38 盗賊退治
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「こちらとなります」
諸々の手続きを済ませた昼過ぎ。
不動産屋に案内され、俺達は馬車で件の屋敷にやってきた。
我ながら実物を見る前に購入してしまって良かったのかと思ったが、外観は悪く無さそうだ。貴族街にあるだけあって、そこらの貴族の住居だと言われても信じられる感じだ。
「では、私は手続きは済ませてあるのでお暇させて頂いても?」
「ええ、ここまでありがとうございました」
「いえいえ!それでは!!」
どうも不動産屋は盗賊が怖いらしく、頷いてやるとそそくさと立ち去って行った。
盗賊がどれくらいの強さかは分からないが、湖の盗賊の頭目を基準にするならばリナ一人でも勝てそうなぐらいなのに……。
まあ、ともかく家の中に入ってみるとしよう。
俺とリナだけ先に降りて、門を開けて敷地の中に入る。
ちなみに、門は魔法的な仕組みで屋敷内からでも遠隔で開閉できるらしい。
そのままメリーの運転する馬車を中に入れ、門を閉める。
馬車を数台ぐらい停められる停留所的なものがあったので、そこに馬車を停めてもらい、全員で屋敷の中に入る。
「うわっ、暗っ」
「えーと、どっかに明かりが……」
屋敷内は薄暗く、最早気味が悪いレベルだったので、さっさと明かりを点けてしまおう。
不動産屋曰く入り口付近に屋敷全体の照明を管理する設備があるらしい。
扉を全開にして外の明かりを使い、件の設備を探す。
「おっ、これか」
何やら鍵穴っぽいのが付いているものがあった。
門を開けるのに使ったのと同じ鍵を差し込んでみると、カチリ、と音が鳴った。取っ手を掴んで開けると、握り棒のようなものが出てきた。
それを掴んで魔力を流す。一瞬の抵抗の後に、玄関や廊下の明かりが次々と点いていった。
「おお~、流石魔法道具」
「まるでLED照明ね……」
リナの言いたい事も分かる。
王都にある貴族の屋敷は他のところもこんな感じなのだろうか?
しかも驚く事に、一度魔力を供給すれば意図的に消さない限り丸3日は保つらしい。中々優秀だ。
照明設備に蓋をする前に、「眼光炯々」で詳細情報を確認する。
ここ最近は一切使われた事が無いようだ。仮に盗賊が住み着いていたとしても、照明は使用していない訳か。
「取り敢えず、手分けして屋敷の中を捜索するか」
「そうねー、盗賊がいたら困るもの」
俺、リナ、メリー・リーニャの3組に分かれる。メリーは後衛だし、リーニャはこの中で一番レベルが低いので、どちらも一人にするのは危ないだろうという判断だ。
「身の危険に関わらず盗賊がいたら大声を出すって事で」
「はーい」「分かった」
さあ、捜索を始めよう。
◇
「うぇ、酷い有様だな」
屋敷は2階建てだったので、2階の捜索は俺が一人で担当する事となった。
そのため2階に上がったのだが……廊下がゴミまみれだ。明かりが点いているだけに目立ってしょうがない。
「安全が確保できたらまずは掃除だな~」
呟きながら、ひとまずゴミは無視して各部屋をそれぞれ見ていく。
前の家主が碌に掃除をしていなかったのか、どの部屋もゴミや埃が目立ったが、盗賊やアンデッドの類が住み着いているという事は無かった。
一通り部屋を見ていき、残すは一部屋となった。
「……ここだけやけに綺麗だな」
本来であればとても綺麗とは言い難いが、これまで見てきた部屋と比べれば綺麗な方だ。
床にゴミの類は落ちておらず、家具に埃が溜まっているだけだ。この部屋だけは埃の掃除さえすればすぐに使えそうだな。
不動産屋は屋敷内に入る事が億劫らしく、残っていた家具などの処分は自由と言われたので、この部屋にある家具はそのまま使用可能だろう。
貴族が使っていたのか天蓋付きのベッドまであった。
一応盗賊が使っていないか不安だったのでベッドなどを「眼光炯々」で確認したが、これといって使用されている風は無かった。
――ただの噂なだけで、不動産屋の杞憂だったのだろうか?
