第11話 南都シュド
私の目の前には街が広がっていた。
石造りの頑強そうな城壁を通り抜けると、そこは石畳の敷き詰められた道が続いていた。
揃えるように家も石で出来ている。
真っ白な石で出来た街は、とても綺麗だった。
馬車の荷台にゆられながら、私はお上りさんのように街並みをつぶさに観察する。
初めに寄った宿場町とは随分と様子が違う。
あの宿場町は、家々が木で作られていて、道は土を踏み慣らしたものだった。
城壁なんてものはもちろんなく、木の柵が辛うじて村の境界を示し守っているだけだった。
宿場町というだけはあって、宿は数件あり馬車を使う行商の人もいたけど……。
残念ながら、あの宿場町は町ではなく村というイメージだった。
だから正直なところ、この南部で最も栄えている街であり、南都とも呼ばれるシュドにも期待はしていなかったのだ。
町が村だったのだ、街が町でもおかしくない、とそう思っていた。
けれどそんな私の考えを、いい意味でこの南都シュドは裏切ってくれていた。
馬車道の横には歩道も整備されていて、人々が活気よく行き来している。
馬車道も馬車が2台、余裕ですれ違えるほど広く、そして石が敷き詰められている。
通りには野菜屋さんや果物屋さん、魚屋さん、肉屋さん、と色々なお店があって、どこも人で賑わっていた。
ついつい食べ物関係のお店ばかりに私の目はいってしまうが、洋服屋さんや薬屋さん、武器屋さん、防具屋さんといったお店も並んでいて、こちらも沢山の人が出入りしている。
店先からは威勢のいい呼び込みの声がしているし、通りからもざわざわとした都会の喧騒が聞こえてくる。
私は約2週間ほどの馬車での旅の揺れに苛まれたことも忘れて、わくわくとした気分でそんな街並みを見ていた。
そんな私を目を和ませてクライスさんが見ている……ちなみにクライスさんは宿場町だけでなく、この街にも何度か来たことがあるらしい。
昔、旅でもしてたのかなぁ……もぐりの魔術士として各地を転々としてた、とか?あ、クライスさんは魔術士じゃなくて魔術師なんだっけ?
そんな疑問も、街並みの前にすぐに消えていく。
あぁ、あの野菜は何だろう? どんな味がするのかなぁ?
あ、魚と貝が売ってる……いいなぁ、お土産に買いたい!
果物も美味しそうだなぁ。
あ、四つ耳ウサギの肉とか売ってる、なにそれ、食べてみたい。
そんな風に街並みを食い入るようにして見る私をフレッド君まで、暖かい視線で見ている。
フレッド君は帝都から来たそうで、クライスさんと同じくこの街並みは彼にとって普通の光景のようだった。
年下に暖かく見守られる……そんな事実に少し悲しくなりながらも、私の視線はシュドの街の食べ物屋さんに釘付けだった。
やがて馬車はお店が並ぶ通りから住宅街へと進んでいった。
そして一軒の邸宅の前で止まった。
何台もの馬車が止まれるだろう広さを持つ馬車置き場をもつその邸宅は、交易商を営む人のお屋敷らしい。
私たちはこの旅で御者を勤めてくれた商人さんにお礼を言って、馬車を降りた。
それから今夜の宿を探すために、とりあえず宿屋が集まっている場所を目指すことにした。
見たことがない野菜を売っている店や、この世界に来て初めて見る海の魚を売っている店、沢山のスパイスを扱っている調味料のお店……私はウキウキしながら、また、そんなお店に目をやる。
後でなにかお土産に買おう!
クライスさんの4次元なマントならきっと色々入るはずだよね?
そんな風に浮足だっていた私は、気が付くと人の波の中に居た。
大勢の人が一つの方向に向かっている。
「さすが南都っていうだけありますね〜」
日本に居た時の人混みを少し懐かしく思いながら、私は人の波に乗る。
そんな私にクライスさんは思慮深げな目をしていた。
「いや、これは……そうか、今日は市がたつ日か」
彼の目に苦々しい感情が宿る。
同じくらい苦い口調でそう言ったクライスさんに、私は小首を傾げた。
どうしてそんなに嫌そうな目をするんだろう……人混みが嫌、とか?
でも人の波に巻き込まれた瞬間はそんな顔してなかったけどな〜?
あ、もしかして私が市場でテンション上がりすぎて宿屋に着くのが遅くなるのを心配してるとか……うん、それなら納得がいく。
そんな事を考えながらクライスさんとは反対側を歩くフレッド君を見ると、彼もなにやら苦い顔をしている。
笑顔である事が多い彼のそんな顔に、私は再び疑問に思った。
クライスさんとフレッド君は、何を心配してるんだろう?
やっぱり買い物しすぎることかなぁ……あんまり買い過ぎないようにしないとなぁ……
「クライス様、迂回した方がいいんじゃないですか?」
「あぁ……だが、この人混みでは……」
断腸の思いで決意した私をよそに、クライスさんとフレッド君はどうにか迂回する道を探しているようだった。
せっかくの異世界の市場だ、見てみたい。
私は慌てて二人の会話に口を挟んだ。
「そんなに心配しなくても、暗くなるまでには宿屋に着けるようにしますよ?」
そう言って彼らを説得しようとするけれど、二人の表情は一向に晴れなかった。
クライスさんが重い重い溜め息をつく。
この時の私は知らなかったのだ。
二人が何をそんなに苦々しく思い、心配しているのかを……。
次回から少し重めの話が続きます。




