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第五話

「目が真っ赤だけど、一体どうしたんだ?」

 翌朝、ホテルのフロントで小出貴美恵と会った七尾一朗は、相手を見た途端「おはよう」という言葉も省略してそう問いかけた。

「…何でもありません。ちょっと眠れなかっただけです。」

「大丈夫か? 何だったら君はどこかで休んでていいぞ。探しに行くのは俺一人でなんとかなるし。」

「いえ、どうかご心配なく。お荷物にはなりたくありませんから。」

 そう返答した口許には笑みが浮かんでいたが、充血した目は笑っていなかった。

「そうか…じゃあ、とにかく昨日アタリを付けた場所に行ってみよう。」

 正体不明の緊張感にさいなまれながら、七尾一朗は小出貴美恵とともにホテルを後にした。目的地は目と鼻の先だったが、途中から雑然とした木立の間をぬって進む事になった。三本の直線が交差した地点と思われる場所に到達したものの、やはり地図に引いた直線は完全に正確ではないらしく、二人はビーコンの受信機をオンにしてそこを基点に周囲を丹念に探し回る事となった。

「反応しませんね。」

「まあ、この推理も当ってるかどうか確信がある訳じゃないからな。」

「そんな自信の無い事言わないで下さいよ。七尾さんらしくもない。」

「俺らしくも無いか…なあ、俺って小出君にどんな風に思われてるんだ?」

「…そうですね。頭脳明晰な合理主義者。それが時々鼻につきますけど、多くの場合は尊敬の対象です。」

「褒めてるのか、それともけなしてるのか?」

「間違いなく褒めてますけど。」

「あ、そう。」

「ただ、女性の気持ちは全く分からないだろうな、という気がします。」

「何故?」

「いえ、何となくですけど。」

「それじゃ分かる訳ないだろう?」

「…でしょうね。今の返答からも、それははっきりしています。」

「あのな…」

 発しかけた抗議を呑み込みながら、七尾一朗は手に持ったビーコン受信機に視線を移した。今まで光った事の無いLEDのひとつが点滅しており、同時に内蔵されたスピーカーから微かな信号音が聞こえ始めた。

「七尾さん…」

「ああ…どうやらビンゴだ。このままもう少し進んでみよう。」

 無言でうなずいた小出貴美恵とともに、七尾はさらに木々の間を進み続けた。点滅するLEDがひとつからふたつ、そして三つと増え、それに伴って信号音の音量も上がり続けた。やがて少し開けた場所に到達し、同時に受信機のLEDが全て点滅する様になった。周囲を慎重に見回した七尾一朗は、目の前の地面が少し盛り上がっている事に気がついた。

「ここか。」

 受信機の電源を落としてポケットにしまい、付近に落ちていた小枝を拾って、それで盛り上がった腐葉土を払うと、何かが埋まっている事に気がついた。よく見ると何か青い色の箱が地面に埋められていて、黄色いベルトの様なものが巻かれていた。しゃがみこんでベルトを掴んだ七尾一朗は、慎重に持ち上げて地面から引きずり出した。泥だらけながら、それが真新しいクーラーボックスである事が分かった。

「七尾さん、やりましたね。」

「ああ、来た甲斐があったな。さあて、一ファンと名乗る人物は、一体どんなプレゼントをよこしたのか。君の予想は?」

「そうですねえ、この大きさからすると、候補一は爆弾、二はビックリ箱、三は人間の生首。」

「まじめに答えろよ。」

「十分まじめですけど? それより、さっさと開けた方が早いと思いませんか?」

 二人とも、ゲームをクリア出来た高揚感で声が上ずっていた。小出貴美恵の提案を受け入れた七尾一朗は、クーラーボックスを封印している布テープを剥ぎとり、おもむろにフタを開けた。

「!」

 中身が何なのかを二人が把握した瞬間、夏場だというのに空気が凍りついた。寝不足と軽度の二日酔いだった小出貴美恵は半ば失神して七尾一朗にすがり付き、七尾一朗は小出貴美恵の身体を支えてやりながら搾り出す様な声で呟いた。

「よりによって、候補三かよ…」

 茫然として見つめるクーラーボックスの中に封じ込められていた人間の生首は、その皮膚の様子と周囲に立ち込め始めた悪臭から、既にかなり腐敗が進んでいる事が伺えた。

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