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6 悪魔

 ――逃げた訳ではない、決して。


 物陰の裏に隠れて目を閉じ、全力でスキルポイントの割り振りを行う。

 メリーさん達は討伐を諦め足止めに専念している様で、今しばらくの時間的猶予はある筈だ。


●スキルリスト

○収納

○運搬

○詐称

○作り話

○表情管理

○尋問

○吹き矢

○射撃

○拉致

○誘拐

○礼儀作法

○疾走

○逃走

○採取

○索敵

○回避

○武器防御

弾き防御(パリィ)

○連撃


 手元にあるポイントは、32。

 これらを使って、俺は全速力でスキルを取得する。

 結果、俺のスキルは、「片手剣Lv5」「危機感知Lv2」「射撃Lv1」「回避Lv2」「武器防御Lv4」「弾き防御(パリィ)Lv3」「連撃Lv3」となった。ポイントはすべて使い尽くした筈だ。


 次に、俺の正体がバレない様に姿を変える。


「『変幻自在(シェイプ・シフト)』」


 ぼふんと煙が噴出し、一瞬にしてアリスの姿に変わる。

 続いて、整えるべきは装備だ。悪魔のレベルは56だったので、レベル15の俺は装備に頼らなければ即死だろう。


「『万物創造(クリエイト)』:聖鎧アイギス、聖盾イージス、魔法銃ケルネティア」


 全て同じゲームの装備品である。

 魔法銃に関しては、もし物理攻撃無効みたいな特性を持っていたら詰むので、保険で腰に差している。


 スキルの使い過ぎで死んだりしないか心配だが、今はそんな事を言ってられる状況ではない。


「『万物創造(クリエイト)』:強力煙幕」


 左手に再び煙幕を作り出し、悪魔の方へと思い切り投げる。

 アイギスには身体能力向上の機能もある様で、投擲の速度はかなり速い。


「ム、マタ煙幕デスカ。コソコソト煩ワシイ害虫デスネ」


 再び腕をぶんぶん振り回して煙幕を晴らそうとする悪魔。

 その隙だらけの下半身に接近し、右足に一撃お見舞いしてやる。

 レベル差的に大したダメージにならないと思ったのだが、エクスカリバーとアイギスのお陰で、それなりのダメージが通っている。とはいっても、動けなくなる程ではないし、再生が始まっている。


「フム。先程ノ虫カト思ッタノデスガ、違イマスネ。勇者デスカ?」


「勇者?そんな訳がない!聖剣が光っていないぞ!」


 神官さん、勇者を騙る気はないから、黙って詠唱して欲しいな。


 時間稼ぎをするべく、悪魔の会話に乗ってやる。


「勇者だと思うのなら、鑑定してみればいいんじゃない?」


 お嬢様口調は、面倒なので今は出禁です。


「残念デスガ、鑑定ノ力ハ保有シテイナイノデス。未熟ナ勇者、ト言ッタトコロデショウカ」


「へえ、それは残念ね」


 悪魔が喋りながら振るってくる腕を受け流す。スキルの補助のお陰か、最適な受け流しが出来ている。アイギスとイージスのスペックがかなり高いので、このまま防戦を続けていれば、騎士や冒険者が到着するまで時間を稼げそうだ。


「フム、身ノ丈ニ合ワヌ装備ニ振リ回サレテイル訳デモ無イデスネ」


「そう?」


 全然振り回されていると思うのだけれど?

 「万物創造(クリエイト)」で作ったから、俺が扱える様に作られているとかそう言う事だろうか?


 とはいえ、己の力に頼っていなければ、いつか綻びは生じる。

 その綻びは、戦闘開始からおよそ4分後に発生した。


 悪魔が攻撃をしながら口ずさんでいたハミングが終わり、白い炎の様な物を飛ばしてきた。悪魔が一度距離を取ったのをいい事に、イージスを掲げて炎を防ぐ――カシャーン、とガラスの様な破砕音を高々と鳴らして、イージスは粉々に砕け散った。


「――えっ?」


「馬鹿ナ!」


 俺と悪魔の同時の驚愕が、暫し場を満たした。

 俺のレベルが低いとはいえ、イージスが一瞬で破壊されるとか、一体何の魔法だ?


