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36 既視感

 昼過ぎだからか少し落ち着いてきたように感じる検問の列を抜け、市外に出る。


「こんな治安悪いのによく人が集まるよなあ……」


「まあ元々人が多いからね。商人とかは多少治安が悪くてもお金が入るなら行くでしょ」


 メリーの言葉通り、出入りしているのは商人が中心のようだ。冒険者も同じくらいの数いるように感じる。


 まあとにかく、早いところ王都に行くとしよう。





 シャーマイン市を出て、30分程した時だった。


 馬車に座って転寝しているリーニャの体が、青い光を放ち始めた。


「またかよ……」


「本当に何なのかしらね~」


 リーニャから放たれる青い光、その正体がなんなのかはすぐに気が付いた。

 何故なら、馬車の前方の空間が歪み始めたからだ。ナスターニャ神の神域から帰ってきた直後と同じ――。


「ッ!!」


 悪魔が現れるまでの間に、全速力でリーニャとリナを後方に投げ飛ばす。リーニャは投げ飛ばされた衝撃で目覚めて受け身を取るだろうし、リナならば酔っていても受け身ぐらい取れるだろう。

 メリーは既に事態に気が付いて自力で飛び降りているので関係無い。

 荷台に積んである鞄に手を突っ込み、アイギスとイージスを探り当てて『装着』する。


「魔神様の眷属黒の壱、ここに参上!」


「魔神様の眷属黒の参、ここに見参!」


「魔神様の眷属黒の肆、ここに登場!」


 ――お前らは毎回ソレを言わなきゃいけない決まりでもあるのか。

 そうツッコんでやりたかったが、そんな場合ではない。急いでエクスカリバーを取り出し、鞘から引き抜く。ついでにデュランダルも取り出して、鞘から入った状態のまま外に放り投げる。エクスカリバーが壊れた時の保険だ。


 デュランダルを馬車の外に投げた直後、悪魔達の詠唱が完成する。


「「「死毒の闇(デッドリー・ポイズン)!!」」」


 前にも見た、死の毒を纏った闇が押し寄せてくる。


「お家芸だなぁ、最早!」


 叫びながら、イージスを構えて闇を押し返す。

 前の時よりも数が多いので威力は上だった筈だが、レベルが上がった影響か、またしても相殺という形で決着が付く。

 相殺の衝撃を上手く活用し、馬車から身を乗り出して着地する。着地の瞬間にデュランダルを引っ掴み、姿勢が安定したところで鞘から引き抜き、鞘の方は投げ捨てておく。


「やはりこれでは殺せぬか」


「お前が殺し損ねたから成長させたのだぞ!まったく!」


「参、序列を重んじよと何度言えば分かる」


「任務に失敗する奴を敬う心なぞあるか!」


 悪魔達は中々にユーモラスな性格を持つらしい。

 壱と参は口論を始めたが、肆は無言で呆れたような感情を見せている。

 悪魔達が口論をしている間に、「眼光炯々(ワイズ・アイズ)」でそれぞれのレベルを確認する。参が56、肆が50……そこまでは良かったのだが、確認する気の無かった壱を見て驚いてしまった。前は62だった筈のレベルが、60に下がっていたのだ。


「おい壱、なんでレベルが下がってるんだ?」


 思わず口論中の壱に問い掛けてしまった。


「ぬ?貴様には関係の無い事だ、引っ込んでおれ勇者」


「そんなに荒げるな。勇者よ、壱は任務に失敗した罰に階位を下げられたのだ」


「参よ!我々の事情を人間に話すなと何度言えば分かる!」


「貴様が失敗するのが悪い!そもそも、こやつをこの場で葬り去れば良い話であろう!」


「それが簡単にできたら苦労しておらぬわ!だからわざわざ少ない黒を全て集めてここに来たのだろう!」


 会話の中で色々と気になる点があった。

 任務に失敗した罰で……と言っていたが、レベルとは減少させる事が可能なのだろうか?

 それに、『少ない黒』とはどういう事だろう?

 まあ、聞いても教えてくれないか。


「……お二人とも。喧嘩は程々になさって下さい。勇者側の準備が終わってしまっていますよ」


「「……チッ。今日のところはこれまでにしておいてやろう」」


 ――コイツら、実は仲が良いんじゃないか?

 肆によって窘められた壱と参は、聞き分けの悪い子供のようにフン、と鼻を鳴らして互いから目を背ける。

 肆の言う通り、コイツらの口論の間にメリーは短杖(ショート・スタッフ)を取り出しているし、リーニャも鉄剣を構えているし、リナも魔短剣を構えて「琴瑟(シグニフィカ)相和(ント・アザー)」を使うべく意識を集中させている。完全に臨戦態勢だ。


