【魔術師編】4②
元々が大都市として機能していた土地だ。広いのは当然だが、五十人ちょっとの数で住むには広すぎた。
それを加味しても、さっきの病院は人の集まっていた場所から大分離れた場所にあった。
「街の外れに彼らを匿っているのは、人目を気にしているから?」
「そうだ。やはり気にする連中はいるからな。魔素濃度が高いからいつ暴走するかわからないって、そう思う奴もいるのは確かだ」
なるほど、そういうリスクもあるのか。
全員がロインの様に彼等を気遣っているなんてありえない。そんなのは思い量って当然か。
感心させられてばかりで歩いていると、ナクアが服を引っ張った。今まで静かについてくるだけだったのだが、何かを発見したようだ。
「何かあったか?」
「こっちの方から声が聞こえませんか?」
声、と言われても、ここには普通に人が住んでいるのだ。人の声なら聞こえて当然だと思ったが、そういう意味ではなかった。
これは何度聞いても聞きなれない、奴等のうめき声だ。意識していないと聞こえない程のかすかな声だが何となく方角はわかる。
「あ、おい。そっちにはそれ以上行かないほうがいい」
気になってナクアの指した方角へと進もうとするとロインが警告した。
「この街には不死者が居るのか。まさか、不死者まで匿ってるのか?」
「そんな訳ないだろ。対処しようがないから閉じ込めてるんだ」
ロイン曰く、この街は既に聖騎士団とかいう不死者や魔血種を討伐する連中が来て、一度は不死者も掃討したらしい。が、どういうわけだか不死者が再びこの街に集まるという。
人間は見かねてこの街を投棄し、隣りの【アルト】へみんな移り住んだのだとか。それでロイン達が五年前から少しずつ瓦礫で進路を封鎖しつつ、不死者の群を一部地区に完全に閉じ込めたそうだ。
だからナクアが指した方角は、ロイン含め、誰も近寄らないように徹底しているらしかった。
「……不死者が集まる。それってこの街限定ってなのか? 理由とかわからないのか?」
「不死者が集まる場所の特徴は魔素の濃い場所とよく言われている。たぶんガルド陥落時に魔素の汚染で不死者が近寄りやすくなったんだろう」
理由はわかってるのか。そりゃあ不死者が寄り付きやすい場所になど、誰も住みたくはないだろう。
だけど、それはここに住む魔血種も同じ筈だ。でも不死者は天聖術じゃないと殺せないから駆除することもできない。
魔血種では不死者は倒せない。しかも不死者を倒せる聖騎士とやらは魔血種も敵対象だ。これは思った以上にロイン達は苦労してる。
流石に、これは可哀想だ。
「……なあ、ロイン。不死者って居なくなった方が安心するよな」
「なに言ってるんだ。居ないに越した事はないが、現実は無理だ。俺達魔血種は、天聖の加護がない。技も術も使えないんだ」
「わかった。じゃあ後は任せろ」
「は――?」
瓦礫が封鎖している場所へは、建物の屋上から侵入する事にした。
ただの不死者相手なら【封魔の森】や旅の道中でも相手してきた。今のところ、危機感を覚えるほどの奴とは相対してない。まあ【死の神器】である【賢奴の赤旗】のおかげなのだけれど。
あんまり自分の力だと過信するなと言われそうだが、こういう人の役に立つ行為であるなら許される様な気がした。
「手伝います」
ナクアが離れずに一緒に来ていた。
「お前、不死者が怖かったんじゃなかったのか?」
「怖いですよ。でも大智が守ってくれるんですよね?」
「……そういう恥ずかしい事を思い出させるな」
「じゃあ嘘だったんですか?」
「その舌引っこ抜いてやろうか」
「怖ッ!?」
建物の上から開けた場所を見下ろすと、不死者が数十人単位で蠢いていた。しかも奥を見れば、数えるのも面倒になるほどいる。
