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Dフェイブル ≪Don't dead dreams dive Fable≫  作者: 白黒源氏
【魔術師編】
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【魔術師編】5②


 瓦礫の街【ミッドガルド】から出た次の日。


 どんよりと暗い雲が流れてきていた。

 夜中はそうでもなかったが、朝方から天気が悪くなってきた。

 まだ湿気た風が流れているだけだが、そのうち雨が降りだしそうだ。


「ナクア、飯食ったら急いで雨宿りできそうな場所を探すぞ」

「ですね。せっかく本を読みながら歩けると思ったのに」


 ナクアもガッカリした様子で自分の道具入れ袋の奥に本をしまい込んだ。




 あたりをよく見ながら【アルト】に向かって歩いた。

 周囲には草と土と岩ばかり。遠くには森とも呼べない木々の集まり、奥には山岳の影。青空ならばキャンパスの風景画にもなっただろう。


 徐々にだが、灰色の雲の流れが速くなっている。こういう時の天気は本当にどうなるかわからなくなる。



 不死者に対して警戒も忘れてはいない。

 見逃さないように音にも注意して歩を進めていくと、小雨の音が先に始まった。


 このまま強くなるか、それとも小降りのままかは神のみぞ知る。



「うーん。いやらしい雨ですね」

「しょうがない。進路を外すのが嫌だったけど、あっちの木に拠っていくか」

「なんでしたら穴掘りますよ? その辺の丘の斜面」

「その手があったか!」



 明言通り、ウォールブレイクの魔法で横穴を掘った。クマでも冬眠しそうな穴倉だが、ちょっと広いのが気分的に良い。

 しかし火をくべる薪が無い。暗いが我慢するか。


「とりあえず見張ってるから、ナクアは休憩」

「ではよろしくお願いします」


 そんな感じで、俺たちは雨が上がるまでの間、待つ事にした。




 その間、雨は強くなったり弱くなったりを繰り返していた。滝の様な雨ではないが、それなりに強い。


 昼過ぎまでこの天気のままなら今日はいっその事、ここで一晩明かすのもいいだろう。ならば食事に何かしら狩りをしたい。


 食料も残り少ない。ナクアの状態が良いとは言え、飯抜きを続けるのは気が進まない。俺一人で少し探索してこようかと思っていた。



「――――――――ッ‼」



 怪獣の咆哮みたいなのが遠くから届いた。寝ていたナクアも流石に出口までやってきた。


「いまの、何ですか?」

「わからない。けど、普通の動物はあんなふうに叫ばないだろ」



 穴倉入口に伏せて、向こう側からは発見されないように周囲を確認すると、意外とそれは近かった。

 目算200メートル先。木々の群から這い出てきたのか。木が薙ぎ倒されて奴の通った道を明かしていた。


 体長は縦が二メートル、横は四メートル半と見た。全身が骨みたいで、見た目から恐竜を連想するバケモノだ。四足で体勢が低い。


 ちょっとだけモンスターをハントするゲームのティラノサウルスみたいな奴を思い出した。


「なんか、博物館の恐竜が動いてるみたいだな」

「ハクブツカン? キョウリュウ?」

「言ってもわかんないか。というか、アイツ角あるぞ。ああいう魔獣か?」

「さあ? わからないですね。たぶん魔獣かとは思いますが……」



 ナクアはどうにも歯切れが悪い。いつもの博識さが少し曇っている。珍種という奴なんだろうか。



「まあ、幸い遠いし、獲物は俺達じゃあなくて別の連中らしい」



 魔獣の目の前には馬に乗って隊列を作っていた六人。全員が白いローブを羽織っている。雨の中でもよく目立つ色だ。


 フードで全員、顔が隠れて確認できない。たぶん防水だろう、水を弾いている。羨ましい。

 装備がいいのはローブだけじゃなさそうだ。全員内側に鎧を着用しているだろうか、腕や足、胸と言ったところが膨らんでいる。腰に剣や短杖を持っているので、噂に聞く聖騎士団の連中だと思えた。



「まさかこんな所で聖騎士団の戦いが見れるなんて。良い暇つぶしになりそうだ」

「まったくですね。お手並み拝見と行きましょうか」


 天聖技。攻撃された事はあったが戦闘している状態で見ることは無かった。




 さて、俺とナクアは解説と実況のような具合で戦場を眺めている事にした。


「全員距離をとれ!」


 先頭に立っている男の声は大きい。


「あれが指揮官ですかね。随分と若い声ですが」

「武器は槍か。先端の形が斧と槍に見える。ハルバードって言う奴かな。装飾も綺麗だし、いいとこの貴族かね」

「もしくは相当の実力者かもしれませんね。――おっと、魔獣のほうが動きました」



 ただの突進だが、巨体が連中の陣形を縦に引き裂いた。


「動きは単調だ! 散開しろ! 全員、丘の上に陣取り、天聖術の準備を! 僕が引き止める!」


 指揮官の男にあせりは無く、また堂々としたもので全く動じていない。

 場慣れもしているし、何より自分が前に出るという事を徹底している。



「早死するタイプですね。嫌いではないですが」

「おい、それより指揮官の武器が光りだしてるぞ。天聖技を使うんじゃないか?」



 随分と敵との距離が開いている。馬に乗った状態で力を込めるような体勢をとった。馬ごと突進、なんて芸当でも見せてくれるのかと思ったら、突き出した槍から光の弾が一閃、魔獣に向かって飛んでいった。

