49 茶会
「フェッルム卿、本当に助かった!」
「フェッルム卿、礼を言うぞ!」
「フェッルム卿、胸の大きい妻が欲しくなればいつでも教えてくれ!」
「フェッルム卿、何か相談があればこのルラード・ジモーン伯爵を頼ってくれ!」
「フェッルム卿、勇者様に直々に礼を言いたいのだが、どうすればお会いできるのだ!?」
サロンで茶会が始まるなり、大勢の貴族に囲まれてしまった。
中には変な発言をして周囲から睨まれている貴族も居る。
貴族の知己ができる事に関しては悪くないのだろうが、こう数が多いと対応に困る。
俺が困っているのを見かねてか、国王が間に入ってくれた。
「これこれ、あまりフェッルム卿を困らせるでない。何か言いたい者は一列に並ぶが良い」
俺達やラルク達が主役扱いなのか、国王のその一言で、6つの大きな列ができる。
8つでは無く6つなのは、リーニャが俺の後ろで怯えたようにスーツの裾を掴んでいるのと、フーガとローナが一緒になっているからだ。
貴族達に失礼の無いように返礼しながら、時折チラッと他の様子を窺う。
メリーに対してはプロポーズをしている青年貴族が多い。頼れるお姉さん感を醸し出す見た目に惹かれていったのだろうが、痛い目を見る前に真実を悟って目を覚ましてもらいたい。
リナに対してはブルーノ子爵のような亜人好き、もしくは研究者が多いようだ。エルフというのはあまり人里に出ない種族らしいので、研究者からすれば目から鱗なのだろう。質問責めに遭って泡を食っているリナが少し面白く、そして可愛い。
ラルクに対してはプロポーズをしている貴族の子女が多い。ラルクはその一人一人に丁寧に対応しているようだ。流石ナンパ師。時折「「「キャーッ!」」」と黄色い声が上がっている。おっさんばっかりのこっちにも少し分けて欲しいくらいだ。
ヴァーラインの方は、筋肉質の人達が多い。恐らく軍人なのだろう、戦闘的な議論を交わしている様子が見られた。ヴァーラインが楽しそうなので何よりだ。
フーガとローナは……特徴を掴みづらい。大抵の人が礼を言うだけみたいだ。たまにローナを口説こうとする青年貴族や、フーガを口説こうとする貴族の子女が居るのだが、互いが互いを防護しているみたいで、アタックには成功していないようだ。あの2人、実はデキているのだろうか?後でラルクに訊いてみよう。
そうこうしている内に列も大分捌けてきたようだ。
勧められた席に座り、提供される紅茶を一口啜ってみる。
「美味しいっ……!」
普段飲む飲み物と言えばコーヒーだし、紅茶はあまり好きでは無いのだが、不思議とこの紅茶は美味しく楽しめた。
「どうかね、スルティーンの紅茶は。我が息子が領主を務めておるスルティーン侯爵領の特産でな――」
「スルティーン卿!抜け駆けは感心しませんぞ!」
「そうですな!それよりも、使われている角砂糖に注目すべきだ!」
「そうやって貴公らはまた抜け駆けを目論む!ところでフェッルム卿、この気品あるカップは――」
ぎゃいぎゃい、と子供のように言い合いを始める貴族達。
年頃の女の子や幼児にならまだしも、こんなおっさん達に取り合いをされたってあまり嬉しくない。いつの間にかおっさんはほとんど俺とヴァーラインに集中しているし……ヴァーラインは嬉しそうだからまだしも、俺はちっとも嬉しくないので早く離れてくれると嬉しい。
「まあまあ、落ち着きなされ皆の衆。幼子のように喚いてだらしない姿を見せていれば、フェッルム卿に呆れられてしまうぞ?」
口論をする貴族達をとりなしたのは、大物っぽい感じの髭を生やした壮年の男性だった。
なんというか、国王に近い雰囲気を感じる。
「これはこれは公爵閣下。言う事が手厳しいですなあ」
「そう言って、実は公爵閣下もフェッルム卿を引き入れに来たのではありませぬか?」
「他の公爵方は今日は姿を見せていませんからな。賭けで優先権でも得たのでは?」
誰かが言い始めたのを皮切りに、貴族達は憶測を飛ばし合う。
賭けで云々に関しては、本当にやっていたとしたら酷い話だ。人の承諾も得ていないのに景品代わりに扱うのは是非ともやめてもらいたい。
「騒がしいですな。……ところでフェッルム卿、貴公さえ良ければ、明後日の昼過ぎにでも我が屋敷で茶を飲んではいかないか?」
「なっ……!公爵閣下ともあろうお方が、書簡では無く直接の招待ですと!?」
「我々ですら控えていた事をあっさりと……」
公爵がそう言った途端、貴族達がどよめき始めた。
確かに、言われてみれば誰一人として茶会の招待なんてしてこなかったな。なるほど、書簡でやり取りするのが礼儀だから、みんな控えていたのか。
おっと、そんな事を考えている場合では無かった。返事をせねば。
「光栄なお誘いですが、何分忙しい身の上ですので、お会いできるかどうか……」
「何、構わぬ。忙しければ無理に来なくても良いぞ。門は開けておく故、可能なら来るがよい」
「は、はあ……」
遠回しに「行けたら行くわ」と言ったのに、そんな感じでいいんすか……。
実際貴族達も驚いている者が多い。
「まあ、私が伝えたかったのはそれだけだ。それよりも貴公ら、いつまでもフェッルム卿を拘束していては可哀想だぞ?少しくらいお仲間の顔を見せてやっても良いのではないか?」
公爵はそれだけ言うと、颯爽と去っていった。
何故俺の内心がバレていたんだ……「表情管理」スキルを貫通して心を読んでくる、流石は公爵と言ったところか。
そういえば、みんな公爵公爵としか呼ばないから、何公爵なのか分からなかった……後で誰かに確認しておこう。
公爵の発言のお陰で少し周りの貴族の数が減ってくれたので、これ幸いとばかりに中座し、他の面々の様子を見る事にする。
……というかいつの間にかリーニャが消えている。どこに行った?
