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SS クリスマスパーティー

 クリスマス記念。

 話の時系列的には29と30の間ぐらいです。

 クェート伯爵城に泊まっていたある日の晩、俺の部屋に集まったメリー、リナ、イリーナ嬢と雑談をしていた時の事だ。

 リナが思い出したようにふと、とある発言をした。


「そういえば、来週はクリスマスね」


「……あー、確かにそうだな」


 リナの発言を聞いて脳内でカレンダーを見てみれば、確かに丁度1週間で12月25日が訪れる。

 俺はすぐに得心が行ったが、こちらの世界には無い文化なのかメリーとイリーナ嬢はきょとんとして首を傾げていた。


「くりすますとは何ですか?」


「あー……勇者の世界で12月25日に行われる、昔の偉い人の誕生日を祝うイベント……的なもの?」


 俺の認識が正しいかをリナに視線で問うたが頷かれたので、間違ってはいない筈だ。


「なるほど……具体的にはどんな事をするんですか?」


「クリスマスパーティーって言って、みんなでショートケーキ食べたり七面鳥食べたり、後はワイン飲んだり……ですかね?」


 俺のイメージ上のクリスマスパーティーの概要を述べたのだが、イリーナ嬢は依然首を傾げたままだ。


「しょーとけーき……?しちめんちょう……?スポンジケーキならば以前王都で食べた事がありますが……」


 七面鳥は俺も前世で食べた事はおろか見た事も無かったのでそこまでショックでは無かったが、ショートケーキが存在しないという事実に愕然としてしまい、思わず隣に座るリナに耳打ちする。


「ショートケーキが無いってマジ?」


「残念ながらマジね」


 嘘だろ……と頭を抱える。

 あの極上の甘味が無ければ、俺は何を娯楽にして生きていけばいいんだ……。


 俺がかなり落ち込んでいるのを見かねてか、リナが励ましの言葉をくれる。


「そんなこの世の終わりみたいな顔しなさんな……材料が見つかったら頑張って再現するわよ」


「え、本当に?」


「本当よ本当。だから明るい顔してなさい」


 ガッツポーズをしながら飛び上がって天井を突き破るぐらいの気持ちになったが、イリーナ嬢もいる手前はしたないので自重しておく。

 これは王都に着いたら一旦定住もありかもしれない……。


「それより、話が逸れてるわよ。クリスマスパーティーやるんじゃないの?」


 リナに脇腹を突かれて本来の話題を思い出したので、腕を組みながら思案する。


「ああそうそう。ショートケーキが無いなら……スポンジケーキで代用できるかな?」


「でしたら、少々お高いですがお爺様に強請っておきますね」


「助かります……」


 少し申し訳なさがあるが、使用人さん達にも食べて貰えばいいだろう。俺からの頼みでなくイリーナ嬢からの頼みであればクェート伯爵も頷くだろうしね。


 七面鳥は最悪無くてもいいが、フライドチキン辺りは欲しい。

 そんな俺の内心を読んでか、リナが自作すると言ってくれた。


「小麦粉とか薄力粉は調理場にあったから、1週間掛けて再現するわ」


「本当にありがとう」


「感謝をするなら態度で示して欲しいわね」


「オーケー、次の野営の時は頑張ってリーニャの暴走を止めます」


「よろしい」


 そんな風な会話を経て、俺達はクェート伯爵城の人間を巻き込んだクリスマスパーティーを開催する事にした。





「ふぅ……こんなもんでいいかな?」


 クリスマスパーティー当日、会場の飾り付けを終えた俺は水を一口飲んで息を吐く。

 宴会場を借りて飾り付けをした会場は、既に沢山のテーブルに料理が山盛りされており、もういつでも食べられる状態だ。


 最終準備を完了した俺は、同じく最後の確認をしていたイリーナ嬢に目配せし、扉を開けてもらう。

 すぐさまこの時を待ち侘びていた使用人さんやメリー達が雪崩れ込んでくる。

 それと同時に、イリーナ嬢やリナなどのいつものメンツが俺のいるテーブルに集まってくる。


 料理を見ながらソワソワしていた使用人さん達が落ち着きを見せ始めたところで、クェート伯爵の音頭で乾杯を行う。


「あまり長い話は好かんと思うので、短く行こう。今日は立場の差などは気にせず、存分に料理を味わい、語らいを楽しんでくれ。乾杯!」


「「「「「乾杯!!!」」」」」


 音頭に合わせてテーブルのみんなとグラスを打ち付け合うと、あちこちのテーブルでも同じ音が発生し、会場に響き渡る。グラスが当たる音が消える前に、喧噪が会場を覆い尽くした。

