新士発露
[7 新士発露 (しんしはつろ)]
あの戦いの後、まともに動ける者はいなかった。
フラガは宝石たる結晶に閉じこもり、暫し返答すらしなかった。
ナイルは定義の調律者の能力の使い過ぎで、頭痛を訴え、テント内にうめき声を響かせていた。
ソーマは初めて使う神氣や名の負担が祟り、ナイルと宜しく転がっていた。
ヴリトラに至っては、他三人程ダメージは酷くなかったが、魂魄浄域を使って以来、身体の節々から痛みと熱を発して、寝込んでいた。
体調不良で灰燼と化した荒野に放り出された三人と一個は、重すぎる体を引き摺り、どうにか休憩するのに適度な廃墟を見つけ、転がり込んでいた。
そらから二日経過し、なんとか持ち返したのはナイル一人。
それから食料調達などしてくれたナイルのお蔭で、ヴリトラとソーマも順調に快方へと向かうことが出来た。
全員が復活するには、実質五日を必要とした。
「眩しい」
久々に太陽の下に晒す肉体。
明滅するので、眼を萎ませて、ヴリトラは晴天の空を見上げた。
「あうぅ!」
太陽の下に出られて嬉しいのか、ソーマは犬宜しく走り回っていた。
「元気よね。
とても、昨日まで寝込んでいたなんておもえないわ」
ナイルは光合成をしている草木のように太陽へ伸びをする。
身体全体で、その命の糧を受けるように
「さて、これからどうするつもりなの?」
皆思い思いに太陽を楽しんでいたところに、ナイルは本題を切り出した。
この安穏とした状況に身を委ねていたいが、状況が状況なだけに先に進まない訳にはいかない。
「私はこの国の首都、京都を目指すわ。
そこにいけば知り合いの知り合いがいるらしいから、協力を仰げると思うから」
「…気がついているか?」
ヴリトラはナイルの質問に答えず、何の関連性もないことを尋ねる。
ナイルは察しているらしく、眉間に皺を寄せた。
「隔離が強化されたことかしら?」
「流石だな」
「確か、帝釈天が消えた後よね。
弱っていたから辛かったわ。
恐らく、外からは侵入は可能でしょうけど、内部から脱出は無理でしょうね。
私ぐらいじゃないかしら、外に出る手段を持ちえているのは」
「帝釈天の最後、あれをどう思う?」
「喰われた。
あれはそう表現するのが正しい。
私にはあの空間に取り込まれていく神様が、咀嚼されているように見えたわ」
「やはり、そう見えたか」
「…こんなことなら、もっと勉強しておくんだったわ。
責めて敵の正体だけでも明白にしておかないと、打つ手が攫めない。
まぁ、一つだけハッキリしているのは、この闘いは罠ね。
…罠を仕掛けたものを、表舞台へ引き摺り出す為にも、調べる必要がある」
「噺か」
「そう、伝承の類を調べられる場所が必要だわ。
首都にでも行けば、それなり資料が揃っているでしょう。
だから京都へ、私は行くわ」
ナイルは手を振りながら、歩を進めていく。
「それに、神に気紛れで散っていく命なんて見たくないのよね。
喩え罠でも、私は闘いに身を投じるわ」
ナイルは、二度目は尋ねなかった。
自分の身の振り方はご自由にと、食料調達に使った車へと乗り込む。
その助手席に無言でヴリトラが乗り込んだ。
それを見ていたソーマが置いていかれるものかと、後部座席に跳び込んで来た。
「…一様、訊いとくわ」
「なぁに、首都とやらを見たくてな。
案内役がいるのに、それを棄てるのも益体だろう」
「素直じゃないわね。
同意とか、そういったものを言えないのかしら」
(素直に言えば捻くれた解釈をして、困らせる癖に。
捻くれたぐらいが丁度いい)
フラガが茶々をいれ、二つの堅物を相手にしてしまったことにナイルは不機嫌に頬を膨らませてみる。
(年齢を考えたらどうだ)
少女染みた行動をするナイルに、フラガが嘆息気味に禁句を放った。
ガンッ!
ハンドルにコーイヌールが叩きつけられていた。
「フラガっ、いい加減にっ、そのデリカシーに欠ける性格っ、なんとかしないとっ、割るわよっ」
微笑んでいるのに眼が全然笑っていない顔で、言葉の合間合間にハンドルにコーイヌールを叩きつける。
沈黙し、隣で見ていたヴリトラまで黙ってしまう。
「あうぅぅ」
弱弱しい声が後ろからし、そこに脅えが混じっていた。
どうやら、ソーマにもフラガの声が聞こえるらしく、言葉はわからないけどやり取りの内容を感じ取り、不可視な圧力に脅えていた。
「ご一行様。
では、首都へと向かって宜しいでしょうか?」
二人は首肯し、一個も姿はないが必至に首を縦に振っているように感じた。
不思議な縁で合流した三名と一個は、北海道の広大なる大地へと車輪を走らせる。
不安定で、先の見えていない三名。
それを見守る一個。
温もりに飢えた少年、もとい青年、ソーマ。
人に生まれながら、神に属する精神を持つ者、ナイル。
そして、神を捨て、人として再び歩み始めし者、ヴリトラ。
それを達観した視点で見守る騎士、フラガ。
奇妙奇天烈な四者。
互いに目的が違い、求めるものも違う。
未だ僅かな光しか持ちえていない者達は、止まれぬ者として自分達の足を進めていく。
しがみ付くように大切な想いを抱えたまま。




