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LUNAQUEST  作者: 昼空卵
フェルパーと文明
16/24

フェルパーと文明・3

 それから三日が過ぎた。朝の始まりを告げる鐘の音を聞いてルナは起き出す。今日は行商に出かける日だ。

 顔を洗って朝食を取ってから幌馬車に乗り込むのがいつもの流れだが、今日は食事の後はエリチェーンと一緒に宿の中庭を出て、通りで少し時間を潰す。自分たちの仕事を引き継ぐかもしれない相手を待つのだ。

「……あっ」

 かたかたという音がこちらに向かって響いてくるのを聞きつけたルナは音の方向を向いて、ぱっと花笑みを浮かべた。

 そこには幌馬車をたどたどしく操りながらこちらへ向かってくる一人の商人の姿がある。

 それが誰かルナは知っている。レスパだ。

「おはようございます」

「おはようっ!」

 緊張した面持ちで挨拶するレスパに、ルナは明るく返した。エリチェーンはといえば、いつもの微笑みを携えている。

「おはよう。……引き継ぐ決意を固めてくれたみたいだね」

「はい。俺で良ければ、やらせてください」

 これで交易商人への道が開かれたことになる。彼に行商を引き継いでもらえれば、自分たちは新しい商売に手を出せるのだ。

 教授に少々時間がかかるのかもしれないが、それは些細な事だった。ルナは嬉しさに耳をぴくぴくと動かした。

「ありがとう。出来る限り私達も支援させてもらうよ。じゃあまず運ぶ商品のことだけど……」

 エリチェーンはレスパを宿の中庭に招き入れ、行商で売り捌いていく基本的な商品の説明を始める。ルナは念のためにと彼の馬車を見張る役目を任され、通りに立ったままその様子を眺めていた。

「今回は商品を私達が用意してしまったから、売上は貰うけど、代わりに通行税と宿代、馬の餌代は出させてもらうよ。馬車の運転に慣れることと、道を覚えることに専念してくれ」

「わかりました」

 やがてエリチェーンが自分の幌馬車を操って中庭から出てきた。ルナも御者台に乗り込み、レスパも自分の幌馬車に乗り込んで、2台並んで通りを走る。

「レスパさん、うまく引き継いでくれそう?」

 途中そう訊いてみると、エリチェーンは少し考え込んでから言った。

「商売の面は全く心配してないよ。話通り真面目な人だし引き継ぎは問題ないだろう。ただ……」

「ただ?」

「一つ心配があるとすれば野盗対策かな。こればかりは私が心配しても仕方ないんだけど」

 一度だけだが、自分達も野盗に襲われたことがある。

 その時はエリチェーンが手際よく撃退したものの、行商人は生活必需品を取り扱うためその手の小悪党に狙われやすいのだとルナは教わった。

 街の外に出れば何が起きるかわからない。例え整備された街道であっても油断はできないのだ。

「一応そのあたりも道中教えていくよ。はっきり言って私のやり方は駆け出し行商人には何の参考にもならないし真似もできないから、一般的な行商人が取れる自衛手段をね」

「そうにゃの?」

「自分で言うのも何だけど、魔法生物を使役して、馬車にも色々手を加えて、魔術まで使う行商人なんて世界中を探したって他に居ないよ。そんな余裕があったらとっくに交易商人になってるさ」

 ルナにはレスパの幌馬車との違いが全くわからないのだが、どうやらエリチェーンのは特別製らしい。

 魔法生物はもちろん、魔術の写本だって高価な品だ。加えて馬車にも色々と手を加えているとなると、彼女は結構お金持ちらしいことがルナにも判った。

「どうしてエリチェーンは交易商人ににゃらなかったの?」

「ならなくても不自由なく食べて行けてたからさ」

 当然ルナの頭にはそんな疑問が浮かんで質問してみると、エリチェーンは平然と答えてくれた。

「毎日美味しいご飯が食べれて、暖かい寝床で眠れて、少し遊ぶ余裕があって、毎月ちょっとずつ貯金ができる収入があれば私はそれで十分さ。それが低すぎず高すぎず、満たされてる」

