表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
10/51

武将 島津義弘 第10話 蒲生攻め

天文二十三年(1554)晩夏。

伊集院を出た軍勢は、

谷沿いの道をゆっくりと進んでいた。

朝の湿り気は強く、風は重かった。

赤土の道は昨夜の雨を吸い、

足軽の足元がわずかに沈んだ。

地侍たちは槍の穂先を拭い、

家ごとの旗を掲げて列に加わった。

旗の形も色も揃わず、

薩摩の“地侍の軍”そのままの姿だった。

義弘は馬上から兵の息遣いと足音を確かめ、

谷の空気の変化を静かに受け取った。

 蒲生川に近づくにつれ、湿り気がさらに増した。

川沿いには葦が揺れ、

谷風は弱まり、空気が重くなる。

ぬかるんだ道で兵の足が沈み、

歩幅が乱れた。

槍の柄に泥がつき、

地侍の肩の揺れが大きくなる。

息が荒くなる者もいた。

義弘は振り返り、

兵の疲労が早く出ていることを静かに見た。

湿地の重さが、兵の動きを確かに奪っていた。


やがて蒲生城の外郭が見え始めた。

丘の上に土塁が連なり、

その下には田畑と湿地が広がっていた。

敵方は城の北側に陣を敷き、

旗がいくつも並んでいた。

槍の向き、列の密度、旗の揺れ方──

義弘は外界の線を一つずつ拾った。

味方の配置と距離を測り、

丘の斜面の傾きと湿地の深さを確かめた。

 湿地に足を取られた兵の歩幅は乱れ、

列が沈んだ。

息遣いが早くなり、

地侍の肩の揺れが大きくなる。

義弘はその疲労の出方を静かに観察した。

槍の柄が湿気で重くなり、

足袋が泥を吸って重くなる。

「この湿地では、兵が長く持たぬ」

そう判断し、

戦の行方を外界の重さから読み取った。


夜営の準備が始まると、

義弘は蒲生城側の火の数を確認した。

初めは多かった火が、

夜更けにかけて少しずつ減っていった。

火の位置が後方へ移り、

間隔が広がっていく。

兵が退いた跡のように、

火の線が薄くなっていった。

義弘はその変化を静かに受け取った。

「退く気配がある」

外界の線が、そう告げていた。

 夜明け前、風が変わった。

谷の底から冷たい風が上がり、

湿り気が薄れた。

蒲生城側の物音は少なく、

火の跡が散らばっていた。

城の門前の動きも鈍い。

義弘は敵の退きを察知した。

外界の変化が、

戦の行方を先に示していた。


貴久の合図で前進が始まった。

蒲生方の列は整っておらず、

旗の揺れは弱く、

槍の先が揃っていなかった。

湿地に足を取られた兵が遅れ、

列の隙間が広がっていた。

義弘はその乱れを突き、

馬を前へ進めた。

味方が押し込み、

城方は湿地に足を取られながら後退した。

土煙が城の周囲に広がり、

戦場の声が高まった。

 やがて蒲生方は耐えきれず崩れた。

湿地に足を取られた兵が次々と退き、

旗が倒れ、槍が乱れた。

城下は味方の手に落ちた。

戦が収まると、

兵たちはその場に座り込み、

息を整えた。

義弘は風の変化、火の数、兵の疲労──

外界の線がつながっていった過程を静かに思い返した。

外界の変化を読む武が、

この日の戦で確かな形を持った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