慌てて会場を見渡すと、隅の方で幼い貴族の子女と談笑しているようだ。相手方は獣人嫌いという訳では無いらしく、リーニャの表情も柔らかい。
「うちのリーニャと仲良くしてくださって、ありがとうございます」
「あっ、その、い、いえ!リーニャちゃんはひじゅ――非常に可愛らしくて、えっと、その――!」
俺が母親のようなセリフを言うと、リーニャと談笑していた娘は緊張しているのか恥ずかしいのか、赤面しながら何やら言っている。ところどころ噛んでいるのが可愛い。
その内ぷしゅーと湯気が出そうなくらい顔を赤くしてしまったので、一礼してから場を離れる。
そんなに恥ずかしがる要素でもあったのだろうか……?
次はメリーの方を見てみよう。
「シビル卿、是非私と婚約を!私はこんな輩とは違って、これまで一度も婚約者を作っていない一途な――」
「何を!私は火炎魔法の名家たるトリトルン子爵家の長男ぞ!」
「こんな騒がしい奴らよりも私を!私は歴史あるルーレトン子爵家の――」
正に姦しいという形容詞が似合う混沌とした場だった。
爽やかな雰囲気の貴族の子弟が大勢メリーに言い寄っている。当のメリーはその中心でニコニコとした、困ったような笑みを浮かべるばかりだ。
俺に気付いたメリーが「助けて」と言った視線を送ってくるが、無視しておこう。
その中から気の合いそうな人でも見つけてもらいたいものだ。
次はリナの方を見よう。
「ほうほう、では精霊魔法とは儀式が必要な物なのですな?」
「ええ、エルフが秘匿している術を用いなければ、スキルの取得が不可能なのです」
「それはアニマ卿でも知らぬ物なのですか?」
「その通りです。基本的にはハイエルフ、もしくはハイエルフに認められた長老以外に儀式を行う権限は無く、権限が与えられていない者には知識すらも与えられていません」
「なるほど。では――」
「はぁはぁ、尖った耳が素敵ですな――」
一部ヤバそうな輩も居るが、概ね大丈夫そうだ。
鼻息を荒くしている奴も研究者肌の貴族に押しのけられて会話の輪に入れないみたいで、変な事態には発展し無さそうだ。
質問責めに遭っているようではあるが、リナも楽しそうだし良しとしよう。
目が合った時に軽く手を振られたので、こちらも振り返しておく。
次はラルク達を見に行こう。
手始めにラルクを――と思ったが、やめた。
美しい女性陣に囲まれてご機嫌そうなラルクの顔を見たら、様子見に行く気が失せたのだ。決して、羨ましかったとかそう言うのじゃないんだからね!
――違うからね?
ヴァーラインの方も相変わらずだ。
「ほう、やはり日々の鍛錬か」
「ああ。同じレベルの奴らでも、日頃から鍛錬をして肉体と技術を伸ばしているか、そこで勝敗が付く」
「なるほど、興味深い……。スクートゥム卿はどんな鍛錬を?」
「取り敢えず朝起きたら腹筋を二百回、その後に――」
偏見だけど、なんか「筋肉こそ我が最愛のパートナー!」とか言ってそうな雰囲気の人が多い。
うん、筋肉談義には付き合わないようにしよう。
ヴァーラインに気付かれないように、コッソリと場を離れる。
最後にフーガとローナのところだが……ここは誰のところにも行かない人の避難所的存在になっているようだった。
俺のところのようにおっさん達が口論をする事も無く、メリーやラルクのところのようにわーきゃーしてる訳でも無く、リナやヴァーラインのところのように専門的な話をしている訳でも無かった。
俺も最初からここに混ざれば良かったのかな……。
とはいえ、おっさん貴族達を待たせている手前、ここに入って行って茶を啜る真似はできない。
落胆の溜め息を吐きつつ、重い足取りで元の席に戻った。
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