44 王城前の騒乱(3)
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※三人称視点です。
黒色の肌をした巨躯の王が、タワーシールドを持った巨漢を殴りつける。
(ローナの強化魔法ありきでこれかよ……ッ!)
巨漢――ヴァーラインは心の中で叫ぶ。
今ヴァーラインには雷速足、雷鋭剣、雷硬鎧の3種類の強化魔法が掛けられている。タワーシールド以外の物を戦闘に用いない彼にとって雷鋭剣は無用の長物だが、とはいえ他の2種の強化魔法だけで、これまでの強敵とは充分渡り合ってきた。
しかし――今回の場合は、それらがあって尚劣勢の状況だった。
(畜生……あっちが終わるまであとどれくらいだ!?あと数分が限界だぞ!?)
王の拳を受けながら胸中で叫ぶ。
一発受ける度に骨が軋んでいくのを感じる。既に何本かの骨は折れてしまっている事だろう。
ヴァーラインは懐から魔法回復薬を取り出そうとして――衝撃で全て瓶が割れている事に気が付く。
「チィッ……!」
苛立ちから思わず舌打ちが漏れる。
だが、ヴァーラインの表情はすぐに歓喜に包まれる。
彼の体を光が包み込み、傷が癒えていったからだ。
(ローナのじゃねえな……神官か?この状況で正気を保ってるとは、実戦経験豊富な奴が居るようだな)
ヴァーラインを癒したのは、他でもない金髪の巫女、メリーだった。
彼女も衝撃波の余波を喰らいそれなりの傷を負っていたが、尚戦う事を止めていなかった。
(しっかし……回復魔法も万能じゃねえようだ。出血は止まったが、相変わらず骨は折れていやがる……)
そうこうしている内に、また一発と拳が打ち込まれていく。
その時、ピシ、とタワーシールドにヒビが入る。
(まずッ――!)
続く二発目の拳がタワーシールドを穿つ。
「ごはぁッ……!」
タワーシールドを貫通した拳はそのままヴァーラインの鋼鉄の鎧を打ち、たちまちヴァーラインは後方に吹き飛ばされた。
たったの一撃で鎧はひび割れ、ヴァーラインは大量に吐血している。
(まじぃ……次は本気だ……ッ!)
近付いてくる王から逃れようと体を起こそうとするが、肋骨が折れてしまったのか体は上手く動いてくれない。
(ここまでか……)
迫りくる死がヴァーラインの知覚を加速させているのか、眼前にある拳はゆっくりと近付いてくる。
最後の瞬間まで視界は手放すまいと大きく目を開けたヴァーラインの視界に入ったのは――真っ青な美しい光だった。
スパン!
もう数センチの距離まで迫っていた拳が切り刻まれた。
少し遅れて、ヴァーラインの目の前に立ち塞がるかのように着地する銀髪の女性。
(勇者……?……そうか、そういや、新しい勇者が現れたとかなんだか言ってたな……)
そこまで考えたところで、ヴァーラインの視界は暗転し、意識が途絶える。
ヴァーラインの前に立ち塞がった女性――アリスは、気を失った彼の胸に手を当てる。
「良かった……間に合った」
ヴァーラインの心臓が止まっていない事を確認すると、アリスは右手に持つ聖剣――エクスカリバーを地面に刺し、その手に魔法回復薬を生成する。
「『万物創造』:上級魔法回復薬」
生成されたそれを握り締め、栓を開けて倒れているヴァーラインの口に近付ける。
しかし、傷が深いからかヴァーラインの口は魔法回復薬を受け入れてくれない。
(傷口に振りかけるのは量が足りない……仕方無い)
アリスは瓶の中に残った魔法回復薬を口に含み、意識の無いヴァーラインに口移しで飲ませる。
ゴクン、ゴクンと魔法回復薬がヴァーラインの喉を通っていき、たちまちの内に傷を治した。
「やっぱり上級の魔法薬って怖いな……」
口を軽く拭いながら呟く。
地球出身の彼女――いや彼からすれば、一瞬で傷が癒えていくさまは不思議なものだろう。
「――さて」
空になった瓶を投げ捨てたアリスは、エクスカリバーを引き抜き振り向く。
「わざわざ待っててくれてどうも」
「礼には及ばぬ。折角の戦いを不意打ちで終わらせるのは無粋というものだろう?」
「……それもそうだな」
見た目は違うが、アリスがこれまで何度か戦ってきた相手である事を、王は直感で理解していた。
「これで何度目だったか……」
「三度目じゃないか?」
「そうだったか。そろそろ、終いにしても良い頃合いだな」
「ああ、そうだな」
短い会話を交わした後、それぞれ構える。
アリスは2つの聖剣を、王は2本の腕を。
そして――合図も無しに、双方動き出す。
キン、キン、と高速で剣と腕の打ち合う音が響く。
