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白ノ修羅  作者: イヲ
第五章・銀箭
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 それから一週間、足もだいぶよくなったときのことだった。

 連絡があったのは。


「真様」


 風に当たっていたとき、巫女と呼ばれる女性が、頭を垂れていた。


「はい……?」


 彼女の手には、電話がある。兄からだろうか、とすこしだけ、期待するが、その期待はすぐに裏切られた。

 いや、裏切られた、と言っては相手方に失礼だろうが――。


「エ霞!?」

「よう、真。なんか久しぶりだな」

「うん。元気?みんなも」

「ああ、そりゃ問題ない。もうじきっつか、あと3日くらいでそっちに戻れそうだ」

「ほんとう!?」


 今まで、枝藤たちがそばにいてくれたことでさみしさはなかったけれど、エ霞たちがいてくれると、やはり安心する。

 なぜ東京に戻ったのか分からなかったが、今はあと3日でエ霞たちに会えるということが、真のこころを強くゆさぶった。


「悪かったな。おまえのそばにいるって言ったのに」

「ううん。大丈夫。枝藤たちもいるし、さみしくないよ」

「そっか。まあ、そういうわけだ。おまえこそ、怪我とかしていないか?」

「……えっと。ちょっとだけ怪我をしたけど、大丈夫」

「怪我……?」


 不穏な声色をしたエ霞に、真はあわてて再び「大丈夫」と伝える。

 結局は、自分が弱かったから怪我をしたのだから。


「まあ、おまえが大丈夫だっていうなら信じるけどよ。じゃあ、またな」

「うん。連絡をくれてありがとう。エ霞」

「おう。じゃ、切るぞ」

「うん」


 切れた電話を、巫女の少女に返す。

 うやうやしくそれを取った彼女の手は、わずかにふるえていた。

 おそらく、恐ろしいのだろう。「皇」という存在が。


「ありがとう」


 彼女は深くこうべをたれて、そっとそこから立ち去っていった。


「こんな所にいたのか」

「枝藤。エ霞から電話があってね、明後日帰ってきてくれるって」

「……へえ。まあ、戦力が戻ってくるのはいいことだな」


 枝藤の表情はかたい。

 なぜだろうと思っていると、彼のうしろに、少女が立っていた。枝藤たちがおそらく恐れているであろう「主様」という少女が。


「真殿。すこし、よろしいでしょうか。神殿の中へお入りください」

「分かった……」


 彼女のあとについて、神殿の中へはいる。

 相変わらず、ひどく暗く、足下もおぼつかない。

 松葉杖もついているから、その音が広い神殿内に響く。


「……!」


 神殿のなか。

 あの、注連縄に封じられていた神。

 それがほんの少し、大きくなっているような気がした。

 大きくなっているというよりも、肌がひりつき、呼吸がうまくできないことに驚愕する。


「なぜ……」

「なぜ? それをあなたが仰るのですか? 皇よ」

「え?」

「あなたの力が足りないから、このまつろわぬ神が成長しているのです。やはり……急いだ方がいいかもしれませんね」


 千早に緋袴を身につけた彼女は、亡霊のような表情で真をみつめた。

 ぞっと皮膚が総毛立つ。

 おもわず、膝が笑いそうになった。


「あなたの心を封じます。今、すぐに」

「……おれの力が足りないから……あなたは人の心を封じて、それで満足なの?」

「満足などという思いなどありません。そうしなければならない。いわば使命です」


 人類のために。

 彼女は、そう言うのだろう。

 けれど、それに流されてはイザヤに接続(つながれ)ていたときと同じだ。

 人類のため、未来のためだけに、真が犠牲になる。


(どうして今更、そんなことを思うんだろう。エ霞の声を聞いたから? エ霞が言ってくれたことを、思い出してしまったから?)


 ここにある、と言ってくれた。

 思い出も、命も、心も。

 すべて、エ霞たちは受け入れてくれた。人工生命体だから何だというのだろう。彼らは、目の前にいる少女よりも人間らしいではないか――。


「……いやだ、と言ったら?」

「あなたに選択肢などありません。最初から」

「……おれは、人形じゃない。六合の皆元の人形じゃない……」

「あら。違いましたか? 私は、言うことのよく聞くお人形かと思っておりましたが」

「ちが……」


 とん、と真の胸に彼女の細い指が当たった。







「そうか……」


 枝柊は、諦めたように息をついた。

 となりには、まるねがいる。彼女はつらそうに顔を伏せていた。


「主様は、あいつを嫌っていた」

「そのようだな。しかし……主様は何を焦っておられるのか……」

「そりゃ、心がまだ残ってる(・・・・)ってことは力が足りないって判断されたんだろ」

「いや。それは分かるが……。何かがおかしい。今の主様は」


 なにかが。

 なにかを隠しているような、そんな感覚を覚える。

 そして、「感情」に走りすぎている、とも思う。


「姉様は……やはり、真どのがいらっしゃってからどこかおかしいです。真どののことを嫌っていることは分かります。けれど――もっと、深い場所に、なにか淀んだものを隠しているような」

「淀んでいるもの?」

「姉様はやはりなにか隠しています。とても、重要な何かを。それに、黒服たちから聞いたのですが、姉様は合成人間さんたちの製造を要求したそうです。なぜ、いきなりそんなことをしたのか……。それも分かりません」

「合成人間の製造を許可しただと?」

「ええ。表向きは政府の要人たちの保護だと仰っていますが……」


 まるねは、おのれの膝を見下ろし、手を握りしめた。

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