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Dフェイブル ≪Don't dead dreams dive Fable≫  作者: 白黒源氏
【愚者編】
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【愚者編】後日談 忘れられた約束

 旅の一日目、まずは封魔の森を出る事を考える。その後は何処かの村や町で情報収集をしよう。と、二人で歩きながら計画を練った。


 順調なすべり出しかと思えたが、すぐに限界は訪れた。


「すみません。ちょっと、休憩しませんか?」


 ナクアが申し訳なさそうに声を出した。何かと思えば、ナクアは目は霞め、腹をおさえ、一目見てグロッキーな顔をしていた。


 考えてみれば一晩中墓穴を掘った後、さらに思い出せば極限状態の地下獄から脱出したばかりだ。疲れてないわけがない。自分がそういうのを感じないからうっかり忘れていた。



 そういえば旅といえばサバイバルは必須だ。食料、水、キャンプ。他にも考えなければいけない項目は多そうだが、何せ旅などした事がない身だ。

 今更だが村に戻って、ひとしきり支度を戴いておけばと思った。いや、戻る事も考えたがここは森の中だ。早速馬鹿な話なのだが俺達は道を覚えていない。とりあえず森を出る事しか考えていなかったからだ。人が聞けば遭難志願者なのかと言われてしまいそうだ。


 まあどうにでもなるだろう。


「わかった。じゃあ背負ってやるから休めるところを探しながら移動しよう」

「こども扱い、ではないのですよね?」

「……足掴んで引きずって連れて行った方が気にしないのならそうするけど」

「それは人として扱いを間違えてます」


 そんな感じで途中からナクアをおんぶして歩きだした。しばらくすると空腹の音が聞こえ、静かに眠る吐息が聞こえてきた。早急な休息が求められていた。


 こういうとき、普通はどんな場所を探すべきなのだろうと少し考える。綺麗な水辺があるといい。穴倉でもいいか。雨風を凌げる。だが、森の中にそんな場所があるだろうか。



 考えれば旅に必要な物は多いと感じる。食料もそうだが、その食料関連だけでも調理する鍋やナイフ、調味料も欲しくなる。それに食料を入れるバックも欲しい。水筒もなくてはならない。

 着替えだって必要ではなかろうか。俺はナクアの作ってくれた礼服でいいが、今のナクアは人前に出るにはいささか扇情的過ぎる。ほぼ裸といってもおかしくない。

 車が欲しい。自動車ではなくもちろん馬の方だ。馬車でも引いて移動しなければ速度も出ないし、俺が他人の疲れを認識できない弊害もある。

 薬もいるだろう。旅の道中で怪我や病気になったら目も当てられない。いや、魔族も病気になるのかどうかわからないが、一応考えておいた方がいいだろう。

 そういえばこの世界の通貨はどうなってるんだろうか。路銀とか考えておいた方が良いだろうか。でも金になる物など持ってない。そもそも魔族は人間と取引できるのかどうかも怪しい。


 改めて自身の姿を確認してみる。赤黒い肌は合金の如く光を反射し、血管のように体に張り巡っている赤く光る線。どう見ても人のそれには見えない。「そういう人種なのです、人種差別はいけないと思います」と思い浮かぶが、強度が鋼鉄並みなのだから人外としか思えない。人外差別反対とか言ってみようか。


「馬鹿馬鹿しい。そもそも魔族と人間が大きな戦争した後って設定なんだ。魔人将が全滅してるって話しなんだから、どう考えても魔族を見つけたら見敵必殺に決まってるだろ」


 人間に頼らずに旅をするゲーム。エンカウントはゾンビの群。武器は接近戦のみ。補給は一切ありません。

 考えれば考えるほどにハードな旅だった。前途多難だ。

 そしてというべきか、案の定雨が降ってきた。森の天気は変わりやすいというか、わかりにくい。空の確認視野が狭いからだ。


「一日目からこんなだ」


 いやな気分になりながら『休めそうな場所』から『雨宿りできそうな場所』を探した。

 大きな木でも崖にある穴でもいいからどこかないかと探していたら、黄色い布切れが目に入った。

 なんだと思って目を凝らすと、枯れて折れた巨大樹の枝に括りつけられていたのだ。気になって近づいてみると、巨大樹の根元に洞が出来ていた。


「目印か」


 どうやら狩人の休息所であるようだ。洞の中には御座と焚き火の準備が用意されていて、水瓶には十分な量の水があった。木の内側から漏れた水が壷に入るように設置されているので、ろ過された綺麗な水だろう。


