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白ノ修羅  作者: イヲ
第五章・銀箭
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16

「……おい、いるか」


 枝藤が、扉を勢いよく開けた。

 真はちょうど着替えていたところで、慌ててシャツのぼたんをとじる。


「枝藤。どうしたの」

「神だ。おそらく、あと1時間で出現する」

「わかった。すぐ行くね」

  

 白いシャツにベージュのカーディガンを羽織った。

 慌てて廊下に出ると、枝藤と籬が立っていた。


「籬。どうしたの」

「今回は自分だけ同行することになった。エ霞と睡蓮は別動隊になる」

「わかった」


 枝藤にうながされ、黒いスーツをきた男性が運転をする車に乗る。

 運転手のうしろに座らされた真は、ぎゅっと手を握りしめた。

 自覚して神と戦うのは、数える程度しかない。


 視線を下げたままの真の頭に、かすかな重さを感じる。

 はっと顔を上げると、籬が不器用に真の頭をなでていた。


「籬……?」

「主はよくやっている。大丈夫だ。自分がいる」

「……ありがと」


 神と戦うことは苦しくつらいことだと、あの少女は言っていた。

 確かに、そうだ。

 けがを全くしないわけがない。

 痛い。

 苦しい。

 つらい。

 そういう思いを、あの少女はずっとしてきたのだ。

 

 枝藤だってそう。

 自分の命を削って、神と戦っている。

 自分のいちばん大事なものを削って。


 車に乗っておおよそ20分。

 まったく何もない場所だった。家屋も人影も何もないし、だれもいない。

 まだ神もおりていないようだ。

 車からでて、真は準備運動をするように、屈伸をする。


「真様、枝藤様、籬殿。ご武運を」


 黒いスーツの男性がこうべを垂れると、車を出していってしまった。

 おそらく、車をつぶされてしまうからだろう。


「いいか。今回の神は以前の阿修羅並みにでかい。だが今は枝柊とまるね様がいない。その意味は分かるな」

「うん。おれたち三人の力で倒さなくちゃいけないんだよね」

「まあ、そういうことだ。じき、出る。準備するなら今だぞ」

「わかった」


 じわ、と、地面から黒い液体がにじみ出てくる。

 その淀みのようなものは、あとからあとから土草を汚していく。


「これは……」

「籬?」


 籬が不審そうに泥のようなその滲みを見下ろした。

 なにか分かるのだろうか。


「まるで、生き物だ」

「いきもの? どういうこと?」

「心臓のような臓器がある。まるで、臓器だけは人間と酷似しているようだ」

「なんだと? それは本当か、籬」


 枝藤の表情がひどく険しくなる。

 なにか思い当たることがあるらしい。

 にじみ続ける淀みをにらんで、枝藤がこう告げた。


「枝藤……」

「いや、こいつはおそらく……人間を喰ったんだろうよ。伊勢(ここ)ではなく、東京のあたりでな」

「東京!?」

「ああ。そういうにおいがする。その分、力も強いだろう。いいか、死ぬ気で戦え」

「わかった」

 

 黒い淀みは徐々に人間のかたちを真似るように、四肢、頭が形作られていく。

 身長は2mほど。

 顔はのっぺらぼうのように、凹凸がない。


 真の足が、土を踏み込んだ。

 体を思い切りひねり、首の部分へと刃物のように足を振り下ろす。

 

 べこん、と生々しい音がする。


「下がれ!」


 影のような人型は、背中から触手のようなものを真へ伸ばしていた。

 真は直後、うしろに飛び傷はつかなかったが、地面に亀裂が走っている。

 一度でもあの触手にふれればおそらく、無事ではすまない。


 真のとなりを影が躍り出た。


 籬が自らの軍刀、花喰い鶴丸に扇面(ツルマル)の柄を握り、神に切りかかる。


「なに!?」

 

 籬の、焦ったような声。

 神へ鶴丸を食らわせたが、彼は動けないでいた。

 おそらく、刃が埋め込まれて動けないのだろう。


「籬!!」

「まて。鬼魔駆逐(きまくちく)


 枝藤の札が金剛力士(ヴァジュラダラ)のかたちをとり、籬を助けるために神へこぶしを振り下ろす。

 頭をつぶすような音をたて、煙があがった。


『……シュウ』


 かすかな、神の呼気が聞こえる。

 神は頭がひしゃげ、もはや人のかたちとは言えないが、それでも神は動いた。

 背中から再度、触手が金剛力士に突き刺さる直後に、枝藤が金剛力士を下げさせる。

 籬も隙を見計らい、後ろへ飛ぶ。


「形はどうにでもなる、ってことか。背中が弱点なんだろうが――。おい、籬。俺と真が真正面から攻める。あんたは後ろ……背中を切れ」

「承知した」

「真。俺の金剛力士は2秒後に顕現する。合図を出した2秒後に、神へ突っ込め。……無理はするなよ」

「わかった」


 神との戦いは、枝藤のほうが手慣れている。

 彼の言うことをよく聞いておいた方がいいだろう、と籬は思う。


 のろのろとした動きの神だが、背中の触手が厄介だ。

 決して触れてはいけない(・・・・・・・・)


「いけ!」


 枝藤の声のちょうど二秒後、真は足を踏み込み、神の脇腹に飛び込む。

 籬はすでに神の背中に回っていた。

 真のすぐ隣には、3メートルはある金剛力士が神へ拳を大きく振り上げている。


『……ゥウ』


 神の、わずかなうめき声。

 影のような黒いもやが、空気にとけるように消えてゆく。


 籬の一撃で触手がちぎれ、地面に落ち、すぐに霧のように消えたが――すぐに次の触手が鞭のようにしなった。

 それを視線の隅で認めた真は、目の前にある神を肩で押し倒す。


「主!」


 地面に押し倒された神に馬乗りになり、暴れまわる神を地面に押しとどめた。

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