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Dフェイブル ≪Don't dead dreams dive Fable≫  作者: 白黒源氏
【愚者編】
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【愚者編】10②

「道具を使わなくてもこの壁を壊す方法はある」


「それをさっさと言えよ!!」


「……ただ、大智くんが凄く痛い思いをすると思うけど、それでも――」


「もうとっくに手首が折れたよ! いいからそんな方法があるなら早く教えろ!」


「わかった。そこまで言うなら、ちょっと屈んで」




 なにをさせられるのかよくわからないが、言われた通りにしてみる。膝を曲げて屈むと今度はナクアが手で触れて色々とポーズを指定してきた。



「ちがうちがう。両ひざを抱える様な感じで、腰は丸めて、そうそう。顔はひざの内側に。それから絶対に今の体制から体を開く様な動作はしないでね。たぶん……いや、絶対に痛いと思うけど、我慢してね」



 一体何をさせられるのやらと思っていると、硬く身を組んだ体に何やら巻き付くモノを感じた。今の態勢だと、何をされているのかどうなっているのか感覚でしかわからない。

 そしてふっと体を持ち上げられるかと思うと、いきなり背後に向かって激しく動き出したと思うと、一気に壁に向かって――


「あれ、ひょっとしてコレって――」





「キャノン・ボール(人間砲岩)!!」





「俺はドンパッ○かよおおおおおボベラッ!!!???」


 迷宮の壁と俺の頸椎の両方に激震が響いた。


(やったか?)

「まだまだあああッ!?」

(まだなのか!?)


 もう一回後ろに飛ばされたと思うともう一度戻ってくる。「ゲフェフッ!!」なんて、鼻とか首に血が溜まった状態で、無理やり体を圧迫されるとこんな声が出るらしいことが分かった。今度は膝を思いっきりやられた。


(今度こそやったか――?)


「もう一回ッ!!」


 ダメでした。次はフラグを立てまい……。

 次は肩から行った。脱臼したのが想像するだけでわかる。



「コラ! 態勢を崩すな!」



 鬼かよ。



「ちょ、ちょっと体再生するまで待って欲しいかな……」

「あ、疲れてきたかも」

「テメふざけんな! お前、人にこんなヒデェことしておいて自分は疲れたとか!」

「よしよし、まだまだ元気そうだね」

「しまったあああガフッ――」


 もう駄目だ。普通に怪我する痛みじゃない。車と激突するような痛みだ。骨の髄にまで染み込む苦しさは、なんというかただ痛いだけではない。仮死体験をさせられている気にもなる。一瞬でも俺が望めば三途の川にでも行けそうなそんな感じだ。……当然、そうはなってくれないのだが。


 この体になって久しぶりに意識を失いたいと思いました。



「今度は回転を加えてみますか」

「そ……それだけは……勘弁――ンンンンン!?」



 ねじった触手で放たれた人間砲丸(in俺)は、マグナムトルネードと命名しても遜色ない程の回転で放たれた。その破壊力は今までのそれとは一線を越え、壁にも俺にも、平等にその破壊力を別け与えた。



 俺は……いや、俺と地下迷宮の壁は、いつしか同じ気持ちだったのかもしれない。



 持ちこたえてくれ、俺の体。折れないでくれ、俺の心。そんな風に俺達は自身を励ましていた。そうしていないと、すぐにでも負けてしまいそうだったからだ。


 だが、俺達に救済の神はなく、繰り返される暴力に、ただ崩れゆく己の体を無様にも晒しながら、無情ともいえる運動エネルギーの前に膝を屈していた。



 俺たちは、蓄積されたダメージに対してどのような処置も行う事が叶わぬまま、その圧倒的な超摩擦力を備えた衝撃に耐えきれる事無く――壁は貫かれ、石を吐き散らし……俺の皮膚は破れ、筋肉はゴムの様に伸び、骨は粉々に砕かれ、糸切れた操り人形となって地面に伏した。



 残った後には、満面の笑みを浮かべた恐ろしい白い悪魔が悠々と立っていた。




「よし、うまくいったね!」


「よし、じゃあねえ! 俺の体が不死身だったから無事みたいなもんだけどな! 本当、まるでギャグマンガだぜ、この再生能力!」


「何を言っているのかわかんないんだけど、うん。とりあえずごめんね。でも、手段を選んでる場合じゃなさそうだったし」


「あぁ、まったくだね!」




 そういう具合で俺たちは地下迷宮(仮)へ侵入したわけだが、中がどうなっていたのかを把握した。


 壁や床は石でできており、昔のゲームによくある四角いダンジョンさながらだった。所々で壁が崩れていたりひび割れていたりで土が見えているが、今すぐ崩落しそうな感じはない。


