悪の華
自分の運命を知った時から死を怖がることが無くなった。
それと同時に生にしがみつくのもやめてしまった。
そう遠くない未来にこの命は尽きてしまうのだから、惜しむ理由がどこにあるというのだろう。
「アンジュ、ほら、綺麗な花だろう」
彼の今日手一杯に抱えられた色とりどりの花々。
「ありがとうございます、カルロス殿下」
満面の笑みを作って浮かべる。
表情に相反して私の心の中は冷え切っている。
「君は花が好きだから喜んでくれると思った」
花が好き?
果たしてそうだろうか。
花を見ても心躍ったりはしない。
嗚呼、でも、まだ何も知らなかったとき、一度だけ彼にそう告げたことがあったかもしれない。
律儀な男だ。
そんな昔のことを覚えているなんて。
「アンジュ、僕たちの結婚式は沢山の花で彩ろう。国中の花を集めて君だけの花園を作ろう」
彼の言葉に私は笑みを深めた。
そんないつかが来ないことを私は……私だけが知っている。
あと1年半。
それが私に残された時間だ。
私は知っている。
1年半後の卒業パーティー。そこで私は貴方との婚約を他でもない貴方自身に破棄されることを。そして、失意のまま、貴方の手で殺されることを。
だから、今、貴方が語るすべては夢物語。
いいえ、私とは決して交わることのない未来の話。
どんなに望んでも。
どんなにもがいても。
足掻くことすら無駄なのだ。
決して変更のできない運命。
「アンジュ」
差し出された手に手を置く。
握りしめられた手から温もりが伝わってくる。
でも、この温もりさえ偽り。
冷え切った心を温めてくれることなどない。
それでも偽りの笑みを浮かべてその日が来るまで偽り続ける。
悪役に相応しい末路の為に。
END