アリスの攻撃は王の腕によって弾かれ、王の攻撃はアリスの聖剣によって防がれる。
(イージスの生成をサボってたから慌てて二刀流で来たけど……この場においては正解だったかもな)
相手の武器は左右の腕。攻撃も防御も自由自在だ。
こちらが剣と盾であれば、選択肢が制限されて今のような戦いはできなかっただろう。攻防自在の二刀流で正解だった。
(だけど、問題はスキルのレベルが低い事……弐と参との戦いでレベルアップしてる筈だけど、スキルを割り振る時間が無い……)
最初の悪魔との戦いの後「二刀流」スキルを取得したが、スキルポイントが足りずレベルは2で止まっている。
レベルマックスの「片手剣」とは違い、完全に自由自在かと言われると、そうではなかった。
レベル上げを後回しにしていたその判断が、今この場において仇となっている。
「チッ……!」
王の腕がアリスの脇腹を掠め、アイギスに僅かな傷を作った。
僅かにアリスが劣勢だった。
ここの来るまでの間に身体強化系統のスキルは使用したが、それでも僅かに王には届かない。
(それに……コイツ、手を抜いていやがる)
その気になれば、悪魔達の死体を引き寄せて「死者蘇生」を使い再度復活させる事は可能な筈。なのに、王はそんな事は一切していない。
実際、もう他の戦いは終了していた。
参と肆は死亡し、ラルクとフーガはメリーによって治療されながらアリスの戦いを見ていた。
しかし、自分達とはレベルが違う事を本能的に理解し、場に加わろうとはしていなかった。
結局のところ――1対1。
王が果てるかアリスが果てるか、それまでこの戦いは決して終わらない。
◇
何分経過しただろうか。
高速で行われる戦闘は、既にアリスと王の時間感覚を麻痺させている。
その2人の表情は対照的だ。
王は戦闘の興奮から来る高揚感で笑っており、アリスは状況が好転しない焦りが見えている。
一つだけアリスにとって幸いと言えるのが、何故か王に付けた傷が再生しない事だ。原因と言えるのは、王に傷を付ける瞬間だけ聖剣が一際強く光る事か。
何故発光が強まっているのかは分からないし、アリスにはそんな事を考えている余裕は無かった。
(せめてスキルポイントを割り振る暇があれば……)
きっとアリスのスキルポイントは有り余っている筈だ。
スキルポイントを割り振っていないから、レベルが拮抗していても不利なのだ。
「時間をくれ」というアリスの天への願いは――幸運にも果たされた。
「うおおおおおおおおおおおおおッ!!!」
タワーシールドを抱えて走ってきたヴァーラインが、アリスと王の間に割り込んだからだ。
「今の内に……回復を……ッ!」
「ありがとうっ!」
防御主体のヴァーラインだけは、この場においてアリスに協力できる。
攻撃主体のラルクやフーガは戦いが高速過ぎて自身の役割を全うできないが、ヴァーラインは違う。ただ盾を構えて攻撃を防ぐ、これまで幾度となくやってきた事だ。相手と次元が違おうとも、いくら骨が折れようとも、命と意識が尽きるまで彼は盾となり続ける。
アリスは片手間で魔法回復薬を生成・服用しながら、目を閉じてスキルポイントの割り振りを進める。
(『集中』を取得、『二刀流』のレベルを上昇させ、『身体強化』もレベルを上げる……!)
アリスは目を閉じてポイントの割り振りに集中しているが為に気付いていないが、彼女の胸には青色の光が差し込んでいる。その光の元は、聖剣を運んできたリナの掌だ。
かつてない程の速度で割り振りを終えたアリスは、目を開けて瓶を放り投げた後、口を拭ってエクスカリバーを握る。
「……『集中』、『身体強化』!」
アリスの知覚は研ぎ澄まされ、そして身体能力はどんどん高まっていく。
両手の聖剣を握り締めたアリスは、王に向かって走り出す。
スパスパ!
青色の光となって、アリスは王の2本の腕を一瞬にして切断する。
「ぬ……!再生が効かぬ!」
王は慌ててアリスの次撃を回避し、空間魔法で配下の死体を呼び寄せる。
「『死者蘇生』!」
悪魔達の死体である黒い粒子は姿を変えていき――ヒュン!と走っていった青の光によって吹き飛ばされた。
「何ッ……!」
高レベルの王ですら、目を凝らしてようやく見える程の速度だった。
当然、腕の再生が間に合う筈も無い。
「ハアアアアアアアアァァァァァァッ!!!」
アリスは雄叫びを上げながら、エクスカリバーを振り抜く。
「無敵の力」で知られる聖剣は、真っ黒な王の首と心臓を一瞬にして斬り裂いた。
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