表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Dフェイブル ≪Don't dead dreams dive Fable≫  作者: 白黒源氏
【愚者編】
17/72

【愚者編】Lost Number

「ナクアテッド、お前は近いうちに死ぬ」


 暗がりの地下にいた頃、明坂大智が訪れるよりも、三日も前だった。



 美しいブロンドの長い髪、この世の過去現在未来の全てを見通す金の魔眼。金の羅針盤の付いた錫杖を持って。



【次元の魔女】レイレナードは初めて私の目の前に現われた。




「……その口ぶり、その見た目――かの有名な【次元の魔女】が、まさか【夢渡り】で会いに来るとはね。しかも第一声から縁起でもない」

「数少ない同志に、最後に挨拶にきただけだ」

「同志? いつからお前が私の仲間だった? 必要な時に何もせず、会いに来たと思ったら死刑宣告だ。面白いよキミ」


「確かに、仲間らしい事など一つもしなかったな。だが肩書き上、私も十三魔人将の一人で、他の有象無象連中からすれば同類だ。ああ、そういえばもう十三じゃなくって我々二人か。それに時期にお前もいなくなる」

「……ずっと前から思ってたけど、今ので確信した。お前、やっぱり私たち魔族の事なんて何一つ大事になんて思ってなかったんだね」

「十年以上も地獄に放置した挙句、死を告げに来た人物をお前は少しでも仲間だと思ったのか?」

「……まったくだね。過去に戻って一番にぶっ殺しに行ってやりたいよ」



 魔女は鼻で笑う。やれるものならやってみろと、口で言わなくとも伝わった。まるで可哀想な生き物でも見るような目つきだったからだ。



「さっさと消えろ。目障りだ」

「そう言うな。わざわざ夢にまで出てきたんだ」

「じゃあ直に会いに来い。それが礼儀ってもんじゃないのかな?」

「【魔壺の谷】に落ちる十三魔人将はお前一人で十分じゃないのか? いや、【無刃の龍騎士】殿も確か……?」

「ムントの話か? アイツも落とされたのか。あれほどの男が討ち死でないなんて」

「囚われのキミを助けにいったんだよ。いい話じゃないか」

「最悪の話じゃない! ああもう、あのお人好しめ」


 私のせいじゃないか。しかもそうやって良心の呵責をいとも容易く囃し立てるこの魔女の性根の悪さに、ほとほと嫌になる。


「もうお前、ホントかえれ」

「怖い顔、目で威嚇しちゃって、奇声でも上げたらどうだ。それにどの道、避ける事のできないことだ」

「……何を始めるつもりだ」

「この世界の創造主を引きずり落とした。変えられない出来事、決定した事象を定めた存在……俗に運命と言う奴を作った男だ。お前の親友のシグマが死んだことや、一族みんなが滅んだ事、先の大戦で魔人陣営が敗北したこと。全部を定めた男だ。そいつがお前の目の前に現われる。たっぷり礼をしてやるといい」

