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閑話7 とあるお嬢様の一日

「ん……」


 パチリ、と目が覚めます。

 ここは私――イリーナ・クェートの部屋。


 もう少し寝ていたいですが、目が覚めた以上起きなければなりません。ハリーさんも「早起きは三文の徳」と仰られていました。三文が一体何なのかは私には分かりませんが、ハリーさんが言うからにはきっと素晴らしい物に違いありません。


 そんな事を考えながら、体を起こします。

 きっとお祖父様が見たら、「好きなだけ寝ていなさい」と仰るのでしょうけど、そういう訳にはいきません。

 父上も民に寄り添った生活をしろと常々仰られていました。ならば自堕落に過ごすのでは無く、なるべく民と同じような生活をするべきであると思うのです。


 自室にある鏡を使って、軽く顔を洗ったり髪を整えたりします。

 先程の事と矛盾するようですが、こればっかりは、民と同じような生活をする訳にはいかないのです。ハリーさんに振り向いてもらうためには、美容に気を抜いてはいけないのです。


 ほとんどの貴族はこういう作業は侍女に任せてしまうのでしょうけど、私は人にされるのは好まないので、毎朝自分でしています。

 私付きの侍女は「どうしてさせてくれないんですか!」と駄々をこねるのですけど。


 一通りお手入れが終わったら、服を着替えて朝食に向かいます。

 きっとお着替えも侍女にさせるのが普通なのでしょうけど、私は色々試して楽しみたいのでそういう事はしません。

 私の楽しみのために侍女に手間を掛けさせるのは良くないですから。


 服を決め終わったら、部屋を出て食堂に行きます。

 本来であれば扉の横に侍女が待機しているのですが……誰もいません。やっぱりあの子は今日もお寝坊さんみたいです。


「ふわあ~、あ、お嬢様、お早いですね!」


「ヘルナ、あなたが遅いのですよ?」


 欠伸をしながらやってきたこの子が、私付きの侍女、ヘルナです。

 話していて楽しいのでいいですが、仕事が雑なところがあったりちょっとポンコツなので、侍女長からの評価は悪いそうです。それでも私が気に入っているので、クビにされる事は無いそうですが。


「それにしても、お嬢様は朝の身支度をご自分でなさるのはやめて欲しいですね!美少女を愛でる楽しみが無くなりますし、何よりバレたらまた侍女長様に絞られるんですよ!」


「でしたら早く起きる努力をしてください。あなたが早起きしないのが問題なのですよ?」


「それができたら苦労してません!」


 そんな風な会話をしながら食堂に向かいます。

 ヘルナは数少ない気兼ね無く話せる子なので、侍女長からの評価が悪くとも私は良いと思っています。

 仕事が評価できなくとも人間性が優れているのですから、それで良いではありませんか。


 食堂に着いたら、コックが作ってくれた朝ご飯を食べます。

 侍女は起きたらすぐ侍女用の食事を摂ってから仕事をする筈なのに、ヘルナは何故か羨ましそうにこちらを見ています。


「どうしたんですか?」


「あ、いえ……。私起きてからすぐ来たので、ご飯食べてないんですよね……」


 なるほど。道理で視線が私の食事に固定されている訳です。


「仕方ありませんね」


 このまま元気が無くなられても困るので、私の分の食事をコッソリとヘルナに与えます。

 お祖父様や侍女長が見ていたら怒られてしまうでしょうが、今ここには私とヘルナ、それにコックしか居ないので、問題はありません。コックも見逃してくれる筈です。


「お嬢様ぁ……!お嬢様はやっぱり天使です!」


「言い過ぎですよ」


 まあ、褒められて悪い気はしませんけど。





 朝食を食べた後は、勉強のお時間です。

 専属の教師を呼んで、読み書き算術、歴史に地理などを学びます。

 魔法を学ぶ貴族の子弟の方も多いですが、私はリズムを取るのが苦手なので魔法は学んでいません。お祖父様はそれでも良いと仰ってくれますし、父上も不満を言うような事はありませんでしたが、私としてはやっぱりリナさんのように格好良い魔法を扱ってみたいものです。次会う時は詠唱のコツでも訊いてみましょう。


 勉強を嫌う方も多いと聞きますが、私は結構好きです。

 教師が楽しい授業を心掛けてくれるからというのもあるでしょうけど。

 それに、好き嫌いに関わらず勉強は必要な事です。将来私か私の婚約者――私としてはハリーさんが好ましいですし、お祖父様も根回しを進めて下さっている筈です――が領主を務めるのですから、それに向けての準備なのです。

 ヘルナは聞いているだけでも嫌なのか、度々欠伸をしていますけど。


 昼食も勉強も済んだら、後は基本的に自由な時間です。

 ハリーさん達が滞在していた時は一緒に遊んだりもしましたが、今は一緒に遊ぶ相手も居ないので、大体城内か市内をぶらぶらする事が多いです。


 今日は武器屋さんに行ってみましょうか。





「へいらっしゃい!……おお、イリーナ嬢ちゃんじゃねえですか!今日はヘルナも一緒なんで?」


「ええ、一応護衛ですから」


 護衛の意味合いも兼ねてヘルナが付いてくるのだが、この子は度々興味を向けられた物へ突っ走ってしまうので、私の目的地に着く頃にはどこかに行ってしまう事が多いです。

 まあ、最近ではある程度自衛もできるようになってきていますし、市内で襲われる事もそうそう無いので許容しています。


「それで、今日はどういったご用件で?」


「いつものを貸して下さいますか?」


「分かりました、ちょっと待ってて下せえ」


 最近の私の楽しみは、ここで訓練をする事です。

 ハリーさんに簡単な剣技を教わってからは、ここで剣を借りて訓練をするようになりました。領騎士団の訓練所では訓練をさせて貰えないので、必然的に試し斬りなどができるスペースを用意しているこのお店しか場所が無くなるのです。


 今日のようにヘルナがしっかり付いてきた日は2人で訓練をするのですが、付いてこない日は一人で素振りをしたり型の練習をしたりして訓練をします。

 素振りなどもためになりますが、やっぱり相手が居ないと楽しくないので、こうやってヘルナが居てくれると助かります。

 きっとバレたら大目玉でしょうけど、この事を知っているのは私とヘルナと店長しか居ないので、バレる事はありません。

 ハリーさんやリナさんも「バレなきゃ犯罪じゃない」と言っていたので、バレなければ悪くないのです!





 訓練を終えてお城に戻ったら、お風呂に入ったり夕食を摂ったりするだけです。


 ハリーさん達が居なくなった後だと、あの広いお風呂が寂しく感じてしまうのが難点です。早い内にまたいらして下さらないものでしょうか。


 お祖父様と一緒に夕食を摂った後は、お部屋に戻って眠るだけです。

 ハリーさんが居ればお部屋に忍び込んで遊戯を楽しむ事ができたのですが、ヘルナは早々に寝てしまうので、仕方無く私も眠ります。


 ああ、いっその事私も王都に行ってしまいましょうか。

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