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41 事変の前触れ

「これにて、王公会議を終了とする」


 国王の一言により、集まった4人の公爵達はそれぞれの護衛と共に三々五々に解散していく。

 国王は会議によって溜まった疲れを溜め息として吐き出しながら、傍らに座る宰相に問い掛ける。


「シャーマイン公爵は今のところ怪しい動きは見せているか?」


「いいえ。情報局からはそれらしい内容は来ていません」


「ふむ……やはり杞憂だったのか……?」


 ただ単純に、今代のシャーマイン公爵が為政者として優れていないだけなのかもしれない。

 しかし、警戒を怠る訳にはいかない。


「念のため、王都を出るまでの間監視を緩めるな。何か怪しい動きを見せたらすぐに取り押さえよ」


「はっ。通達しておきます」


 杞憂であれば良いとは思う。

 この王都で悪魔なんてものを召喚されてしまえば、民の信頼はガタ落ちし、人的・物的被害は考えたくも無い程になる。


 シャーマイン公爵がクロだという明確な証拠も無ければ、シロだと言える明確な根拠も無いのだ。

 今はただ、転ばぬ先の杖を用意しておく事しかできない。





「……ふーっ」


 イリーナ嬢への手紙を書き終えた俺は、ペンを置いて一息吐く。

 どこかに定住したら手紙をくれとは言われたものの、手紙なんてまともに書いたのは中学校の校外学習のお礼状くらいの物で、書くのに非常に手間取った。

 それだけでなく、こちらの世界の時候の挨拶なんかも丸っきり分からないのだ。メリーの途切れ途切れの知識を引っ張り出してどうにか完成させたが、失礼に当たらないか不安で仕方が無い。


「まあ、イリーナ嬢なら許してくれるか……?」


 盗賊から助けた恩義があるからか、イリーナ嬢は結構俺に甘いところがある――気がする。

 誠心誠意書いたという気持ちが伝われば、多少失礼であっても不快に思って何かされる事は無いだろう。

 いや、そう信じたい。


「んっ……」


 伸びをして体を解した俺は、手紙を抱えて部屋を出る。

 さて、この世界の郵便手段が分からないので、メリーに訊いてみる事にしよう。仲間内でこの世界に一番詳しいのはメリーしか居ないし。


 コンコン、とメリーの部屋をノックしてみるが返事が無い。

 どうやらリビングにでも居るようだ。


 部屋から離れ、リビングに向かう。

 この屋敷、広くて色々できるのは助かるが、生活する分には少し不便だ。2階は一番奥で左右の棟の移動ができるのに、1階は玄関まで戻らないと移動できないのが一番不便だ。設計者はどういう意図でそう作ったのか。


 胸中でそんな愚痴を呟いている間にリビングに着いたので、ドアを開けて中に入る。

 そこには、ソファーに座ってコーヒーを飲んでいるリナと、お茶を啜っているメリーが居た。


 ん?コーヒー?


「あ、ハリー。コーヒー飲む?」


「飲む。もちろん飲む。……コーヒーなんてどっから仕入れてきたんだ?」


「なんか朝方に行商人が来て、どっかの侯爵領から仕入れてきたとか言って……ご丁寧に焙煎機まで買えたのよ」


「あー、もしかしてリユー侯爵領?」


「そうそう、そんな名前だった筈。はい、どうぞ」


「おお、ありがとう」


 リユー侯爵領、商人からよく聞く名前だな。覚えておこう。


 そんな事を考えながら、リナが手渡してくれたコーヒーを一口啜る。

 慣れ親しんだ砂糖に中和された苦みでは無い。


「これ……ミルク?」


「そうよ。砂糖って値が張るのよね」


「なるほどな……」


 確か砂糖は17世紀辺りの紅茶ブームで庶民化したんだっけ?

