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55 王立貴族学院とは

 翌日。

 手早く朝食を済ませた俺は、馬車でラムディーノ公爵邸に向かう。

 万が一公爵と会えなくても、早い時間に行っておけばその日の内に会える可能性はある。

 そう思って向かったのだが……公爵は普通に屋敷に居た。


「おお、早速来てくれたのだな」


 そして、以前紅茶を楽しんだ部屋へと案内される。

 相変わらず美術館顔負けの調度品達だ。二度目でも少し緊張させられる。


 またも公爵手ずから紅茶を淹れてもらい、席に着く。


「して、用件はなんだね?ただ茶を楽しみに来た訳では無かろう?」


「ええ、そうです。貴族学校の事について教えてもらおうと思いまして……」


「ふむ……いいだろう」


 ラムディーノ公爵は紅茶を一口啜り、語り出す。


「貴族学校。正式名称は、王立貴族学院。貴族、もしくは貴族の子弟のみが入学する事を許された、貴族専用の学び舎だ。年齢は下限は無いが、上限は十八歳までだな」


「年齢に下限が無いって……要は幼子でも入学できる訳ですか?」


「まあ、理論上はそうなるな。とはいえ、入学試験は年齢を問わず同一の物が出される。確か、今の最年少入学記録は、四歳だったか」


「四歳……」


 地球で言えば、年中さんの年齢だ。

 まだ幼稚園で駆け回って遊んでいるぐらいの歳の子供が、入学試験を突破して学校に入学するとは、かなり凄い。

 試験の難易度は知らないが、貴族が入る学校なのだからそれなりに難しいのだろう。それを四歳児が受かるとは……。


「そして、卒業までの期間は特に決められていない。必修の授業を全て修了すれば卒業が可能だが、敢えて卒業せずに必修以外の授業を受けたり、教員の助手として居座る者も居る」


「ふむ……」


 早い人はさっさと終えて卒業するし、留まりたい人はギリギリまで留まれる訳か。


「ところで、貴公は何故貴族学校について知りたいのだ?まさか、貴公が入学する訳でもあるまい?」


「ああ、仲間のリーニャがまだ幼いので、学ばせてやりたいなと……」


「リーニャ……ああ、獣人の娘か。なるほど……それは苦労するぞ?」


「……でしょうね」


 あまり詳しくないから確証は無いが、恐らくリーニャは獣人の中で唯一の貴族。亜人も含んだとして、リナとリーニャのみだろう。

 そして、大抵の貴族は平民を見下しているし、そうでない者も獣人は嫌っているパターンが多い。


 いくら爵位持ち貴族とはいえ、獣人となれば嫌がらせなども起こるかもしれない。


 しかし……俺はリーニャに同年代の友達ができている事を知っている。

 茶会の時にリーニャと一緒に居たあの子と、最近遊んでいるのだ。俺やリナが出て行った後に使用人に馬車を出してもらっている、というのを使用人達の会話から知ったのだ。

 年齢的にその子もそろそろ入学だろうし、友達と一緒ならば楽しい筈だ。


「まあ良い。……そうだな、それなら騎士学科がお薦めか」


「あー……違う学科の生徒との交流とかってあるんですか?」


「無論、ある。受ける授業が被る事はそうそう無いが、そうで無くとも授業外の時間は共に過ごす事ができるし、合同授業なんかもある」


「なるほど……」


 合同授業と言うと……魔法学科と騎士学科で模擬戦、とかだろうか。

 異世界もののあるあるだな。


 まあともかくそういう事なら、騎士学科に入れるのが良いだろう。


「ちなみに、他にはどんな学科があったり?」


「純粋に学術的な知識を学ぶ学術学科、魔法を学ぶ魔法学科、領地経営などの手腕を学ぶ経営学科……などが主だな」


「ほうほう……」


 貴族の長男なんかは経営学科に入ったりするのだろう。

 魔法学科や騎士学科は、軍務関係に進みたい者が学ぶ場だろうか。

 別にリーニャを軍務関係の職に就かせるつもりは無いが、騎士学科に入れば独学で剣を学ぶよりも格段に強くなれるだろう。


「入学時期っていつ頃なんですか?」


「三月の初め頃だ。試験対策をするには丁度良い時期だな」


 三月。

 日本の四月や、アメリカの九月とは違うようだ。

 恐らく、この国の春が少し早いからだろうか?今の時期は冬だけど、雪もほとんど降らないしな。


 問題は……リーニャが試験勉強なんてものをできるかどうか。

 まあ、最悪受からなければ次の年にでも回そう。


「よければ、過去問を貴公の屋敷に届けさせようか?」


「えっ、いいんですか?」


「ああ、もちろんだ。数日以内に届けよう。それと……その時に、派閥に関する内容を書いた書簡も同封しよう」


「ああ……分かりました」


 過去問とか……受験生じみてきた。

 前世の記憶が思い出される……。


 まあ、日本程苛烈な受験戦争では無いだろうし、期間も約一か月。

 リーニャよ、頑張ってくれ。





「学校……」


 その日の夕食後、リナを交えてラムディーノ公爵から聞いた話をリーニャに伝える事にした。


「学校、エレノアも行くって言ってた」


 エレノア……リーニャの友達かな?

