表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
片想いの憂鬱  作者: 藜ヶ原
幼少編
4/6

苦手な停電に、少しだけ感謝

 八月三十日。

 もうすぐ夏も終わりという頃になって台風がやって来ていた。ごうごうと鳴り響く風の音は室内にいても、いや、雨の音がないぶん余計に大きく聞こえる。


 島を案内した日以来、ユウの私に対するトゲは少しずつではあったが確実に丸みを帯びてきていた。とはいっても、ホントに少しだ。言葉使いや吐き出される台詞はまだまだ良いとは言い難い。

 ただその言葉の中には、初めにあったようなあからさまな敵対心はあまり含まれていないような気がする。


「…………」


「…………」


 ピコピコピコ………………。

 お父さんが仕事に出掛けており、家には誰もいないためユウの部屋に上がっていた。おばさんは快く入れてくれたが、ユウはかなり文句を言った。何故か私に向かって……。

 ちらりと時計を見ると、時間は四時をまわったころ。お父さんが帰ってくるまであと二時間はある。

 テレビゲームに夢中になっているユウを一瞥して、体育座りをした膝に顎をのせてため息を()いた。

 ユウは今朝からずっとこの調子だ。私は暇で仕方がない。


「(落ちろー、落ちろー)」


 ユウの操作している、赤い帽子のヒゲおやじに暗示をかけてみるがなかなか落ちてくれない。ユウはゲームが上手かった。私なら一番最初の茶色いちっちゃいのに当たって終わりになる。ユウにすっごく笑われて悔しい思いをし、そんなに笑うならやってみせてよと、渡したのが間違いだった。


「はぁ~……」


「……おい妹」


「……なによ弟」


 ユウが私を年下扱いするので、だったら私もユウを年下扱いしてやると思って出来上がった掛け合いだった。


「暇だ。何か面白いことしろよ」


「ゲームしてるからいいじゃん」


「飽きた」


「そりゃ一日中やってればねぇ……」


「…………」


「…………」


 会話というにはあまりにも短すぎる時間だった。再び風とゲームの音だけになった。どちらも大きい音ではないのにいやに騒がしく聞こえる。


………………。

…………。

……。


 二十分くらい経ったころだった。窓の外が光ったかと思った刹那、脳天から貫くような音をたてて雷が落ちた。


「っ!?」


 ユウはビックリしてコントローラを落としかける。元々住んでいた場所ではあまり経験はなかったのだろう。


「雷怖いの?」


「……別に」


 最近ユウの台詞のパターンがわかってきた。別に、と言うのは誤魔化してるときだ。

 くすくす笑っていたら、ユウに脳天チョップをされた。


「何で叩くのっ!」


「うるせー! バカにするからだろ!」


「君だって私をバカにするくせに!」


「僕はいいんだよ!」


「なにそれ!? 自分勝手ー!」


「このっーー」


 ユウが拳を振り上げて立ち上がる。

 ゴロゴロゴロー! ーープツンッ


「きゃあああああぁぁぁ!!!」


 ひときわ大きい音が鳴り響いた。すると、ユウの部屋の電気が消える。停電だ。


「な、な、なっ!?」


 私は、手を振り上げて無防備となったユウの胴体に突進する勢いで抱きついた。海でしがみついた時とは違い、完全に不意討ちだったのでユウも慌てていた。


「な、なにしてんだよ!」


「やあああぁぁ!」


「お前停電が怖いのか?」


「っ……」


 怖くない。そう言いたかったが、言えそうもないほど私は震えていた。


「はぁ……なんか自分より慌ててる奴見ると落ち着けるんだな」


「……う、るさいっ」


「…………」


「…………っ」


 真っ暗な部屋の中、立ちっぱなしのユウと、ユウにしがみついて震える私。


「お前、停電が怖いのか」


「…………」


 小さく頷く。顔が見えないからか、そんな余裕がなかったのか分からないが、このときは素直になれた。


「なんで?」


「…………。…………溺れたの」


 若干迷ったが、言うことにした。


「溺れたって……海の話?」


「違う」


「他に溺れるところなんかーー」


「……お風呂」


「お、お風呂?」


 また頷く。


「……去年の台風の日に、お父さんもお母さんも、忙しかったから一人でお風呂に入ったの。そして、お風呂からあがろうとした時に電気が消えて……ビックリして転んで……」


「溺れた、と」


「……ん」


「はぁー……海でもお風呂でも、よく溺れる奴だな」


「わざとじゃないもん……」


「わざと溺れてたら海でお前を助けなかったよ」


「…………」


「はぁ……」


 ユウの短いため息が聞こえたあと、ユウの背中に回した私の手にぬくもりを感じた。

 ユウが私の手を握ったのだ。


「…………っ」


 驚いてユウを見上げる。といっても暗くて顔は見えないが。


「今だけ……だかんな」


「……うん」


 ユウのシルエットがそっぽを向いてそう言う。


「お前はいつだって僕に怒ってろ。笑ってろ。それがお似合いだからな」


「あ……う、うん」


 相当恥ずかしかったのだろう。ユウは電気が点くなり一階へと飛び出していった。

 ユウへの片想いは、確実に募っていった。



 ーーそれから、十三年の月日が経った。



 以上で、『片想いの憂鬱 - 幼少編』は終了です!

次回からは『~ - 学生編』の予定です。


 幼少編は綺羅と悠李の初対面から恋のきっかけまででしたが、次回の学生編ではもうちょっと恋に近づいていきますよ!

 詳しいあらすじはここでは言えませんが、【恋のライバルってカッコいいよねっ】とだけ伝えておきます。


 学生編が終われば次はいよいよ恋愛編へと突入していきます。が!! こちらの展開がまだ思い浮かばないっ!? 田舎ならではのおっとりした雰囲気で発展させていけたらなーとは漠然と思ってますので、頑張って形にしていきたいと思います。


 それでは次回、『片想いの憂鬱 - 学生編』!

 お楽しみに。(⌒‐⌒)ノシ

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