 壁には一定間隔で燭台が設置されているが、火は当然ながら無く、蝋もない。埃で蜘蛛の巣の様なものが壁と燭台の下にできているのを見て、人が来ている気配もないとすぐにわかった。




 今更だが、光源が全くないのにどうして周囲の確認が出来るのかというと、ナクアの魔法道具【フレアラ】のお蔭である。素材は石ころでも骨でもいいらしいが、呪文を彫って魔素を馴染ませると光りを放ち続ける。俺はそれを首飾りにし、ナクアは紐を腕に巻いた状態にしている。なお、スイッチのオンオフはない。徐々に光が弱まって、一日ぐらいで消えてしまう代物だ。そうなればもう一度魔素を馴染ませるだけで再利用可能である。




「どう見ても無人だよな」


 無言でナクアもうなずいてくれる。どうやら地下迷宮に入ってまで別の敵を作る事も無さそうだった。


 念のため、つい先ほどぶち抜いた壁の穴を見る。

 穴の大きさはナクアがちょうど屈んで通れる位の穴だ。この大きさならデカい図体の赤子地蔵も通れまい。ひとまずの安心は得てもいいのだろうか。


(……おいおい。またフラグを建ててどうするよ)


 絶対にヤツは追ってくる。そう思っていた方が良い。この壁だってよくわからない力でも使って突破してくるに違いない。それくらいの予測はしておかないと、またひどい目に遭いそうだ。



 ふと、自然と空洞の奥が気になって自分の体で空けた穴を覗いた。

 そこにはただ、深淵に繋がる暗闇だけが覗いていた。そのはずだった。


 奴はいた。


 奴の血眼が、今にもその目玉が飛び掛ってきそうなほどに見開けて暗い闇から俺たちを覗いていた。





「さっさとここから離れよう」


「うん? まあ、もしかしたら地殻変動で流れてきた古代遺跡の一部だったりしたら、また土の中を掘り進めることになるだろうね。そうなれば大智くんはともかく、私は空腹で死んじゃうことになる……」



 どうやらナクアは背後の奴の挙動に気が付いていないようだが今はどうでもいいことか。どうせ恨みがましく睨みついていているだけだ。あの大きさの穴ではこちら側に侵入は不可能だろう。


 それにナクアの言う通り、現状の問題は奴ではなく進路だ。

 今まではナクアが食糧を何とか上手く分けて、ギリギリ食いつないだくらいだ。なるべく早く地上に出る必要がある。ここから先は空腹との戦いにもなる。


「ここがダンジョンだったなら、大きなおにぎりでも拾えるんだが」

「なに言ってるのさ? こんな所に落ちてたら絶対に腐ってるよ」


 そりゃそうか。風来人の不思議なゲームとは違うんだよな。



「まあ、いざとなれば……倫理的にあんまりよくないけど、俺の肉でも食えばいいんじゃないか? どうせ俺は不死身だし」


「……それは――」



 ナクアの顔がまたしても怖いほど、目を怒らせた気がした。一瞬だけだったが、その目で見られると心臓がキュッと絞られる様な感じがしてしまう。




「――ハア……。たぶんそれ、善意で言ってるんだよね」




 大きなため息をこれ見よがしにして、呆れた風にして見せた。それからナクアは何も言うまいと一本道の通路の先へと進み始めた。


「お、おい」


「早く行こ。いつまでもボーっとしてたらまた襲われちゃうよ」


 意味が解らなかった。なんでそんなに怒りを露わにするのか。さっきからそんな事ばかりで理不尽とばかりに思う。

 そう思うとやっと思い出した。今なら聞き出せる。




「なあ、一体どういう事なんだよ」

「なにを?」


「何を、て色々だよ。さっきから、思わせぶりな態度とって。ちゃんと説明してくれないと、何でそんな怒ってるのかわかんねえよ。それに壁を壊す前、俺の心を読んだみたいな発言しただろ。あとあのデカブツの事を赤子地蔵って呼んだ。それ、俺の思い付きで出た発想だ。何処でその名前を考えたんだ。そもそもお前、地蔵なんて知ってるのか?」


 思いついたままに、心当たりのままに、ナクアに問い詰めてみたが、しかしナクアにとっては別の関心があるのか、焦った様子が微塵も感じられなかった。


「……ふぅん。そっか。そう言う感じなのか」


 返した言葉はそれだけである。そもそも返事ですらないけれど。

 ナクアは突如嘲り笑うような酷い顔をして、正面に立った。




「じゃあいいよ。お互い言いたい事もあるだろうし。ね、ガイア君?」

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