 入学する年が被るのは丁度良いな。リーニャの学校生活も楽しくなるだろうし、勉強のやる気を出させる事にも繋がる。


「ああ、リーニャも行けるんだが……興味あるか?」


「学校って……何するの?」


 ……まず学校がどんな所かを知らないのか……。


「学校ってのはね、同い年くらいの子達が集まって色んな事を勉強するのよ。騎士学科なら、剣術が主かしらね?」


「剣術……」


「後は、休み時間にそのエレノアちゃんとも遊べるかもよ?」


「遊び……!」


「どう、興味持った?」


「うん!」


 俺の代わりにリナが全ての説明をしてくれた。

 やる気まで出させるとは、流石リナだ。サムズアップして称賛しておく。


「でだ……学校に入るには試験を受けなきゃいけなくてな」


「試験……?あ、剣?」


「うん、違うぞ」


 騎士養成専門の学校じゃないんだから……。


「普通の勉強だ。読み書きとか算術とか、歴史とか」


「読み書き……うん、分かった!」


「おう。試験の過去問は近い内に届くからな」


 確かリーニャは読み書きができなかった筈なので、使用人の誰かに教えさせよう。

 ……読み書きができないとなると、一気に不安になってきた。この国は日本と違って識字率が高い訳でも無いし、大丈夫だよな?


 そういえば、俺やリナが当たり前のように会話や読み書きができてるのは何故なんだろうか?

 事情を知っていそうな――ナスターニャ神にでも、今度話す機会があれば訊いてみよう。


「誰かー、リーニャに読み書きを教えてやれる人は居ないかー?」


「あっ、はいっ!私、やりますっ!」


 そう言って挙手したのは、一人のメイドだった。

 確か、名前は……ルーアだったか。


「そうか、ありがとう。……そうだな、ついでだし、リーニャの身の回りの世話とかもお願いしていいか?」


「は、はいっ!頑張ります!!」


 確か、家事全般をするメイドと貴族の身の回りの世話する侍女では、給料事情なんかも違いが出てくるんだったよな。

 彼女らの給料は俺達の代わりに国王が払ってくれているらしいので、国王に給料アップを伝えておこう。


「ふふっ、これで毎日リーニャ様をモフれる……!」


「ルーア、ズルいわよ!あーあ、私も読み書きできたらな~」


「ジルじゃ無理よ」


「ちょっ、言ったわね!」


 メイド達が目の前で戯れ始めたが、まあある程度の職務は終わっているし、自由にさせてやろう。


 そんな事より、リーニャがメイド達の間で邪険にされていない事に驚きだ。

 貴族達と同じで、嫌われていないか心配だったのだが……。


 気になったので、他のメイドと戯れているルーアを救出し、訊いてみる事にした。


「なあ、リーニャってメイド達の間で嫌われたりしてないの?」


「あー……言ってしまうと最初の方は、「うわー獣人かよー」みたいな反応の人も多かったんですが、接していく内に段々こう、猫を可愛がるみたいな感じに変わっていきまして……」


「あー、なるほどな」


 通りでさっき「モフれる」とか言っていた訳だ。


 これは俺の憶測だが、獣人が嫌われるのは、獣人の生活環境が悪くて特有の臭いや毛のゴワつきが生まれてしまうからだと思う。

 俺達と同レベルの生活をしているリーニャは悪い臭いも無いし、毛もモフモフだし。


「まあ、仲良くやってくれるとありがたい」


「はい、任せて下さい!思う存分モフ――じゃなくて、読み書きを完璧に教えてみせます!」


「…………」


 本音が見え隠れしているが、まあ良いだろう。

 獣人が嫌いで嫌がらせをされるよりはずっとマシだ。


 懸念事項も解決されそうで、何よりである。

 少しでも面白いな、と思って頂けたら、感想・評価・ブックマーク等して下さると非常に嬉しいです!今後の活動のモチベーションになります!

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