 その考え方は里に居た時の自分の生活そっくりで、そして理想の生活そのもので、ルナは親近感を抱いた。

「(あれ……でも)」

 しかし、胸の奥がちくりと痛む。

「(交易商人ににゃる必要があったのは、ルニャのせい……?)」

 自分がフェルパーでなければ、行商人として生きていけたはずだと思い当たったためだ。

 彼女は必要に迫られてこの道を選ぶ羽目になったのではないかと、ルナは考える。

 エリチェーンはこの選択に満足しているのだろうかと、不安になった。

「……ルナ?」

 その答えを出すことはできなかった。彼女の声に我に返り、ルナは慌てて返事をした。

「あ、ううん! 一緒だにゃって思ったの! そうだよね、毎日美味しいご飯が食べれて、温かい寝床でぐっすり眠れて、ルニャもそれで満足かも! ……今はお菓子があると完璧かにゃ?」

 取り繕うように笑顔を浮かべ最後におどけてみせると、どうにかエリチェーンを誤魔化せたらしい。

 彼女はいつものように微笑んだままだ。

「今度おすすめのお店を教えてくれる? お菓子はもうルナのほうが詳しそうだ」

「うん、いいよ!」

 お気に入りの露店や、アルドに連れて行ってもらった店を紹介するのもいいかもしれない。

 街に帰った時の楽しみが一つできて、ルナはひとまず抱いた不安を隅に押しのけることにした。

「気をつけてな」

「いってきます!」

 ルナはフェルパーの商人という珍しさから番兵にもすっかり覚えられてしまった。満面の笑みで挨拶をすれば、彼らもまた微笑んでくれる。

 門前市を抜け街道へ入るいつもの流れを経て、ルナは後ろを確認する。

 レスパはちゃんとついてきているようだ。ふと、目があった。

「……♪」

 何気なく手を振ってみると、彼ははにかんだ笑みを浮かべて手を振り返してくれた。

「ようこそ。お待ちしておりましたぞ、エリチェーン殿」

 道中特に変わったこともなく、ルナ達は最初の商売相手になる村、"エルロイ"へと到着し村人達から歓迎を受ける。

 一度ルナはどのように村の名前を決めているのかとエリチェーンに聞いたことがあったが、どの村も初代村長の名を取って付けているのだと教えてもらった。

 村が発展し規模の大きな街になると、偉大な功績を残した人物の名を取って改名することもあるそうだ。例えば王都の名は、大昔に活躍した"英雄"の名だと彼女は言っていた。

「――というわけで、私の行商はこちらのレスパさんが引き継いでくれることになりました」

「そうですか……。寂しくなりますのぉ」

 ルナが商売の準備をする傍ら、エリチェーンはレスパを伴い村長に彼の紹介と事情を説明していた。

「駆け出しですが、精一杯皆さんのお役に立てるよう頑張ります」

 レスパの表情からは緊張の色が伺えた。自分も最初の頃はあんな感じだったと思いながら、ルナは事の成り行きを見守る。もうすっかり準備ができて、いつでも商売を始められる。

「わかりました。これからもどうぞよろしく頼みますぞ。エリチェーン殿の紹介なら何の心配もいらない」

 すっかり色が抜けて白い髪と髭を蓄えた老人はそう言って微笑んでいた。

「エリチェーン殿も長い間ありがとうございました。我ら一同、あなた様の商売の成功を祈っておりますぞ」

 惜しむ声も上がるが、村長や村人は快く自分達を送り出してくれるようだ。この分なら、他の村も大丈夫だろうとルナは考えた。

「ありがとうございます。……では、お待たせしました。販売を始めますね」

「先にご注文のしにゃからお渡ししまーす!」

 レスパの手もあって商売はいつも以上に楽に行えた。彼は自分と違って最初から学がある。

 金勘定も慣れた様子で、エリチェーンが商売の引き継ぎに関しては全く心配していないと言っていた理由がよく判った。

 一通り売り終えたら村人たちに別れを告げて次の村へ向かう。そこでも同じ事をして、同じように名残惜しむ声を聞いて、そして最後には快く送り出してもらう。

「……いやぁ、無事に終わってホッとしました」

 ――全ての村を回り終え、行商を完全に終えた夜には、レスパもすっかり緊張の色を解いて朗らかに笑って食事を取っていた。

「とにかく行商に出る前日にギルドで情報を仕入れること。必要に応じて日程をずらしたり、護衛を雇ったりする。天気や野盗にはこうして対応することだね。情報は商人の命だ」

