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Dフェイブル ≪Don't dead dreams dive Fable≫  作者: 白黒源氏
【愚者編】
2/72

幕前


 夢を見ているのだろうと思った。

 金髪金眼の色白い女が見ていた。いかにも「魔女です」といった黒い三角帽子、白い肌着の上には紫の様に輝く漆黒のマントを見事に着こなし、手には黄金の羅針盤が付いた錫杖を手にしていた。


 魔女の目には俺の姿が映っている。魔女の目に映る自分の顔は、ただいま困惑中という心情が伺える。まあ自分のことだから当然わかっている。



 対して女はというと、イマイチよくわからない。

 無表情に俺を見ている。どういった意図があって俺を見ているのか、見続けているのか、どうにもこれと言って理解しきれなかった。あるいは、見定める様な感情があったのかもしれない。


 少しだけ思考した後、いきなり女の鉄仮面が崩れ、笑ったかと思うと――



「お前が明坂大智だな。やはり見た目通り、死人の臭いがするな」



 快活に鼻で笑ってからそう言った。凛とした声に似あった冷たい態度である。


「なんでいきなり見ず知らずの人からそんな事言われなくちゃいけないんだ」

「見ず知らず……ねえ?」


 意味ありげな反応を返し、魔女みたいな奴は俺から視線を外し、自己紹介をし始めた。


「私は【次元の魔女】レイレナード。最強の魔女にて最悪の権化、現実と虚無の狭間にて世界の傍観し、諦観し続ける存在……だったかな?」


 と、自分さえも嘲笑い、蔑むように、そして最後には何故か俺に確認を求めるように言った。だが見た目通りの魔女、などと言われても、俺の頭はそこまでおめでたくない。いきなり魔女などと言われても「はいそうですか」となるより「電波受信しちゃった子か」と思う方である。


 そんな感想を察したのか、魔女は不機嫌な顔になった。


「おいお前、まさか今の名前を耳にして、気が付かないのか?」

「気が付く? はてな……何を悟っていいやら、見当もつかないな」


 面倒くさいので何も考えずに生返事をすると、魔女は一度俺を強く睨んだ。が、目を閉じて再び無表情に戻した。


「初めからわかっていたことか。明坂大智、お前はそういう奴だよな」

「俺の何を知ってるんだ?」

「年齢は18歳、現在高校生、部活は中高入部歴無し、両親と兄と四人家族。目立った事件や功績はない。友人関係は少なく、中学生の頃から不特定多数のグループから距離を置く自称孤高男子。将来の希望も展望無し、得意な物と誇るものもなく、趣味はゲームと読書と――誰にも内緒にして小説を書いている事」


 心臓が掴まれたかと思った。

 もし俺が女子だったら絹を裂く乙女の叫び声を上げていたかもしれない。

 それほどまでに小説を書いているというのは、恥しい事であった。誰にも言ってないし、言うつもりも公開するつもりも無かった。なんで目の前の頭のおかしい女がそれを知ってるんだ。


「おいおい。おいおいおい、何を動揺している。ペンネーム【ガイア】くん。自分のペンネームまで考えておいて人に知られたくないだなんて、何処までキミの脳味噌は自己満足で出来上がっているんだい? ついでに言わせてもらうが、自分の大智からの大地、からの大地神ガイアはさすがに安直かつ自惚れが強すぎるんじゃないか?」

「やめろやめろやめろ‼ それ以上その口を動かすんじゃない‼」

「ハハ、顔真っ赤だな。いい顔だな。そっちのが好みだ」


 本当にうれしそうに人の黒歴史を晒す奴だ。

 なんて性格の悪い奴だと思っていると、こんな奴がどこかに居た様な気がしてきた。いや、もちろん魔女なんて奴は現実には居ないのだが、こういう存在を俺はどこかで知っている気がした。


「やっと気が付いた顔をしたな」

「……どういう事だ?」

「何故答えを簡単に聞き出そうとする。それ以上私を失望させるな。いや、既に見限っている時点ではあるのだがね」


 魔女は俺を半眼で見つめ返すと、静かに答えを待つだけになった。

 仕方がなく、俺も魔女レイレナードという人物を思い浮かべる。【次元の魔女】というのは一度中二病を患ったら誰でも簡単に思いつきそうな二つ名だ。要するに安直だ。

 続いて、レイレナードという存在についてだが……レイレナードという名前に心当たりがあった。


 過去、そう言う名前の人物を俺は自分の小説の中に登場させようとしていた事があった。設定だけ作って、登場は一切しなかった人物なのだけれど。


 【次元の魔女】と呼ばれ、作中最強かつ傍観者的な立ち位置で、隠し裏ボスという存在で、世界観の背景に利用しようとした人物――虚無より生まれし世界から疎まれた魔女、レイレナード。