取り敢えず2階の調査は終わったので、下の方を手伝うとしよう。
◇
1階組は階段の左右で別れたらしく、右側に進んだらリナが居た。
「なんかあったかー?」
「ああ、ハリー。今のところ特に何も無いわよ」
「そうか。2階も生活感は無かったし、盗賊が隠れてそうな場所とかも無かったんだよな」
「ん~……結局何も無かった、って事かしらね?」
「さあな、全部見てみないと分からん」
右側は残り数部屋あるらしいので、リナと手分けしてささっと済ませてしまおう。
リナに奥の方から見ていくようにお願いされたので、廊下の突き当りまで行って一番奥の部屋に入る。
「……ん?階段?」
地下室でもあるのか、扉を開けた先は階段で、その下に更にもう一つ扉がある。
ここは屋敷全体の照明設備から独立しているのか、壁掛けの燭台がいくつかある。といってもどれも蝋燭は乗っていないが。
暗いのを我慢して階段を降り、その先の扉を開けて中に入る。
「見えねえ……」
さっきの部屋は廊下の明かりが届いたので大体見えたが、こちらは全くと言っていい程中の様子が見えない。
「『万物創造』:魔力ランタン」
仕方無いので明かりを作り出す。
大抵どこの街の魔法道具屋でも売っている定番商品の一つだ。灯火杖よりも軽く魔力の消費も少ないので、ただ単に明かりを欲する場合に適している。
明かりで照らされた部屋は、特に何も無かった。
石造りの壁が広がるだけだ。家具が置かれていたりとか、虫が住み着いているとかそういった事も無い。埃すらも無かった。
「ん……?」
いや、何かある。
よく分からないが、扉から真っ直ぐ進んだ突き当りの壁付近に何かがある。
これは――空間の歪み?悪魔達が現れる時程分かりやすい歪みでは無いが、確かに空間が歪んでいる。
よーく見詰めてみると、「眼光炯々」のお陰でその正体が分かった。
「おーい、リナー!来てくれー!」
――さあ、盗賊狩りの時間だ。
◇
リナに頼んでまだ屋敷内の捜索に当たっていたメリーとリーニャを呼んでもらい、俺達は地下室に集まった。
「あ、ほんとだ、ちょっとここだけ空間が歪んでる……」
「よく気付いたね、これ。ジッと見ないと見落とすでしょ」
「まあ、眼は良いからな」
なんとなくだが、「万能鑑定」が「眼光炯々」に変化してから、単純な目としての機能も良くなっている気がするのだ。気のせいかもしれないが。
「で、これの正体が転移門だって言ったっけ?」
「ああ、そうだ」
スキルによって鑑定された歪みの正体、それは転移門だった。
ファンタジー作品ではお馴染みの品物だが、こちらの世界では結構なレア物らしい。そもそもこれを作るのには空間魔法が必要で、空間魔法の使い手が少ない事が原因だそうだ。
「専用の鍵を持ってなきゃ、俺達にはただの歪みとしてしか認識できないらしい。空間魔法使いなら無視して入り込めるけど……」
「まあ、そう都合良くいないわよね……」
「じゃあ、ここで張り込みでもする?」
「まあ、それが一番簡単だろうな」
そういう訳で、地下室で一晩張り込んでみる事にした。
知り合いに空間魔法使いでもいれば楽だったのだが、無い物ねだりをしてもしょうがない。諦めて張り込みをしよう。
リナに食事の用意を頼み、暇人3人組は地下室で待機する。
頼むから、一晩で尻尾を掴ませてくれよ、盗賊。
◇
睡眠組は階段部屋で睡眠を取り、夜番担当は歪みの前で待機する。
これを普段の野営と同じ交代時間で続け、深夜2時頃の俺の担当の時間に、事は起こった。
「ふわぁ……」
あまりにも眠いので欠伸が出たその時だった。
独特な音と共に空間の歪みが広がり、次いで薄い青の光と共に2人の男が現れる。
「――!」
口元に当てていた手を素早く剣の柄に持っていき、一瞬で引き抜く。
男達もこちらの存在に気が付いたのか、素早くそれぞれの得物を抜いた。
「敵襲!!!」
大声で叫び、扉の向こう側にいるメリー達を叩き起こす。臨戦態勢で眠っているので、目が覚めたらすぐに来てくれる筈だ。
「死ねぇ!」
片方の男が短剣を振るう。
だが、その速度が滅茶苦茶遅い。どうやらコイツらは盗賊の中でも下っ端のようだ。
捕縛の用意なども特に無いので、さっさと始末してしまおう。
男の攻撃を素早く躱し、魔力補強された剣で首を斬り飛ばす。
「なっ――!?」
もう一人の男が驚きの声を上げるが、その時にはもう男の首は胴体と離れていた。
「ハリー!!――ってあれ、もう終わったの?」
扉がバタン!と開いてリナとメリーが駆け込んできたが、少しばかり遅い。
「遅いぞ。……取り敢えず、コイツらの荷物漁って鍵を見つけよう」
リーニャはまだ眠っているようなので、3人で死体を漁る事にする。
こちらの世界に慣れてきたからか、もう人の死体を漁る事への抵抗感がそんなに無い事に気が付き、少し戦慄を覚えてしまった。
溜め息を吐きながら荷物を漁る。
一つだけ魔力を発している棒状の何かがあったので、「眼光炯々」で確認する。当たりだったようで、「転移門の鍵」と表示された。
「見つかったかー?」
「多分これだと思う。確認して?」
メリーに差し出された物は、スキルを使うまでも無く俺の手の中にあるソレと同じ物だ。
「しっかし、2つか……ま、仕方無いから俺とリナで行くか」
「そうね。メリーはここで待ってて」
「……はーい」
巫女である自分は対人戦に不向きな事を知っているのか、メリーは少し間を空けつつも素直に頷いた。
メリーが鍵をリナに手渡すのを確認し、空間の歪みに近付く。鍵に反応したのか、少し歪みが広がっている。
「さ、行きましょう」
「ああ」
俺とリナが転移門に飛び込んでから盗賊団が壊滅するまで、そう時間は掛からなかった。




