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Dフェイブル ≪Don't dead dreams dive Fable≫  作者: 白黒源氏
【魔術師編】
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【魔術師編】4①


 瓦礫の都を案内してもらうまで、何処に何があるのか全く理解できなかった。ただの干し草の小屋が少年たちの住む家だったり、宿屋の見た目で食料庫になっていたり。

 驚いたのは馬や荷馬車もあった事だ。どこで手に入れたのか、はたまた作ったのか。ちょっと傷が多いのはこんな土地だからだろう。


 これで野や山や森に出て、食糧を取りに行き、大量に確保してくるのだそうだ。そりゃあ街に居るからと言って交易がある場所ではない。全部自給自足だ。畑や牧畜に挑戦もしてきたらしいが、魔獣に荒されたりしてイマイチ上手くいかないらしい。ここでは狩をして獲物を取る者が重宝される様だ。


 子どもも多い。みんな角が生えている。一本だったり二本だったり。数の違いで何か変わるのかは知らないが、みんな元気そうに棒切れを振り回してた。


 今狩りに出ている者の人数まではわからないけど、およそ三十人も満たない数が瓦礫の街で生活していた。

 話を聞けばおよそ五十人が生活しているらしい。


五十人が使うにあまりにも広すぎる土地だ。全体で見れば一割も使われていない。だからこそ、気づかれないのかもしれない。



 それから一つ、気になる場所があった。


 閑散とした場所までくると、かなり状態のいい建物を発見した。扉の前の瓦礫が避けられているので何かに使っているのだろうと感じたが、ロインは素通りしようとした。


「ここは? ちょっと他とは雰囲気が違うな。結構見た目もマシだ、何に使ってるんだ?」

「気になるのか? まあ大した場所じゃあないよ」

「勿体ぶるなよ」

「……隠してる訳じゃあない。そんなに気になるのなら別に構わない。けど、あんまり気味悪がったりしないでくれよ」


 意味ありげな忠告を受けたが、入ってみるまでは理由がわからなかった。入った瞬間には理解したけれど。


 匂った。あんまり良い環境とは言えない。人の生活の臭いなのだけれど、その濃さが異常に強い。

 その理由は、寝たきりの人間が三人ほどいた。


 みんな、それぞれ魔血種特有の角がある。だが角の形が他とは違う。異様に捻じれてたり鹿の角の様に広がったりしている。

 目を包帯で覆って静かに佇んでいる子供は、羊の角の様に捻じれている。

 鹿の角の男は片角で、少し見た目がアンバランスだ。咳を何度もしていて少し苦しそうだし、腕や足の肢体がやけに細い。栄養不足にも思える。

 角が耳の後ろにある女性はルビー色の鱗が不規則に体から現れていた。レッドリザードマンみたいだが、顔や手はやはり人間のそれだ。



 様々な症状だったが、ロインの言っていた意味を正しく受け止めた。


「そっか、ここは病院か」


 病院と言っても、恐らく隔離病棟のような場所だ。

 ここにいる全員が、人に見られて良い状態ではかった。


 軽い気分で来るべき場所ではなかった。

 体を起こした人が俺達を見ている。その目は爬虫類独特の縦長い瞳孔だった。ロインが気を利かせて話し出した。


「皆、いきなりゴメン。今日は珍しくお客さんが来たんだ。ちょっと挨拶しに来た」


 ロインの語り掛けに、誰もが反応をしなかった。さすがに不安になった。

 俺からすれば、彼らは気が滅入っている。そんな感じに見えた。救いを感じられない空間に能天気な奴がきた。そう思えば嫌にもなるだろうさ。


「ロイン、この人たちは、治るのか?」

「……誰もが魔血種になって、平静を保っていられる訳じゃない。彼らみたいに、暴走状態が続く者も居る」


 ハッキリとは言わないけれど、治らないと言っている様なものだ。

 こういう雰囲気はダメだ。首を絞められてもないのにキュッと締まる感じがして、耐えられない。たぶん、相手も嫌な気分になっている事だろう。

 邪魔して悪かった、もう出ます。そう言って踵を返そうと思った。だが、片角の男が声を掛けてきた。


「どこ、行く。心配、無用。大丈夫。迷惑、違う」

「あの、お客様ですか? どんな方ですか?」

「赤い服で、黒い男。凄く、恐ろしい見た目をしている」


 片角の男は機械じみた口調で呼び止めた。

 目を隠していたのは女の子だったのか。好奇心のある声で、年頃相応だった。

 リザードマンの症状がある者は特徴的な低い女性の声で、俺の事を恐ろしいと言っていた。


「一応、皆いい人達だ。キミの事を迷惑なんて思ってないよ」

「そっか。なんか、勘違いしそうだった。みんなちょっと、怖い雰囲気してたから」

「お前が言うな」


 リザードマンの女性のただの合いの手から、彼らから笑い声が上がった。こんなので笑えるのか。こんな状態で笑えるのか。

 凄いな、こいつ等。


「あれ? ニールはどこへ行ったんだ?」


 ロインが訊くと、誰もが知らないと言っていた。


「またか」

「もう一人、誰かいたのか?」

「ああ、基本的に皆ここに居てもらってるけど、自由にして貰ってるからさ」



 この時、俺はロインの「またか」という言葉を、件の『ニール』一人に対して使った意味だと思っていた。だが、そうではなかった。

 俺がそれに気が付くのは、まだ先の事になる。





 別段、特に用事もなかったので、自己紹介をしただけでこの場を後にした。

 外に出ると、相変わらず廃墟の群が目に入る。

 こんな場所で、境遇で、他の人まで救う努力をしているなんて。改めてロインの凄味を感じた。

 マネなんて考えるのが浅はかだ。これはもう聖人の行いだ。ただの思いつきで出来る事じゃあない。


 自分達も満足にいかないのに、不自由な連中まで匿って、面倒を見て、彼らに安寧を与えている。同じ人間とは思えない。


「ロイン、お前はマザーテレサか」

「誰だよ?」




 後になって思う。たぶん俺はロインに対して対抗意識を持ってしまったんだと。

 色々とやってきた凄いロインに、なにも凄くない自分。


 だから、自分のできる事を、何かを、何でもいいからやりたかっただけなんだろう。


 己が小さい存在だと思うよ、本当。


 だから俺はまた失敗する。



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