表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Dフェイブル ≪Don't dead dreams dive Fable≫  作者: 白黒源氏
【愚者編】
16/72

【愚者編】12

 地面から突然現われた赤子地蔵に俺達は驚愕する暇も与えられず、俺とナクアは気が付けば空中の只中に浮いていた。



 でかい図体に巨木のような腕を振り回し、それに巻き込まれたのだと気が付いたのは背中が壁に激突したあとだった。


 崩れる轟音、飛び散る破片に、暴風まで現われ、まるで嵐のような怪物だ。



「――っ!?」



 一瞬の事で声も出せなかった。


 固い床、硬い壁、破られるはずがないと、考えていた。

 たとえ、破られたとしても、ソレは俺達がこの神殿に侵入した時の穴だと思っていた。


 アレならば穴に手を入れて掻き毟る様に穴を広げれば進入する事も出来るだろう。だから奴はきっとそうするに違いないと思っていた。




 だが、実際は違った。


 奴は巨大な図体を固い地面より這い出し、俺達を襲った。ひび割れた石の平床が爆風で飛び散るように、大きな破片となって周囲を巻き込んだ。



 その時、理解した。この床は硬い。硬いが、割れる類いの物質なのだ。石やガラスと同じ、形状不変体で簡単に砕ける類の素材だったのだ。



 そんなことを今更知ったところで何だと思う。そもそも地面から現われるなんて発想がなかった。

 全て、今更な事柄だが。






 悠長に考えをめぐらせていると、奴はついに地面から這い出ていた。


 息が出来ない。血が咽喉に溜まってる訳でも、肺やあばらが使い物にならなくなったわけでもない。

 恐怖と絶望、それから見た目の悪い、粘着ストーカーのせいだ。



 最悪な気分で胸に手が伸びた。いいから息をしろよ、意味ねえよって肉体に言い聞かせたかった。

 その時、あることに気が付いた。


 ランタン代わりの光る首飾り。手が覆いかぶさったことで俺の姿は闇にとけた。



 すると、残った方の――ナクアの持っているフレアラの存在が煌々と存在を放った。




 瞬間、脳裏に悪魔めいた発想が過ぎった。




 何も考えていないのに、目が出口の方角に向く。そこにはなにも障害物はなく、その気になれば――




「う……」


 ナクアが小さくうめき声を漏らすとよろめきながら立ち上がった。


 距離と位置を順にすると、出口から一番近いのが俺、赤子地蔵、一番遠くにナクアが壁に追い込まれている。

 そして赤子地蔵は光源のあるナクアの方に視線が釘付けだった。




 息を止めて、ゆっくり、ゆっくりと、足音を立てずに、出口に向かって進みだした。




 最低だ。彼女を囮にして自分だけ逃げ出そうとしている。

 そんな言葉が脳裏に過ぎった。


(うるせえ。だったら、どうしろっていうんだ。戦って勝てる図体じゃあないだろ! あんなのと戦うなんてバカのやることだ)


 この状況、もしかしたら『彼女を見捨てて自分だけ助かりたいのか』なんて、テレビの前の俺なら言ってるんだろうか。


(ふざけんな。誰かを助けるなんてことできるのは、自分に余裕のある奴だけだ。俺にはそんなのねえよ!)


 意気地なしだとか臆病者だなんて、赤の他人なら言うんだろうな。


(だったら言い返してやる。俺の立場になって見やがれ! 絶対に無理だ!)


 歯がガチガチと震えて音が鳴るのを、必死になって食い縛って押さえ込んだ。


(いける、いける!)




 一瞬だけ、ナクアの口元がとても細やかに、ハッキリと意思が伝わって見えた。


「に……げ――『アアアアんガアアアアアアアアアアアア!!』




 赤子地蔵が絶叫を上げ、ナクアに向かって突進し始めた。




 この瞬間、俺が逃げ出さずに戦うことを選択できる、最後のチャンスだった。





 だが、俺は全力で走り出していた。


 たった独り、光なき逃げ道へ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