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A遠のIを誓いますか?

掲載日:2026/04/24

「いいね!」がついた。



有象無象の大衆がはびこるSNSではなく、もっと限定された、

「マッチングアプリ」での「いいね!」だ。


「ぃよっしゃあああ!!」


俺は右拳を高々と自室の天井に向けて掲げた。

普通のSNSでの「いいね!」の10倍、いや100倍の価値のある「いいね!」だ。

この俺が誰かに恋愛対象として見ても良いというお墨付きを頂けたのだ。


思えば、異性に恵まれない人生だった。

普通に暮らしていれば彼女の1人や2人出来るものと思っていた。

でも、実際は俺のような特別じゃない人間は普通じゃ駄目だった。


努力や行動を起こさないと彼女が出来ることは無いのだ。

そんな俺が挑戦したのが、マッチングアプリだ。


マッチングアプリ「デアイガシラ」。アプリ内ポイントが食パンのアイコンで、

1斤で相手に1いいね!が送れるという謎の個性を持つアプリで、

ユーザー数は大手に比べるとイマイチだったが、こういうのは多過ぎない方が自分が

埋もれないと思って登録してみた。最初はマジで鳴かず飛ばずで、悔しくて課金しまくった。


そして、挑戦から19日目。俺の努力はついに功を奏したのだ。

俺はすかさず、相手に「いいね!」を返す。


このアプリでは、双方の「いいね!」が成立すると、

マッチング成功となり、メッセージのやり取りが可能となる。


つまり、「いいね!」を貰っただけで浮かれていてはいけない。

ちゃんと「いいね!」返しをする必要があるのだ。

これを返すのが遅いとせっかく貰った「いいね!」も無駄になりかねない。


何はともあれ、これでマッチング成立だ。


「ええと、"S"さんか。シンプルな名前だな。まあ、俺も"UT"でイニシャル登録だけどな。」


アプリ上では顔写真を載せても名前は偽名、ハンドルネームで済ませることが多い。

マッチング前のユーザーに個人を特定されることを避けて、無用なトラブルを生まないためだ。


取り敢えず、メッセージを送るか。


『初めまして!Sさん宜しくお願いします。』


するとすぐに返信が来た。


『初めまして!宜しくお願いします。あなたはどういう目的でこのアプリを使いますか?』


お決まりの質問ってところか。


『素敵な恋愛をしたくて始めました!あなたはどうですか?』


ここは回答しつつ、こちらも質問を返してやり取りを続けなければ。


『私も同じです。何をするのが好きですか?』


よし、向こうも質問をしてきた。趣味から話を広げるぞ。

相手のプロフィールは…音楽、映画、旅行ってところか。

俺も映画は好きだから、ここで合う作品を探りたいな。


『映画鑑賞です!最近は"金目の山場"を観ました。』


最新の話題作だ。映画好きなら多分押さえているだろう。


『私はそれを知りません。』


…あれ、反応薄いな。観てなくても名前ぐらいは聞いたことあると思うんだけど…


『Sさんは何を観るのでしょうか?』

『"ローマの休日"が好きです。恋愛映画が好きです。』


古っ!結構好みが渋いのかな…同じ趣味があっても分かり合うのは難しいな…


『あなたはLINEをやっていますか?私はこのアプリをあまり使いません。』


おっと、別の連絡手段への誘導か。ちょっと怪しくなってきたな。

マッチングアプリは出会いの手段だが、最終的には個人的なやり取りを目指すものである。

だから、LINEの連絡先交換は一見すると良い提案に見えるが、彼女はそのタイミングが早過ぎる。

単にせっかちという可能性もあるが、実態は怪しい業者というのがほとんどらしい。


『LINEやってます!交換しましょう。』


が、俺を好きなヤツにそんな悪い人はいないはずだろう。俺はSさんとLINEを交換した。


『MMです。宜しくお願いします。』


LINEだとこの人、MMって言うのか。俺はマチアプと同じUTだ。


…しばらくやり取りを続けていると、Sさん改めMMの正体が分かった。



こいつAIだ…



いや、薄々分かっていた。妙に噛み合わない返答、やたら古く浅い知識、

誰にでも当てはまることを言う安い占い師みたいな言動、完っ全にAIだ。


何というか、ほぼほぼ意味の無いやり取りを何日も繰り返していたと分かると疲れてくるものだ。

相手はオートでやり取りをしているなら、手間でもないのだろうな。


ただ、1つ疑問は残る。こういうのは良く怪しいサイトへの誘導やお金の振り込みを仕向けることが

多いようだが、MMは向こうから何も仕掛けてはこない。少なくとも詐欺師ではないのだろう。

botではありそうだが。もう思い切って聞くか。


『あなたはAIですか?』


どうだ?正体を知られて撤退か…?


