ってるだろうっていう奴だ。まあ、これでわからない、または他の回答を出せばそれに乗っかるまでだ。


「……嘘か本当かわからない話だけど、思い当たる事はある。……まさか――」


 あ、ダメだ。正解言われるパターンだ。



「――ガイアは異世界人なのか?」

「そっちかよ!?」



 吉本みたいなリアクションしてしまった。ニアミスというかなんというか。



「違うのかい?」

「いや、当たってるけど……あー、どうしてそういう発想に行き着いたんだ?」


「もっとも新しい英雄、『破刃の英雄:リューヤ』が同じ様な力を持っていたらしいんだ。どんな不死身の様な魔族でも、たったの一撃で終わらせる必殺の力だったと。彼は異世界から来た異邦人だと有名だし、もしかしたらと思ったんだ」


 聞いてみるとなるほどだった。その必殺の能力は隆也さん個人の能力ではなく、死の神器【破滅の戦斧】の能力だ。


 対象の肉体を悉く破壊し、魂までも打ち砕く。必殺どころか来世さえ終了させられる対不死身武器筆頭の【死の神器】。


 武器の力ではなく、異世界人の能力として備わっていると伝わっているのか。

 手持ちのカードで異世界人という情報が漏れたが、まあ死の神器の方が重要性は高い。知られる中身がこっちで良かったと思おう。



「しかし驚いたな。異世界の人は、皆そんな強力な力を持ってるのか」



 そんなことないんだが、もういいか。言っても訂正するのが面倒だし。それにジェラルドの奴、抑えているのかもしれないが、目が輝いてる。


 この目を俺は知ってるぞ。好きなアニメや漫画の続編が出ると聞いた時の俺と同じだ。

 まあ、俺の娯楽と違ってジェラルドは憧憬みたいなモノだろうけど。



「で、異世界人のガイアが、どうしてこっちに? やっぱり、この世界を救済しにきたのか?」

「違う」


 違う。そんな、前向きな話じゃあない。

 人に恨まれて、連れてこられて、落とされただけだ。帰れないだけだ。


 俺の知ってる物語の主人公みたいに、格好良く颯爽と現れて、ピンチを潜り抜けて、知恵と力で勝利するような……そんな、憧れを持たれる様な話じゃあない。


 そう、ハッキリ言えばいいのに。

 俺はクズ野郎なんだって、恨まれて当然の様な事をしてきた奴なんだって。言い出すのが嫌だった。ジェラルドに明かすのを、喉の奥で止めてしまった。



(……なにをムキになってるんだ。相手の夢を壊すような事をするんじゃない。そんな資格、俺にないだろ)



 一度冷静になってみて、もう一度考え直した。

 どう答えるべきかを。俺にとっても、ジェラルドにも、まだマシな落とし方を。



「悪いな。こっちに来たのは偶然だ。よくわからないまま、たまたまいろんな事に巻き込まれただけなんだ」

「そっか。いや、でもすごいよ。キミは巻き込まれただけなのに、魔物と戦って、誰も知らずに世の平和を守ってたなんて」

「それ以上言うな。褒めると俺、鼻の方が伸びるタイプなんだ」

「謙遜はやめてくれ。実際僕らも助けられた。キミが助けてくれなかったら仲間が皆、やられていたかもしれない」

「……頼むから、もうやめてくれ――」


 我慢できずに立ち上がった。まだ我慢しはじめて二、三、言葉を交わしただけなのに、限界だった。

 聞きたくなかったし、これ以上は苛々して、関係が悪くなってしまいそうだった。

 立ち上がって扉に一直線に向かった。


「ちょっと疲れた。悪いけど、部屋で休ませてくれ」

「すまない。気が付かなかったよ。夕食はどうするんだい? よかったら一緒に」

「……気が向いたらな」



 逃げ出すように扉を閉めた。ダメだな。全然自制が出来てない。すぐに階段に向かおうとすると、ナクアが部屋から出てきて追ってきた。

 そのまま黙って後ろを付いてきてくれた。何でもないことなのに、何も言わずについて来てくれるというのがこれほどまでにありがたいとは思わなかった。


「……ゴメン。失敗した」

「なにがですか?」

「……何でもない」


 わかっていた事だが、布団で横になっても、眠る事は出来なかった。



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