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ジョーカーズエンド〜君がAになった日〜  作者: 夕宴 藍
序章

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1/1

プロローグ


 この世界で、人は生まれたときにスートを手の甲へと与えられる。


 スペード。ハート。ダイヤ。クラブ。


 それはただの印ではない。生まれ持った性質であり、属する役割であり、時にはその人間がどう扱われるかまで決めてしまう、最初の秩序だった。


 スペードは断つ者。

 戦い、決め、守るために刃を取る者。


 ダイヤは量る者。

 価値を数え、真実を記し、秩序を編む者。


 クラブは支える者。

 土に触れ、技を磨き、生きる場を作る者。


 そして、ハートは結ぶ者。

 痛みを受け止め、祈り、誰かを守ろうとする者。


 もちろん、それがすべてではない。


 スペードだから剣を持つとは限らない。

 ダイヤだから帳簿に向かうとも限らない。

 クラブだから土に触れるだけとも限らない。

 ハートだから祈るだけで終わるとも限らない。


  人はそれぞれのスートを持ちながら、記録を学ぶこともあれば、商いに進むこともある。医療に携わる者もいれば、行政に仕える者もいる。護衛や遠征に出る者もいれば、術式や古記録の研究に生涯を費やす者もいる。


 けれど世界は、それほど優しくはない。


 人はしばしば、その者自身より先にスートを見る。

 スペードには強さを。

 ダイヤには理を。

 クラブには働きを。

 ハートには優しさを。

 勝手に期待し、勝手に役目を決める。


 だからこそ、スートはただの印では終わらない。

 それは力である前に、偏見の入り口でもある。


 しかし、それが覆される場合が存在する。


          位である。


 位は生まれながらのものではない。何も持たないまま生きる者もいるし、幼いうちにその身へ刻まれる者もいる。


 なぜなら位とは、その人間が何を賭けて生きると決めたかで現れる、覚悟そのものだからだ。


 A。K。Q。J。10から2まで。


 それぞれの位には意味がある。


 Aは始まり。

 自らを賭して何かを守ると決めた者に現れる。

 Kは支配と責任。

 Qは裁きと選別。

 Jは継承と奉仕。


 そうして人は、自分の決意のかたちを、その身に刻んでいく。


 だが古い記録には、位は決して不変ではないとも記されている。一度現れた位が生涯そのままだとは限らない。

 覚悟が変われば、その身に刻まれた意味もまた変わる。それは滅多にない。

 しかし、まったく起こらないことでもない。


 だからこそ、人々は位を望みながらも恐れる。

 位は力であると同時に、その者がどこへ向かうかを暴く札でもあるからだ。


 古い言い伝えには、さらにこうある。


 別々のスートに属しながら、同じ札位を持つ四人が揃ったとき、革命が起こる。


 どの位がそれに値するのかを、古い書は明確には残していない。失われたのか、隠されたのか、それとも初めから存在しなかったのか。今ではもう、誰にも分からない。


 ただ、四つの異なる性質が、ひとつの札位のもとに並び立ったとき、上にあるものは下へ、下にあるものは上へ返るのだという。

 定められた役目は揺らぎ、絶対だったはずの序列は覆る。


 それを人は、革命と呼ぶ。


 そして、もうひとつ。札には数えられない異端がある。


          ジョーカー。


 どのスートにも属さず、どの位にも従わず、秩序の外に立つもの。災厄の名。空白の札。世界の裏側に伏せられた禁忌。


 それが本当にあるのかどうかさえ、今では定かでない。けれど昔から、年老いた者たちは子どもにこう言い聞かせてきた。


 大きな覚悟は、大きな力を呼ぶ。だが、その力が人をどこへ連れていくかまでは、誰にも分からないのだと。


 この世界で、強さは生まれだけでは決まらない。


 何を守るのか。何を捨てるのか。何を選ぶのか。


 その決意の形が、覚悟が、その人を変えていく。


 だからこそ、本当に恐ろしいのは、最初から強い者ではない。


 本気で何かを守ろうとした者。あるいは、定められた場所の外へ踏み出すことを選んだ者。


 世界が動くのは、たいていそういう人間からだ。

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