「わかりました! ……あの。本当に、ありがとうございます。俺、1から開拓するの正直言って不安だったんです。露店とは訳が違うし……」

「やっぱり、全然違うの?」

「えぇ。露店は遠くても門前市までですからね。街をこんなに離れたのは、実は俺初めてで……」

「そうにゃんだ?」

 ルナもエリチェーンも彼と打ち解けて、会話に花を咲かせていた。

「ルナは意外に思うかもしれないけれど、珍しい話じゃないんだ。街に住んでる人にとって、街を遠く離れることや別の街に出かけるっていうのは大きな出来事なんだよ」

「へぇー……」

「でも、お二人のお陰で助かりました。一緒に回るだけでも心配事とか不安とか、全部吹っ飛んじゃいました」

「うまくやっていけそうかい?」

 レスパはすっかり自信をつけたようで、エリチェーンのこの問いにも即座に返事をしてみせる。

「大丈夫です! お二人の築き上げた信頼を引き継いでみせます!」

「ん。いい返事だ」

「レスパさんにゃら大丈夫だよ! ルニャと違って、もういろんにゃこと知ってるもん!」

「エリチェーンさんに比べれば俺なんてまだまだですけど、頑張ります。あと一月、一緒に回って頂けるんですよね? その間に細かいところもしっかり覚えますよ!」

「頼もしい限りだね。……あ、そうだ。これを渡しておくよ、レスパさん」

 エリチェーンが鞄から羊皮紙の束を取り出しレスパに手渡した。彼はきょとんとした顔でそれを見ている。

「これは?」

「口で伝えるより、形にして渡したほうが助かるだろうと思ってね。村ごとの商品の価格や周辺の情報を纏めてある」

 その中身を知った彼は、ひどく驚いた様子だった。

「これ全部そうなんですか……!?」

「うん。ついこの間まで私も活用してたから役立つはずだよ」

「でもいいんですか? こんな大事なものを」

 レスパはその羊皮紙の束を、まるでどんなものよりも価値がある宝物を前にしたような目で見ている。

 その姿にエリチェーンは満足そうに微笑み言った。

「引き継いでくれる人が使うべきものだからね。遠慮はいらないよ」

 あの羊皮紙の中にはこの行商の大事なことが殆ど全て詰まっているといっても過言ではない。

 "情報は商人の命"と教えてくれたエリチェーンの価値観と照らし合わせれば、レスパが丁寧に扱うのも頷けるというものだった。彼もその価値が判る商人なのだ。

「ありがとうございます! ここまで力を貸して頂けたからには、俺、絶対うまくやってみせます!」

「頼んだよ。女神メイマもきっと微笑んでくれるさ」

 


 ――それから一月、ルナ達はレスパに付き添って彼の行商の様子を見守った。

 彼は最初の教授で殆ど要領を掴んだらしく、任せてみても何の心配もいらなかった。エリチェーンの渡した羊皮紙も役に立っているのだろう。

 順調に行商を進めるにつれて彼の自信も確固たるものになっていくのが、ルナは観察していてよくわかった。

 それはルナにとってなにより嬉しい出来事だ。もう彼に任せても問題ないとエリチェーンは言っていて、それはつまり、ついに自分たちが交易商人として活動できる下地が整ったという事実に他ならない。