 言われてみれば紅茶もこちらの世界ではあまり見聞きしないかもしれない。コーヒーと同じで、好む人が少ないだけかもしれないが。

 砂糖の値段が高いからコーヒーや紅茶が普及しない、コーヒーや紅茶が普及しないから砂糖の消費が激しくならず値段が下がらない……みたいな感じだろうか。


「ミルクコーヒーってあんま飲んだ事無かったけど、結構イケるな」


「うぇー。そんな苦いの飲めるのが凄いわよ」


 メリーが舌を出しながらそんな事を言う。

 そういえば、ここに来たのはメリーに郵便手段を訊くためだった。


 用件を思い出したので、コーヒーを飲みながら訊いてみる事にする。


「なあメリー、この世界って手紙とかを届けたい場合ってどうするんだ?」


「何よ藪から棒に。……そうねー、目的地まで行く行商人を探して依頼するのが一般的ね。商業者ギルドまで行けばその辺りの仲介もしてくれる筈だわ」


「商業者ギルド?」


「冒険者ギルドの商人版みたいなものよ。私も詳しくは知らないけど、商売の仲介とかしてくれるらしいわ」


「へぇー……」


 間に入ってきたリナの説明に頷く。

 王都には着いて間も無いから知り合いもいないし、その商業者ギルドとやらに行ってみるのが良いかもしれない。


「ていうか、前訊かれた時も思ったけど手紙って何?」


「イリーナ嬢へのやつ」


「あーっ!忘れてた!そういえば私も頼まれてた!」


「私はちょっとずつ書いてたわよ。出すタイミングを窺ってただけ」


 メリーは完全に存在を忘れており、リナの方はちゃんと覚えていたらしい。

 慌てて部屋を出て行くメリーを見ながら苦笑する。


「どうせなら全員分一気に運んでもらいたいし、メリーが書き終わるまで待つか」


「そうね。まあ私はもうちょっとコーヒーを飲んでゆっくりしてるわ」


「俺もそうする」





 翌日。

 慌てて手紙を書き終えたメリーと、既に書き上げてあった手紙を持ってきたリナと共に商業者ギルドに向かう。

 リーニャも連れて行こうと思ったのだが、案の定熟睡してしまっている。

 野営と違って夜間でも気を張る必要が無いから、安心しているのかもしれない。


 警備などは居ないが、基本的に貴族街は人の目が多いし、失敗した時の反撃を恐れる盗賊も多いので大丈夫だろう。それに余程の手練れで無い限りリーニャでも充分対処できる筈だ。


 目的地である商業者ギルドは、冒険者ギルドの隣にあった。

 外装が酷似しており、看板に書かれている文字と絵を見なければ見分けが付かなさそうだ。


「冒険者ギルドと結構似てるな……」


「そうね」


 そんな感想を抱きながら、メリーに先導されて商業者ギルドに入る。


 内装も似ているところが多いが、中に居る人間は全然似ていない。粗野な冒険者と知識や知見ある商人では似ている方がおかしいのだが。


 始めて来る筈なのに一切迷いの感じられないメリーの後ろをついていく。


「すみません、手紙の配達の仲介を頼みたいのですが?」


「承りました。どちらまででしょう?」


「クェート市の伯爵城宛てでお願いします」


「分かりました。それでしたら……」


 屋敷での家事もできないだらけた様子から一変、真面目なお姉さんの雰囲気を放つメリーに困惑しつつ、手続きはつつがなく終了した。


「いつもあんな感じだったら言う事無いのにな……」


「ね……」


 リナとそんな感想を共有しつつ、商業者ギルドを出た。


 出たのはいいのだが……なんだか隣の冒険者ギルドが騒がしい。


「何かしらね……?」


 2人も疑問に思ったのか、冒険者ギルドの入り口の方に目を向ける。

 「聞き耳」スキルのお陰か、揉めている男達の会話が聞こえてきた。


「王城の真ん前に悪魔が出現だと?やってられっか!俺は王都を出るぞ!」


「貴様!それでも冒険者か!!」


「依頼を受けるかどうか自由に決めるのが冒険者だ!中の奴らにも訊いてみろ!誰一人行くって馬鹿はいねえ筈だぜ?」


「貴様ぁ……!」


 派手な装備を身に着けた冒険者に、役人らしきスーツの男が食って掛かる。

 冒険者の言っている事も正しいっちゃ正しいのだが……国の危機に動かないのは国民としてどうなのだろうか。


「ハリー、聞こえるの?」


 リナの声に男達の口論から意識が戻る。


「ああ、悪魔が出たらしい」


「悪魔!?どこに!?」


 俺の答えに強く反応したのはメリーだ。


「落ち着けって……王城の前だそうだ」


「ッ!!」


 メリーは悪魔の居場所を聞くなり走り出してしまった。


「ああ、もう……!」


 どちらにせよ行くつもりだったのだが、聖装備を屋敷に置いてきた今は少しばかり都合が悪い。

 仕方無い、メリーを見殺しにする訳にはいかないし、このまま行くとしよう。


「リナ、悪いが屋敷に戻って聖剣達を持ってきてくれ。王城前で落ち合おう」


「分かった」


 俺の指示を聞いて、リナは反論する事無く即座に屋敷に戻った。

 さて、俺もメリーの応援に行くか。


「役人さん、冒険者の代わりに俺が行きましょう」


「本当ですか!?」


「おい兄ちゃん、見栄張りてえだけならやめときな。死ぬぜ」


 未だ口論を続ける2人の間に割って入ると、両者から異なる反応が返ってきた。

 冒険者も見知らぬ俺にこういうお節介を言う辺り、悪い人間では無いのだろう。まあ、俺には関係の無い言葉だが。


「忠告ありがとうございます。役人さん、王城まで案内してくれますか?何分場所が分からないもので」


「……ッ!分かりました!ありがとうございます!」


 俺の腰に差されている灰輝銀(ミスリル)合金製の剣を見て息を吞んだ役人だったが、すぐに感謝を述べて走り始めた。


 ――ていうか、メリーも俺と同じで王城に行った事が無い筈だけど、よく場所が分かったな。


 そんな事を胸中で呟きながら、忠告をしてくれた冒険者に会釈した後、役人を追い掛けた。

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