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Dフェイブル ≪Don't dead dreams dive Fable≫  作者: 白黒源氏
【魔術師編】
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【魔術師編】5③

「……なんとまあ、街の井戸にいた毒の不死者とは偉く違うな」


「たぶん魔素が暴走状態になったまま不死者になったんだと思います。魔素が勝手に肉体改造をして肥大化させているんでしょう。おそらくは骨を自在に操る類です」


「あの指揮官でも倒せるか?」


「……見た感じ、ダメージはあります。でも修復速度の方が速いですね。先の奥義は凄いですが、結果はご覧の通りです。後方で準備していた大技で的確に急所を当てれば倒せるかと。でも――」


「既に術が発動できない。どころか、まだ盗賊に襲われている事に奴等は気付いてない」



 おいおい、なんてザマだ。このままじゃあ千日手をした挙句に仲間がみんな死んでしまうぞ。

 しかもこの世界の嫌な所は、仲間が死ねば死ぬほど敵が増える点だ。それは天聖術士といえども変わりないらしい。


 状況が刻一刻と悪くなっていく。しかも一度ごとに悪化する度合いが大きくなっていく。



「……はやく気が付けよ、指揮官。お前このままじゃあ単なるピエロになるぞ」

「距離もあります。気が付くのはいつになるのか。それにあの魔人の不死者、動きが先ほどと違ってスムーズになって変則的です」


 言われてみれば確かに、動きが速くて縦横無尽に飛んだりステップを変えたり、フェイントを入れる様になってきていた。

 アレを捕らえるのは難しい。



「……おい、おいおいおい、丘の上の連中も何してんだよ。いまさら発動できない術を維持しようとして何になるんだよ」


 誰か気付けよ。お前らの後ろに別の敵がいるってことに。

 見ていると胸がモヤモヤしてくる。



 見過ごし、見殺し、見てるだけ。



(いいのか。いいのかよ。本当にそれでいいのか)



 なんだ。どうしてそんな事を一々考える。アレは敵対者となりえる連中だ。助ける義理もないし、手助けを求められたわけじゃあない。



「大智、もう一度聞きます」

「なんだ」

「どうしますか?」

「……なんで聞き直すんだよ」

「自分でも気が付きませんか?」

「……何の事だよ」


「では聞き方を変えます。どうしたいですか?」


 どうしたい、だって?


「今の大智、かなり変な顔ですよ。もどかしさが伝わってくるようです」

「……行ってもいいのかよ。アレは魔人の……お前の敵だぞ」


 聖騎士と天聖術士は不死者を狩る者だ。だが同時に魔血種や魔族も殺す。

 それを助けるというのは、魔族のナクアに対する裏切りに他ならない。ロイン達だって奴等はいつか手にかけるかもしれない。



「私は、大智のしたい様にすればいいと思います。それにああいう下賎な輩って、私も嫌いです」



 嫌い、気にくわない、なるほど。確かにその通りだ。


 どうしたい、か。決まってる――




「……悪い、ナクア。ちょっと行ってくる」

「私も一緒に行きます」

「流石に魔人だってばれないか?」

「触手を使わなければ私って人間に見えますよ。ほら、角も無いですし」

「……とりあえずフードを深く被ってろ」




――後悔したくない。それだけだ。




 姿を変える魔道具【フェイクスタイル】を装備して、穴倉から飛び出して雨の降る戦場に駆け出した。


 杖を右手に、左手に【賢奴の赤旗】を巻いて、全力疾走しながら叫んだ。


「丘のお前等! 盗賊が隠れてるぞ! 発見しろ!」

「え?」


 連中、度肝を抜かれたように驚いている。遠くの指揮官も俺の声に気が付いたのか、視線が交差した。


「なッ! 本当に居やがった!」

「チィ、なんだって邪魔が!」


 草陰から現れたのは仮面をつけた男だった。しかもさっき見かけた奴じゃない。たぶん各所に何人も隠れている。


「不死者になった二人は俺達に任せろ!」

「わかった!」


 術士の一人は聞き分けがいい。

 命令されるのに慣れているのか。


 それはさておき、目の前で隠れていた盗賊の一人が飛び掛ってきた。


「てめえこのクソ女!!」

「誰の事言ってんだ!?」


 あ、俺のことか。

 大振りのナイフを突きたてようとしてきたが、面倒なのでそのまま体当たりした。肩に刺さるナイフが弾かれて男が驚いていた。チャンスとばかりに頭突きして、仮面に叩き込んでやった。