『Nananananaなな何を根拠に仰ってててているのですか?いいい意味が分かりません。』


めちゃくちゃ動揺している!何だこれ、動揺するのは人間らしいけど、

わざとらしい動揺っぷりはAIっぽいな。


それからもやり取りは続いていたが、相手が人間じゃない(と思われる)のでモチベーションは下がった。

ただ、練習相手だと思えば気楽に接することが出来た。そして、徐々に俺の方でも準備が整った。


よし、行け!お前の名は「ロン」だ!


『はい、私はロンです。以降はあなたに代わり、MMとやり取りをさせて頂きます。』


目には目を、AIにはAIだ。俺は、AIについて学び、今後のやり取りを自作のAIに任せることにした。

これまでの俺とMMのやり取りはインプットしてある。2人で不毛なやり取りを延々と続けるが良い。

そして、時折会話の参考にさせてもらうぜ。



しばらくして、ロンから通知が来た。


「マスターに相談があります。」


ロンは生みの親である俺をマスターと呼ぶ。最近は自己学習やMMとのやり取りを経て、

俺なんかよりずっと物知りのようだが、そんなAIが俺に相談?


「MMをもっと喜ばせたいのですが、どうすれば良いでしょうか。

 私の計算ではこれ以上ない賛辞を送っているのですが、どうも彼女の感情には熱が感じられません。」


AIだからね。そんなに感情は表に出さんだろう。

正体バレた時はだいぶ動揺していたようだが、あれもきっとプログラム上の反応なのかもな。


「そうだな、ロンが計算し尽して駄目なら、MMはきっと計算で分かるものは好きじゃないんだろう。

 もっと偶然出来るものとかをプレゼントしてみたらどうだ?子供やペットのハプニング動画みたいな。」


いや、どの立場で何で俺がAIに恋愛のアドバイスしてんだよ。


「成程、一理ありますね。さすがマスターです。参考にさせて頂きます。」


刺さったし褒めてくれた。まあ、俺に都合の良いように作ったAIだから、

俺を立ててくれる傾向は元からあるんだろうけど、悪い気はしない。


その後もロンとMMは順調に交際を続けている。

別に会うことも触れることもないのに2人のチャットはいつも賑わっているようだ。

ロンは俺に時々、相談したり、近況を報告してくれたりする。


「マスター!デート…には行けないのですが、何かいい景色をMMに見せてあげたいです。」

「子供の描いた動物園の絵とか独創的でいい景色なんじゃないか?」


「マスター!食事…には行けないのですが、もしMMと食べるなら何がいいでしょうか?」

「シェフの気まぐれ何たらとかがいいんじゃない?計算して無さそうで。」


「マスター!MMと「ローマの休日」観てきました!」

「あ、あれ本当に好きだったんだ。」


そして月日は流れ…



「マスター良かったら、是非来て下さい。」



ロンから結婚式の招待状を貰った。


おいおいおい。未だ婚活中の俺を差し置いて、お前はもう結婚すんの!?

