羅刹猛襲 四話
気持ちはわらしべ長者だろうか。
初めは軽自動車を拝借した。
暫く走らせると、軽トラックがあった。
何かと物入りになるかもと、そちらを拝借した。
次に見たのは中型トラックだった。
勿論の如く、拝借した。
…この繰り返しが何度かあった後、膨大な排気ガスを吐き出すモンスターへと辿り付いていた。
(君には良識というものがないのか)
「あるわよ、最低限は」
大型トレーラーを片手で操りつつ、ナイルは鼻歌混じりに良識の無さを露呈させていた。
(次々に盗みを働くとは)
「別に良いでしょ。
これは必要経費なのよ、きっと。
…だと良いわね」
等と、外の流れる景色に目をやりながら、曖昧な答えを返す。
明らかに趣味の部類だった。
大きくて見栄えのいいものを選出していった結果に過ぎないことを、フラガは知っていた。
(悪党が)
「そうね。
私悪党だもの。
あぁ、私の所為で何人路頭に迷ったのかしら。
億劫になるから忘れたけど」
さらっと酷い発言をしていた。
これも事実だから、フラガは嘆息しかつけなかった。
(君が只の悪党でないのが痛いよ)
「あら、有能って言いたいの?」
(口とは裏腹と言いたい)
「まぁ、そういう事にしといてあげる。
不本意だけど」
(素直でないな、君は)
「私はいつでも素直よ。
そうしておけば、背負える配分が見えてくるから。
私は必要以上に気負わないし、感慨も挟まない。
気の赴くままに世界を堪能し、私が遣りたいことを実現する。
その為に舞台でしょう、世界なんて。
…だから、この空間は頂けないわ。
この舞台装置は人の為に創られていない。
この空間は人を見下している」
景色を眺めながらナイルは詰まらなそうに、その整っていた眉を顰めた。
(君がそう断言するなら、そうなのだろうな)
「肯定的な発言ね。
私の直感が正しいとは限らないでしょう?」
(君の問いはいつも、自分を卑下してから入るな。
人に考える猶予を与えるのはいいことだが、私にまでする必要はなかろう)
「…そうかしら?
貴方は最沢山のものを思考すべきよ。
私の性格を見抜いたみたいな発言してると、取り返しの付かない事態に陥るわ」
(私は抑止力か)
「貴方に、私を止める力なんてないわよ。
只、冷静に進める私に発破を掛をかけられるじゃないかしら。
見解の相違が何かと多い貴方ならね」
(それは遠まわしに、私を猪突猛進と馬鹿にしてないか?)
「相変わらず、被害妄想の激しい男ね」
(散々引っ掻き回しておきながら、いけしゃあしゃあと
。妄想ではなく、現実にだろうが)
「はぁ、どうしてこんな小言の多い奴が相棒なのかしら。
もっと柔軟な、っ!
フラガっ!」
咄嗟にハンドルを切り、横道に逸れていく。
(…これは、まさか)
身を刻むような鋭い気配が伝わってくる。
その方角に進路をとりながら、ナイルはフラガの次の言葉をまった。
(神氣だと。
バカな、まさかこの空間の目的は)
「誰のための空間か、推論は立ったみたいね。
後は現場で確認を取って頂戴」
(待って、ナイルっ!
接近してしまっては、取り返しの付かない事態に陥るかもしれんっ!
もっと冷静に行動方針をっ!)
そこでフラガは気がついた。
ナイルの顔が妙に険しく硬直している事を。
「この気配。
私の嫌いなタイプだわ」
と誰に言うでも無く呟いた。
会う前から敵だと決め付けたような感じだった。
「胸糞悪い気配を大っぴらに撒き散らしてくれて…。
顔を拝見に行くわよ、フラガ」
(…了解だ。
だが、一つだけ約束してくれ)
「内容次第ね」
(顔を拝見したら、全力で逃げを打ってくれ。
君が如何に優れた人間でも、これを荷が重い。
いや、人間ならそもそも背負えぬものだ。
逃げるだけなら、今の装備でも可能だろう)
「…そうね。
我侭いってる分、その提案受けてあげるわ。
飛ばすわよ」
踏み抜くような勢いでアクセルを踏む。
回転数が爆発的に高まり、屈斜路湖への道を大型トレーラーが爆走していくのだった。