 弾は魔獣に被弾したが、骨の表面が僅かにへこんだだけだった。



「……うーん。防御力が高いのか、指揮官の天聖技が弱かったのか。判断に困る結果だな」

「焦ってないところを見ると、肝は据わってますよ」

「おっと、今度は馬から下りた。白兵を仕掛けるのか?」

「気が強い人ですね。それに他の五人も全員丘の上に到着したようです」


 指揮官の馬は木々の中へ逃げていき、指揮官はローブを脱ぎ捨てハルバードを両手に構えた。


 ナクアの言ったとおり、若い男だ。だがなんというか、爽やかな男だった。例えるなら笑顔が素敵な海外ドラマのイケメン俳優だ。

 男でも奴を見たらカッコいいと思うし、女だって皆あんな奴に惚れてそうだと思えるほどだ。


 そんな奴がキッと目を尖らせてデカイモンスターに一人で応戦している。性格までイケメンかよと言いたい。いや、これ以上は僻みだな。



 指揮官の男は魔獣へ斬りかかった。実力も兼ね備えていて、動作の一挙一動が素早く、乱れがない。ハルバードの斧が簡単に魔獣の顔面を切り裂いた。

 魔獣の悲鳴が轟き、追い討ちを掛けるべく振りぬいたハルバードを、先端の槍で突き立てるように落とした。


 しかし脳天に落ちるはずだった突きの一撃は地面に突き刺さり、魔獣は後方に飛んだと思うと瞬時に前方に飛び掛った。


 コレに対して指揮官はどう出るか。



「奥義【天地陣】!!」



「げッ!?」

「ええ?」


 俺は吃驚、ナクアは困惑していた。

 突きたてたハルバードが一瞬だけ光ったと思うと、槍を中心に光の柱が立った。まさに天まで届く光の塔だ。

 物理的な衝撃があるのか、魔獣はそれを受けて吹き飛んだ。前左腕が吹き飛んだ上に半身部分にヒビが入っている。



「聖騎士団って連中は思った以上にバケモノなのか」

「さて、そろそろ五人が準備を終えた頃でしょう。決着ですね」



 丘をみると四人が各々杖を天に向けて光の渦みたいなのを空に作っていた。

 ……うん? 四人だったか?


「丘の連中、数が減ってる」

「……おかしいですね。一人、どこにもいません」


 俺達がおかしいと気がついた頃、丘の上連中もそれに気がついたようだ。


「ねえ! バッシュがいない!」

「どこいった、あのトロマ! このままじゃ【天撃】が撃てねえ!」


 現場が騒然としてきた。本人達にもわからないようだ。



「大智、アレを見てください!」

「……おいおい。どうなってんだ?」


 不死者が現れていた。しかも、ただの不死者じゃあない。白いローブを着ていた。ふらふらと立って他の連中に向かって歩いている。

 それに気がついた連中が慌てふためきだした。一体どうしてと思っているのだろう。俺だってそうだ。


 落ち着いて観察すると、連中の一人、背後の草陰に何かがいるのに気がついた。


 不自然に近づいていく草を掻き分ける動き。コッソリと背後から近づいている者の動きだ。


「……ナクア、気がついたか?」

「盗賊、ですか」

「連中もついてないな」




 異変に気がついていないのか、指揮官はまだ魔獣と応戦している。丘の上連中は一人も盗賊の影に気がついていない。


 何してるんだよ、早く気がつけよ、死ぬぞ。

 誰か一人でもいいから早く危険を察知しろ。


「どうするんですか?」


 どうする? どうするって、この状況で俺が何をするんだよ。


「……俺達が、介入する意味は――」


 その時、見つけた草陰の中から人が突然立ち上がり、聖騎士の一人を馬から引きずり落とし、首を取ってナイフで急所を刺し、再び草の陰に消えた。


「――ないだろ?」



 くちびるを噛んだ。

 なんだ。なんでこんな気持ちになる。さっきまで安心してみていられたのに、暢気に観覧していただけなのに。




 凄くもどかしい。




 指揮官もそうだ。丘の上にいる連中が安全な場所にいると思い込んでいるのか、全く気にもしていない。いや、魔獣との戦いに手が抜けないのか。



 指揮官側の戦闘を見ると、さらに妙なことになっていた。


 さきほど飛ばされた左前の腕が、何事も無かったように再生していた。

 どころか、さきに受けた傷が全快している。まったくの無傷に逆戻りしている。


 おかしい。不自然。魔獣って再生能力なんて持ってなかったはずだ。ナクアが狩っていた魔獣どもは食えば骨になるし、再生もしていない。

 腕の再生は巨体だから治りが早いとか、そんな次元じゃあない。


 なんだ、この違和感。この嫌な感じは――


「大智、あれは魔獣じゃないです!」


 ナクアが俺の疑問に答えを出した。




「アレは、魔人の不死者です!!」



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