「『異世界戦線日記』の……【次元の魔女】」



 異世界戦線日記……俺が最も長い間書き続け、思い入れの深い未完の駄作。


 息を飲んだ。脳裏に、そんなバカな――と否定する思考が過ぎるのだが、魔女レイレナードは一切否定する様子がないので、その発想も徐々に薄れていく。


「さて、ようやくスタートラインが見えてきたな。創造主」

「スタートライン? 一体なんの話だ。いやその前に、俺は今、夢を見ているってことでいいんだよな?」

「今さらそんな事を気にするのか。夢だろうが現実だろうがどっちでも変わらないだろ。現に、お前は目覚めるつもりも無いくせに」


 意味の分からない返しをされた。


「おい、まともに会話を成立させてくれ。話しが見えないだろうが。どっちなんだ、俺は寝てて夢を見ているのか? それともこれは現実で、俺の妄想が実体化したとかそういう突拍子もない事が起きてるだけなのか?」

「黙れ」


 魔女レイレナードは人差し指を宙で横に一閃、かるく撫でるように動かすだけの動作をして見せた。その時から、俺の口は丁寧に糸で縫い合わさったように開かなくなった。続いて彼女は突き出した手で空を握った。すると今度は息も出来なくさせられた。暗黒面に落ちたアナ○ンパパかよ。


「私はこれでも我慢してるんだ。偉そうな口を叩く前に、もう少し謙虚さという奴を見せてくれ。お前は確かに私を発想した創造主ではあるが、お前自身は腕力も知力も何もない、ただのクソガキ……ザコですら劣る動く死体袋だろうが。少しくらい黙って聞くくらいできないか?」


 言いたい事を言い終えると空を握った拳を放し、やっと息が出来るようにはして貰えた。だが口を開くことはまだ許してくれないらしい。


「愚鈍な我が創造主に対して、先の質問に答えよう。お前は今、夢を見ている。ここはお前の知っている現実世界ではない。それに、お前は二度とアッチの現実には帰れないだろうな。なぜならお前は夢の世界から永遠に脱け出せないからだ」


 耳を疑った。とんだ理不尽だな。誰の許可があってそんな事をするんだ。責任者を呼べ。


「だが、それじゃあ面白くないだろう。まあ無理だと思うが、帰還方法なら用意している」


 勿体ぶる様に彼女は口を閉じてこちらを伺う。早く言えよと言いたいのに喋れないから目で訴えると、彼女は満足するまで俺の顔を見てから、やっと口を開いた。



「死ぬことだ」



 満面の笑みを浮かべて、彼女は呪いを掛けるように俺に教えた。


「あっちの世界で見事、文句なしに死ぬことが出来たら現実世界に帰還させてあげるよ」


 そんな、簡単に言うのだった。

 遠回しに死ねって言われました。泣きたい。



 でも真面目に考えてみると可笑しな話しだ。

 夢の世界で死ぬという行為、考えてみると、微妙な難易度だった。無論簡単だなんて言わない。自殺志願者でもないのに喜々として死ぬなんてできない。

 でも決してできない……という程でもない気がする。人間、死ぬときは死ぬ。まあ死んだ事なんてないからただの想像だけど。


 彼女がいう程、決してできないという程の行動とは思えなかった。だが、彼女は自信を持ってそれが難しい事だと教えてくる。



「明坂大智、改め創造主ガイア君。キミには不老不死の呪いを持って、自作小説『異世界戦線日記』の世界で『死ぬ』事を目的に行動してもらう。ここが、スタートラインだ。理解したかな?」



 魔女レイレナードは大変楽しそうに笑っている。それだけで奴の底意地の悪さがわかる。不老不死なんて、普通は誰もが求める様な夢のような能力を、呪いに替えてくれやがった。


 つまり俺は、異世界転移譚の様なものを求められて、決して死なないというチートみたいな能力を持たされて、死ぬ為に行動しないといけないらしい。なんて拷問だ。なんで俺がそんなことしなくてはいけないんだ。そう言うのはもっと他に適任者がいるだろうに。俺は役者ではなく書き手側だぞ。



「さて、ガイア書生。生意気にも我々を冒涜した罪、ここで償ってもらおう」



 彼女は指をパチンと鳴らすと、どこだかわからなかった世界に色が付く。形が創られていく。音が生まれる。臭いが充満していく。




「ようこそ、【異世界戦線日記(見捨てられた世界)】へ」




 気が付けば、俺は空の彼方に自由落下をしていた。

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