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Dフェイブル ≪Don't dead dreams dive Fable≫  作者: 白黒源氏
【愚者編】
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【愚者編】20①

 心を新たにした俺と、記憶の殆んどがなくなったナクアは、共にこの地下墓所群の出口を目指していた。


 途中でナクアに「背負ってやろうか」と聞いたが「子ども扱いしないで」と言われ、その後あえなく無限の階段と回廊のコンボによりノックダウンされた。

 おんぶはしなかったが、何度か休憩を挟むことにした。どうにも疲労という言葉を忘れた体の所為で他人との歩調が取りにくい。


 空腹に関してもそうだった。ナクアが腹を空かせていると気がついて、【魔壺の谷】の底から取ってきた僅かな食料を見せたが「がまんします」と断られた。

 よくよく考えてみたら黒ずんで酸っぱい臭いの発する肉に、気味の悪い白い草など出されても、真っ当な神経の持ち主ならば拒絶するだろう。


 そうだ。今のナクアには今まで得た知恵や技術、魔法、生き抜く為の気概がなくなっていたのだ。十三魔人将の肩書きなど微塵もなく、これではどこぞの村娘と変わらない事に気付かされた。

 それを胸に刻みつけた。今度は自分が守るのだと決めたからには、この身が喩え焼かれようと、水中に没しようとも、剣に貫かれようが守りきらねばならない。

 それでこの胸を締め付ける罪の意識が消えるのならば。



「あの、気になってたんですが。アキサカさん……でよろしいですか?」

「さんはいらない。あと、名前は大智の方だから」

「大智、なるほど。では一つ、お聞きしたいことがあります。その、体のことなのですが、貴方は魔族なのでしょうか?」

「違うよ。俺は【次元の魔女】っていう悪辣な魔女に【始祖の因子】とかいう変わった魔素を入れられた、魔血種らしい」

「はい!?!? え、なんですかそれ!? どういうことですか!?!?」

「驚きすぎだろ」

「そりゃあだって、驚きますよ! 【次元の魔女】ってあの最悪最低を体現したような悪神すら寄り付かない化女らしいんですよ!? そんなのに会って【始祖の因子】を入れられたなんて、訳がわからないです!」


 先ほどまでの落ち着きはどこへ行ったのか。幸か不幸か、次元の魔女の事はどうやら覚えているらしい。一応、俺の知らない常識とかもあるようだ。


 しかし困った問題が露出した。ナクアに全てを話すべきかどうか。という事情だ。俺が異世界人、どころか、この世界の創造主のような存在で、次元の魔女に恨まれていることとか。それが真実かそうでないかは定かではないが、現状はそうだと俺自身も納得している。


 それを現時点で話すのは情報の過多な気がする。いずれは話す事は決定事項とはしておこう。それよりナクアの話題はそちらではないハズだ。


「ナクア。話はそれだけか?」

「いえ、そうでした。ちょっとおどろいて、我を忘れてました。その体の異変に、大智は気がついていますか?」

「異変?」


 そういわれてみても、体はいつも通りに動くし、痛い所もなければ不自由に感じることもない。

 不死身の体になってから、全快状態が常なので、変化がない事が異常といえばそうだが。


「大智の元の肌が黒金のように神々しく黒く輝き、赤い魔素の血流が浮んでいる。そんな状態が普通の人間なのだとしたら、なにもおかしくはありませんが。失礼、今は魔血種でしたね」


 言われてやっと気がついた。光源がそれほど強くなく、自分の体をそれほど注視していなかったから気がつかなけなかった。


 これはなんと言うか、人種の域を凌駕している。完全に別の生物みたいだった。

 硬い。傷も入らない。関節はスムーズに動き、急所は弱点ではなくなっていた。皮膚が、筋肉が、骨が黒鉄に生まれ変わっていた。まるでアメリカの超人ヒーローだ。


 そういえばナクアが言っていたか。魔素濃度が高すぎると体が変身するとか、変異するとか。

 それに、こうも言っていた。精神のタガが外れるのだとも。


 赤子地蔵を撃滅した時、俺は頭の中が多幸感で一杯だった。自分が自分じゃないみたいに暴れまわっていた。魔素濃度が原因だったのか。


「コレ、治るか?」

「普通、魔素濃度が下がれば、能力も低下して、徐々に元に戻ることもありえますが……わたしが目覚めてから一度も変異が解けないのを考えると、少し怖い予感がしますね。何か原因は思いつきますか?」

