57 第三王子
ラムディーノ公爵の馬車で王城にやってきた。
見覚えの無いルートをラムディーノ公爵に先導してもらい、庭園の様な場所に着いた。いや、実際庭園か。
庭園の中央には、日差しを遮る建築物があり、その下には椅子に座ってカップを傾けている青髪の少年と、護衛と思しき二人の男女が居た。
ラムディーノ公爵は建築物の近くまで行くと、青髪の少年に向けて臣下の礼をとる。
「ジーク様。交渉成功のご報告をしに参上しました」
「ほう、成功したのか!?という事は、後ろに居るのが……」
「ええ、彼が勇者の従者、ハリー・フェッルム名誉子爵です」
ラムディーノ公爵が俺の方に手を向けて紹介してくるので、慌てて臣下の礼をとると、ジークと呼ばれた青髪の少年は俺の両手を握り、ブンブンと上下に振る。
「初めまして!ジークディア・ルネキアです!そ、その、上級悪魔を何体も討伐したっていうのは本当なんですか!?」
「え、ええ……?まあ、本当ではありますけど……」
「す、凄いです!じゃあ勇者様はもっと強いんですよね!?うわー、憧れるなあ――」
なんだこの人!?
第三王子……だよな?
自分の推しの芸能人に会った中学生にしか見えない。
それに、未だに俺の手を握ってブンブンしてるし……。
「ジーク様、いささかはしたないですぞ。勇者の従者を前にして興奮なされるのは分かりますが、少し落ち着いてくだされ」
「――あ、これはご無礼を!ささ、座って下さい!」
「ええ……?」
ラムディーノ公爵が間に入って止めてくれたと思ったのだが、今度は第三王子は、さっきまで自分が座っていた椅子を差し出し始めた。
ちなみに、この机の周りには、椅子はこの一つしか無い。
「ジ、ジーク様、それは流石に!我々が椅子を運んできますので!」
「え、そう?別に僕――私は立っててもいいんだけどなあ」
護衛の二人が慌てて椅子を探しに行った。
失礼かもしれんが、この第三王子からあまり王族っぽさを感じない……。
「あ、今日は剣を持ってきてないんですね!いやぁ、上級悪魔を斬った剣を見たかったんですけどねぇ!」
「あ、その、次の機会にでも持ってきますので……」
「本当ですか!?嬉しいなぁ……!あ、あと敬語は使わなくても大丈夫ですよ!」
「いやいや!?ジークディア様は王族ですので――」
「ジークとお呼び下さい!なんなら様も無しで良いです!」
「え、ええ……?それは流石に良くないんじゃ……」
助けてくれという意味を込めてラムディーノ公爵を見るが、彼は面白がってニヤニヤしているだけで、こちらの会話に入り込んでこない。
ちくしょう、売られた!
どう対応しようかと悩んでいると、幸いそのタイミングで護衛の二人が椅子を持ってきてくれた。
グッジョブ!
「ああ、じゃあ座りましょうか」
「「失礼します」」
第三王子が元々あった椅子に座り、俺とラムディーノ公爵は護衛の二人が持ってきてくれた椅子に座る。
「で、魔王と戦った話について――」
「ジーク様。先に派閥のお話を」
流石にそろそろ看過できないのか、ラムディーノ公爵が第三王子を止めてくれた。
もっと早くからそうして欲しかった……。
「ああ、そんな話もあったね……。それじゃあ、早く勇者様に関する話をしたいから、手短に行こうか」
本題がズレてませんかねえ……。
どうやら、第三王子はミラーノ市の守護令息みたいな、勇者ファンの様だ。
「フェッルム卿――あ、ハリーさんって呼んでもいいですか!?いいですよね!?――ハリーさんの欲しい物は、迷宮の使用権と他の勇者様の従者様方の安全の確保、でいいんですよね?」
「え、ええ」
勢いが凄い……。
「まあ、その辺りの話はきっとラムディーノ公がしている事でしょう。優秀ですから。そうだよね?」
「ええ。ヘキサゴンの迷宮に関する話も、済ませております」
「おお、流石はラムディーノ公。話が早くなりそうで助かるよ」
「いえいえ、なんの」
「で、えーと……そしたら、僕――私達が話してないのは、ハリーさん――というか勇者様方にしてもらいたい事、で合ってますかね?」
「ええ、そうです」
ていうか、この人いつになったら俺に敬語使うのやめるんだろう……。
護衛の人達もラムディーノ公爵も、何一つツッコまないし。え、これ俺がおかしいのかな?