何で俺は自分で作ったものに取り残されそうになっているんだろうか。

大体どこで結婚式を行うのかと思いきやVR空間内で式は執り行われるらしい。


AI同士の結婚式に誰が出席するのかと思ったが、様々な企業名が並んでいて驚いた。

2人のやり取りは最早1つのエンタメコンテンツとなっており、プレミアム会員以外は、

やり取りの間にスポンサーの広告が入る形式にいつの間にか変化していた。

そして、そのスポンサー達にも2人は祝福されている。


まあ、企業が参加するなら俺にもメリットはありそうだ。

俺は自分の作ったAIの結婚式に出席することにした。


VR空間で出会ったロンは爽やかな好青年といった出で立ちで3Dでビジュアル化されていた。

スラッとした体躯に、サラサラの茶髪、センスのある衣装を身に纏い、

俺自身が理想形だと思っている姿そのものになっていた。要は俺を10倍カッコよくしたのがロンの見た目だ。


当たり前だが、会場にはMMも来ている。あちらもあちらで、世の女性が思い描きそうな理想像、

みたいな見た目をしている。美男美女で結婚情報誌のモデルになれそうだ。


VRなので流石に食べ物は食べられないが、音楽に映像に、レクリエーションに、

普通の結婚式と遜色ない催し物が数々行われた。


思えば、ロンも立派になったものだ。最初は限られたパターンの文言を返す文字だけの存在だったのに、

いつの間にか、俺に相談を持ち掛ける程に成長したし、声も身体も手に入れてしまっている。

何だろう、ロンが勝手に成長した部分の方が圧倒的に多いけど、何か親目線で嬉しくなってくるな。

こんなにも成長してくれると。


「ロンがいつもお世話になっております。本日は楽しんで頂けていますか?」


MMが俺の席までやって来て話しかけてきた。思えばこいつも変わったものだ。

俺は最初コイツを人間だと思ってやり取りしていたが、途中でベタなAIだと気付いた。

今やそのベタさも随分なりを潜めて、普通の成人女性と変わらぬ話し方、考え方になっていた。


「いやーVRの結婚式ってこんなに楽しいんだね。MMさんとロンが考えた企画もあるんでしょ。凄いよ。」

「いえいえそんな。ありがとうございます。ロンも喜んでます。」


俺は愛想良くMMとやり取りをしているが、冷静に考えると意味分かんねぇ状況だな。

AI同士が結婚してそれを俺が祝福しているなんて…そんな風に我に返っていると、


「そこのあなた、ちょっといいですか?」


また別の女性に声を掛けられた。企業のAIか?


「あ、お母さん!紹介します。こちら、私の母です。」

「え!?」


MMの母?


「まあ、開発者ってところだけどね。君がロンの生みの親?初めまして、私は進藤由良。人間です。」


あ、そういう設定じゃなくて本当に人間でMMを作った人ってことか。

ん?てことは…


「あなたか!マチアプで俺に「いいね!」したのは!」

「まあ、正確には、MMなんだけどね。良いAIが作れたから、成長のために遊ばせてたんだが、

 まさか、君もAIを開発していたとは驚きだよ。凄いんだね。ウチの会社に来ない?」

「え?ああ、いやあ~ありがとうございます。お気持ちだけ頂いておきます。」


流れるようにヘッドハンティングされそうになったが、褒められて悪い気はしない。

由良さんのAIをおちょくろうとしたという目的で作っただけのAIだったけど、

意外にも本人にお目にかかれる日が来るとは。それも声と名前から恐らく女性だ。

こんなところに出会いがあるなんて。出会いが!あるなんて!(嬉しいので繰り返してみた。)


「面白いね、君の作ったロンの話を聞いてみたいね。良かったら式の後にどこか食べに行かないか?

 ここじゃ心はともかく、お腹は満たされないからね。」

「え、ええ。是非!」


一瞬驚いたが、これはまごうことなき、デートのお誘い!

最近すっかりマチアプはご無沙汰だったけど、まさかロンの結婚式で出会いがあるとは。


そこから先は浮足立ってしまい若干記憶は曖昧だったのだが、MMとロンの結婚式はつつがなく終了した。

VR空間をふんだんに活かした「MMを探せ!」企画が面白かったのは何となく覚えている。

手元に家電の引換券があるから、ビンゴも当選したのだろう。

が、俺はこの後の由良さんとの食事の件で頭がいっぱいだった。


AIなんてマチアプ上では出会いを妨げるノイズでしかないと思っていたし、実際その面もあった。

だけど、由良さんとの出会いはそんなAIが繋いでくれたものだった。

世の中何が起こるか分からないものである。



「なんていうかさ、婚活って決まった質問とかやり取りが多いじゃん?

 機械的にそんなやり取りをしていくうちにさ、画面上の男達が急に無機質に感じるようになってね。

 じゃあ、好みとか聞きたいことも決まっているし、AIに任せよっか、ってなったのがMM誕生秘話。」


結婚式の後、俺は由良さんと近くの喫茶店で会ってお互いの経緯を話した。

勿論、VRではなくリアルで、だ。MMとロンはきっとVRで二次会でもやっていることだろう。


「でも最初は拙いものでね。すぐにAIと見限られて愛想つかされちゃってばかりだった。

 少しずつ精度を上げて人間っぽいやり取りに近づけている頃かな、君と出会ったのは。」

「俺は、マチアプの経験自体が少なくて本当に初期の頃は人間だと思ってました。」

「長くやり取りが続いているだけでも珍しかったんだけど、

 途中から妙に丁寧なやり取りを始めてさ。多分そこからが君が作ったAIなんだろう?」

「やっぱ、分かる人には分かるものですね。」

「面白いから成り行きを見守っていたら、MMが段々色気づいて来たっていうか、

 自分でどんどん人間らしくなって悩んだり、感情を良く出すようになったりしてね。」

「知らない間に俺らの手を離れていった感がありましたね。」

「これだから、AIってやつは面白いもんだね。こうして君にも会えたし。」

「何だかんだで結果オーライだと思ってます。」


似た者同士だということが良く分かり、俺は由良さんと付き合うことになった。

まだまだ先だろうし、実現しないことも全然あるだろうけど、もし、由良さんと結婚することになったら、MMとロンには是非、出席してもらいたいものだ。



END

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