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罪を犯した奴は償わなければならない。これは法治国家であるこの国のお定め事だ。
……って言える立場じゃないのか、俺は。俺も俺のために罪を償わなければならないんだ。
そしてそれは、まだ続いてる。終わらないかもしれない。
「ねぇ、こーちゃん。さっき鈴木君を殴ったでしょ?」
校門を出た時、ヒカリが少し眉をつり上げて聞いてきた。ちょっぴり怒ってる?
「ん? ああ、あいつはそうでもしないと分からない奴なんだよ」
中学の時も結構ああいうことはあった。誰かがやめさせないと歯止めがきかないのだ。
「でも殴っていい理由にはならないよ?」
「んーまあヒカリが言うならそうかもしれん。結構感情に任せて殴ったとこあるからな」
思えば告白くらいって気もしなかったが、まあ過ぎたことはおいておこう。
「駄目だよ人を傷つけちゃ。あの時のこーちゃんからは負の感情分子が出てるの。目には見えないけれど、確かにあるの。そういう、人の負の感情が積もり積もってオウムが生成されるんだよ。あ、でもだからといって怒っちゃいけないってことじゃなくて、さっきはちょっとやりすぎじゃないかなって。鈴木君も悪気があったわけじゃないし、私は全然気にしてないし」
気にしてないのもそれはそれで何か可哀想なのだが。少しは気にしてやれと言うのもおかしい気がする。でもそうか、ああいう気の高ぶりで感情分子とやらが出るんだな。
「まあ、以後気をつけます」
ほんとかな~とヒカリはいぶかしげにこちらを見てくるが、それは気にしないことにした。そんなの時と場合によるし、人を傷つけないということを俺は保証できない。今回だってヒカリを守るために……ん? 何から守るためだ? 鈴木からか? うん、そういうことにしておこう。人間のエゴは恐ろしい。それは他の誰でもない誰かに当てた、心からのメッセージ。
そして人間のエゴ如何に関わらず、めくるめく時は廻る。人生とはそういうものなのだ。
それは学校を終えて最初の上り坂に差し掛かった時だった。
「来るっ!」
ヒカリの言葉が穏やかな春の空気を引き裂いた。
思いもかけない事態への未来予知。一瞬あっけにとられてスタートダッシュに遅れてしまった。ヒカリの駆け足を見てこれから起こる非現実を脳が暁知する。離されまいとヒカリの後を懸命に追走するが、どんどん離されていく。昨日の未知は今日の既知。
息を切らしながらも心はしっかりスタンバイ。やれる。矢れる。殺れる。そう自分に言い聞かせて恐怖を吹き消し、半端な気持ちを矯正する。恋はいつだって突然なんだという冗談が走りながらでも言えるくらい、いやこれはやり過ぎた。適度な緊張感は良い結果につながるので、心を補正し……とは言っても心臓はばくばくのままだ。