「記憶を失う前のナクア曰く、【始祖の因子】は濃度低下が低いらしい。それに――」


 ――俺は死んだり怪我したりすると、その分魔素濃度が上昇して超回復する。だから、原因は死に過ぎによる魔素濃度上昇の回数の問題。

 今のナクアはどうにもお人好しっぽいところがある。こんな話は聞かせる気が起きなかった。


「原因は今のでわかったよ。ありがとう。多分、魔素を使いすぎたんだ。しばらく自重すれば治るよ」

「結構、落ち着いてるんですね」

「こうまで身体が変化したのは初めてだけど、もう慣れたよ」


 割と熟練なんだぞと自慢するみたいに説明した。ナクアを出来るだけ安心させるために。


 しかし、魔素濃度が下がる事はなかった。本当の理由に俺はまったく気がつかなかったが故に。






 そして辿り着くべき場所に、俺達はついにやってきた。


 最初の変化は空気が変わったことだった。草葉の生い茂る臭い。それを運んできたのは、どこからか訪れた淡い涼風だった。

 ナクアはへとへとになりながらも、その変化に歓喜していた。恐らく、一日は歩き続けただろうか。時間の概念がハッキリとしないので、全然違ったかもしれないが。


 繰り返した回廊と階段の後、一際目立つ違いが目の前に映った。

 光の差す出口だった。


「大智! 外ですよ、外!」

「わかるよ。それくらい」


 ナクアははしゃいでいたし、俺も内心興奮していた。一度はもう戻れないかもしれないと思ったのだ。感動くらいする。

 だが、出口の前で、俺はその興奮を取りやめ、ナクアを引き止めなくてはならなくなった。腕を掴んで引き寄せると、ナクアはびっくりした様子だった。


「な、なんですか?」

「静かに……。たった今、ココが【封魔の森】なんて名前だったのを思いだしたんだ」

「封魔の森って、アスハーラ平原より南方の森ですか? 名前だけは聞き及んでましたが、普通の森に見えますよ?」 

「森は普通でも、そこの住人は相当な魔族嫌いだろうな。俺とナクアを【魔壺の谷】に落としたのが奴等だ」


 考えが甘かった。そもそも地下迷宮の中をいろいろ歩き続けたが、回って上って廻って上って周って上ってを繰り返していたじゃあないか。という事は、封魔の森より遥か遠い場所ではなく、奴等の領域に出てくるのは当然だった。


「……という事は、その人たちが住んでいる村が、目の前の煙が立ち上る場所ですか?」

「なに?」


 俺が心配している事よりも別の案件が、出口からは見えていた。


 何か嫌な予感がする。

 何かを忘れているが為に、それしか俺は理解できなかった。


 俺が先に出口からでると、岩の神殿の入口の前に広がっていたのは、死体が乱雑に転がった戦場跡だった。


「だ、だだ大智!? こ、これはし、死んでるんですか?」

「……お前、死体が怖いのか?」

「だ、大智は、慣れてるの……?」

「動くなら怖いけど、動かないならただの死体だな。そこで待っててくれ」


 確認は必要だ。

 忘れてはいけない。この世界では死体は動く。死者は死なず、不死者と呼ばれて生者を襲う。俺がこっちの世界で一番初めに受けた洗礼だ。


「動かない。死んでる……普通の死体みたいだな。いや、どれも共通点がある」


 胸に空いた大きな穴がどの死体にも存在していた。確かコレは、俺にもされた覚えがある。たしか名前は天聖技だか天聖術だったか。


「それに、みんな同じ様な服の素材……。封魔の森の住人か」


 どういう状況だったんだ。死体は戦士っぽい人たちが多いが、中には普通の住人っぽい人も混じってる。剣や弓も散乱してるし、乱戦でも起きたみたいだった。

 推理してみようと考えていると、やはり村を覗きに行った方が正確だと思い至る。一人で偵察してみるかと思案していたら、いきなり背中から誰かに襲われた。というより、泣き付かれた。


「こ、こ、こんな所に置いて行かないでください!」

「……危険だぞ」


 警告した瞬間だった。足元の死体がうめき声を上げて、ナクアの足を掴んできた。天聖術を受けて動かないと思っていたが、どうやらそうでもないらしい。


「トドメをさせてないじゃないか。詰めが甘いのか、それとも余裕がなかったのか」

「た、たすけ、助けてください大智! し、シタイ、死体が動いて――」


 懐から【賢奴の赤旗】を取り出し、右手に巻きつけてから足を掴んだ不死者に触れた。

 思ったとおり、不死者は電池が抜かれたように動かなくなり、本当の意味で永遠に死の眠りに付いた。【死の神器】様様だ。この先、これがないとどうにもならなさそうだ。


「大丈夫。ちょっとくらいならどうにかこれでどうにか出来る。でもこのボロ布には絶対に触るなよ。ナクアまで殺しかねない」

「ハ、ハイ……」

「……ここは危険だから、やっぱり近くに居てくれ。絶対に離れるなよ」

「はい!」


 同じ返事なのに気分の調子がわかりやすい。

 それにしても、ナクアの奴、不死者の存在を知らないというのは、どうしてだろうか。

 そういえば十五年前に死者が死ななくなり、不死者として跋扈するようになったのだったか。その十五年を知らないのだからこの反応にもなるか。

 つまり今のナクアにとってすれば、コレが人生初のゾンビとの遭遇という事だな。


(俺も初見はこれくらいSAN値削られてたのかな。いや、喰われてたからもっと酷かったな)


 思い出話にもならない記憶のおかげで、より身が引き締まった。


「村に、行ってみよう」


 そこに、何が待っているのかをよく考えないまま、そうしようと思った。

 なぜ、どうして、その発想にいたらなかったのか。


 赤子地蔵などという化物が通った村が、無事な訳がないという事実を。

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