「おい、待て。なんだその話。まるで意味がわからない」

「わからなくていいさ。私はただ、奴がもがく様を見物したいだけさ」



 奴は実に魔女然とした厭らしい笑みを浮かべると、次に目を開けたときにはその姿はどこにも残っていなかった。

 大変、不愉快な思い出話だ。





 今更思い出した。


 私は、恐らく死ぬ。この邪神と化した死者によって。


「……まったく、我ながら貧乏クジばかりだな」


 目を開けた時、暗闇に隠れた大智くんがこっそりと出口目指して逃げようとしていたのが見えた。だから私は「逃げろ」と言った。

 彼はそのまま背を向けて走り出した。


 それでいい。



 絶対に勝てない相手に逃げる事は、賢い行いだ。

 良かった、彼がこんな時に自分を奮い立たせる馬鹿者でなくって。



「どうせ、私はここで死ぬ身だ。魔女の予言を真に受けるのは癪だが、この状況で生還できると思えるほど、現実が見えてないわけじゃない」



 赤子地蔵――と彼は言ったか。あれは私が今まで出会った中で最悪最強だ。さっきから震えが止まらない。


「……私はどっちかって言うと後方支援が役割なんだけどね」


 突進を仕掛けてくる赤子地蔵に、今出来る最大の力をあてることにする。

 本来であれば重力魔術と触手のワイヤートリックで空中を縦横無尽に駆け、絶対優位の位置から黙らせたかったが……。


「最大火力、この一撃で決めようか」


 ここ数日間、始祖の因子による魔素の摂取に、本来魔素の使えない領域での魔術使用。大智くんには心配させまいと隠していたが、相当な負荷が体に蓄積されていた。

 これ以上、魔術を酷使すれば魔素因子が暴走して、最悪自分が化物になりかねない。よくよく考えてもやはり一発が限度か。


「……始祖の因子を喰らった化物にいくら通用するのか、試させてもらうよ」


 それに私の術技に詠唱はいらない。必要なのは術を走らせる為の命令と魔素だ。準備時間は陣を作る間の約一秒ちょっと。

 二本の触手を輪にして術の式を作る。残りの二本は螺旋の筒状にして、突進してくる赤子地蔵に向ける。傍から見れば何の陣にもなっていないが、私にはこれで十分なのだ。

 既に魔力は触手を通して術式を何千回と走り続けている。後はこの超高速度の魔力を打ち出すだけだ。



「さて、小細工無しだ。【神殺しの閃光(ディオ モルターレ)】!」



 魔術発動と同時に空間を叩き割るような高音が鼓膜を破く勢いで自分自身を襲った。

 魔素を超高速で回転させて速度と出力を作り出し、圧縮させ超硬質化させた魔力の塊を鋭い形状にして魔弾として打ち出す。私が異世界で知った銃を真似て作った魔法だ。


 属性は無、見えていれば必中、高回転の魔弾は目標を一瞬で一直線場を突き貫ける。プラチナプレートだって簡単に砕けた。頑固で頭の悪い巨人の頭蓋骨もこれで砕いた。

 十年経っても忘れない得意技にして必殺技、いま出来る全力の一撃だった。


 通常の反射速度ではこの弾丸を認知する事はできない。打ち出したら既に標的に命中しているといってもいい。


 それは、目の前の赤子地蔵だろうと例外ではなかった。



 赤子地蔵の突進してきた体は突然跳ね上がった。奴の背後一直線場の壁に大きな破壊の痕が生まれ、間違いなく命中したのだと確信した。奴の四つんばい走りをしていた右腕が地面から離れ、仰向けに倒れた――そう思えた。


『ウウウウウ……ググゥ』


 獣の様な唸り声を漏らしながら、風穴が出来た頬を見せて再び……否、さらに加速してその突っ込んできた。

 しかも、受けた傷がダメージになってない。なにせ振り向く過程で既に肉体の修復が始まり、目の前に来た頃には既に全治していたのだからだ。


 自信だけはあったが、やはり怯むくらいしか効果はなかったか。



 などと、最後は諦めて奴に跳ねられるしかなかった。

 ……まあ、考えてみると、あれだ。上等な死に際、往年ではなかったが、最後に過酷な運命を背負わされた少年を救ってやれたのだと思えば、なかなか、まあまあ、悪くはないんじゃなかろうか。









『――姫様、目が覚めましたか』


 突然の呼びかけ、どこか懐かしげな声に、意表を突かれた。


『なんだ。どこ、ここ?』


 目を開けると、見知った様な、しかしどこかおぼろげな藁と木の部屋で意識が目覚めた。


『……ヒメ、そう呼ぶそなたは、アルガンシーフか?』

『作用でございます』

『ナクアさまー。おはようございます』

『ナクア様、長い旅路、大変だったことと察します』

『……コルォ、ポノ。ああ、そうか。わかったよ。ここがどこか』


 みんな、死んだ。アルもコルもポノも、我が一族【地谷の民】は村も民もこの世界から消え去り、私しかいないのだ。

 だから、ここは死後の世界、あるいは私の記憶、ということなのだろう。


 気になって部屋を出て外を見た。



 皆がいる。

 死んでしまった者が大勢、悲しい別れをした者も、村の関係者でもない戦友も、異世界で出会った友達とも、勢ぞろいしていた。



 みんな、私の知っている者達だった。ならばやはりココは私の記憶だな。


 いや、そんな事はどうでも良い。


『……もう、二度と、絶対に会えないと思っていた。顔も忘れたと思っていた。声だって、どんな喋り方だったのかも、覚えてなかった』


 みんながみんな、私を見ている。ああ、覚えているとも。思い出したとも。

 今なら、名前だって言える。



『ナクア。どうした、今にも泣きそうな顔しやがって』


 ぶっきらぼうに話しかけたのは、巨大な戦斧を背中に背負った大男だった。


『シグマ……シグマ! シグマ!!』


 あぁ、此の世で最も信頼していた親友。情に厚く、情け深く、誇り在りし、田舎騎士のような大男。

 思わず飛びついた。飛びついて、首を取ったら締め落としてやるほど強く抱きしめてじゃれてやろう。そう――思った。




『え……?』



 触れる。そう思った瞬間に、体はすり抜け、空を抜けた体はそのまま地面に着地した。

 地面が物凄く目の前に近くにある。予想もしなかった衝撃が腹に来ているはずなのだが、思考はそれどころではなかった。



 今、飛びついたのは私だ。私の意思だ。


 問題は『何に』飛びついたのか、だ。




 体を捻り、振り向いた。

 そこには誰もいなかった。


 ただ、不気味な笑い声が地の底から聞こえてくるだけだった。


『なん……だ?』


 思い出せない。一体、何に私は出くわしたのだ。誰に向かって、何をしようとしていたのだ。


 立ち上がり、周囲を見る。そこには数多くの戦友や村人達がいた。……いや、数は多くない。結構まちまちだ。


『おかしい。大勢、いたと思ったのに……』


 人が、どんどん、少なくなっている。

 変わりに、赤子の鳴き声がどんどん近くなってきている気がした。


 思わず下を見た。


 そこにあるのは、茶色い土ではなく、石の顔と、無数に生える触手の数々だった。


『キ、キサマア!』


 触手が、知っている顔たちを貫通させていく。瞬間、刺された者が何者だったのかを思い出せなくなった。

 間違いない。

 この化物、私の記憶を奪っている。


『やめろ!!』


 魔術を使おうとするが、気がつかなかった。背中に生えた触手が一本も無かったことに。


『止めろ!』


 焦っていた。ここに来て対抗する手段がない事に、企ても思いつかなくて、だから口で叫ぶしかなかった。

 この化物はそんな私を知ってか、嘲笑するかのように高く笑い声を上げ続けた。


『やめろ!! やめてくれ!! やめろよ!! もういないんだ、みんな、此の世にいないんだ! もう私の記憶しかいないんだよ!』


 空が、臭いが、声が、人が、家が、土地が、全て消えてゆく。


『嫌だ、イヤだアアアアアアアアアアアアア!!』


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