【魔術師編】2①
中央交易都市といえば、いろんな建物が建っていて、真ん中にデカイお城でもあって、ギルドタワーみたいなのが何社もあり、市場は人が溢れかえって、酒場は夜中まで大騒ぎ。馬車がひっきりなしで往来していて、高官から下町育ちまで同じ城壁の中にいる。きっとこんな感じで、俺達みたいなのが紛れたって気にもしないくらいに人間がいる。侵入するまでが問題だ。さあてどうしようか?
……そういう妄想を膨らましていた。なのに、期待ハズレも度が過ぎると反応しづらい。
ここへ来るまでに違和感はあった。
例えば街道が無いこと。雑草だらけで道があったのかもよくわからなかった。数日間も歩いていたのに馬車の一つも見かけない。本当は荷馬車に紛れて街に入ろうとも考えていたのだ。少しは気にもする。
それが視界に入れればコレだ。
城塞はほぼ全壊、もはや守護機能は期待できず、人はやって来た俺達二人のみ。不死者が出てきてもおかしくない雰囲気だった。
建物の中身が腐っているのか、傾いたり崩れていたり、街自体がいつ倒壊してもおかしくない有様だ。
大きな建物の一つでもあるべきだろうと思ったが、すでに瓦礫の山しか残っていない。きっとその下にはまだ何十人と不死者が居る事だろう。砲撃か、大魔法か、そんなところか。デカイ建物はデカイ攻撃の的になるのがお決まりだろうけれど。ここまできて無駄骨だったのが精神的に辛い。
いや、ここまで来て廃墟しか残っていませんでしたと言われても、簡単に納得はできない。
「……あの、大智……やっぱり、街に入るのですか?」
「お前、相変わらずホラー系が苦手なのか」
人がいないのだから騒ぎにもならない。堂々と俺達が街に入っても大丈夫だ……て、そう言う問題じゃあないんだよ。俺は情報が欲しいのだ。
「せめて何か収穫があることを祈ろう」
「や、やっぱり入るんですね……。大智! 先にトイレ行きませんか!?」
「一人で行って来い。先に街の探索してくるから」
「イジワル!」
「わるかったよ、今ので余裕ないのがわかったからさっさと行ってこい」
「だからついてきて下さい!」
「……流石にそこまで面倒みたくない」
いまのところ予測できるのは、【ミッドガルド】が相当昔に都市として機能しなくなったという事か。
街道の様子だけでもそれはわかる。道が消える位年月が経っているからな。一年や二年どころではないだろう。
という事はこんな所に人も残っているはずもない。普通に危険だからだ。
街の中のダメージを見ると、ここが戦場になった事も予測が付く。街中に巨大な岩がゴロゴロと落ちている。投石器か、あるいは巨人みたいな魔族に岩石を投げられたか。それがそのままにしてあるという事はここを復興させるつもりも無いのだろう。人も、魔族も。
「……多少民家が無事なくらいか。飯屋とか宿屋とかないのか? 包丁が欲しい」
「大智、たくましいですね。呪われませんか?」
「だからなんでお前はそんなに怖がってるんだよ」
【ミッドガルド】に入ってからずっとこの調子だ。手を握ってくれと言い出したり、俺を盾にする状態で後ろに張り付いているし。
「幽霊とかって信じませんか?」
「幽霊なんかよりお前の方がよっぽど強いって。というか、お前単純に雰囲気に弱いだけだろ」
「こんな所でいきなり襲われたらどうしましょう!?」
「返り討ちにしてやれ」
「攻撃とか通じなかったら?」
「煽ってやれ」
「攻撃して来たら?」
「無視しろ」
「……絶対に無理です」
「心配するな。守ってやるから」
あ、ヤバい。今の一言、口にしてから恥しくなってきた。絶対に言いたくない台詞ランキング3位に入りそうな耳の痒い台詞だった。
気恥ずかしさで記憶から抹消したい。
「大智、今のセリフ、キメ顔でもう一度」
「幽霊出たら絶対に置いて逃げる」
「すみません、もう言いません」
その時、瓦礫の山から小石が転げ落ちてくる音がした。音の先には人影が居た。振り返った俺達に驚いたのか、物影に隠れようとしたところ――
「逃がしません!」
「は――?」
呆気に取られた俺を他所に、迷いなくナクアが触手を伸ばし、人影の足を掴んで引きずり落としてきた。人影は子どもの如く悲鳴をあげながら連れてこられ、ナクアが素早く口を塞ぎ、見事に簀巻状態になっていた。
「どうですか大智! 見事に第一村人、確保しましたよ!」
なんという事だろう。ナクアは自分の功績を健気にも褒めて欲しそうに目を輝かせている。
でも、そういうのはどうでもいい。
「……ごめん、俺間違ってた」
「なにがですか?」
「お前が怖いわ」
とりあえず乱暴するのはよろしくないので触手から解放させた。
するとどういう事だろうか。人影の姿をちゃんと確認すると、その姿はナクアよりも小さい。
灯りの魔道具【フレアラ】を近づけて確認すると、小柄な女の子だった。ただし、額に二本の角が生えている。
鬼、という奴なのだろうか。鬼族、とかいうのがこの世界にいるのか。鬼とは割とポピュラーになのかも知れない。
しかしおかしいな、普通こんな女の子を見たら幽霊かと思うはずなんだが。
「……お前、幽霊怖いんじゃなかったのか?」
「攻撃が通じるのなら別段」
「脳筋思考かよ」
「それに大智が守ってくれるんですよね? ね?」
「頼む、恥ずかしいからもう黙ってくれ」
ナクアの奴、いつから人をおちゃらかす様になったんだ。いや、割と元からそんな性格だったか。
「た、たしゅけてくだしゃい」
女の子が涙目で凄く怖そうにこちらを見ていらっしゃる。完全に怖がられている。
ナクアの所為だな。いや、俺の見た目もあるか。人の事を揶揄できないな。
「とりあえずどうします?」
「お前はどうするつもりで第一村人確保したんだよ」
「えーと、拷問?」
「ごうもん!?」
女の子が今にも大声で泣き出しそうだ。やめてくれ、泣き出したら手がつけられなくなる。
「冗談でもやめんか!」
「アイたッ! ひどい! なんて仕打ちですか!」
しまった。思わず手が出てしまった。いや、でも冷静に考えろ。
年端も行かない女の子を縛って脅す。普通に考えても制裁ものだ。
「いや、今のはお前が悪い! 相手は子供だぞ、そんなの許される訳ないだろ!」
「むう、大智ってちょろいのかと思えば芯は外さないんですね」
「お前は真面目な時とふざけてる時のブレが激しすぎる」
というかこんな所で永遠と漫才談義してたら終わらない。
ナクアは放っておいて女の子に向き直る。
「まあなんだ。いきなりビックリさせて悪かった。キミ、名前は?」
「ロ、ロゼッタ」
「ロゼッタは一人でココに住んでるのか?」
「ちがう。みんな、いっしょにいる」
「そっか。じゃあちょっと挨拶したいから、案内してくれないかな?」
ちょっと想像していた展開とは違っているけれど、ここには人の集まりがあるようだ。是非とも会って見たい。それにどうやら角の生えた女の子にも住めるという事は、魔族に対してもそれほど風当たりが強くないのだろう。
希望的観測だけれど、良好な関係が築けそうだ。
「そ、それだけ? みんな、食べたりしない?」
「……俺、そんな風に見える?」
「うん」「はい、見えます」
子供って正直だ。それからナクアには聞いてない。
とりあえず歩き出したロゼッタについていく事なった。