 その俺の問いには、悪魔がすぐに答えてくれた。


「我ガ必殺ノ上級魔法ヲ、ドウヤッテ防イダノデスカ!」


「いや、こっちとしてはイージスがワンパンされた事の方が驚きなんだけど……」


 上級魔法ねえ。

 強力なイメージをぷんぷん醸し出している字面は、確かにイージスにダメージを与えてもおかしくはないが……流石にワンパンはおかしいと思う。

 ちなみに、「万物鑑定(すべてをみとおす)」で悪魔のステータスを覗き見したところ、MPが3分の2と少し減っていた。どうやら、上級魔法とやらはかなりMP効率が悪いらしい。あの白炎一発でそれだけ減るとか、魔法を作り直した方がいいんじゃなかろうか。


 悪魔が腕をぶんぶん振りながら怒っているので、その隙だらけの顔面に魔法銃をぶっ放してみよう。


 エクスカリバーを鞘に納めた後、腰のホルスターからケルネティアを抜き、構えて放つ。


「うおっ……」


 意外と魔力の消費が多そうだ。いや、俺の魔力の最大値が低過ぎるのかもしれない。この感じだと三、四発で魔力切れしそうなので、連発は出来なさそうだ。


 ケルネティアから放たれた魔力の弾丸は、がら空きの悪魔の顔面に命中した。


「グワァッ!」


 ふむ、魔法型のスキル構成をしているくせに、魔法攻撃がそこまで効くとは。


「チィッ……古ノ時代ノ武器トハ、一体何者デスカ?」


「さあ、何者だろうね?」


 「皇国から招かれた者」とか洒落た言い方をしてもよかったが、もしこの悪魔が地球を知っていたりしたら困るので、無難に黙っておく事にした。

 悪魔はぐぬぬ……と唸りながら、更なる魔法を放とうとハミングを口ずさむ。


 そのタイミングで、後ろからドタドタと甲冑の音がして、振り向くと騎士と冒険者が集まって来ていた。

 神官さんや巫女さん達は、遠巻きにこちらを見て、いつでも魔法が使えるように待機している様だ。


 いや、そんな様子を眺めている場合ではなかった。悪魔を止めなければ。

 悪魔のハミングを口ずさむ口元目掛けて、ケルネティアの引き金を引く。


「無理か……」


 悪魔は二本の腕を使って、器用に弾丸を弾いてみせた。

 念の為もう一発放つが、結果は同じ。


 さて、魔力も無くなりそうだし、どうしようか……と首を捻っていると、悪魔のハミングが終了した。


「サア、喰ウノデス!」


「みんな、離れて!!」


 悪魔の手元に赤白いエネルギーの玉が発生し、膨張していく。

 神官さんや巫女さんが魔法で妨害しようと試みているが、魔法の詠唱が長すぎて間に合わなさそうだ。


「『万物創造(クリエイト)』:聖盾イージス」


 再び左腕にイージスを装着し、油断なく構える。

 これで防げるのかは分からないが、上級魔法を防いだのだから、最悪イージスが破壊される程度で済むだろう。


「フフフ、馬鹿勇者デスネ」


 ――は?

 悪魔のその言葉が終わると同時に、エネルギー玉が膨張爆発し、閃光が場を満たす。

 バキバキバキ、という破砕音。

 閃光が収縮して目を開くと、地面に亀裂が走っていた。その亀裂は、時間を追う毎にどんどんと広がっていく。

 これが破壊魔法というやつか。


「まずっ……!」


「フフ、馬鹿勇者ハコレデオ仕舞イデスネ」


 悪魔は手を合わせて魔法を維持したまま俺を煽るが、残念ながら、俺はそれでは死なないと思う。

 アイギスの補助機能の一つに、魔力で足場を形成する力があるからだ。とはいえ、アイギスに溜められた魔力は少ないし、俺自身の魔力は先程のケルネティアの発射のせいで心許ない。ピンチには変わりなさそうだ。