「チイ、くそったれ」


 男は割れた仮面を押さえて、逃げ出した。素顔を見られたくなかったのか。だが――

 いや、それは今どうでもいいことか。先に不死者の処理が先だ。



 元聖騎士の不死者が仲間に襲い掛かろうとしている。どうやら仲間だった奴に天聖術を使うのを戸惑っている。

 まあ、無理もない話か。


「おい! 腰の剣は飾りか!? 無理なら不死者じゃなくて盗賊を相手にしてくれ!」

「あ、ありがとうございます!」


 いつも通り、【賢奴の赤旗】を巻いた手で軽く触れて不死者を沈静化させた。すると助けた女性の術士がすごく驚いていた。


「今の、て、天聖技ですか!? まったく挙動がわからなかったなんて……」


 すごい褒められている気がする。まるで自分が強くなったような感覚だ。コレはあれだ。天狗になってしまう前触れの予感がするぞ。

 そんな事になったら、また自分がクズ野朗になってしまう気がするので自分に聞かせた。思い出せ。【賢奴の赤旗】は俺の力じゃあない。俺はすごくなんかない。邪念を捨てろ。



「いいから盗賊相手に戦え! おまえココに見物しにきた客か!?」

「は、はい!! い、いいえ! 違います」


 あれ、きっとド新人って奴だ。俺にはわかるぞ。だってすごい雰囲気があるもの。


「ガイア、調子に乗ってますね」

「ごめん、気をつける」

「図に乗ってる方の意味じゃないですよ」

「紛らわしい。次行くぞ」



 どうでもいい事だが、次の不死者に突撃しながら脳内では別のことを考えていた。

 ガイア、と呼ばれた事だ。偽名の時にガイアと呼ばれるのはもう固定らしい。改名するタイミングを失ってしまった。もうどうでもよくなりそう。



「ナフカっていいよな。普通の名前で」

「はい?」


 そんなつまらない事を気にしながらもう一人の不死者も片付いていた。



「さて、不死者は終わったけど」


 残りは大型の魔血種の不死者、それと盗賊が複数名……今立ち上がって戦ってる連中は二人か。しかし伏兵としてまだ隠れている奴がいるかもしれない。

 丘の上に残っている聖騎士共が三人。全員馬から下りて応戦している。確かに草の陰に隠れた奴を探すにはいいけれど、全員の顔色が良くない。


 指揮官はまだ奴と応戦している。それとも、こちらに気を使って呼び込まないようにしているのか。


 何かに気が付いたのか、ナクアが服の袖を掴んで話しかけてきた。


「私思ったんですけど」

「なんだ?」

「触手と魔法を禁止されると何も出来ません」

「もうお前帰れ」



 とりあえず陣形を取っている聖騎士の連中に声を掛けにいく。一応、応戦するつもりで、だ。

 三人の中で真ん中を担当している男から声が掛かった。


「助太刀、感謝します」

「あー、お前さんがこっちのリーダー?」

「副指揮官のフラガと申します。麗しい君」

「……は?」

「いえ、なんでもありません」


 いや、うん。まあ、そういう魔道具を利用してるのだからしょうがないんだけどさ。緊張感壊れるから、フラガさんもそういう事を言うのは止めて欲しい。


「相手は恐らく、手馴れた連中です」

「理由は?」

「この街道付近で最近、行商人や巡視隊が襲われていたので、その連中かと」

「……もうそれ、ただの盗賊じゃないだろ」


 そうなってくると厄介だ。


 何が問題かというと、俺の実力の問題だ。

 自分でもわかってる。今まで相手にしてきたのは殆どが不死者だ。奴等は全員遅いから対応できただけで、他の経験はほぼない。


 そもそも統率のある敵と戦った事がない。武道なんて学校の柔道剣道くらいしかわからない。人を殴るのだって経験がない。


 それに……いや、考えたくない。いや、いずれ考えるが、今は考える余裕はない。



 人を殺すなんて、考えたくない。



「……ジェラルド様がいるからと、我々も安心しきっていました」

「ジェラルドって、一人でバケモノと戦ってる奴か?」

「はい。彼は【アルト】最強――いえ【ノースケット】に置いて最も優れた騎士です」

「へえ。最強か。……それって対人戦でも?」

「もちろんです」


「じゃあ選手交替した方がよさそうだな。十秒で終わらせてくる」


「はい?」


 騎士団の連中を置いて、モンスターハントを繰り広げているジェラルドの方へ向かって走った。

 ジェラルド指揮官は現在も死闘を繰り広げている。あんな巨大な敵に、一方的に攻撃を浴びせ続けていた。


 でも決定打不足なのは見て明らかだった。ジェラルドには一打であの巨体を葬る術がない。


「選手交替だ、代われ!!」


 ジェラルドが俺の存在にやっと気が付くと、いきなりなんだと表情を曇らせた。それも通り過ぎて真っ直ぐに魔血種の不死者目指して走り抜けた。


「無茶だ!?」

「いいから、あなたはお仲間の助けにいってください」

「?? なんだ、キミは? 赤い目に白い髪?」

「……。……ちょっと通りすがりの何某です。いいから早く」

「――わかった。ではまた後で」



 ジェラルドとナクアが何か揉めていたが俺には耳にも入らなかった。目の前の動く恐竜の骨に集中していた。


 こういう時、お決まりなのが鎧生物の特徴と弱点だ。巨骨の鎧に触れても攻撃が通じないとか。死の神器【賢奴の赤旗】もその例外ではないのかもしれない。

 なら肉体の部分に当てるしかない。それは絶対に生き物になら存在する場所、口だ。



 相手はそんな俺の思惑など知ったことかと言わんばかりに強靭な爪を立てた右前足を刺してきた。


 避けるにしては近すぎた。避け切れないと割り切って【賢奴の赤旗】を巻いた左で受け流す覚悟を決めた。


(でもやっぱり怖い!!)