 俺の座るテーブルでも、リナ以外の面々が騒ぎ始めている。


「これがフライドチキンと言うものなのですね……」


「ケーキ甘っ!美味しい!」


「おい()い!」


 フライドチキンを見て感嘆の息を漏らしながら上品に食べるイリーナ嬢、スポンジケーキを口に放り込んで頬を抑えるメリー、様々な料理を皿と口にいっぱい詰め込んだリーニャ。

 そんな3人の様子を見て俺とリナは苦笑しつつ、度重なる改良により完成したフライドチキンを頬張る。

 溢れ出る肉汁が頬を汚したので、布巾を使って拭き取る。某白い髭おじさんのお店で食べたものに勝るとも劣らない味だ。


「よく1週間でこれが作れたな……」


 思わず俺の口から漏れた感嘆の言葉を、この喧噪の中でリナは耳聡く聞き取ったようだ。


「まあ試食要員は適任がいたからね」


「ああ……」


 そう言うリナの視線の先には、フライドチキンを爆食いするリーニャがいた。確かにリーニャならばいくらでも試食に協力するだろう。


 リナの方は自作したフライドチキンではなく、スポンジケーキを食しているようだった。


「スポンジケーキって初めて食べたけど、意外といけるわね」


「まじか。結構見た目で食わず嫌いしてたけど、食べてみるか」


 リナの感想を聞き、フライドチキンを食べるのを中断してスポンジケーキを食べる。

 貴族であるイリーナ嬢程優雅に食べられる自信は無いが、俺の所作もそれなりに綺麗な筈だ。

 フォークで軽く切って欠片を口に放り込む。前世で食べたショートケーキ程では無いが、心地良い甘みが口内に広がる。むしろ少し控えめで良いかもしれない。


「リーニャはケーキには興味無いのな」


「甘いのは苦手みたいよ」


 そんな風にしてリナと会話をしつつ、テーブルに並べられた料理を楽しむ。

 ふと周囲を見回してみれば、使用人さん達もそれぞれのテーブルで楽しそうに談笑していた。立食形式では無いが、それなりに席を立っている者も見える。

 最後に全体を見て料理に戻ろうとしたところ――クェート伯爵の座る席から強烈な視線を感じた。きっと、娘と同じテーブルを囲めない事が不満だったのだろう……俺、後で殺されないかな。

 そんな不安を抱きつつ、甘いスポンジケーキを口に含んだ。





「疲れた……」


「そうね……」


 長い長い片付け作業がようやく終了し、俺とリナは俺の部屋のベッドに倒れ込む。


「いや待て、何ナチュラルに入り込んでるんだ」


「もういいでしょ……疲れたわ」


「……まあそれには同意する」


 リーニャは大量に食べたからかすぐに寝てしまい、メリーはリーニャをおぶって部屋に帰り、イリーナ嬢は当然片付け作業などには加わらなかったので、俺達と飲み潰れなかった使用人さん達のみで片付けをしたのだ。

 俺が言い出した事とはいえ、流石に疲れた。まあ、そのお陰でクェート伯爵に殺される事は無かった訳だが。


「あー……あと1週間で年明けか」


「そうね……流石に蕎麦とお餅は作れないわよ?」


「バレたか」


 俺の顔から求めているものを察したのか、リナが先回りして防ぐ。

 年越し蕎麦でも食べたかったのだが、まあ流石に厳しいか。


 諦めた俺は、体勢を変えて目を閉じる。それに続いて、リナも同じようにベッドの上で身を動かした。


「来年はできるように努力してあげるわ」


「期待してる」

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