 ――嬉しい出来事は更に続いた。

「えぇーっ!? ルナ達もランズベル王国にいくんだ!?」

「うん! そうにゃんだよミルローネ!」

 "太陽の槍"との再会だ。村娘ラフィの依頼を受けたあのアルムの村の宿駅に、たまたま彼らが宿泊していたのだ。

 ルナ達がそれに気づいたのは自分達が宿泊した翌日の朝で、朝食を取ろうと食堂に出てみれば見知った顔が席について食事をしていたときの喜び。

 それはルナにはとても言葉では言い表せなかった。

 久しぶりの再会に話も弾み、その最中自分達がランズベル王国ヘ交易に向かう事を知ると彼らは驚いていた。

「……ん? 『ルナ達も』と言ったね? ということは……貴方達もランズベル王国へ?」

「へへっ。鋭いね、エリチェーン! その通り、実はボク達もさ! ねー? ルドリア、クリフ!」

「アタシ達も強くなったからね。装備も、技術も。……もっと上の仕事に手を出す時期がきたって判断したのよ」

「別にあの国に行かなければそういう仕事がないわけではないのですが、見聞を広めるにもいいだろうと俺達の意見が一致したんです」

「なるほど。……ふふ。奇遇だね」

 感慨深げにエリチェーンが目を細めて微笑んでいる。そんな姿を見て、ミルローネはあの太陽のような満面の笑みを浮かべていた。

「運命ってやつだよ、きっとさ♪」

「もしよかったらどうかしら。アタシ達を護衛で雇わない? 一応何回か経験あるし、期待に応えられると思うわ」

 ルドリアの提案に、ルナは期待を膨らませて耳をピクリと動かした。また彼らと一緒に旅ができる。ルナはエリチェーンに寄り添って、おねだりをしてみた。

「ねぇねぇエリチェーン、お願いしようよっ!」

 少しの間考え込んでいたようだが、彼女は小さく頷いて言った。

「あの時みたいに馬車に乗ってもらうことはできないけれど、それでもいいかい?」

「えぇ、構わないわ」

「わかった。それじゃあ『太陽の槍』の皆さんに護衛をお願いしよう。交易品の用意に少し日数を貰うよ? それと報酬の方は、行き先に掛かる時間も考えて計算しておくね。報酬交渉は雇い入れる直前でいいかい?」

「えぇ、大丈夫。あの森での恩も返したいし、少し安くってもこっちはいいからね。……というわけでアンタ達、次の仕事は彼女達の護衛で決まりよ」

「やったぁ! ルナ、ハイタッチ! いぇーい!」

「えへへっ♪ いぇーい!」

 ミルローネが嬉しそうに両手を挙げたので、ルナもそれに合わせて両手を挙げてぱちんと小気味よく手のひらを叩き合わせる。それが喜びを示す動作だと以前教えてもらったのだ。

「おいおい……。前みたいな気楽な護衛じゃないんだぞ?」

「ま、そこがミルローネらしいっていうか」

 クリフとルドリアは苦笑いだ。けれど二人も嬉しそうだった。

「じゃあ、アタシ達は準備ができるまで拠点にしてる宿で待ってるわね。宿の場所は……あぁ、王都に戻るんだったわね? その時教えるわね」

「わかった。それじゃあその時に」

「またあとでねー!」

 ルナ達も食事を取るため、一旦彼らとの会話を止めて自分達のテーブルに戻る。

「……エリチェーンさん、ルナさん。本当に、お世話になりました」

 そこでやり取りを見守っていたレスパが、改まった様子で口を開いた。

 もうそこには不安な顔をした駆け出し行商人の姿はない。あるのは立派に仕事を引き継いでくれた、一人前の商人だ。

 エリチェーンも彼の姿を見て、佇まいを正して向き合った。ルナも彼女に倣う。

「こちらこそ。私達の仕事を引き継いでくれて礼を言うよ」

「頑張ってね、レスパさん! ルニャ、女神メイマ様が微笑むようにうーんとお祈りするから!」

「はは……ありがとうございます。俺自身も頑張らないといけませんね。お二人の積み上げてきたものに泥を塗らないよう努力します」

「……これは随分先の話になるかもしれないけれど」

 そう言ってエリチェーンが微笑みを携えて切り出した。

「もし貴方が行商から離れる時が来たら、同じように誰かに引き継がせて欲しい。村人の生活の為でもあるけれど、そうして誰かが導いてあげることで、新しい商人が生まれるから」

