3
「お久しぶりです。真殿。そして合成人間の方々」
今回は少女と女性の二人きりではなかった。少女のうしろには、真よりもすこし年上だろうか、少年がむっとした表情で立っていた。
金髪の女性がゆったりと頭をさげると、その青い瞳で真を見下ろす。
「……」
「何用か」
戸惑った真に助け船を出したのは、籬だった。
鶴丸に手をあてたまま、威嚇するように三人をにらみつける。
「そう睨むな。籬殿――と言ったかな。なにも、彼を殺すつもりで来たわけではない」
「……おはなしは、何なんですか。何のために、ここに来たのですか」
真はベッドの上から立ち上がり、そっと告げた。
緋袴と千早をはおった少女は胸元までの黒い髪をたらしたまま、黒い瞳でもってうなずく。
「まずは、自己紹介をしなければなりませんね」
少女が女性を見上げると、彼女はふたたびこうべをたれ、赤いくちびるを開いた。
「私は枝橘。そしてそこの少年は枝藤と言う」
枝橘という女性は、少女の名前を発することはなかった。
不思議におもっていると、彼女は硝子のようなほほえみを浮かべた。
今にもひび割れそうな笑みだった。
「私には、名前がございません。代々、そうなのです。このことはいずれ」
「いずれ? その先があるってか」
エ霞はどこか不機嫌そうに独り言をつぶやくようにもらすも、少女はほほえんだままなにも言わない。
だが、返事の代わりなのか、その病的に白い手を真に差し出した。
「覚えていらっしゃいますよね。真殿。あなたが父君に斬られた際、夢のなかでお伺いいたしました。その身に呪いを受けるか、それとも――遺物になるか。と」
「……」
遺物。人類を脅かすものの総称。もともとは人類のために造られたものが、まるで反旗を翻したように、人類を襲っている。
真は遺物とは人間と機械が混在したものが遺物だと教わった。しかし、違うのだということを、父親から聞いたのだった。
その「総称」だということを。
人間と機械が混ざった物体「だけ」ではない、ということを知ったのだ。
「あなたはその身に呪いを受ける、と仰いました。だからこそ――われら六合の皆元が参ったのです」
「待て。呪いとは、なんだ。どういうことなんだ」
「呪い――。それは、人類のために戦うと言うこと。それが呪いと言わずに何というのでしょう」
「ああ? んだ、そりゃあ」
少女の黒い瞳がエ霞を見つめ、そっと細めた。
まるで、なにかを見透かすように。
「あなたがたも、おなじでしょう。人類のためだけに戦い続けると言うこと」
「へっ、おあいにくだが、俺はそんな立派な志をもっちゃいねぇよ」
少女は驚いたように目を見開いたが、すぐにほほえみに戻した。
「人類のために戦うと言うこと」。真は呆然とその意味を模索し始めた。
彼女の言いたいことは、おそらく人類を守るために、遺物と戦えということなのだろう。
父に斬られた傷が痛む。
膿むように、じくじくと。
「なあ、主様ァ。さっさとそのガキを連れてけばいいんじゃねぇの?」
業を煮やしたように今まで黙っていた少年――枝藤が面倒くさそうに言い捨てた。
枝橘はその青い瞳でぎろりと枝藤を睨む。
彼は枝橘同様、金色の髪をしていた。それは染めてあるのかどうかは、分からない。
「な、なんだよ。本当のことだろ? 俺たちは、あのガキを迎えに来たんだって、なんで言わねぇんだよ」
「どういうことだ。六合の皆元。主を一体、どうするつもりだ?」
「枝藤! 物事には順序というものがあるだろう!」
「だってよぉ、面倒くせぇじゃんか」
枝橘は眉間に手をあてて、ため息をはき出した。
しかし、籬の問いには答えない。
「問いに答えろ、六合の皆元。回答次第では、貴殿たちを敵と見なす」
「おい、籬。そう目くじら立てるなって。あー、なんだか込み入った話になんなぁ」
もじゃもじゃの黒髪をぼりぼり掻いて、ちら、と病室の扉を見る。そこに、影ができていた。
エ霞と籬の目には、すでにそれが誰なのか分かっているが、真は呆然としたまま頭が働いていないのか、その影に気づいていない。
「琳。立ち聞きはずるいぜ。出てこいよ」
「に、兄さん?」
琳、という名前にようやく反応した真は、扉から入ってきた盲目の兄を見上げた。
サングラスをかけた琳は白い杖をつきながら、顔をこわばらせている。
彼は知っていた。六合の皆元という団体のことを。
そして、枝藤が言った意味も分かっているのだろう。
「――琳殿。琳殿はお分かりになっていたはず。一週間前のあのときから、こうなることを」
「兄さんも、分かってたの?」
「……そうですね。六合の皆元という団体のことは分かっていました。その目的のことも。そして、真。あなたをどうするつもりなのかも」
とじた目をふっと開いて、三人がいる場所を明確に見据えた。
第六感というものが異様に発達している琳は、ひとがいる場所を見ることくらい、わけがない。
「何で知らせてくれなかったの」
「六合の皆元という団体は、私たちが所属している団体、五室よりもあいまいな団体です。その確たる証拠がなかった。すみません、真。もっと早くに言い出せば良かった」
「待て、琳。その口ぶりからだと、真をそっちの連中に明け渡してもいいって聞こえるぜ」
「出来ればそれはしたくありません。しかし、六合の皆元という団体は、やんごとなきお方とつながっている。私たちが口出しすること――五室さえ、それは許されません」
「げ……マジかよ……」
「話がついたか? なら」
はやく来いよ、という枝藤に、枝橘がそれを切り捨てる。
「枝藤! おまえはすこし黙っていろ」
「……」
「真殿。結論から申しまして、あなたには選ぶ権利はありません。たとえこの国の裏組織、第五室室長のご子息だとしても」
枝橘は瞳を真にむけて、はっきりと告げた。