「参、肆、貴様らはサポートに徹するのだ。我が勇者を始末する」


「貴様に指図される謂れなどない!我一人で事足りるわ!」


「待て参、突っ走るな!」


 参は腕に魔力を集めて、壱の制止を振り切り俺の元に突っ込んでくる。

 レベル差はほとんど無いので、アイギスの身体強化がある以上こちらの方が有利だ。


「ぬおおおおおお!!!」


 参が腕を振り回すのを、危なげも無く捌く。

 同レベル帯の相手の正面からの攻撃を防げない道理など無いのだ。


「チッ……!仕方が無い、肆!貴様は我らのサポートをせよ!」


「分かりました」


 壱が舌打ちをしながら肆に命令し、参の援護をしようと前に出てくる。

 しかしその間に、こちらの準備は整った。


「『琴瑟(シグニフィカ)相和(ント・アザー)』!!」


 俺に向けられたリナの掌から青い光が放射され、辺りを照らす。


「うおおおおおおおお!」


「参、退け!」


 俺のすぐそばにいた参は青い光に触れた途端、まるでマグマに触れたように溶けていく。

 参も今ばかりは壱に反発する余裕が無いのか、急いで俺の元から離れていった。

 その間にもレーザーの放射は続き、やがて心臓が跳ねると同時にそれは止む。


『よし。遅くなってごめんなさい』


『いや、大丈夫だ。それより、リーニャに戦わないように言ってくれよ』


『大丈夫、もう言ってあるわ』


『早いな』


 魔法型で遠距離から支援ができるメリーはともかく、近接型のリーニャはこのハイレベルの戦いについていけない筈だ。

 リナが言う前に俺の意図を汲んでくれるのは助かる。


「参よ、気を付けろ。あの状態の勇者はこれまでより強いぞ」


「チッ……どうやら本当のようだな。仕方が無い、今だけは協力してやろう」


『リナ、そういう事らしいから、後衛の肆を頼む』


『いいけど……1人で大丈夫?』


『ああ。俺が抑えてる間にそっちを片付けて、こっちの援護をしてくれ』


『分かったわ』


 互いの作戦会議も終了し、俺対壱と参、リナ対肆という構図ができあがる。


 ――さあ、レベルアップによって得たスキル達に活躍してもらうとしよう。


 二振りの聖剣に魔力を流すと同時に、俺の全身にも魔力を流して「身体強化」を発動。この辺りの繊細な操作は「魔力操作」スキルにお世話になっている。

 続いて、聖剣の魔力を上手く操作して「魔力撃」を――。


「!?」


 バチバチ!!と感電のような音を鳴らして、聖剣に込められていた魔力が霧散した。

 「魔力撃」は聖剣では使えないのか?普通に魔力を通すだけでは青い光を強めるのみなので、こちらで我慢しておくとしよう。


「聖剣の特性を理解していないのか……未熟だな」


「未熟とはいえ、貴様よりは強いぞ」


「何を!?一度奴に敗北した分際で何を言う!」


「その我よりも序列の低い奴が何を言う」


「なんだと!」


 もう放置してたら勝手に潰し合うんじゃないか?

 そう思ってしまう程の喧嘩っぷりだったが、流石に俺を放置してはくれないようだ。


「勇者を殺したら次は貴様だぞ!」


「望むところだ」


 少年漫画のライバルキャラみたいな掛け合いをした後、壱と参はこれまでの口論が嘘のような連携で距離を詰めてくる。

 「二刀流」「武器防御」「防御」の3つのスキルの補助を借り、そしてギーナス氏に教わった技術も駆使して2体の連携攻撃を捌く。

 無理にダメージを与える事は考えず防いで生き残る事に徹していれば、リナが駆けつけてきてくれる筈だ。普段のレベルだったら肆には勝てないだろうが、「琴瑟(シグニフィカ)相和(ント・アザー)」状態ならば余裕で勝てるだろう。


 それにしても、何故コイツらの腕は打ち合う度に金属音みたいな音を鳴らすんだ?実は腕に灰輝銀(ミスリル)でも詰まってるんじゃなかろうか。


 悪魔達は超高速の戦いに集中しているのか、先程のように軽口を叩き合う事も無く無言で腕を振るっている。いや、喋る余裕が無いというべきか。

 対する俺は、前回より相手のレベルが低く、またこちらのレベルが高いために、余裕が生まれていた。


『リナ、そっちはどうだ?』


 こんな念話を入れられるぐらいには。


『もう少しで終わるわ。そっちこそ2体相手で大丈夫?』


『ああ、問題無い。なんならこのまま俺が倒してしまっても一向に構わん』


『じゃあ援護は要らないわね』


『いや嘘ですごめんなさい助けてください』


 戦闘中とは思えない程緊張感の無い会話を繰り広げている間に、リナの側は片付いたようだ。視界の端に黒い粒子が飛んでいくのが見えた。


「まずい、肆がやられたようだ」


「何!?」


 壱は直接見てもいないのに、肆が死んだ事が分かるようだ。

 参は把握していないから、何の違いなのだろうか?


「仕方が無い、撤退するぞ」


「むぅ、しかし止むを得んか……」


『まずい、逃げようとしてる!』


 念話で叫びながら、距離を取り始めた2体に肉薄する。

 せめて片方だけでも――。


「ではまた会おうぞ、勇者」


「ああ、近い内にな」


 壱と参はそれぞれの捨て台詞を残していくと、現れた時と同様、空間を歪ませてその場から消え失せた。

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