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白ノ修羅  作者: イヲ
第四章・悪鬼
32/52

14

 真は一瞬、なにが起こったのか分からなかった。

 ただ、足を何かに貫かれた衝撃があった。

 そして、視界の先に血しぶきがあがったことを認める。

 続いて感じたのは、激痛。

 それでも、悲鳴はあげなかった。くちびるを噛みしめ、そこから血を流しながら、腕の上でもがく。

 ――もがくが、なにかが阿修羅にぶつかった振動で、そこから転げ落ちる。

 地面は、すぐだった。

 血を流しながらも、真は着地する。その所為か否か、血が地面に散った。


「おい、大丈夫かよ」


 精神をすり減らしながらも心配してくれる枝藤に頷いてみせる。

 そして、顔をあげる。

 阿修羅に立ちふさがっているのは、太白神(たいはくじん)と呼ばれる、将の姿をとった神の姿だった。

 兜に大鎧、具足――六具をつけたその太白神は、黒い仮面をつけている。

 そしてその手には武具――巨大な剣を持っていた。

 一目で、枝柊の式神なのだと知る。

 太白神は剣をふりかざし、阿修羅へと袈裟斬りを見舞う――が、相手は腕が四本あり、それぞれに武具を持っている故か――あえなくそ太白神の剣は弾かれてしまった。

 しかし、枝柊には焦りの表情はない。ただ淡々と、見つめている。


「真どの。あとは枝柊にお任せください」

「大丈夫。まだ、戦える」


 臑を傷つけられ、それでもなお立とうとする真の意思に気圧されたまるねは、再び手を合わせた。

 まるでなにかを祈るように、目をつむり、くちびるをほんの少しだけ開ける。

 なにを呟いていたのかは分からないが、足の痛みがかすかに和らいだ。


「え……?」

「私にはこれくらいしかできません。あなたが戦うと仰るのならば、私はそのお手伝いをすることしか……。ですが、十分にご注意を。これは暗示です。あなたの脳が痛みを感じることを止めさせただけ」

「十分だよ。ありがとう」


 血はまだ止まらない。

 けれど、痛みがないならば動ける。

 真はまだ軽くなったままの体を動かし、太白神を飛び越え、そして阿修羅の肩に飛び移る。

 

「まるね。何故行かせた」


 枝柊は血にまみれながらも飛ぶ真を認め、まるねに問うた。


「あの出血量だと、数分で貧血をおこすぞ」

「……知っています。ですが、あの方の殺気は本物。ここで待機することなど、承知しないでしょう」

「おまえがそういうのならば、俺はなにも言わないが5分たったら、強制的に下げさせるぞ」

「分かりました」


 手を合わせたまま、まるねはうなずいた。

 

 真は太白神との攻防を続けているうちに、もうひとつの一面――左の顔に思い切り左手をたたき込んだ。

 ぎしっ、と音をたてて、阿修羅のふたつめの顔にヒビが入った。

 そのヒビから亀裂が入り、やがて――崩れ落ちるようにばらける。

 ほぼ同時に、二本の腕も武具も塵になって消えてゆく。


 その後の真の動きは、素早いものだった。肩から手をついて前方に飛び、最後の一面を獰猛な獣のような瞳で睨んだ。

 だが阿修羅は目は動かない。本物の銅像のようだ。

 しかし真がそこにいることを認めると、残った二本のうち、一本の手で握っている小ぶりの剣が真を襲う。しかしすぐに軽いステップで避ける。そのまま足を止めずに阿修羅の最後の顔の目の前に飛び、左腕が嫌な音をさせたのも無視をして、――やがて阿修羅の直面を言葉通り、「殴りつけた」。

 そして、同じくして、武器がなくなった阿修羅の腹に、太白神の剣が深々と突き刺さった。


 阿修羅は、もう動かなかった。

 ただ塵のように、散ってゆく。

 その間、およそ4分。

 真が地面に着地した直後、再び激痛が左足に襲った。


「っ」


 息を呑み、土の上に無様に転がる。

 血まみれのチノパンは左足の部分だけがズタズタに引き裂かれ、見る影もない。


「すこし、我慢していろ」


 枝柊の声が聞こえる。だが、真にとってはなにを言っているのか分からなかった。

 直後、紐か布で足を縛られた感覚を脳が覚えた。

 ぐ、と喉からおかしな声が出たが、すでに真の体は動かすことさえ困難な状況にある。

 枝柊はそれを知ったのか、ひょい、と真の小柄な体をかついで、車に乗り込んだ。


 黒服の男性はもう、車に乗っていた。

 それももう、真のかすむ視界ではそれしか見ることができずに――やがて、脳が目をつむるように、と真に命じた。

 逆らうことができずに、彼はそっと目を閉じた。



「気を失ったようだ」

「そのほうがよいでしょう。痛みで苦しむよりは」


 3キロメートルを黒服はゆっくりと車を動かし、振動をできるだけさせないように慎重に運転しているようだ。


「枝藤」

「……あんだよ」


 疲れ切ったような声が聞こえる。前席に座っているからか、表情は分からない。


「今回で、ほぼこの少年の力量が分かった。無論、おまえの力量もな」

「――ちっ、分かってるよ。どうせまだ修行が足りねぇって言うんだろ。俺も、そいつも。だから、あんたも本気を出さなかった。何回テストすりゃいいんだ」


 それ以上、枝柊も枝藤も、まるねも何も口を開けることはなかった。


 真の左腕とリンクしている脳のなかで、誰かの声が聞こえてきた。

 女性の声だったが、何を言っているのかまでは分からない。

 そもそも何故、声が聞こえるのだろう――。


 そう思っているうちに、真はふたたび再び泥のように眠りこんだ。

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