 流石にナイフや武器まではなかったが、これ以上の贅沢はなかろう。

 それにどうやらここは封魔の森の村連中の使っていた場所だ。村で見たシンボルマークみたいなものがこの巨大樹の洞にも刻まれていた。

 勝手に使っても文句は言われないだろう。既にこの世にいないのだから。

 少しだけ、頭痛を覚えた気がした。勝手ながら使わせていただきますと唱えると、少しだけマシな気がした。


「うん? なんだこの紐」


 ナクアを御座に寝かせると、見つけたのは麻紐のような物が天井に吊るしてあったのだ。


 視線で紐を伝ってみると、天井の後は下に真っ直ぐ伸びて、妙な小さい穴に通じていた。好奇心のままに引っ張ると小さな箱が穴から現れ、箱の中には小麦か澱粉のような物を煉って焼いたものが出てきた。


 つまり、これは保存食だ。数はそう多くないが、ナクアだけが食すならば三食分はあろうか。


「都合はいいんだが、これは食べてもいいのかどうか」


 軽く考えてみる。

 ここに有るものは全て俺が滅ぼしてしまった村の人たちの持ち物だ。


 彼等は確かにもうこの世に居ないだろうが、果たして彼等は俺が使う事を許してくれるだろうか。


 普通、許さないだろうな。


 だけれど、と異議を唱える。空腹が続けば体力が落ちる。体力が落ちれば移動速度も落ち、また健康状態にも負荷が掛かる。そして負の連鎖が始まる。


 そもそもこの洞で休む理屈とそれほど変わらない。彼等は死んだのだし、ナクアが食べなければ忘れられて誰も食べぬまま土の肥やしになるだけだ。

 頭痛がする。


 理屈ではわかってる。

 それでも、エリルの、あの最後の絶対にゆるさないという怨念が、聞こえてくる。


 場所を使うのに、場所そのものはなくならない。だが食べ物は食べればなくなる。単純な違いだ。


 たったそれだけの違いなのに、それがとても大きな差だと感じさせられる。

 あの村の連中からまた奪うのかと考えると、気が引けてしまう。

 考えれば考えるほど、頭痛が増していく。


「……大智、何を難しい顔をしてるのですか?」

「なんだ、起きたのか」

「その手に持っているのは、食べ物ですか?」

「ああ。偶然狩人の寝床を見つけて休んでる。保存食があったんだが、そこのマーク、覚えてるか?」


 ナクアは封魔の森の印を見ると、なるほどと納得してくれた。


「じゃあ食べていいですよね、いただきます」

「は?」


 ナクアは一つ取ると、遠慮なくかじりついた。


「……うーん。味気ない。ジャムとかクリームが欲しいですね。水瓶はあるのに柄杓もないとは、不便ですね」


 ナクアは素手を水瓶に入れて手皿ですくい、渇いたノドを潤した。


「この水瓶、貰っていきましょう」


 遠慮ないどころか、罪悪感の欠片も見られなかった。


「凄いな、お前」

「大智は気にしてるんですか?」

「そりゃあ、まあ、気にしない方がどうかと」

「じゃあお母さんから聞いた話を一つ。生き物はすべからく、「誰か」や「何か」を犠牲にして生きていきます。食事がそのよい例です。獲物を狩るなら命を奪い、植物を取らば自然より奪い、穀物を作るなら土地を奪う、そうしなければお腹は満たされない。だから人は食事の時に祈りをささげるのです。『食される者へ感謝を込めて、いただきます』」

