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白ノ修羅  作者: イヲ
第一章・漣
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 黒い着流しに真っ黒な髪の毛を上にあげている高峯は、合成人間二体を見つけると、そっと目をほそめた。


「君たちか」

「真なら眠ったわ」

「……そうか。ならば、明日にしよう」

「あんたが」


 背をむけた高峯に、睡蓮がつぶやく。

 その声はどこか冷え冷えとしていて、真にむけていたような声色ではなかった。

 おもわず籬は睡蓮を見据える。


「あんたが、真を斬らなければ――そんなことはなかったのにね」

「睡蓮」

「……言い訳はしまい。私が真を息子だと思ったことは一度もなかった。そう思わないようにしていたのも事実だ。私など――琳が言ったように、父親の資格はあるまいよ」


 どこか自嘲気味に笑い、廊下を去っていく。その背中はどこか疲れているようにも見える。睡蓮にとっては、どうでもいいことだったが。


「ふん、やっぱりいやな男――。真の父親じゃなかったら、もっと言ってやったのに」

「睡蓮、おまえはこれからどうする。自分はこのまま、真の警護にあたるが」

「残念ながら、私は真の顔を見れたから琳のところに戻るわ。エ霞もいるみたいだし」

「そうか」

「じゃあね。しっかり守るのよ」


 彼女は病院の窓から体を投げ出して、夜の闇に消えていった。

 せめて出入り口から帰ればいいというのに。おそらく面倒くさかったのだろう。籬はため息をついて、真が眠っている病室にふたたび戻った。

 真はすでに眠っている。

 血圧も脳波も正常だ。ベッドのそばにある椅子に座り、籬はじっとねむる真のすがたを見つめる。

 ちょうど一週間前に、点滴が取れた。

 ふつうの食事もできるようになった。

 喜ぶべきことだ。

 しかし、その一週間前に、イザヤと呼ばれる暴走した「AI」ですらない、意思の塊になってしまった機械を破壊した「六合の皆元(クニノミナモト)」と呼ばれる団体が、籬たちの前に現れた。

 彼女たちは真を「われらが主」そして、「(スメラギ)の血脈をもつもの」と呼んでいた。

 イザヤを破壊してから彼女たちは姿を消し、それからは沈黙を守っている。



 その日の病室は、ただただ静かだった。

 不気味なほどに。







 次の日のテレビには、粛々と昨夜のビル爆発のニュースが流れていた。

 それをくちびるを結んで見つめている真に声をかけようとしたとき、扉が派手な音を立てて開いた。


「真!」

「エ霞!? どうしたの」


 もじゃもじゃした髪の毛のエ霞が、慌てた様子で病室に飛び込んでくる。

 猩々緋の羽織りをはおったままの彼は、真を見つけると安心したように息をついた。


「よかった。いたか」

「エ霞。一体どうしたんだ。何か、あったのか」

「籬、この部屋に誰もいれてないだろうな」

「無論だ。昨夜から睡蓮以外誰も入れていない。高峯殿が来たが、帰って行った」

「そうか。いや。実はな、昨日の爆発で犯人が特定できたらしい。それが――」


 そこでエ霞は口をつぐみ、真を見下ろした。

 おそらく、言いづらいことなのだろう。それでも大丈夫だと頷いてみせる。


「観世水の分家――紅葉賀(モミジガ)の人間だった、と」

「……そう、なんだ……。何となく、そうじゃないかなって思っていたけど」

「だが、何のために……」

「そりゃ分からん。まだ個人を特定できたわけじゃないからな。それに、紅葉賀の人間だと特定したのは、何でも六合の皆元とかっていう連中だ」

「なんだと!」


 イザヤを破壊し、そのまま姿をくらませた団体。

 あれらは一体何者なのか、今ではまったく分からない。


「まったく、不気味な連中だぜ。いきなり無線に割り込んできて、紅葉賀の仕業だ、なんてな」


 六合の皆元という団体は、籬やエ霞、真には分からないが、高峯や琳は知っているという。しかし、口には出さなかった。

 その意味はいまだ三人には分からない。

 だが、分かる日が来るのだろう。否応なしに。


「けど、まあ、真が無事で良かった。分家の人間なら、見舞いに来てもなにもおかしいことはないからな」


 とん、と真の頭を撫でて、エ霞は笑った。

 大丈夫だと、心配いらないとでも言うように。


「ねえ、エ霞、籬。六合の皆元って何なのかな」

「さぁなあ。けど、不気味な連中ってのは間違いねぇな。あれから何も言ってこないし」

「これでしまい、というわけではないだろうな」

「うん……」

「……ん?」


 エ霞がふいに、天井を見上げる。おそらく、無線が入ってきたのだろう。籬も同様に、無線に気づいたのか梅紫の瞳をまたたかせた。

 静まりかえっている病室は、真にとって恐ろしいものだった。

 怖い。

 静かな場所が。

 家にいたころは、ずっとずっと静かで、どこまでも――沈黙しかなかったというのに。

 籬やエ霞に出会って、真は弱くなったのかもしれない。

 いや――弱くなったのだろう。

 死ぬことが怖くなった。

 ひとりでいることが寂しくなった。


「真」


 エ霞の声で我にかえる。

 籬よりもすこし赤みのかかった紫の瞳が、こちらを見つめていた。


「どうやら、奴さんがご到着みたいだぜ」

「……六合の皆元のこと?」

「そうだ。今から5分26秒前、この病院に到着したようだ」


 真っ黒な外套から覗く軍刀――「花喰い鶴丸に扇面」に手を掛けて、扉を睨むように見据えている。

 おそらく、彼女たちは敵ではない。敵ではないが、味方とも言いづらい。


「まっすぐこちらに向かってくる。主の兄上や父上も今、知った。故、到着するのは遅れるだろう。どうする。扉の前で待機させるか。指揮権は今、主にある」

「大丈夫」

「了解」


 籬は短く返事をすると、鶴丸に手をかけたまま動かない。

 警戒はしているのだろう。

 エ霞も黙ったまま、扉を鋭い目で見つめている。

 ベッドの上にいたら、いくら訳の分からない団体とは言え、失礼だろう。真は今のうちに居住まいを正して、ベッドの上にすわった。


「失礼いたします」


 凜とした女性の声が聞こえる。

 あの日、真や籬、エ霞や父たちの前に姿を表した、金髪の女性だろう。

 真ははい、と返事をして、扉を開けようとしたが、籬に制される。

 かわりに籬が扉を開けて、客人を招き入れた。

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