 薄情な事に騎士達は我先にと亀裂から逃れている。許せん。


 仕方がない、今の悪魔は動けなさそうだし、ケルネティアで始末するしかない。


「『万物創造(クリエイト)』:上級魔力回復薬(マナ・ポーション)、聖弾」


 ケルネティアの弾倉に聖なる弾を生成し、次いで魔力回復薬(マナ・ポーション)の栓を開けて一気に飲み干す。

 一瞬ステータスを確認したところ、魔力量が最大値を僅かに越している。うーん、そんなのあり?と思ったが、今は助かるので文句は言えない。


 魔力弾の発射では必要としないコッキングの工程を挟み、悪魔の顔面に狙いを定める。


「フ、ソノ攻撃ハ、モウ無駄ダト解ッテイルデショウ?」


 ――果たして、本当にそうかな?


 ケルネティアの引き金を押し込む。

 溜めの工程を挟むのか、ケルネティアは銃口から青い光を漏らしながら、レールガンの発射前みたいなチャージ音を鳴らしている。レールガンの発射は見た事がないけど。


「ナ、聖剣ノ光!?」


 え、そうなの?

 と俺が問い返す前に、ケルネティアから聖弾が発射された。

 凄まじい勢いで飛んでいった青に光る黄金の弾丸は、急いで魔法を解除しようと動く悪魔の顔面に突き刺さる。


「グ、ググオッ!」


 悪魔は四本の腕を急いで眼前に突き出し、弾丸を防御しようとしている。

 弾丸はゆっくりと悪魔の腕を削りながら進んで行くが、その勢いは若干落ちつつある。魔力切れが近いのか足元が覚束ないが、俺自身も攻撃しなければ駄目そうだ。


 ケルネティアをホルスターに戻し、今度はエクスカリバーを抜く。心なしか、刀身が青く光っている気がしたが、気にせずに突貫する。


 「連撃」スキルによる補助を借りつつ、悪魔の下半身を斬り刻む。悪魔は痛みに呻き声を上げ、僅かに上体を逸らした。


「ナ、馬鹿ナ……!」


 悪魔が何やら言っているが気にせずに、思い切り右足に水平斬りを叩き込む。エクスカリバーが強過ぎたのか、悪魔の右足はスパーンと小気味良い音を立てながら切断された。


「グオオ!!」


 右足を斬られた事で膂力が落ちたか、聖弾の勢いが増した。

 更に左足の踵にエクスカリバーを刺し込んでやると、悪魔はまた悲鳴を上げ、聖弾によって腕が粉々に破壊された。


「馬鹿ヌァ!!!」


 聖弾は腕を破壊した後で更に勢いを増し、悪魔の脳天を撃ち抜いた。いや、空中で再加速するのはいくらなんでもおかしいと思う……。


 悪魔は悲鳴を上げながら仰け反り、激しい衝撃音を鳴らしながら地面に倒れ伏す。

 頭から血をドバドバ噴き出しているが、まだ息をしていそうだったので、念の為心臓にエクスカリバーを突き立て、息の根を止める。


「ふぅ……」


 念の為、「万能鑑定(すべてをみとおす)」での死亡確認も怠らない。


 死亡しているからか読み取れる情報が増えており、どうやらこの悪魔は勇者出現の情報を聞いてこの地にやって来たようだ。つまり、俺を狙っていたと言う訳である。まあ、勇者では無いんだけどね。


「「「「「勇者様万歳!!!」」」」」


 ――え?

 破壊魔法が発動して以降遠巻きにこちらを見ていた人達が、歓声を上げながら近付いてきた。こういうのが嫌だから、姿を変えるんだよ。


「『万物創造(クリエイト)』:煙幕」


 左手に煙幕を生成し、地面に思いっきり投げつける。すぐさまプシューという音とともに煙が噴出し、俺の姿を覆い隠す。


「あっ!!」


 誰かが声を上げたが、スルーだ。

 煙幕に紛れて、俺は姿を消した。

11/20 >悪魔の使用する魔法を、「禁呪」→「上級魔法」に変更しました。

12/02 >スキル部分に「」もしくは『』を付けるよう変更。

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