「いただきます、か」


 犠牲にしなければ生きていけない。食べなければ生き物は当然生きていけない。

 そんな常識はわかっていた。わかっていたけれど、当たり前すぎて忘れていた。


「奪わなければ生きられないなんて、生き物は業が深いな」


 いただきます、なんとなく口にしていた言葉の意味なんて、すっかり忘れていた。

 毎日それを繰り返す事によって、感謝の気持ちが消えてしまったのだろう。


「大智は食べないのですか?」

「俺は食べなくても大丈夫だから。ナクアが一人で食べてくれ」

「体によくありませんよ」

「そういう問題じゃないんだ。俺は不老不死だからさ。食糧事情上、俺は食べない方が都合が良い。というかこの辺の話、もう一度ナクアにしなきゃいけなかったのか」


 一度した説明をもう一度行うと、ナクアは一度目と違ってあからさまに詰まらなさそうな顔をした。


「それでも一緒に食べましょう」

「お前、人の話を聞いてないのか?」

「正直この食べ物、美味しくないんです」

「我慢してくれ」

「でも、一緒に食べたらきっとおいしいです。私の為に一緒に食べてください」

「……しょうがないな」


 一つだけ手に取り、観察する。

 固いし水っぽさがまるでない。保存食なのだから当たり前だ。水気はカビの天敵だ。だから保存食というのは乾物というのが多い。


「いただきます」


 きっと口に入れたらカサカサするのだろうと思いながら、口に入れた。


 まず「なんじゃコレ」と言いたくなった。

 何もつけてないクラッカーみたいな味だ。味がない。塩すら使われていないのか。これじゃあただ小麦粉に歯ごたえがあるだけではないか。

 いや、まだ小麦粉の方がマシか。アレは麦の香りがするが、これにはちっともない。でんぷんらしい旨味の欠片も無いからだ。

 さすが味付け無しの保存食。まるで無を食べているみたいだ。


 いや、これはまさか、口の中が無になってくる、だと?


 唾液の全てが保存食に吸い込まれて、口の中がぱさぱさだ。マズイ、美味しくないのマズいではなく、水が欲しくなる危機感の方だ。

 あぁ、なるほど、ナクアがすぐ水に手を伸ばした理由がこれか。


 水瓶の水を少し飲み、水の方が美味いとわかる。

 これは木の恵みだ。口の中が豊かさで一杯になる。ただの水だと思うのに、乾いた口や喉を癒やしてくれる。


 大自然の優しさと豊かさを感じる。しかしなぜこれほどまでに美味いのか。

 味は水の通り無味だ。香りだってある訳じゃない。


 ならば、舌触りだ。そうだ。その通りだ!

 口の中がまるで荒野だった。そんな時に訪れた恵みの雨。これぞまさにアメとムチ。だからこれほどまでに優しさというフレーズがマッチしているのだ。


 ……今ならわかる。ナクアが水瓶を持っていこうと言い出した意味を。

 この水は絶品だ。


 いや、実際はただのきれいな水なのだけれど。


「一緒に食べると美味しいですよね」

「水がだろ」

「やっぱり、ですよね!」

「この保存食は魔法の食べ物だ。ただの水が美味しく感じられる」

「そんなモノを大智は私に食べさせたんですよ」

「酸っぱくて臭いの肉と白い草の方がよかったか?」

「遠慮します」


 そう断るナクアだが、楽しそうなのはわかった。

 最後に俺たちは感謝を込めて、御馳走さまと締めくくった。

 勝手に頂いておいて、勝手にごちそうさまとは、つくづく勝手だとは思う。だが、それがしょうがない事なのは誰もが知っている事だった。


「お腹は膨れましたが、今度は大きなお肉が食べたいですね」

「……そういえば」


 地下迷宮に居た時の事を思い出した。【魔壺の谷】に居た時、まだ記憶を失う前のナクアと交わした約束。地上に出たら狩りをして巨大な獣でも獲って丸焼きにして喰うのだとか。

 それは叶わず、今はこの味気ない焼き物とただの水か。




「移動しながら狩でもするか」

「いいですねそれ!」




 それから俺達は時間を忘れて夜までその場で休み通し、結局そこで一晩を過ごした。

 翌朝、巨大なイノシシを狩ってどう調理するのかで揉めるのだが、それはまあそれは別の話だ。



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