これを閉じ込めるのも苦労しただろうに。
杖に【賢奴の赤旗】を巻きつけ、振り回して状態確認。腕に巻くよりこっちの方が使いやすい。
「おい、お前ら! 不死者相手に戦うなんて馬鹿なことするな! 死にたいのか!」
遅れてロインがやって来た。本気で向こう側に行こうとは考えてなかったんだろう。しばらくすれば戻ってくるとか思ってたんだろうが、こっちは本気だった。
「ナク――じゃなくて、ナフカ、残ってろ」
「嫌です。まさか本気で守らないつもりですか?」
「そうじゃないけど、お前が来ても役に立たないと思うし」
「暇なんです」
「あっそ。じゃあ離れるなよ」
本当は安全な場所にでも居て欲しかったんだが、まあいいか。
階段を飛び降りる感覚で屋上から飛び降りた。
「そんじゃちょっと行ってくる」
「お前ら、人の話を聞けよ!!」
ロインの言葉を無視して、俺たちは戦場へと赴いた。
そういえば不死者の群に自分達から向かっていく。これは初めての行為だ。普段は不死者から襲ってくるのだが、今回は人助けのためだ。
とりあえず近づいてくる奴から順に【賢奴の赤旗】で命を絶っていく。棒に巻いているので先端を当てるだけで行動不能に出来る。あの老人から貰ったタダの棒だが、これは大変便利だ。攻撃可能距離が違う。
それにこの体。身体が黒金の鋼鉄みたいではなく、まさしく鋼鉄だった。不死者の顔面を殴ると簡単に頭蓋を砕く感触がした。気持ち悪いのでもう殴るのは止そうと思った。
それに、ナクアの働きは予想以上だった。触手を使って不死者の動きをある程度制御してくれる。同時に襲ってこないように牽制を入れているのだ。役に立たないなんてとんでもない誤解だった。
しかも触手で牽制している最中に、別の触手で地面に魔法陣を描いている。詠唱も口に出しつつ、風刃の魔法を発動させていた。
「我が命を聞け、剣の眷属、風よ、風よ、鋭く、鋭く、鋭く、早く、早く、一閃の如く駆け抜けよ【ウィンド・エッジ】!」
よくわかっていないのだが、呪文の単語が重ねられるとナクアの魔法は威力を増す。風、鋭い、早く、この三つがそれに関わっているようだ。
イノシシやら魔獣を調理する前によくやっていたからその辺だけわかる。
一度に前方全ての敵の胴体が一文字切りされた。しばらくすれば元に戻るだろうが、再び動き出す前にトドメを刺す。
「大智、もう包丁なんて入らないのでは? 私の魔法で十分じゃあないですか?」
「じゃあ今度、それでイノシシの皮を剥いでくれ。そしたらもう包丁はいらないよ」
「それ難易度高いです」
そうは言うけれど、ナクアならいつか出来てしまう気がする。なんといっても、魔人最強軍団の十三魔人将の一人だったのだ。
無駄話を挟みながら、特別な変化もなく、俺たちは黙々と不死者を黙らせて行った。
端から順に全て倒し、そしていよいよ不死者が一番集まる場所まで来た。
「……絶対にあれ、何かあるだろ」
「同感です」
不死者は魔素の高い場所に集まるなんて言ってたが、それが本当なら目の前の集まりがそうだろう。ここからでは小さな屋根が見えるだけでそれが何かはわからない。
ナクアの援護のお陰で全く手間取ることはなかったが、次から次へと不死者は押し寄せてきた。もはや封鎖地区全ての不死者がココに集まってきているといっても過言ではない。
そんな調子でいつ終わるのかとナクアが息を上げ始めた頃、やっと見える不死者を一掃し終えた。本当に数だけは多かった。
「ダメージ確認」
「無傷です」
「パーフェクトだ」
「当然です」
ナクアの体力もギリギリだったかもしれないが、終わってみれば気持ちのいい汗でも流した表情で勝利のハイタッチをした。今度から休ませながら戦わせてみよう。
「さっそく原因の元を確認してみようか」