 覚悟を決めたハズの身体が、思うように動かなかった。


 ……哀れだ。笑えよ。誰でもいいから笑ってくれ。

 本当は奴の腕の上を転がるようにして受け流すイメージをしていたが、臆して硬直してしまった。


 中途半端な動作のまま、奴の右と俺の左手がぶつかった。ぶん殴られて吹っ飛ぶんだろうな……と考えていたが、突然音叉の共鳴に似た音が聞こえた。



 すると何故か相手の右腕が――あの鎧みたいな骨の巨腕が、枝でも折れたようにして千切れていた。



(なんか、赤子地蔵のときもこんな感じだったか?)



 殴ると砕け、殴られると相手が折れる。【賢奴の赤旗】……強すぎるんじゃないか?


「いや、チャンスだ!!」


 何を呆けているんだ。右腕か使えないうちに奴の顔面前に潜りこみ、何も考えずに左アッパーカットを打ち込んだ。

 肉の薄い首と顎の間に入った一撃が、下あごを綺麗に砕いて口の中が丸見えになった。


 仰け反った巨大な身体は見るからに無防備だ。今度は開いた口に向けて、斜め下から体を捻じった動きで左拳を突っ込んだ。振りぬきのブローとアッパーの中間の様なパンチ、スマッシュだ。


【賢奴の赤旗】が奴の口の中に入り、どころか拳が肉を突き破り、前進する身体が止まることなく奴の頭蓋を砕いて貫通した。


 鮮血どころか肉片を撒き散らしながら、絶命した。



 いくらなんでもやり過ぎだよ。



 自分でやっておいてなんだが、あんまりだよ。


 腕を引き抜くと、ぬっちゃりと擬音語がリアルに聞こえてきて、血と唾液みたいな黄色い液体が腕に巻いていた【賢奴の赤旗】を汚していた。


 こういうの、アドレナリン効果とかいうんだろうか。通常の意識や思考が活性化される奴。


 終わってから細かいことを気にしだした。



 後方で待っていたナクアが近寄ってくるが、腕を見るや否や、後ろに下がって鼻をつまんで嫌そうな顔をした。


「う、汚いです。近寄らないでください」

「そういう事言うなよ……」



 雨のお陰で落ちていくのが救いだった。服は無事だが、【賢奴の赤旗】はどこかで洗濯したい。



「とりあえずこれで終わったな」

「そうですね。ですがマズイことになりました」

「なんだ。おしっこでも漏れたか?」

「魔族だとバレました」



 さらっと大問題を暴露された。

 冗談を吐いてる場合じゃあなくなった。




◇ ◇ ◇




「くっそ、ニールがやられた」

「なんだ、あの女! 人間じゃあねえ!」


 盗賊達は魔獣の様な不死者が倒されると、撤退していった。いさぎよいとは思うが、少しだけ違和感を覚えた。


「ジェラルド様、申し訳ありません。不覚を取りました」

「負傷者は?」

「……バッシュとレティが、亡くなりました」

「そうか。不死者は?」

「あの二人組が浄化しました。しかし、あの、何故か遺体が残ってます」


 部下達の常識では、不死者を倒せるのは天聖の術技だけだった。だが術技を受けた不死者は死体が消え、浄化するものだ。

 新米か下手な術士だと体が残り、再び不死者が動き出す。


 だが、彼等は傷一つ与えることなく、不死者を鎮静化させてしまった。難しい事など一つも無かったように。


 しかもあの赤い礼服を着た女性。あの再生する魔獣をただの拳だけでねじ伏せたように見えた。信じられない。

 それにローブを被った女の子。白い髪に白い肌。赤く煌々と光る眼。それを隠そうとしていたようだ。



「……隊長、あの二人、どうしますか?」

「さてね。とりあえず話だけでもしてみよう。我々は助けてもらった側だ。礼は言っておこう」



 気になるのは二人の身の内だけではない。

 死体を消さずに不死者を殺す。その手段も気になる。まるで二日前に【封魔の森】でみた死体そのものだ。


 石の下に土で埋めてあったが、そこには死体が幾人も、おそらく村の民すべてをその地に眠らせていたのだろう。


 何かのまじないか、しかし皆、安らかに眠る様に身を組んでいた。




「彼女等にココで助けられたのも、ただの偶然じゃあないかもしれない」


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