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白ノ修羅  作者: イヲ
第一章・漣
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「お久しぶりです。真殿。そして合成人間の方々」


 今回は少女と女性の二人きりではなかった。少女のうしろには、真よりもすこし年上だろうか、少年がむっとした表情で立っていた。

 金髪の女性がゆったりと頭をさげると、その青い瞳で真を見下ろす。


「……」

「何用か」


 戸惑った真に助け船を出したのは、籬だった。

 鶴丸に手をあてたまま、威嚇するように三人をにらみつける。


「そう睨むな。籬殿――と言ったかな。なにも、彼を殺すつもりで来たわけではない」

「……おはなしは、何なんですか。何のために、ここに来たのですか」


 真はベッドの上から立ち上がり、そっと告げた。

 緋袴と千早をはおった少女は胸元までの黒い髪をたらしたまま、黒い瞳でもってうなずく。


「まずは、自己紹介をしなければなりませんね」


 少女が女性を見上げると、彼女はふたたびこうべをたれ、赤いくちびるを開いた。


「私は枝橘(たちばな)。そしてそこの少年は枝藤(ふじ)と言う」


 枝橘という女性は、少女の名前を発することはなかった。

 不思議におもっていると、彼女は硝子のようなほほえみを浮かべた。

 今にもひび割れそうな笑みだった。


「私には、名前がございません。代々、そうなのです。このことはいずれ」

「いずれ? その先(・・・)があるってか」


 エ霞はどこか不機嫌そうに独り言をつぶやくようにもらすも、少女はほほえんだままなにも言わない。

 だが、返事の代わりなのか、その病的に白い手を真に差し出した。


「覚えていらっしゃいますよね。真殿。あなたが父君に斬られた際、夢のなかでお伺いいたしました。その身に呪いを受けるか、それとも――遺物になるか。と」

「……」


 遺物。人類を脅かすものの総称。もともとは人類のために造られたものが、まるで反旗を翻したように、人類を襲っている。

 真は遺物とは人間と機械が混在したものが遺物だと教わった。しかし、違うのだということを、父親から聞いたのだった。

 その「総称」だということを。

 人間と機械が混ざった物体「だけ」ではない、ということを知ったのだ。


「あなたはその身に呪いを受ける、と仰いました。だからこそ――われら六合の皆元が参ったのです」

「待て。呪いとは、なんだ。どういうことなんだ」

「呪い――。それは、人類のために(・・・・・・)戦うと言うこと(・・・・・・・)。それが呪いと言わずに何というのでしょう」

「ああ? んだ、そりゃあ」


 少女の黒い瞳がエ霞を見つめ、そっと細めた。

 まるで、なにかを見透かすように。


「あなたがたも、おなじでしょう。人類のためだけに戦い続けると言うこと」

「へっ、おあいにくだが、俺はそんな立派な志をもっちゃいねぇよ」


 少女は驚いたように目を見開いたが、すぐにほほえみに戻した。

 「人類のために戦うと言うこと」。真は呆然とその意味を模索し始めた。

 彼女の言いたいことは、おそらく人類を守るために、遺物と戦えということなのだろう。

 父に斬られた傷が痛む。

 膿むように、じくじくと。


「なあ、主様ァ。さっさとそのガキを連れてけばいいんじゃねぇの?」


 業を煮やしたように今まで黙っていた少年――枝藤が面倒くさそうに言い捨てた。

 枝橘はその青い瞳でぎろりと枝藤を睨む。

 彼は枝橘同様、金色の髪をしていた。それは染めてあるのかどうかは、分からない。


「な、なんだよ。本当のことだろ? 俺たちは、あのガキを迎えに来たんだって、なんで言わねぇんだよ」

「どういうことだ。六合の皆元。主を一体、どうするつもりだ?」

「枝藤! 物事には順序というものがあるだろう!」

「だってよぉ、面倒くせぇじゃんか」


 枝橘は眉間に手をあてて、ため息をはき出した。

 しかし、籬の問いには答えない。


「問いに答えろ、六合の皆元。回答次第では、貴殿たちを敵と見なす」

「おい、籬。そう目くじら立てるなって。あー、なんだか込み入った話になんなぁ」


 もじゃもじゃの黒髪をぼりぼり掻いて、ちら、と病室の扉を見る。そこに、影ができていた。

 エ霞と籬の目には、すでにそれが誰なのか分かっているが、真は呆然としたまま頭が働いていないのか、その影に気づいていない。


「琳。立ち聞きはずるいぜ。出てこいよ」

「に、兄さん?」


 琳、という名前にようやく反応した真は、扉から入ってきた盲目の兄を見上げた。

 サングラスをかけた琳は白い杖をつきながら、顔をこわばらせている。

 彼は知っていた。六合の皆元という団体のことを。

 そして、枝藤が言った意味も分かっているのだろう。


「――琳殿。琳殿はお分かりになっていたはず。一週間前のあのときから、こうなることを」

「兄さんも、分かってたの?」

「……そうですね。六合の皆元という団体のことは分かっていました。その目的のことも。そして、真。あなたをどうするつもりなのかも」


 とじた目をふっと開いて、三人がいる場所を明確に見据えた。

 第六感というものが異様に発達している琳は、ひとがいる場所を見ることくらい、わけがない。


「何で知らせてくれなかったの」

「六合の皆元という団体は、私たちが所属している団体、五室よりもあいまいな団体です。その確たる証拠がなかった。すみません、真。もっと早くに言い出せば良かった」

「待て、琳。その口ぶりからだと、真をそっちの連中に明け渡してもいいって聞こえるぜ」

出来れば(・・・・)それはしたくありません。しかし、六合の皆元という団体は、やんごとなきお方とつながっている。私たちが口出しすること――五室さえ、それは許されません」

「げ……マジかよ……」

「話がついたか? なら」


 はやく来いよ、という枝藤に、枝橘がそれを切り捨てる。


「枝藤! おまえはすこし黙っていろ」

「……」

「真殿。結論から申しまして、あなたには選ぶ権利はありません。たとえこの国の裏組織、第五室室長のご子息だとしても」


 枝橘は瞳を真にむけて、はっきりと告げた。

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