【愚者編】15
少しだけ考えた。赤子地蔵の事だ。
奴はどうやって土の中を進んだのか、その方法を考えた。だがその方法がよくわからない。どうやって俺達の行く方法を知ったのか。まるで奴は足を止めた瞬間を見計らっていたようだった。
つまり、常に見張っていた様な気がするのだ。
方法はわからないし、確証もないが、そんな予感がした。
だからといって、何か対策があるわけではなかったし、俺の作戦は一つしかなかった。真っ直ぐ、最速で、行動を終わらせる。
玉砕覚悟の特攻だ。
つい先ほどまで走っていた通路を倍の速度で戻って、神殿の中まで一直線で走りこんだ。
だがそこで待っていたのは不自然な光景だった。
「ナクア!!」
そこで目撃したのは、ナクアが呆然と立っている姿だった。周囲を見渡しても、赤子地蔵らしき姿はなく、部屋の真ん中にぽつんと立って彼女のフレアラが周囲を孤独に照らしていたのだった。
俺は困惑した。てっきり、ナクアは赤子地蔵に苦戦を強いられているか、もしくは既に倒されているんじゃないかって思っていた。本人自身が言っていたことだ。
俺の身体にある始祖の因子を持った奴は自分でも勝てないと。なのに、どうして……。
「お、おい。お前、無事なのか?」
いきなり何を聞いているんだと自分でも思った。そんなことを聞いたって仕様がないのはわかっているのに。
しかし――ナクアは返事どころか、何もリアクションを見せなかった。様子がおかしい。
ナクアはただ首をぶら下げて、立っていた。声も聞こえていない様だ。
何が、起きているのか、俺には理解できなかった。
近づいて、傍による度に、不安は大きくなり、そして気がついた。
そして気がついた瞬間、手遅れだとわかった。
ナクアの首に、赤子地蔵の触手が巻きついており、足は宙を浮いていた。
触手の先端に付いた目玉は、俺の身体に穴を開けたいのか煌々と見つめていた。もうそれだけで十分だった。
コイツは、罠だ。
背後で何かが動く気がする。そこには何があっただろうか。この部屋に無数に会った石の柱であったはずだ。その柱がこれから動き出し、俺を襲う。
そんな予感は見事に全て的中した。
岩の柱に巨木のような腕があり、俺の身体を鷲掴んだ。
「擬態――ちがう、同化だ!?」
奴は、どういう構造なのか、物質に侵入できる体質らしい。
それでわかった。奴は、地面を掘ったわけでも、通路に侵入する必要もなく、土中や床に同化して、俺達を常に見張れたのだと。
「くっそ、離っ――アアアアアアア痛ってええええええ!! ごぼ、ボホッ!」
体を捕らえる指全てが人を一人殺すに十分な怪力が備わっていた。骨が折れる。肉がちぎれる。臓器が破壊される。
ふざけて全力で握り潰したケチャップみたいに口から赤い体液をコボコボとあふれ出てきた。
『エヘ、エヘヘヘヘヘ。きゃああっぁああ』
まるで遊戯に夢中の赤子のフリだ。ふざけた態度だ。魚釣りの様なことが出来る赤ん坊がどこにいる。
こいつの知能は間違いなく、俺以上のハズで、この岩色のデカ物は、ぶりっ子の悪魔だ。
だが、腹の立つことに腰の骨、脊椎まで砕かれたのか、足が動かなくなっている。このまま手を放されたっておそらく逃げられない。不死の修復速度が足りない。
「……この、程度で……怯むかよ! こちとら覚悟決めてきたんだ! 喰うなら喰えよ、テメエの腹の中暴れまくって、ケツの穴二度と使えねえ用にしてやる――ォッは!?」
突然足をちょん摘みされたかと思ったら、上に振りかざし、一気に地面に叩きつけられた。体全ての間接が外れたんじゃないかと疑った。自分の身体がまるで骨人形になったみたいだ。
勇ましく睨み返してみても、奴は面白そうに『きゃっきゃ』と笑いだすばかり。
ここやっと、俺は焦りだした。余裕はなかった。何か、どうにか、出来ないのか。このままでは本当に遊び殺されてしまう。
本当に――何を今更そんなことを考えているんだろう。こうなる事は分かっていたはずだった。
自分のような人間が、超常の存在に敵うはずがない。
これが中途半端な選択ばかりを選び続けてきた者の末路だ。
結局、自分の想像力が欠如していたのだ。
不死身だから、死なないから、どうにかなる。
どうして、俺は気がつかなかったんだろうな。そんな幻想、夢物語だって幻想だってことに。




