閑話9 エルフから見た茶会
短めです。
「フェッルム卿、本当に助かった!」
「フェッルム卿、礼を言うぞ!」
「フェッルム卿、胸の大きい妻が欲しくなればいつでも教えてくれ!」
「フェッルム卿、何か相談があればこのルラード・ジモーン伯爵を頼ってくれ!」
「フェッルム卿、勇者様に直々に礼を言いたいのだが、どうすればお会いできるのだ!?」
茶会の会場に入るなり、大量の貴族がハリー目掛けて押し寄せてくる。
礼を言ったり頼りにして欲しいと言ったりする人は良いのだが、下品な事を大声で叫んだりするのはやめて欲しい。もし私が直接言われたら足を踏んづけているところだ。
ハリーは迫ってくる貴族達を見て、完全に対応に困ってしまっている。
えーと……と苦笑いして困惑している姿は、少しだけ可愛く見えた。
「これこれ、あまりフェッルム卿を困らせるでない。何か言いたい者は一列に並ぶが良い」
ハリーが困っているのを見て、国王が間に入り仲裁をする。
そうすると、すぐに大量の貴族が6つに分けられた。
私は亜人だからか、他のみんなよりも少しだけ並んでいる人数が少ないように見える。
本来だったら忌避されている事を嘆くべきなのだろうが、今この場においては迫ってくる人数が少ない事は良い事だ。
「アニマ卿、お美しい黒髪ですね」
「どうも。ありがとうございます」
「アニマ卿、私の妹よりも美しい顔をされている!」
「ああ、どうも」
褒めてくれるのはまあ良いとして、他の人と比べたりする発言はどうかと思う。もしこれが合コンだったらマイナスポイントだ。
私を口説こうとしているのか、そういった発言をする貴族の子弟が多いが、大抵は冷めた対応に気付くのかそれ以上何か言う事も無く帰っていく。普通の貴族だったら格好良い婚約者を作ろうと躍起になったりするのだろうが、私は生憎と心に決めている人が居るので、彼らに興味は無い。
しばらくすると列の人数も落ち着いてきて、近くにあった手頃な椅子に座る。
すかさず、何人かの貴族がテーブルにつく。肉食動物も口をあんぐりと開けそうな程の機敏な動きだった。
「アニマ卿は何度見てもお美しい。ところで、アニマ卿には婚約者はいらっしゃるのか?」
「いえ、居ませんよ」
「ほうほう、では私の息子はどうですかな?私に似て男らしい体つきをしておりまして――」
「それならわしの孫はどうじゃ!使用人に聞いた話だと、夜の方も凄いらしいぞ!」
「そんなこの場に居ない奴らよりも私を!私ならいくらでも夜の相手をしましょうぞ!」
――セクハラ紛いの発言をする奴には死を!
私が心の中で叫ぶと、テーブルの下の影が動く。
私が連れてきた使い魔精霊の影狼だ。動物系の使い魔は言葉で命令しなくても、ある程度こちらの意思を汲み取ってくれるのでありがたい。
「ぬ、なんだ?」
「何か引っ張られる気がするぞ」
「気のせいでは?」
「何を言っておるのだか……」
影狼も加減は知っているのか、流石に嚙みついたりはしていないようだ。
ただ対象にされた貴族達は気味の悪い現象に怯えたのか、テーブルから去っていった。空いた席にすかさず研究者っぽい貴族が座る。
「アニマ卿はエルフであると噂で聞いたのですが、本当ですかな?」
「ええ、そうですよ」
隣に座った研究者貴族が訊いてくるので、髪をかき上げてエルフ特有の尖った耳を見せてやる。
「おお、噂は真であったか!」
「おお、美しい耳だ……」
「はぁはぁ、素敵だ……舐めたい……」
研究者貴族は素直に喜んでくれたようだけど、他の奴らが気持ち悪い。
あまりの気持ち悪さに鳥肌が立った私は、素早く髪を元に戻した上で、影狼が動いているのを確認する。魔力的な繋がりで常に動きは把握できるのだが、それでも確認したくなる程の気持ち悪さだった。
私のテーブルにはなんでこう変な奴らが寄ってくるのか。
「ではやはり精霊魔法をお使いに?」
「ええ、そうですね。なんなら、実演してみせましょうか?」
「いや、それは不可能な筈だ。ここでは魔法の発動ができないのだよ」
「そうなんですか?」
「ああ。そういう魔法道具が常時起動している」
別の研究者貴族が会話に混ざってきた。
「魔法の発動ができない」という事は、既に発動している魔法は対象外で、だから影狼が元気に活動できているのだろうか?
どんな物なのか、非常に興味がある。
「そういえばそうでしたな。とはいえ、一度実際に見てみたいものです」
「そうよな。実物を見た研究者は滅多におらぬし、見る事が叶えば学院の奴らに自慢できるというもの」
「……あの、でしたら、また今度機会を作りましょうか?」
研究者貴族達が露骨に残念そうな表情を作るので、そんな事を言ってしまった。
まあ彼らであれば私に不埒な真似を働くとは思えないし、彼らの家に上がるのに不満は無い。
「おお、本当か!!」
「でしたら、明後日にでもどうですかな?私の屋敷の庭で――」
「そうだな、それが良い!よし、他の研究者仲間も呼びたいのだが、良いか?」
「……ええ、構いませんよ」
少し悩んだが、彼らの同類であれば大丈夫だろう。
それよりも、この食いつきは驚いた。そこまでして見たかったのか、精霊魔法……。
約束も取り付けたという事で、話は精霊魔法に戻る。
「精霊魔法はエルフにしか使えないというのは本当ですかな?」
「いえ、そんな事はありませんよ。ただし、エルフの集落に行く必要がありまして――」
「ほうほう、では精霊魔法とは儀式が必要な物なのですな?」
「ええ、エルフが秘匿している術を用いなければ、スキルの取得が不可能なのです」
研究者貴族達とそんな風な会話をしていると、彼らの背後にハリーの姿が見えた。さっきまで貴族達に囲まれていた筈だが、抜け出してきたのだろうか?
私が研究者貴族と話し込んでいるからか、ハリーは微笑みながらこちらを見ているだけでやってくる様子が無い。
目が合ったので、軽く微笑を浮かべながら手を振っておく。すると、ハリーも手を振り返してくれた。
その事に少し嬉しくなって上機嫌になりながら、研究者貴族達が次々と放ってくる質問に答えた。
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