「ハッキリ言うと、勇者様方に頼みたい事はあまり多くないです」
「えっ、多くないんですか?」
「ええ。一つは、従者様方の中で可能な人が、私やラムディーノ公と一緒に過ごしてもらう事です」
「過ごしてもらう……というのは、具体的には?」
「まあ、護衛の様な感じというのが、一番合っている表現でしょうか?要は、私達の関係が密であると他の派閥に伝われば良い訳です。四六時中とまでは言いませんが、日中はなるべく従者様方の内誰か一人は一緒に居て欲しいですね」
「なるほど」
示威行為みたいなもんか。
まあ、魔王を倒せる様な奴らが第三王子と一緒に行動してたら、他の派閥所属の貴族からしてみればちょっと怖いか。
逆に、自派閥の貴族からしてみたら心強そうだな。
うん、と頷き、続きを促す。
「他には?」
「もう一つは、私の私設部隊に戦闘訓練をつけてやって欲しいんですよ」
「私設部隊?」
「王族はそれぞれ、自分の直属の部隊……まあ、騎士団みたいなものですかね。数はあまり多くないですが、まあ五百から一千くらいのものを持っています。他の二派閥は、金に物を言わせて強者を雇っているのですが、私は第三王子という立場柄、兄様方程お金を動かす事ができないので、戦闘訓練をどうしようかと悩んでいたんですよ」
「なるほど……それで、俺達の中から誰か一人訓練の教官役を務めて欲しい、と……」
「そうなりますね」
俺達に頼らなくてもいい戦力が欲しい訳か。
俺に関しては、技術的な面はクェート城のギーナス氏の受け売りしかできないが、まあひたすら打ち込ませればいいだろう。
リナやメリーは魔法戦の手解きができるだろう。
リーニャは……まあ、話にならんか。というかそもそも、リーニャには試験勉強があるので、あまり働かせるつもりは無い。
「そこでなんですが、一応確認しておきますが、勇者様の従者様は、全員で四人で間違いありませんよね?」
「ええ、間違いないです」
「ハリーさん、シビル卿、アニマ卿、そしてハリーさんのご令嬢であるリーニャさん、で合ってますよね?」
「え――んん!?ご令嬢!?」
「え、違うんですか?」
うーん、まあ確かに、苗字が同じだからそう思われるか……。
まあ、実質養子みたいなもんだしな。否定はできない。
「い、いや、なんでもないです。それで合ってますよ」
「で、シビル卿は拘留中、リーニャさんは貴族学校入学に向けた試験勉強中、となると、ハリーさんとアニマ卿のお二人にばかり頼るのは忍びないので、戦闘訓練の方はしばらくシビル卿にお願いする事にしますが、よろしいですか?」
「え、メリー――シビル子爵は、拘留中なのに大丈夫なんですか?」
「城内ならばある程度の自由行動は認められている筈なので、問題無いでしょう。なんなら、今この場に呼んでくる事もできると思いますが……?」
「いや、それは大丈夫です」
真面目な話し合いの場にメリーを呼んだら、場をかき乱される気しかしない。
まあ、メリーが元気そうなら良しとしよう。
「という事は、戦闘訓練に関してはしばらく問題無いので、俺か、えー、アニマ子爵がジークディア様に付いて行動すれば良い訳ですね?」
「ええ。それと、ジークとお呼び下さい」
「……まあ、その辺りは話し合って調整します。王城に出向けばいいんですよね?」
「ええ。毎朝、この二人の片方に出迎えさせましょう」
この二人、とは後ろに立つ護衛の事だ。
ジーク呼び催促をスルーしたが、問題無さそうだな。
「まあ、直近で必要な話はこれぐらいですかね?ラムディーノ公、これで大丈夫?」
「ジーク様、他の王族の方々に関する話を忘れておりますぞ」
「ああ、そんなのもあったか……」
他の王族に関する話?
なんだろうか。
「これから王城で行動する事が増えると思いますが……その際、他の王族との会話にはお気を付け下さい。下手な言質を取られると、私でも対処できない場合があります」
「わ、分かりました……肝に銘じておきます」
「お願いします。継承戦を諦めている弟や妹達は問題無いと思いますが、姉様と兄様方には気を付けて下さい」
「ん……?兄様方、って第二王子も含まれるんですか?」
「ええ、もちろんです。勢力こそ弱いですが、レイン兄様も諦めていませんからね」
なるほど、第一王女、第一王子、第二王子の三人との会話は警戒、か。
「では、これで本当に終わりですね」
よし、話し合い終了……なんて思っていたのだが。
俺はそんな簡単に解放されないらしかった。
「それでですね、魔王と戦った時の話を聞かせて欲しくて――!」
その日、俺は日が沈む頃まで第三王子に拘束されるのだった。
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