プロローグ
晴れ渡ってはいても、太陽が出る直前の空はまだ薄暗い。ましてそれほどの巨木が無いとはいえ、うっそうとした林の中では夜明けの僅かな光も遮られてしまう…そんな見通しの悪い木々の間を進み入る者がいた。左手にシャベルを持ち、携帯式のクーラーボックスを背負ったその者は、小さな懐中電灯で足元を照らしつつ、周囲の様子を気にしながら、林の中で僅かに開けた場所にたどり着き、ゆっくりと周囲を見回した。
「………」
何かに納得した様にうなずいた後、その人物は、木の葉に埋もれた地面の一点を、持っていたシャベルで堀り始めた。柔らかな腐葉土は、それほど時間もかからず掘り起こされ、背負っていたクーラーボックスを埋めるのに十分な大きさの穴を穿つ事が出来た。
穴にクーラーボックスを置き、それを隠す様に埋め戻した後、その人物は上着のポケットから何かの機械を取り出し、手の中で何かを調整する様な仕草をした後、縁の部分に突起したスイッチを押した。その途端、機械は小さなビープ音と共に幾つか並んだLEDを点滅させ始めた。
「……これで、よし」
満足そうな笑みを浮かべながら、その人物はもう一度機械のスイッチを押した。ビープ音とLEDの点滅が止んだ事を確認したその人物は、機械をポケットに入れ、その場を離れて行った…