act.1
恋なんて、
所詮そんなものだと思った──…
like or hate ?
「………」
私は来なきゃ良かった、と思った。
放課後、忘れ物を取りに教室のドアを開けた瞬間、視界に入ったのは一組の男女。
一人は、同じクラスの九条 榛。この星蘭高校で言わずと知れたハンサムボーイ…らしい。
もう一人は見たことがない女の人だった。
二人は誰もいない教室でイチャイチャしていたのだろう。遊び人で有名な榛のことだ、容易に想像することが出来た。
「……桐?」
榛に名前を呼ばれて、カッとして教室を出た。あの場に出会したことが恥ずかしくて、忘れ物を取りに来たことなんてすっかり忘れたまま、がむしゃらに廊下を走った。
……昨日一緒にいた女と、違う人だったな。
昨日の榛を思い出してそう思う。同級生は勿論、後輩や先輩にも人気のある榛に寄ってくる女は絶えない。
榛も、女なら誰でもいいような様子だ。
それでも。
それでも……私は榛のこと。
自分で自分に嫌気がした。下駄箱に放っていたローファーを履き、私は小さく溜め息をついた。
その時不意に聞こえてきた足音。
「…桐!」
私の名前を呼ぶ声に肩が震える。
………この声は。
「……榛」
「これ取りに教室来たんじゃねぇのかよ、ホラ」
ポン、と榛が投げた“それ”を上手くキャッチする。そうだ、そう言えば教室に携帯を取りに行ったんだった…
「…また違う人だったね、この遊び人」
「ん?ああ、桐はよく俺のこと見てるよな」
「だってアンタ目立つんだもん」
榛の赤茶色の髪が、夕日に染まって凄く綺麗だった。
その髪も体も…全部私のものになればいいのに。