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白ノ修羅  作者: イヲ
第四章・悪鬼
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 次の日の朝も、いやなねっとりとした風が吹いていた。

 朝早くに起き、食事をとったけれど、あまり喉をとおらなかった。

 廊下からみえる外を見ると、槍や薙刀をもった巫女たちが大勢立ってる。


「……」


 異様な空間だった。


「真様」

「あ……」


 背後にあらわれたのは、枝橘、枝柊、枝藤の三人だった。合成人間たちはいない。

 彼らはそれぞれ、昨日と同じような黒いスーツを着ていた。

 枝藤はすこしだけ、こわばった顔をしている。


「籬たちは……?」

「彼らなら、すでに配置についております。真様。お覚悟はよろしいですか」


 淡々と、枝橘がささやく。

 枝藤とはちがい、彼女の表情はかたいものの、こわばってはいない。

 ただ、ほかの巫女たちとは違い、武器になるものは持っていなかった。


「大丈夫。あれと戦う覚悟は前からついてるから」

「そのお覚悟、ご立派です。いつ神が降りるか分かりません。お覚悟がおありでしたら、早々に神殿前へ」

「わかった」


 うなずき、私服のまま神殿の前へむかった。

 そして、さらにその異様さを肌で感じる。

 まるで酸素がないように、息苦しい。おもわず、喉をおさえる。


 合成人間たちの姿が見えない。見えない場所に配置することに、真の実力を測ろうというのだろう。

 ――のぞむところだ。と、自身を鼓舞する。

 このときのために、(目的は違えど)ずっと、幼いころから体術の稽古をしてきたのだから。

 ぐっと、こぶしを握りしめる。

 となりに、まるで控えているように立っている枝藤に、ふいに思ったことを問うた。


「彼女たちは、みんな戦えるの?」

「馬鹿にするんじゃねぇよ。あいつらは、主様とおまえを助け、仕える巫女だ。ちょっとやそっとじゃやられねぇ。まあ、寿命は縮むけどな。相手は神なんだから」

「枝藤も、おなじでしょう。命を削って、戦っている。どうしてそんなことをするの?」


 枝藤は青い瞳を真に向けて、すこし目を細めた。

 それでも、決意をこめている、力のある光がある

「別に、最初はどうでもよかったさ。俺の家はずっとこういう家系だった。決められてた道なんて、どうでもいいと思ってた」


 めずらしく枝藤は饒舌だった。

 まだ時間があるということだろうか。


「命をかけて戦うなんて、ダサいと思ってたし、馬鹿らしいとも思ってた。でも、ある人に言われたんだ。それこそが尊いということを。俺は別に人間を守りたいなんて思ってないし、どうでもいいと思ってる。自分のために戦えばいいと、その人は言ってくれた」


 そのひとはだれなの、とは言えなかった。

 風が強くなってきた。

 肌にはりつくような、不穏な風が、「神」をつれてくる。


「来たぞ!!」


 声を張ったのは、誰だろうか。聞いたことのない男性の声だった。

 その声に、体が固まる。その光景が、異様すぎたからだ。 

 砂利のなかから黒い水がにじみ出るように、じわ、と何かが這い出してきた。

 伊勢に入ってみたものとおなじだった。

 ヒト型であったり、幾何学模様のような影がゆらゆらと炎のようにゆれている。


 それが、何十も存在した。

 巫女たちは雄々しく足を踏み出し、槍や薙刀を神に向かって刃を振るっている。

 

「おい、さっさと出ろ。それとも何だ、怖くて戦えないか」

「……そんなことない。覚悟はできてるって、言ったから」


 神は、こちらに気づいたのか神殿の方へ向かってくる。その動きはとても奇妙で、決して人間の動きではなかった。

 真に向かってくる神は、ヒトの形をもったものだった。

 膝が曲がるべき方向に曲がらず、気味の悪い走り方でこちらに的確に向かっている。


 真は目を閉じた。

 すっと息を吸い、そして吐く。

 もう一度、それを繰り返す。


 呼吸を整えたのだ。

 呼吸は大切だ。

 精神を集中させるためには。


 そうして――ゆっくりと目を開く。


 もう、神は2メートルほどの距離まで来ていた。

 小柄な体は風のように舞った。

 飛んだのだった。


 枝藤は目を見開く。

 あのか細い少年の、どこにあんな力があるのだろうか、と。

 

 真の技は、猛烈なものだった。

 まるで空を舞う鳥のようにしなやかに動き、獣のように神々を「足と手」でなぎ倒している。

 体ひとつで、だ。

 枝藤は知識として分かっていたが、理解していなかった。

 ここにいる誰もが、自分の「武器」がある。

 合成人間は知らないが、決して左手が義手だとはいえ、身一つで戦いはしない。

 なぜなら、力が足りないからだ。

 だというのに――。


 あの少年は、どれほどの鍛錬をしてきたのだろうか。

 想像を絶する。


 じゃりっ、という音がする。

 砂を踏みしめた音だった。

 枝藤がみていた中で、真がまわりにいる神々をなぎ倒したあと、足を地につけたのをみたのは初めてだった。


 枝藤は見とれていたのかもしれない。

 乱舞とはこういうことなのだ、と。



――修羅だ。



 まさに、白き修羅。

 枝藤は戦慄したのだった。

 

「枝藤?」


 緋色の瞳をした修羅は、不思議そうにこちらを見据えた。


「よそ見すんじゃねえ!」


 口からでたのは賞賛のことばではなく、険しい声だった。


「うん」


 真はすぐに神々に向き直り、素直にうなずく。

 視線のさきは、思ったよりも神々の数がおおく、巫女たちは苦戦しているようだった。

 枝藤はようやくその場から動き、駆けた。


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