「もちろんです、お約束します。俺、エリチェーンさんから商人として大事なことを教わりましたから。それを未来の後輩にも、必ず伝えますよ」

「……! ふふ。そうか。よろしく頼んだ」

 "商人として大事なことを教わった"と聞いた彼女が、一瞬目を丸くしてからくすくすと笑った。

 ルナにはそれが彼女の照れ隠しのように見えた。よほど嬉しかったのだろうかと、思わず自分まで笑顔になった。

「ありがとね、また乗せてもらって」

「いいさ。帰るついでだからね」

 食事を済ませた後は、がらんどうの車内の中に“太陽の槍”の3人を乗せて王都への帰路へつく。

 彼らの拠点にしている宿の場所を教わってから別れ、次いでレスパに行商を完全に託して別れ、自分達も“黄金の子鹿亭”へ帰り着く。

「おかえりなさい、二人とも。どう? お仕事は順調?」

「うん!」

「順調だよ。明日から交易に出られるようになった」

「あら……おめでとう! よかったわねぇ!」

 宿の女主人に報告をすると、彼女は自分のことのように喜んでくれた。

「でも、そうなると今日であなた達を泊めるのも最後になるのかしら。ちょっと寂しくなっちゃうわね……」

 しかし、すぐにどこか物憂げな表情も見せた。その理由はルナも理解している。

 交易に出るということは、今までのように商売が終わればこの宿に帰ってこれるわけではない。長い間世話になったこの宿に、しばしの別れを告げることになるのだ。

 それは一つの終りを迎え、新たな始まりを迎えるということ。ルナの躰はふるりと震えた。

 宿の主人の言うように寂しくもあるが、それ以上に、やはり楽しみなのだ。

「王都は交易品を売り払うには適してるから、ちょくちょく帰ってくるよ。その時にはまた宿をお願いしたいな。それに……私はここが一番気に入ってる。ルナもこの宿が大好きだ」

「うん! ルニャ、ここで寝るのが一番好き! ご飯も美味しいし、大好きだよ!」

「だから交易商人になっても、私達の帰ってくる場所はこの『黄金の子鹿亭』さ」

「うふふ……。ありがとうエリチェーンちゃん。ルナちゃん」

 自分達の言葉に女主人も元の明るさを取り戻し、何か思いついたように両手をぱんと叩き合わせた。

「そうだ! 今日の夕食は少し豪華にしましょう! あなた達を明るく送り出してあげたいから! 二人をお祝いさせてもらうわ!」

「ほんと!? やったぁ!」

「えぇ。腕によりをかけて美味しいご飯を作ってあげる!」

 冒険者の宿で誰かを祝う時は、その宿に泊まっている皆が集まって盛大に祝ってくれることをルナは知っていた。今までも何回か、冒険者の旗を作って宿の壁に飾ったグループが奢りで食事や酒をうまそうに飲み食いしているのを見たことがある。もちろん、自分達もその奢る側に立ったことだってある。

 冒険者としての仕事もこなすことがあったエリチェーンは当然“黄金の子鹿亭”の冒険者ともそこそこ交流があり、ルナはルナでフェルパーの商人として宿の冒険者の間では有名になっていた。

 そんな彼らとお話をするのも商人の勉強の一環、とエリチェーンに教わり、ルナは彼らの冒険譚に積極的に耳を傾け、目を輝かせたものだ。

 果たしてその日の夜は、盛大な宴会となった。彼らは自分達の新たなる門出を祝い、食事や酒をうんと奢ってくれたのだ。

 飲んで食べて、騒いで笑って。宴も後半に差し掛かるともう誰の奢りだとか関係なしに皆が好きに飲み食いをしていたような気がする。これもいつもの光景だ。

 皆が自分達を応援してくれる。それが嬉しくて楽しくて、ルナは久しぶりに疲れてしまうまで笑ったのだった。


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